その12 悪の首領紅葉にゃ!

 バトの通信が切れた後、紅葉は呟く。


「ボクは弱いよ。アイテムがなきゃ何も出来ないし、パンチやキックじゃ敵も倒せないし魔法も使えない。だから必死にやるだけさ」


 紅葉が通気孔から下を見ると隊員達がチームで動いているのが確認出来る。防衛壁を下ろしたことで移動ルートはかなり限られてくる。

 自警隊チームの目の前に突然壁ができる。慌てる隊員の後ろにも壁ができて閉じ込めれてしまう。


 パニックになる隊員たちの武器をスティールで取り上げると置き去りにして次々とチーム単位で壁に閉じ込めスキルのクールタイムが合えば武器を奪っていく。


 紅葉が移動する通気孔に突然ビームが放たれ爆発する。


「熱源反応 ヒット 再検索開始……」


 廊下から通気孔を見上げるバトの後継機であるロボットFCM―01の目が目標のサーチを開始する。


 その頭上にハンマーが現れ落ちてくるのをロボが後ろに下がって避けると背中を壁にぶつける。


「壁? 理解不能……」


 現状を把握しようと計算を始めた瞬間目の前にも壁が現れ弾けると壁と壁の間に挟まれ押し潰される。

 壁が消え潰れたロボが倒れる。


「バトに似てるけど、なんか冷たい感じ。あの子は感情豊かだしね」


 そう言いながら通気孔から降りてきて立つ紅葉の後ろからビームが飛んでくる。だがビームは紅葉に当たることなく通り抜けてしまう。

 肩にビーム砲を担ぐロボが周囲を見渡す弾けた盾に顔面を強打してよろける。

 現れては弾ける盾が縦横無尽に現れ攻撃されフラフラのロボの上に大きな盾が横向きで弾け飛んでくるとロボを押し潰してしまう。

 その盾の上に紅葉がバランスを取りながら着地する。


「っと狭いとこだと大きな物は出せないんだね。錨を落とそうと思ったけど入らなかったや。

 にしてもスキルって便利だね。幻影のスキルは逃げ回るボクにはピッタリ」


 盾を収納すると人気ひとけのなくなった廊下を歩いていく。

 やがて1つの大きなドアノ前に立つと紅葉の固定スキルである『in and out』を広げる。


「ドアは盗めそうにもないか。ということはこのエリアは制圧されてないと。中に人がいるんだろうね」


 紅葉がアイテムボックスに検索をかける。スキルパットをもらって以降元々のスキル『in and out』も地味にパワーアップしておりアイテム検索やマイページ、ショートカットなどが使えるようになっている。

 検索でヒットした認証用のカードを取り出すと手に持ちハッキング用の端末を扉の横にあるに差し込みカードを通すと大きな扉がゆっくりと開き始める。


 扉が完全に開くと共に銃弾が一斉射撃される。大量の銃弾で壁が欠けヒビが入る。


「なんで壁がある……」


 中で銃を構える隊員達が何が起きたか分からないといった表情で壁を見つめるなか中央に大きな盾が円を描いて現れると全方向に向け弾ける。

 飛んでくる盾に隊列を崩しながら逃げる隊員たちの前に周囲360度に大量の盾をランダムに宙に並べ浮かべ歩いてくる紅葉。

 スキル『アイテム固定 10分』のお陰で宙に盾を固定したまま移動することが出来ているわけである。


 大量の盾を周囲に浮かべ歩いてくる少女に驚き銃を構え一斉に撃つが大半の弾丸は盾に弾かれ紅葉に当たったはずの弾丸は透き通って地面で火花を散らす。

 驚く兵士達を更に驚かせるのが周囲に落ちていた武器や盾が一斉に消えてしまったことだ。

 その現象の意味を知ることなく浮いてた盾が一斉に弾け部屋全体が破壊される程のダメージを受ける。


 その悲惨な状況の部屋を紅葉が歩き奥にある扉を開けるとミサイル管制室へと入る。

 中にいた数人の隊員を盾で吹き飛ばし戦闘不能にする。


「あの~すいません。皆さんは外に出てもらえませんか?」


 紅葉が白衣を着た数人の男女に外に出るように促すと指示に従い外に出始める。紅葉はそれを横目にしながら気絶してる隊員をドアの外に引きずって外へ投げていく。

 外に移動する中、1人の女性が白衣に隠した小銃を震える手で隊員を引きずる紅葉の背中に向ける。


「!?」


 女性の周り4面を盾が囲み中に閉じ込められると頭上から落ちてくるハンマー。


 ピコッ!


