その16 侵略される魔界の森にゃ!

 草原から魔界の森へ進軍する軍とは別に港町から船を出し海側から森へ侵入する軍がいた。

 皆が隠密のような格好をした軍は静かに森に侵入し魔物を駆逐していく。その驚異はペンネの実家である森の魔王ダンジェロの元へと忍び寄る。


 次々と倒れる蜘蛛の兵を見て焦りながらも魔法を放つファルファッレとイーネ。

 2人の実力ではこの兵たちに敵わないのだが生き残れているのはその容姿故。美しい吸血鬼の娘を生け捕りにするため手加減をされているその結果なのだ。

 現に2人の魔法は当たることなく周りを守る蜘蛛の兵達の数を徐々に減らし追い詰めていく。


 そんな2人を守る為ダンジェロが空から降りてくるとレイピアを構える。


「森の魔王ダンジェロ・フェデリーニ、この森で好き勝手はさせんぞ」


 レピアに風を纏わせ風とレイピア、複数の斬撃を繰り出していく。素早い忍び兵たちが距離をとり武器を投てきしてくるが周囲に風を起こし叩き落とす。

 ダンジェロが足に纏わせる風の力を使い素早い一歩を踏み込むと1人の兵の胸元を貫く。素早くレイピアを抜き次の敵を切り裂き、突き刺していく。


『固有技 ウインドレイピア』


 高速で放つ突きから尖った風の槍が拡散し飛んでいく。木に穴を空け兵を貫いていく。

 羽を広げ木々を器用に飛びながら兵達を次々と切り捨てていくダンジェロの姿を見てファルファッレとイーネは父の強さに感動するのだった。



 ***



「エトヴィン様、魔王を名乗るものが森で暴れていると報告が上がってきています」

「魔王? シシャモか?」

「いえ、孤高の魔王ルイーサと名乗りその名の通り他の魔物とはレベルは比較にならない強さとのことです」


 エトは顎に生えた無精髭を触ると楽しそうな笑みをみせる。


「よし! 俺が向かおう。お前後ろにいるシンツィアに俺が進軍すると伝えてくれ。そして後方は任せたとな」

「はっ!」

「よし! 行くぞお前たち。気合い入れろよ!」


 エトの号令で兵達が気合いの入った声をあげる。



 ***



「どうしたのだ! そんなものか、その程度では余を倒せないのだ!」


 返り血に染まり叫ぶルイが槌を振るい兵を押し潰す。相変わらず圧倒的強さをみせるがその動きは最初の頃に比べて明らかにキレがなくなってきている。


 兵の放つ魔法を槌で弾き返し木々をなぎ倒し数人の兵を吹き飛ばす。


「はぁーはぁー、ちときついのだ」


 息を切らしながらも踏み込んで槌を振り下ろし鎧ごと兵を押し潰す。


「なんだ大分弱ってるみたいだな」


 今までの兵と違う雰囲気にルイが槌を持ち直し構える。


「ふ~ん、ドラゴニュートか、書物でしか見たことないがこいつは良い土産になりそうだな」


 無精髭を撫でながらエトがルイを見て嬉しそうな笑みをこぼすと剣を抜き構える。


「俺はジガンテスカ王国騎士団副隊長エトヴィン ・ヘルメルよろしくな。お前を土産にするから大人しくしてろよ」

「余は孤高の魔王にて魔界の森周辺の監視者 ルイーサ・ヒューブナーなのだ。お前の土産になどなる気はないのだ!」


 名乗り終えると同時に槌と剣が激しくぶつかり合う。周囲の者達が手出し出来ない戦いに兵達は見守るだけだ。

 疲労の色が見えるルイだが現在のレベル91、エトのレベルが76。基礎の能力差もありルイの方が押している。


「強いな、レベル差があるか……」


 エトが試験管を取り出すと一気に飲み干す。とたんに形勢が逆転する。


「な、なんなのだ! さっきとはレベルが違うのだ」


 全力で振るう槌を剣で弾かれガラ空きになったお腹を蹴りあげられる。


「がふっ」


 短い叫びに血を吐きながら吹き飛ばされ木をなぎ倒して飛んでいく。


「まだ終わりじゃないだろ? 折角なんだもっと楽しませろよ」


 倒れた木々を避けながら走りルイに詰め寄ると剣を振り下ろす。槌がその剣を受け止めダメージで震える体を押して立ち上がるルイを見てエトが微笑む。


「そうこなくちゃな!」


 剣を一瞬引くとバランスを崩すルイの槌の柄を切り頭の部分を落とす。


「余の武器が……」


 唖然とするルイの首にエトの回し蹴りがきまると横に転がっていく。そのルイに一瞬で詰め寄るとサッカーボールを蹴るように蹴りあげる。

 宙に打ち上げられたルイが地面に叩きつけられる。


「がっ……ゴホッ、ゴフッ」


 血を吐き痙攣する体を必死に起こそうとするルイにゆっくり近づくエトがその様子を見て嬉しそうに笑う。


「いいね、いいね。強い奴を倒すのは胸がスーーとして気持ち良いな。もう少し遊びたいが待てば回復するか?」


 エトに答える余裕もないルイは言うことを聞かない体を必死に動かそうともがいていた。

 その目は今だ諦めておらず光を放つが思いについてこない体に苛立ちと悔しさで涙が溢れだす。


「なんだ? 泣いてんのか? 見た目通りガキだな。ま、一方的に痛ぶるのも趣味でね。こっちも胸がスーーてするんだぜ。んじゃまあ剣でブスブスと刺してみるかな、まずは目か」


 エトが剣を振りかざす。


「ダメにゃ!!」


 エトの前に両腕を広げ立ちふさがるカレイ。その体は恐怖で震え立ってるのもやっとだが潤んだ目で必死にエトを睨み付ける。


「ネコ獣人? 魔王シシャモと同じ種族か? 弱そうだが」


 エトが剣先を向けると足をガクガクさせながらも震える声で叫ぶ。


「る、ルイはわたしの妹にゃ! わ、わたしが守るにゃ! だってお姉ちゃんだから!!」


 今だ指一本動かすことの出来ない自分を呪いカレイの言葉に涙を流すルイの横でエトが楽しそうな表情で剣を構える。


「そうか、じゃあ頑張れよお姉ちゃん。妹の代わりに俺の攻撃に耐えろよ」


 振り下ろされる剣に目を瞑るカレイと見ることしか出来ないルイと落ちる落雷。









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