その14 魔界の森の監視者ルイにゃ!

 魔界大陸の森で一緒に歩くカレイとルイは湖が広がる広場に出るとカレイが辺りを見回す。


「今日はここにするにゃ。ここは静かでお昼寝に最適にゃ。ルイは見張りと訓練に励むにゃ」

「うむ、了解したのだ。カレイ姉さんの眠りを邪魔するものは余が潰してやるのだ!」


 カレイがルイの肩をよしよしといった感じでポンポン叩くと木の枝に起用に登り丸まって目をつぶるとすーすーと寝息をたてはじめる。


「流石ミケ族最年少連続お昼寝記録保持者であり今尚記録を伸ばしている天才と言われるカレイお姉さんなのだ。寝付きも半端ないのだ」


 カレイのお昼寝術に関心したルイはつちを取り出すと素振りを始める。


「4998、4999、5000!」


 額の汗を拭い槌を置くと腕立てを始める。


「日々の努力は無駄にならないのだ! 8346、8347……」


 次に木の枝に膝をかけ逆さまになると腹筋を始める。


「8997、8998……………………………………………………10000!」


 木の枝から飛び降り着地すると持ってきた水筒で水を飲む。


「運動後の水は格別に美味しいのだ。そして姉上のお母様は優しいのだ」


 お母様の響きにしんみりとしたルイが上を見上げるとカレイはまだ寝ている。


「さて準備運動も済んだのだ。そこにいる2人出てくるのだ」


 静かながらも力のある声で槌を肩に担ぎ木の上に向かって話しかける。


「ちぇ~気づかれてるじゃんよー」

「下りますわよ」


 木がガサガサ動いて羽を広げファルファッレとイーネが降りてくる。

 ファルファッレが優雅にお辞儀をする横でペコッと軽く頭を下げるイーネ。


「お初目にかかります、魔王ルイーサ様。私はこの森の魔王ダンジェロ・フェデリーニの長女ファルファッレ・フェデリーニです。そしてこちらが……」


 頬をポリポリ掻いてるイーネが慌てて自己紹介する。


「次女のイーネ・フェデリーニです」


 ギクシャクとお辞儀をするイーネをファルファッレが睨んでいる。


「いかにも余が魔王ルイーサ・ヒューブナーなのだ。して何用なのだ? 使者に手紙はださせたであろうし、何よりペンネお姉さまが直接余のことを伝えたはずなのだ」


 不服そうなルイに対しファルファッレとイーネが杖と剣をそれぞれ構える。


「我々も魔物です。故に力あるものには従いますがペンネが認めただけの魔王に従うのはいささか不服だと、そう言うことです」


 ファルファッレの言葉を聞いてルイがニヤリと笑う。


「なるほど、1度余自ら直接痛い目をあわせないと従えんというわけなのだな。分かりやすくていいのだ、それじゃ行くのだ!」


 ファルファッレとイーネが同時に放つ炎がルイに当たる前にルイが炎に突っ込み打ち返す。


 湖を凍らせ下から魔法を放つファルファッレに剣に魔法を纏わせ空中で剣を振るうイーネの攻撃を大きな槌で起用に捌きイーネを蹴った反動でファルファッレに槌を振り下ろす。


 寸前で避けたファルファッレの足元の氷が割れ湖の水飛沫が柱のようになって立ち上る。

 地面に着地すると槌を振り上げ水飛沫の一部を風圧で打ち返す。


「カレイ姉さんにかかるといけないのだ」


 空中に逃げたファルファッレがイーネの隣に並ぶ。


「流石に強いですわね」

「これさあ、敵う相手じゃないよな……でも今日から支配者ですって言ってあっさり従いたくはないよな」


 イーネが炎を纏わせ急降下すると地面すれすれで斬りかかる。


「ですわよね」


 ファルファッレも上空で杖に魔法を溜め炎を大きくしていく。

 突っ込んで来るイーネの剣を槌で受け止めると横に回り蹴りあげる。

 宙に浮くイーネを掴んで横に投げると上空から放たれた火球に向かって振りかぶると槌を大きく振り上げ火球を打ち返す。


「ありえませんわ、魔法を打ち返すなんて」


 空中で炎が弾けファルファッレが落ちてくるのをルイが受け止める。

 気絶する2人を木の根本に寝かせると槌を収納し走る構えをみせると森の中を猛ダッシュで走り抜ける。

 砂塵を巻き上げ走りそのままダンジェロの城までたどり着くと門を破壊しダンジェロのいる王の間へと突っ込む。


「な、何事だ!?」


 あわてふためくダンジェロにルイが笑みを浮かべ挨拶する。


「お主が森の魔王なのだな。余は孤高の魔王と呼ばれるルイーサ・ヒューブナーなのだ。ペンネお姉さまと手紙で余のことは知っているだろう?」

「こ、これは初めまして私はダンジェロ・フェデリーニこの森の魔王をやっています。近日中にお伺いしようと思ってたんですが……」


 ペコペコ頭を下げるダンジェロにルイが槌を取りだし構える。


「社交辞令はいいのだ。お主は娘2人を仕掛けてきてまで余を実力を見たかったのだろう? 正直余もお主をなめておったのだ。言葉だけで屈服すると思ってたのだ。だから詫びも兼ねてこうして余自ら来たのだぞ」


「え? えっ?」


 話が読めず焦るダンジェロは流れでレイピアを取り出す。


「さあ余の力を見るのだ! そして余が姉上よりここの新たな支配者を任されたことを認めさせてやるのだ!」


『固有技 大いなる脈動』


 城の床に叩きつけられた槌を中心にヒビ割れ城の一部が倒壊する。瓦礫に埋まったダンジェロがヨロヨロと立ち上がると顔面スレスレに槌が突きつけられる。


「これでどうなのだ? まだ余を認めないというのならいくらでも付き合うのだ」

「いえいえいえいえいえ、滅相もございません。えっとなんならこの城使いますか?」


 ペコペコするダンジェロを見て腕を組んで満足そうなルイ。


「城はいらないのだ。雨風が凌げれば良いのだ。ではダンジェロお主はこの森を以前と変わらず監視するのだ。余は草原から谷までを見なければならないといけないのだからな」


 槌をしまうとそのまま走って元いた湖に向かって走っていく。壊れた部屋で1人たたずむダンジェロ。


「なんだったんだろ。何も不満ないって伝えたはずなのになあ」



 ***


 ──その日の夜


「申し訳ありませんわ、私たちまで頂いて」

「いいのですにゃ。ご飯は多い方が楽しいものですからにゃ」


 ファルファッレが配膳を手伝いながら申し訳なさそうにメバルに謝っている。その横でイーネがマグロと釣り竿について話をしている。


「おじさんの使う糸巻き器より高性能なのがあるってペンネが言ってましたよ。今度持ってこれたら届けようって言ってましたよ」

「ほんとうかにゃ! いやーそれはたのしみだにゃー」


「今日もいいお昼ねが出来たにゃ。ルイのお陰にゃ」

「勿体ないお言葉なのだ。今日も見事なお昼ね姿だったのだ」


 カレイがルイに誉められ胸を張って誇らしげにしている。幸せな魔界の森に魔の手が忍び寄っていることをまだ誰も知らない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る