その15 ジガンテスカ王国進軍開始にゃ!
──ジガンテスカ王国
人間の住むこの広大な大陸ジガンテスカの中心にあるジガンテスカ王国。その王の玉座に座るのは王と呼ぶにはまだ若い、青年のような出で立ちの男性。
体の線は細くさらさらな薄い緑色の髪が光に当たるとキラキラとエメラルドのように光輝く。青く儚げな色を放つ瞳と艶のある声、全てが美しい王の名はブラス・ジガンテスカこの国の12代目王である。
その王の前にかしずく3人。ロルフ、アリア、テオはブラス王の言葉を待つ。
「ときにお前達の報告にあった魔王シシャモとはどのような者だ?」
透き通るような声だが逆らえない力のある声にビクッと肩を震わせる3人の内ロルフが口を開く。
「非常に狂暴ですが実力は本物でして──」
「違う! 容姿を聞いているのだ。映像魔法に記録はないのか。あれば手下どもの容姿も見たい」
ロルフが地面に頭を擦りながら詫びの言葉を述べる横でアリアが水晶を取りだし映像を壁に写し出す。
「こちらが魔王シシャモ。部下のペンネ、ポム、紅葉です。他にもいるかもしれませんが、現在映像の記録があるのはこの4匹の魔物だけです」
シシャモ達の映像を見ながらブラス王は顔を赤らめ甘美な表情を浮かべ微笑む。
「このもの達を生きて捕らえよ。わたしのコレクションに加えたい」
ブラス王の言葉に深々と頭を下げてかしずき返事をする3人だが内心は穏やかではない。
「ではお前達が計画し立案した魔界大陸侵略を実行に移すのだ。多くの魔物と魔王シシャモを捕らえわたしに献上するのだ」
「はっ!」
3人は返事をすると王の間を後にし、すぐに作戦会議室へと向かい魔界大陸侵略の準備を進めるのであった。
***
魔界大陸とジガンテスカ大陸が繋がる唯一の場所は魔界の森の上に広がる大きな草原である。昔はここにも魔王が存在し魔物の村があったが人間と衝突の多く魔王討伐と共に滅びてしまった。
今は城や建物の跡が残るだけの草原である。
人間の方も魔界大陸に近く海沿いの漁港を中心に町が存在していたが争いの多い地域から人々は離れいつしか誰もいなくなった港町の跡が残っている。
人のいないはずの港町が今は人で溢れかえっている。その多くはジガンテスカの兵士達であり皆が同じ鎧を着て整列している。
その後ろには個性豊かな装備と武器を持つ冒険者達が乱雑に並んでいる。
そんな軍隊の前に3人の人物が達その中の1人が前1歩前に出ると拡声魔法を使用して声を張り上げる。
「諸君! ついに作戦を実行するときが来た! 我々の手で醜き魔物どもを駆逐してやろうではないか!」
「おーーーーーー!!!!」
地鳴りのような声が響く。
「ただし美しい魔物や珍しい魔物は王に捧げるのだ! 殺さないように気を付けてくれ! 後、持ち帰りも禁止だ!」
男の言葉で笑いが起きる。
「それでは早速いくぞ! 進軍開始!!」
「おーーーーーー!!!!」
再び地鳴りが響き軍隊が魔界大陸に向け進軍を開始する。
その様子を満足そうに見る3人。
先ほど声を張り上げていた爽やかそうな男は騎士団副隊長『エトヴィン ・ヘルメル』その横にいる少し暗い感じの露出多めな女性は魔法軍副隊長『シンツィア ・ラウッツィーニ』最後に口を布で覆い寡黙そうな男は暗殺部隊副隊長『ニコライ・フリュクベリ』
今回の作戦を任された者たちでありその重要な任務にやる気に満ち溢れている。
「エト、私はあなたと一緒に進むわね」
「おう、シンツィアの魔法軍の援護があると助かる。ニコライは別ルートだが任せた」
「任せておけ」
「じゃあ俺らも行こうぜ!」