 頭上に当たった瞬間軽い音がする。その瞬間周囲の盾は消え女性はバランスを崩し膝をつく。


「もーー次はないよ。説得力ないけど無駄に人は傷つけたくなの。早く出てよ」


 紅葉が放心状態の女性を押してドアの外に出すとドアの前に壁を設置する。

 それからコントロールパネルを操作し端末を差し込み更に操作を進める。モニターに映るミサイルの並ぶ映像をみてホッとした表情で頷く。


「ここで間違いないね。ちょっと時間かかるね」

〈紅葉!こっちは制圧したぜよ。後は主導権の移行だけちや〉


 バトから通信が入ってくる。


「ちょうどこっちも制圧してミサイルの操作を手動モードに切り替え中。でさ、例のヤツ出来そうなの?」

〈そっちもバッチリや! 紅葉期待しちゅーよ〉

「はあーーーー。うん、頑張るよ」


 大きなため息と同時にモニターがミサイルのコントロールが手動モードに切り替わったことを示す。


「こんなまどろこっしいやり方しなくても主導権の移行を神様が了承してくれたら早いのにさ」


〈んーーそこまでは出来ないのさ。いや、出来るけど干渉し過ぎはよくないから。今回の作戦だってシシャモ発案だし苦労して得たミサイルの方が愛着も沸くんじゃない? それに只でさえ君たちは優遇してるから勘弁してよ〉


「うわっ!? アダーラさん? いきなり喋ってこないでよ。ビックリするじゃないさ!」


〈ごめん、ごめん。まあそういうことで頑張ってね〉


 通信? が切られる。


「なんなのさ。会話聞かれてんの?」


 ブツブツ文句言いながら入ってきた場所と反対の壁を盗み消し去ると空いた穴を通って別の通路へと出て移動していく。



 ***



「はあーー大きいねえ~」


 紅葉が発射台に並ぶ大量のミサイルを口を開けて見上げる。早速スキルを広げミサイルを選択しアイテムボックスに収納してみる。


「出来た、しかもこれ1マスでいいんだ。なんか怖いなアイテムボックスの中で爆発とかしないよね?」

「せんやない? アイテムボックスはわたしも仕組みが分からんきね。それより準備できちゅーき、こっちへ来て欲しいぜよ」


 アイテムボックスを訝しげに見る紅葉はバトに手を引かれるとちょっと高い台に立たされる。周囲には監視用のカメラが集められ紅葉に向けられている。



「じゃあいくぜよー 3 2 1 キュー!」

「うわわわっ!? ちょっと」


 慌てふためく紅葉だがカメラのレンズの上にあるランプが赤く光り撮影が開始されたのを確認するとアイテムボックスに入れていた黒いマントを羽織り笑い始める。


「フハハハハハハハハハ! 人間どもよ、よく聞くがいい!! 我々悪の組織『紅葉一派』は異世界からの来訪者でありお前ら人間を殲滅させに来たのだ。抵抗するものは全て我が部下達がお前らを蹂躙すると知れ! 抵抗しなければ命の保証はしてやろう」


「抵抗するものは──」の辺りでシシャモ達が敵を殲滅させる映像をカットインさせながらバトは紅葉の姿を見て思う。


(ノリノリやん)


「いいか! この我の体の元の持ち主『春風 紅葉』は最後まで我に抵抗した正義感溢れる人間だった! 本当にいい奴だったからこそ、この体を奪って使っているのだ! いいか人間、我々は絶対の悪だ! これから抵抗するものは全て叩き潰す!! 全力でかかって来るがいい!! 人間全員でかかってくるのだ!!」

「はーーい、オッケーや。お疲れさま」


 バトに言われ紅葉は胸を大きく撫で下ろす。


「ああ~緊張した。これで今後僕たちがすることも意味あるものに見えるしヘイトはボクらに集まるかな」

「そうやな、これからバンバン恨まれるはずや」


 紅葉が寝転がって伸びをする。


「それは常闇の使者としては願ったり叶ったりだね」


 青空を見上げ笑う紅葉を見てバトの目が優しく光る。

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