魔界で最弱な魔物 ～科学の粋とスキルを合わせれば最強も夢じゃにゃい！？～

その１３ 姉上にゃ！

　女の子が立とうとするがまだ足が震えるのかプルプルしている。

「無理しなくていいから座ってろにゃ」

「よよよよよ、余はこれくらいで……」

　足に力が入らなくなったのかペタンと切り株に座り込む。

　ただシシャモに対して向かっていこうとする気力だけはあるようで睨みながら立ち上がろうともがいている。

　そんな２人の間に森の影からドラゴニュート達が飛びだし女の子をかばうようにしてシシャモに対峙する。

「出てきてはならんと言ったはずだ！　ここは余が１人でやり遂げてみせるのだ！」

　女の子が必死に訴えかけるがドラゴニュート達は聞く耳は持たないと言った感じでシシャモに攻撃を仕掛けてくる。

　向かってくる敵をネコパンチで軽く叩きながら森へと弾き飛ばしていく。

「お前たちやめるのだ！」

　必死の形相の女の子が立ち上がりその小柄な体に似合わない大きな鎚（つち）を手にするとシシャモに突進し、大きく横へ振る。

「な、余の一撃を片手で止めるのか……だが」

『固有技　進撃プルス』

　大きく縦に連続で打ち付けられる鎚を避け柄の辺りを握ると引き寄せ女の子の襟首を掴み投げ捨てる。

「うぬぬぬ、余を愚弄するとはいい度胸なのだ！　余の名はルイーサ・ラセルナ！　お前も名乗る事を許してやるのだ。さあ名乗るがよい！」

「シシャモにゃ……あたしの名を知ってて呼び出したのに改めて名乗るってなんにゃ。アホかにゃ」

「さっきから余をバカだのアホだの愚弄しおって～許さないのだ！」

　ルイーサが鎚を地面を抉りながら振り上げる避けられるのは想定ないらしくグルグル連続で振り回す。

　そのまま空中へ跳び上がりグルグル回しながら地面を叩きつける。

『固有技　大いなる脈動』

　叩きつけられた鎚を中心に地面が割れていく。その割れ目をシシャモはひょいひょい跳びながら避けていく。

　ルイーサに向けた蹴りは鎚によって受け止められる。ただその表情は大分苦しそうである。

「にゃ？　なかなかいい反応するにゃ」

　シシャモの蹴りを必死に受け止めていくルイーサだが徐々に押され始める。

「ぐぬぬぬ、余は負けわけにはいかないのだ。ここで負けたら孤高の魔王の名が、負けられないのだあああ！」

　ルイーサが渾身の力で振るう鎚はシシャモに片手で受け止められてしまう。

「う、ううううわーーーーーーん」

　突如その場で力なくペタンと座り込み泣き出すルイーサに困った顔をして頭を掻くシシャモ。

「余は負けてないのだあぁぁーーーー」

　シシャモは手足をバタバタして泣いているルイーサを見てあることを思い出す。

（これと同じ感じ……！？　そうにゃ、妹と喧嘩したときみたいにゃ。こう言うときは姉の威厳を見せるのが手っ取り早いにゃ）

「ルイーサと言ったにゃ、お前の負けにゃ！　還付なきまでにお前の敗北にゃ！　所詮、姉より勝れた妹なんていないのにゃ！！」

　目には涙を浮かべたままだがルイーサが泣き止み目を丸くしたままジッ～と腕を組み仁王立ちするシシャモを見つめてくる。

　ルイーサがシシャモを指差す。

「姉」

　ルイーサが自分を指差す。

「妹」

「ああ、なんかもう嫌な予感しかしないにゃ」

「お、お願いがあるのだ。余の姉上になって欲しいのだ！」

　必死でしがみつくルイーサに困ったシシャモが周囲に向かって叫ぶ。

「その辺でこそこそしてる奴らこっちに来て説明するにゃ！」

　その声で森の中からゾロゾロとドラゴニュート達が現れ、シシャモとルイーサを囲んで事情を説明してくれる。

「つまりなんにゃ。母親はルイーサを生んで亡くなって先代の孤高の魔王が突然死して１人娘のルイーサが名を継ぐといってきかないとにゃ。

　で今有名な魔王狩りを返り討ちにして新たな孤高の魔王としてデビュー予定だったわけにゃ」

　ルイーサが隣に寄り添ってコクコク頷く。

「それで何であたしが姉になる必要がでてくるわけにゃ？」

「姉上が強く、そして余に対してもビシッと言ってくれるからなのだ。今の余はとても弱くて魔王らしくないのだ。魔王とはなんなのか教えて欲しいのだ」

「教えるって父さんに聞いてないのかにゃ？」

　不思議そうにするシシャモに周りにいたドラゴニュートの１人が説明してくれる。

「先代はそれはそれは１人娘のルイーサ様を溺愛してましたからそのような教えを伝えることもなくお亡くなりになられたので。

　我々もルイーサ様に知る限りを伝え支えようとしたのですが、逆にプレッシャーを与えていたのかもしれません」

　シシャモはしばらく考えてルイーサの頭にポンと手を置く。

「まあいいにゃ。ルイーサちょっと来るにゃ。お前を孤高の魔王として頼みたいことがあるにゃ」

　ルイーサがシシャモの手を握り立ち上がる。

「姉上！　余はどこまでもついていくのだ。何なりと言って欲しいのだ」

「ああもういいにゃ、えっとじゃあルイ、早速行くから森の外まで出るにゃ」

　ルイと呼ばれ益々嬉しそうなルイーサが周囲のドラゴニュートに別れを告げシシャモの後を追いかけ走っていく。

　残されたドラゴニュート達はそんな姿を見て微笑む。

「久々にルイーサ様の嬉しそうな顔を見た気がするな」

「ああ、俺たちが家族になろうとしても、どうしても距離が出来てしまうからな。孤高の魔王の名を継がなくて自由に生きて欲しいというのが先代の願いなのだが、あの魔王狩りならいい方向に導いてくれるかもしれんな」

　シシャモの知らないところでドラゴニュート達から勝手に期待を寄せられていた。