その19 艶美紅姫(紅葉命名)にゃ!

「おいっペンネ割り込んでくるな……」


 ポムが雷の起動を変え突っ込んできたことに文句を言う途中、周囲を見て状況を把握する。


「ペンネあんまり派手にやって森を壊すなよ。怪我人はあたいが治すから好きにやってくれ」


 黒い炎を纏うペンネが無言で頷くのを見てポムはファルファッレの矢を抜いて頭をピコピコ叩き始める。

 次にダンジェロの矢を抜いて同じくピコピコ叩く。見た目はシュールだが怪我は治っていきファルファッレの顔色も良くなりダンジェロは寝息をたて寝てしまう。


 それを確認してようやくペンネが口を開く。


「これは貴方がやったのですか?」


 微笑んではいるが殺気ののった声でニコライに訪ねる。姿を見るに先ほどまで戦っていた吸血鬼の仲間なのは間違いないのだが存在が全く違うのを感じる。

 そして一緒に降りてきたもう1人の少女からも危険を感じる。

 その得体の知れない存在に声を出せないニコライ。


「名前、名乗ってませんでしたね。私は魔王シシャモ軍 艶美紅姫えんびこうきのペンネ・フェデリーニ。貴方のお名前はなんでしょうか?」


 ペンネの名乗りを受けニコライも再び名乗る。


「分かりましたでは、ニコライさん血異闍薬を飲んで下さい」

「そこまで知ってるのか……だがこのチャンスありがたく使わせてもらう」


 ニコライが4本の試験管を取り出し3本を投げ周囲にいた部下が受け取り飲み始める1本を自分が飲み干す。


「予備はもうないがこれでレベル120が4人だ。これならお前とて無事ではすまんだろう」


 少し余裕のできたニコライの表情が緩む。そのニコライを見て艶美な微笑みを浮かべるペンネ周囲に黒い火の粉が激しく舞い始める。

 ペンネが弓を引き放たれる矢は黒い雷を纏い飛びレベル120の兵の1人に突き刺さるとホップするように宙に上がり空に黒い雷が光り辺りが黒く光る。


 黒い風は刺さると微塵に刻み、黒い水は兵を溶かしてしまう。


「レベル120はニコライさん、貴方1人になりましたがどうされますか?」


 ニコライの額の汗が止まらない。一瞬でレベル120の部下が消されてしまった。

 魔法軍統括のアリアからの報告に黒い炎を使う者に注意しろとあったが、これは出会ってはいけないレベルだ。

 ニコライはペンネを見て必死に生き残る方法を考える。先ほどから報告書にあった黒い太陽のような破壊力のある技を使ってこない。

 そして初めにもう1人の魔物が「森を壊すな」と言っていたのを思い出す。

 あの必殺の矢を避け森に逃げ込めば退路は開けるかもしれない。

 ニコライはショートソードに力を溜める。自身の超固有技を放ち相手の技を遮り逃げる為に構える。


 突然ショートソードが黒い炎に包まれ溶けていくその熱さに手を離してしまう。


「読心術などは持ち合わせていませんが考えている事は分かります。逃げようとしましたよね? 逃がすわけないじゃないですか」


 ブラス王以外でここまで恐怖を感じたことのないニコライは震える足を必死で押さえる。


「私の父を姉を傷つけた者を許すとでも思いますか?」


 ペンネが指を指す場所を見ると矢が刺さっており黒い炎が小さく燃えている。それはニコライを囲うように刺さって燃えていた。


「いつの間に……」

「さっき矢を放った時に一緒に放ったんですよ」


 ペンネが差し出す右手が黒い炎がに包まれる。それに合わせ矢の炎が大きく燃え始め黒い火柱が立ち延びると中央で1つに合わさるり黒い炎の鳥籠をつくりだす。


『必殺技 シュバルザアーフォーゲルケーフィッヒ』


 息をするのもやっとといったニコライが膝をつく。ジリジリと体が燃え始める。

 まだ技は完成しておらずジワジワと身を焦がされているのだと知るニコライは周囲を見ると部下達の姿は見えない。

 おそらく撤退したのだろう。己を犠牲にして仲間を逃がせたことに少し満足感を感じ死を覚悟するニコライ。


「もしかしてですけど仲間が無事に逃げる時間を稼げて満足されていますか?」


 その質問に背筋に寒いものを感じながらペンネを見る。


「元々ここを任されたのはポムです。彼女は森へのダメージも少なく広範囲での行動も可能ですから。そんな彼女から逃げるのは無理だと思いますよ」


 ニコライがペンネと一緒に落ちてきて回復をしていた魔物の姿を探すが既にいない。代わりなのか牛の様な姿をした大きな魔物が立っている。


「ま、まってくれ、がああぁぁぁ」


 ニコライの右手が焼け落ちる。炎の熱さもさることながら刺すような痛みを感じ、もがく。

 右足も燃え始めると泣きながら謝る。それでも左足が燃え始める。

 ペンネが右手の炎をグッと握り潰すと黒い鳥籠は圧縮されたように縮まりニコライを消し去ると消えてしまう。


「もっとじっくり燃やそうかと思いましたが命乞いなど聞くに耐えませんね」


 ペンネは黒い炎を消すとダンジェロの元に近付き顔を覗き込む。


「ファルファッレお姉さま、イーネお姉さま。お父様をよろしくおねがいします。イフリートはみんなを守って下さい」


 イフリートがビシッと敬礼する。心なしかポムのときより緊張しているようにも見える。


「私は港を落とすのが仕事ですから。ちゃんとやらないとシシャモに怒られちゃう」


 翼を大きく広げると飛び立つ。その後ろ姿を見てファルファッレとイーネは頼もしくなった妹を誇りに思うと同時にとんでもない魔物になってしまったと思うのであった。





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