その3 アース魔王討伐作戦開始にゃ!

「はえ~不死の軍団って凄いもんだね。不眠不休でお城を作ってるよ。ボク達の世界なら労働基準法違反だね」

「そうやね。こっちの世界ならでは言うことじゃのぉ」


 ポムの出身地であるミキシング島の住宅の屋根に座って眺める紅葉とバトはスケルトンをはじめとしたグラープの軍勢の作業を眺めながら語っている。


「あのさバト、ボクが悪の首領になるとしてさ、残ったおじさんやおじいちゃんに迷惑かけないかな?」

「かける、かけんで言えばかけろうね」

「だよね。ボク1人が敵意の対象になるのは良いんだけど他の人まではね」


 ぼんやりとスケルトンの作業を眺めていた紅葉が両頬を叩いて立ち上がる。


「それでもボクは悪の首領になるって決めたんだ。とことんやってみせるよ」

「1人で抱え込まいでええきね。うちらに愚痴でも何でも言うてきなさい」

「ありがとう。心強いよ」


 紅葉は笑うと屋根から飛び降りて着地する。


「おっと、着地上手くなったかな」


 嬉しそうに歩き出す紅葉の横にバトが並んでついていく。



 ***



 島民達の表情は明るい。今まで定期的に来る人間に怯えてきた生活から解放される可能性が高いのが主な理由だが、魔界大陸最強と噂される魔王シシャモがこの島を領土とし、魔界大陸を治めて尚且つ人間側にも圧をかけると宣言した事で魔界大陸の端から一気に魔界大陸の中心になりそうな事で皆浮き足立っている。


 そんな様子をベンチに寝転がって複雑な表情で見るポム。


「どうしたんだい? 微妙な顔をして」

「ああ? ばあさんか。いやな、みんな嬉しそうだからあたいも嬉しいんだけど、前の感じが無くなると思うとそれはそれで寂しいもんだな」


 ライムがポムの頭を撫でるとポムは恥ずかしそうに逃げようとする。


「あんたもそんなこと思うんだね。変わっていくことは良くもあり悪くもあるかもしれないけどシシャモは悪い人ではないのはあんたがよく分かってるだろう。

 それに魔王シシャモの仲間の1人としてあんたが出来ることはわたしなんかより多くて影響も大きいと思うけど違うかい?」


 ライムに言われ吹っ切れた感じのポムは立ち上がるとギザギザの歯を見せて笑う。


「だな、今まで強いたげられた分楽しい島になるようやっていくぜ。そういやそろそろシシャモ達が帰ってくる頃じゃなかったか。

 帰ってきたら島の名前とか決めないとな。ミキシングなんて人間がつけた名前は捨てちまおうぜ。

 じゃあちょっくら城見に行ってくるわ」


 アイテムボックスから出した銃を指でクルクル回しながら城の方へ歩いていくポムの後ろ姿を見てライムは嬉しそうに微笑む。



 ***



 ポムが城に向かって歩いていると紅葉とバトの後ろ姿が見える。何やら誰かと話しているようなので近づいていくと声が聞こえてくる。


「なるほど、これがプリンなんだね。存在は知ってたけど食べるのは初めてなんだよね」

「レシピは分かるけどこっちで再現出来るかな?」

「この島の名産にでもしたら?」

「偉い神様なのに軽い感じじゃのぉ」


 アダーラと紅葉達がプリンについて話しているようだった。ポムに気付くとアダーラが駆け寄ってきて話しかけてくる。


「ねえねえ、ポムはプリン食べたことある?」


 無駄に可愛い顔をぐいぐい近づける神様の顔面を押さえながらうっとうしそうにするポムの姿に神に遣える者の信仰心は一切感じられない。


「あのプルプルした甘いやつだろ。うめえよな」

「だよね、だよね」


 ポムに顔面を掴まれたまま嬉しそうに、恐らく笑っているアダーラに神の威厳は感じられない。


 そんな場所の近くに電流が走るとスピカのやる気のない声が聞こえてくる。


「はいはーい、着きましたよー」

「性悪女神と一緒だとちゃんと着地出来るからいいにゃ」

「だよねえ」

「ふむ」


 姿を現すシシャモ、ペンネ、燕に紅葉達が駆け寄る。


「久々の実家どうだった? 今度ボクも連れてってよ」

「もちろんにゃ、みんな招待するにゃ」


 和やかに話すシシャモが見上げる先には建設中の城があった。


「あいつ迷宮のセンスはないけど城作りは上手いにゃ」


 着々と出来上がる城を見て感心したようにシシャモが呟く。


「そうにゃ。ペンネから言われたんだがにゃ、『ほにゃらら魔王』とか『なんちゃら魔法軍』とかつけたら名乗りやすくて良いらしいにゃ」

「ボクは賛成! なんか名乗りたい!」


 シシャモの提案に乗り気な紅葉の強い押しもあり今後自分で考えつつ他のメンバーのも考えようと言うことで話がつく。

「それで今後の予定だがにゃ。こっちは城が完成するまで置いとくとしてにゃ。先にアースの方を攻略したいにゃ」


 シシャモの言葉に皆が注目する。


「それでにゃ、あたしとペンネ、燕、ポムでホッカドー攻略に向かうにゃ。

 紅葉とバトは凄く大切な作戦をしてもらうにゃ。これは今後の魔界大陸にも大切なものだからよろしくにゃ。立ち話もなんだから休憩しながら詳しく話そうにゃ」



 ***



 建設中の城に近い空き家でシシャモから作戦内容が説明される。


「前に言ったと思うけどにゃ魔界大陸と人間大陸を繋ぐ唯一の場所、魔界の森の上にある草原。ここを分断するために前にバトに聞いたミサイルを手にいれたいにゃ。

 そこで紅葉とバトには人間の基地に潜入してミサイル奪取をお願いしたいにゃ。

 その間にあたしらはホッカドーにいるかもしれない魔王を討伐するにゃ」


 バトは頷くが紅葉はちょっと不安そうにしてシシャモに聞く。


「基地って軍の基地に忍び込んでミサイルをボクがアイテムボックスに入れて持って帰るってことだよね。

 アイテムの所有権がアースの方は緩いけど基地を制圧しないと難しいんじゃないかな」


 なにか言おうとするシシャモを遮って紅葉が話を続ける。


「でもそのミサイルが今後の為に必要なんだよね。ならボクはやるよ。バトも一緒だしやり遂げてみせるよ。

 皆が頑張るんだからボクも頑張るよ」


 やる気をみせる紅葉の言葉に皆が頷く。

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