その17 魔王シシャモ軍降臨にゃ!

 エトの振り下ろした剣が折れ宙を舞うと地面に刺さる。エトの前に立つネコの獣人は先ほど立ちふさがった女の子とよく似ている。

 ただ違うのはその獣人が放つ気配。血異闍ちいと薬を飲みレベル120になったエトの勘が危険だと知らせてくるが体が動かない。


「カレイ頑張ったにゃ」


 シシャモが頭を撫でるとカレイはペタンと座り込んで泣き出す。震えながら泣くカレイを抱えルイの隣に座らせるとルイの頭を優しく撫でる。


「遅くなってごめんにゃルイ。ここまで守ってくれたてありがとうにゃ、傷は後で治してもらうからもう少し我慢してほしいにゃ」


 涙を流し必死に首を振るルイに微笑むとエトの方を向く。


「お前たち人間は何をしに来たにゃ?」


 エトは睨むシシャモの迫力に気圧されながらも新たな剣を取りだし構える。


「我らが王がお前たち魔物を駆逐し美しい魔物を愛でるのをお望みだ。魔物は人間に狩られ遊ばれる存在大人しく狩られるか愛玩動物となるがいい!」


 汗を流しながらそう告げるエトを冷たい目で見るシシャモが静かに名のる。


「あたしの名前は魔王シシャモにゃ。魔界大陸を支配し人間を駆逐する存在にゃ。よく覚えて消えていくがいいにゃ」


 シシャモが名のると同時に5つの雷が森や草原に落ちる。


「ま、魔王シシャモ……やはり。俺はジガンテスカ王国騎士団副隊長エトヴィン ・ヘルメルだ。お前を──」


 喋り終える前にエトが顔を捕まれ地面を削りながら引きずられ木に叩きつけられると右の肩を踏みつけられ肩の骨を砕かれる。すぐに左肩も砕かれ木の根本に座らされる。

 シシャモが無言で跳ねるように移動を開始すると兵や冒険者達への虐殺が始まる。

 魔法や矢は全て掻き消され剣や鎧は紙のように破られていく。泣きながら逃げる兵も一瞬で詰め寄られると頭を飛ばされ動かなくなる。

 その動きを目でとらえれる者はおらずただイタズラに人数を減らしていくだけだ。

 それでも死にも狂いで逃げ出す兵達は更なる絶望を味わう。

 空から降ってくる大量の大きな壁が森からの出口を塞いでしまう。森を囲うように並べられた壁を叩く兵たちを無慈悲にシシャモの拳が襲い命を散らす。


 木々を蹴り残像も残さぬ動きで人間を狩る様子に震えるエトの前にシシャモが立つ。あれだけの動きをして息一つ乱しておらず返り血すら付いていない。


「お前が最後の1人にゃ、にゃんか言うことあるかにゃ?」

「い、命だけは、ど、どうか。なんでも、なんでもします」


 泣きながら命乞いを始めるエトを冷めた目で見るシシャモ。


「ならお前の王の名前を教えろにゃ。そしてその王はどこから来たにゃ」

「お、王はブラス・ジガンテスカ王です。ど、どこから? 生まれも育ちもジガンテスカです」

「その王の性格は昔から変わらないかにゃ?」

「性格ですか? む、昔から魔物が好きでコレクションする、す、少し変わった方でした。変わったというより酷くなったかと」


 シシャモが首を捻って考える。


「最後にゃ。あたしに恐怖したかにゃ?」

「そ、それはもう十分に」


 シシャモの鋭く重い蹴りが木ごとエトを粉砕する。


「なら消えるにゃ」


 シシャモがカレイとルイの元に向かいカレイを背負いルイを両手で持ち上げると家に向かって歩いていく。



 ***



 落雷の1つが草原に落ちる。


「あいたっ」


 紅葉が草原に転がる。突然の落雷と共に降ってきた少女に兵たちは驚きながらも武器を向ける。


「わっとと。敵のど真ん中じゃん! 安全なとこに落としてって言ったのに本当に性悪だねあの人」


 ブツブツ文句を言いながら周囲に盾一斉に弾かせ辺りの兵たちを押し退け盾を階段状にしてかけ上がっていく。

 途中で空中をタッチし目の前にモニターのようなものを展開する。

 モニターには魔界大陸の草原と森の辺りを上空から見た航空写真の様な地図が映し出されている。

 その地図に線を引っ張るとアイテムボックスから大量の壁を選択する。この壁、人間界で基地や建物を制圧し壁をスティールして得たものである。


「流石に大量に使うけど足りそうだね、頑張った甲斐があるってもんだよ」


『スキル発動』


 1、モミジーマップ(※クールタイム+10分)


 地図に線を引いた場所めがけ大量の壁が空中に現れ落ちて地面に刺さっていく。その大きな壁は兵たちを押し潰し分断していく。


「これは凄いな。でもクールタイムが長いのと細かい出現が出来ないから使いどころは限られてくるのかな?」


 紅葉は大きな壁の上に立つと草原に落ちた2つの落雷の方向と森に落ちたもう2つの落雷の方向を見る。


「みんな強いから大丈夫だろうけどやっぱり心配だな。

 ボクも頑張って最後の仕上げの準備しないと。まずはバトのとこへ」


 紅葉が地面に突き刺さる壁の上を戦場の様子を見ながら草原の中央へ向けて歩いていく。



 ***



 草原の中央に落ちた落雷は地面に当たった瞬間に銀色の線が円を描き範囲に入ったものを全て切り裂いてしまう。

 魔界の森へと第二陣として進行していた軍隊は突然の事に混乱する。

 更に進行方向にを遮る大きな壁が空から降ってきて地面に突き刺さりそびえ立つ。


 隊を乱さないよう努める兵たちを嘲笑うかのように2本の太いビームが走り抜け蒸発させてしまう。

 兵たちは銀色の魔物が手を伸ばしその手にあるソードで鎧ごと切り裂かれ、肩からの魔法でもない攻撃を食らうと跡形も残らず消えてしまい、そして周囲を飛び回る謎の銀色の棒が意思を持ったように飛び回り魔法のようなものを放ち兵たちを消し去る光景に怯える。


「沢山おるね。紅葉の為にも道を作らんといけんき頑張ろう」


 バトが草原の端の方を見る。


「燕も頑張っちゅーみたいだしうちも気合い入れんとね」

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