3人が頷きそれぞれの持ち場に向かう。この3人は隊長達と違い仲が良くお互いの健闘を祈り皆がこの作戦の成功を信じて突き進む。
***
魔界大陸の草原に住む魔物は小型で大きくても大型犬程の大きさしかない。見張りや異常を伝える者や術も持たぬ魔物しか住まないこの草原は人間の軍が一気に進行し魔界の森に侵入を許してしまう。
そしてそれは魔界の森に住む魔物たちにとって突然の出来事だった。日頃から互いに争い己の力を誇示する魔物たちだが人間のように軍やチームで争うことになれていない森の魔物たちは次々と討伐されていく。
その魔の手はシシャモの実家にも及ぼうとしていた。
湖の畔で昼寝をしていたカレイもルイに起こされると異変に気付き家へと向かう。
「ルイ、お母さんたち大丈夫かにゃ……」
「大丈夫なのだ! もう少し急ぐからしっかり掴まっておくのだ」
ルイの背中で心配そうな声を出すカレイを励ましながら猛スピードで走る。
「ん? 嗅いだことのないこの匂い……」
嫌な気配を感じ槌を取りだし手に持つと走る体を回転させ避けるような仕草を見せると木の幹に槌を振り抜く。
木をへし折りながら裏に隠れていた人間を吹き飛ばすと飛んでくる矢を避け飛んできた方に突進し槌を振ると茂みの中の人間の頭を地面に叩きつける。
「カレイ姉さんしっかり掴まって欲しいのだ」
ルイの背中にしがみつくカレイが目をぎゅっとつぶるとルイが更にスピードを上げて家に向かう。
***
シシャモの家の前ではダンジェロの部下である蜘蛛達が人間と戦闘をしているがレベル差が大きく一方的な討伐が行われている。
やがて家の玄関が破られ兵たちが中に侵入してくる。
家の奥に押し込んだマグロとメバルを守る為、蜘蛛の執事が兵達の前に立ち大きく6本の手を広げる。
「なんだこいつ、蜘蛛の化け物が死ねよ!」
兵の振るう剣に腕を1本切られ腕を押さえ膝をつく蜘蛛執事に再び剣が向けられたとき後ろで鈍い音がする。
「なんなのだこれは。お前達は何をしに来たのだ」
「ど、ドラゴニュート? そ、存在するのか……だがこの容姿なら我が王も──」
最後まで喋る事も出来ず兵は槌に潰され絶命する。膝をつく蜘蛛執事に駆け寄り心配そうにするカレイに蜘蛛執事は微笑み奥にいるマグロとメバルの元へ行くように促す。
「お主にここを任せるのだ。余は外でこやつらを叩き潰してくるのだ」
「はい、命に変えても。ルイ様お気を付けて」
「余はお主も守るのだ! 死ぬことは許さないのだ」
蜘蛛執事が深々とお辞儀をするのを背にして槌を肩に担ぎ家の外に出ると叫ぶ。
「余は孤高の魔王にてこの魔界の森周辺の監視者 ルイーサ・ヒューブナーなのだ!! お前たち余の敵となるというのならかかってくるのだ! 叩き潰してやるのだ!!」
大きな声に反応し近くにいた兵や冒険者達がルイに襲いかかってくる。
小さな体に似合わぬ大きな槌を振るい人間たちを宣言通り叩き潰すルイ。その通った後ろには屍の山が築かれる。
「なんだこいつ! 強いぞ!」
「魔王と名乗っていなかったか?」
ルイの存在が森にいた兵たちに広がり集まり始める。その様子に額の汗を拭う暇なく槌を振るうルイはニヤリと笑う。
「良いレベル上げなのだ。余の強さを更に磨くチャンスなのだ。ちょっと多い……いや、姉上より任されたこの地を守るのだ!」
槌を地面に叩きつけ周囲の兵たちを一斉に吹き飛ばし茶色の瞳を光らせる。
「さあ、かかって来るのだ!! 余の力見せてやるのだ!」
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