その18 刀鬼春疾風神(紅葉命名)にゃ!
草原の後方に陣を構えるシンツィアの元にエトが孤高の魔王を討伐する為進軍を開始したと報告が上がってくる。
エトの無事を祈り進軍した森の方を見つめる丁度そのとき大きな雷が森に落ちる。その雷に不吉なものを感じるシンツィアだが、部下の手前冷静を装い当初の予定通り後方での情報収集と状況に応じた兵の進退をコントロールしていく。
1つの雷が落ちてすぐだったシンツィアの目の前に雷が落ちると鋭い風が吹く。その風が兵たちを切っていくのを見てようやくそれが攻撃だと気付いた時にはかなりの兵たちが絶命していた。
「何事だ!?」
叫ぶシンツィアに対し混乱している兵たちは「敵です」と役に立たない報告がなされる。
シンツィアの疑問を解決してくれる為に来てくれたかのように兵たちを切り刻みながら静かに歩いてくる燕。
鎧のや盾など全く意味をなしていないといった感じで切り裂いていく太刀筋に見惚れそうになる。
燕がシンツィアの前に立つと刀を鞘に納める。人間側でも刀を使う者は非常に少なくまして抜刀術を見る機会などほぼない。
刀を納めた燕に隙ができたと不意打ちをかける数人の兵が一瞬で真っ二つになることになっても何が起きたかも理解出来ていない。
「拙者は魔王シシャモ軍
「ジガンテスカ王国魔法軍副隊長シンツィア ・ラウッツィーニ」
燕の丁寧な挨拶を受けシンツィアも名乗り返す。
「ではシンツィア殿、ここを引く気はないだろうか?」
「バカを言うな私たちが魔物相手に撤退するわけないだろう」
シンツィアが答えたとき遠くに突然壁が宙に現れ地響きをたてながら落ちてそびえ立つのが見える。その影響なのだろうか進軍していたはずの兵たちがシンツィアの方へ向け戻ってくる。
それを見た燕はシンツィアに背を向けると刀に手をかけ戻ってくる兵と向かい合う。
「引かないとは結構だ。元々逃がす気もないのだがな」
背を向けた燕に攻撃をしようと思っただけでする暇もなく地面をえぐり鋭い風と共に消え赤い稲妻が後を追うように走っていく。
刀を構える燕が体の周りに赤い稲妻を走らせ神速の抜刀を放つ。
『超必殺
いつもは力を一点に集中し竜巻を起こすこの技を大きく横に広げ巨大な渦を生み出す。
巨大な赤い渦は軍隊を飲み込み細かく切り刻んでいく。一瞬で数百人の命が消えてしまう。
その様子を目の当たりにし声も出ないシンツィアは軍を撤退させようか一瞬迷う。だが燕の遠く後ろにそびえる壁を見て大切なことを思い出す。
進軍したエトはどうなった? ニコライが回り込んでいるがあの壁がどこまで続いている? 分からない事が多すぎる。分からないならダメ元で聞くしかない。
「燕といったな。あの壁はどこまで続いている? 我が軍はどうなっている?」
焦りの見えるシンツィアに燕は静かに答えてくれる。
「壁がどうなっているかは教えられないが拙者たちは全ての人間を全滅させるつもりだ」
「全て……」
「最初に1つだけ雷が落ちなかったか? あれは魔王シシャモが降臨したものだ。あそこにいたものは既に全て全滅しているかもな」
「!?」
シンツィアは燕に向かって魔法の雷を放つ。
雷は切り裂かれ燕から離れた場所で爆発する。
「雷を切るか。魔王の手下でこの力ならば魔王シシャモは……」
エトの顔が過る。シンツィアは試験管から血異闍薬を飲むと先ほどと比べもにならない雷撃を放つ。
「全く当たらない……化け物め」
雷の間を避けながら静かに歩いてくる燕を見て歯軋りをする。
「伝令だ。ジガンテスカ側にいる兵を進軍させろ。魔王軍が現れた全軍で捕らえ王に献上するのだ。そう伝えろ」
シンツィアは部下に伝令を伝える。魔王軍を捕らえるというのは名目。本当はこの状況を
覆し兵たち、エトを助けにいきたいといった個人の気持ちが大きいのを気付かないふりをして燕に雷を放つ。
その伝令を聞いた燕は微笑を浮かべる。
***
森の魔王ダンジェロが現れたことで兵たちは間合いをとり様子をみる。ダンジェロのレベルは39決して高くはないが魔法と剣術を操り隙が少ないのとファルファッレとイーネが隙を消すように魔法を放ち蜘蛛の魔物が捨て身で突っ込んでくる。
その抵抗に攻めあぐねる。その様子を知ったニコライが前線に上がってくる。
「ジガンテスカ王国暗殺部隊副隊長ニコライ・フリュクベリだ。森の魔王とやら覚悟してもらおう」
「若造が!」
ダンジェロのレイピアがニコライに向けられるが当たることはない。
「レベル40近くといったところか。ただそれ以上に見事な剣捌きと魔法の使い方だ。魔王を名乗るのも納得だ」
「最近鍛えられているのでね。お前も人間にしては強いようだがな」
ダンジェロのレイピアとニコライのショートソードが数回ぶつかり合うがニコライの蹴りを受け横に大きく飛ばされると左腕に仕込んであった折り畳み式のボウガンから矢を飛ばす。
飛ばされてすぐ体勢を立て直し魔法で障壁を作るが間に合わず右肩と胸に数本の矢が突き刺さる。
ダンジェロは血を流しながら心配そうに見る2人の娘と部下達をみると矢が刺さったまま堂々と立ちレイピアを左手に持ち変える。
「ほう、魔物と侮っていたが森の魔王ダンジェロ。お前は尊敬に値する。娘2人は丁重に扱おう」
ダンジェロが不馴れな左手でニコライのショートソードを必死で受けるが抵抗虚しく大きく胸元を切り裂かれ血を舞わせながら地面に倒れる。
「だから安心して死ぬがいい」
ニコライが止めをさそうと突っ込むとダンジェロの周囲にから風が舞い風の刃が飛んでくる。寸前で避けきるニコライだが右腕の防具に少し傷がついてしまう。
「まだ抵抗するか、見事なものだ。仕方ない確実な方法をとらせてもらうぞ」
ニコライが左腕のボウガンを構え数本の矢を放つ。ダンジェロに向けられた矢は白い肌を貫き赤い血を散らし着ている服を赤く染め痛みで屈むスカートに血溜まりをつくりだす。
「な、なんでお前が……」
「どこに父を慕わず、守らぬ娘がいるというのです……貴方に父上は殺らせませんわ」
矢の刺さる右胸を押さえ膝をつき倒れるのを堪えるファルファッレがニコライを睨み付ける。後ろで蜘蛛の兵に押さえられ泣き叫ぶイーネの姿を見てニコライはショートソードを構える。
「家族愛か。魔物にもあるのだな、そんな感情が。益々ブラス王が気に入りそうだ」
雷が2つ落ちてくる。1つは真っ直ぐそしてもう1つは割り込むように斜めに。
そして斜めに落ちてきた雷から放たれる恐ろしいまでの殺気。周囲の空気が焼けチリチリと音をたて黒い炎が舞い始める。
赤い瞳が2つ輝く。その目に睨まれニコライは動くことが出来ない。
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