その10 シシャモの宣戦布告にゃ!

(分身体が2体ともやられたか)


 テオの本体は分身体の存在がなくなったことを感じとる。


(今はこれだ。こんな魔法は見たことがない)


 あれからすぐに紅葉は消え代わりに盾の迷宮が広がるこの状況にテオは困惑していた。

 武器が突然現れたかと思うと飛んできたり、飛ばずにその場に落ちたり消えたりする。


「陽動か。面倒だ」


 テオは小さな迷宮を素早く移動しながら武器の雨を避けていく。ただ全てを避けれているわけではなく徐々にダメージを受けている。


 突如迷宮が開けたかと思うと周囲を直径200メートル程の大きい円で囲まれると空から色々な種類の武器が降ってくる。

 今までと違い広い分攻撃を避けやすくテオは難なく避けることが出来る。


 次々落ちてくる武器は地面に刺さりまるで墓標のように見え、そしてそれは辺り一面武器の墓場となる。


「俺の墓場だとでも言いたいのか」


 ダガーを構えるテオの周囲を大きな盾が4枚囲う。テオが自分の正面にある盾を蹴り飛ばすと。盾の後ろには反応式自動ガトリングガンがありビームを連続で放ってくる。

 慌てて上空へ飛んで避けガトリングガンの頭上を飛び越え、着地した先に盾が現れるにで、それを避け横切ろうとしたとき盾の裏側から槍が飛んでくる。

 盾の影から突如現れた槍に反応が遅れてしまったテオは右肩辺りを深く抉られる。


 血を流しつつもあまり表情を変えることなく走るテオの周囲には次々と盾が現れ、その盾の横から、あるいは盾がパタンと倒れるとその後ろから武器が飛び出してくる。時には盾自身が弾けて飛んでくる。

 そのフェイントを混ぜた攻撃に段々とテオの傷が増えてくる。


 怪我が増え動きにキレのなくなるテオが後退りすると最初に囲まれた盾が背に当たる。


「追い詰められたか」


 少し悔しそうな雰囲気を出すテオの前を大きく盾が扇状に囲うと上空から壁の盾側に向かって斜めに武器が飛んでくる。

 それらをダガーで払いながら避ける最中に背中側の盾が消え木のバリケードが顔を出す。

 そんなことに気付かないテオは次々と降ってくる武器を必死にダガーで弾いていく。

 木のバリケードが赤く燃え始める。木のバリケードを太い腕が破壊しながら現れると武器を捌いているテオを掴む。


「ぐああっ」


 激しい炎と強い力で握られ流石に苦悶の表情を見せるテオの前にバリケードを突き破ってイフリートの全身が現れる。

 イフリートが左の拳を握りしめテオを殴り飛ばす。


『必殺 豪腕破裂』


 テオに当たると同時に爆発を起こし拳の威力と爆発の威力両方で身を焼きながら大きく吹き飛んでいくテオ。


 地面に転がるテオに上空から武器が降り注ぐがそれを気合いで飛んで避ける。

 瀕死のテオがアイテムボックスから小さな小瓶を取り出すと地面に叩きつけて白い魔方陣を呼び出すとテオの姿が消えてしまう。


 しばらくして周囲の盾と武器が全て消えて紅葉が姿を現す。


「これって逃げられたんだよね。転移魔法とかかな?」

 〈紅葉、そっちはどうだ? イフリートの奴が終わった的な事を伝えてくるんだけどよ〉


 紅葉にポムから通信が入る。


「うん、終わったよ。ポムも大丈夫?」

 〈おう、なんかペンネが海岸に集まれって言ってるから行こうぜ〉

「了解!」


 通信を切った紅葉がイフリートを見上げる。


「イフリートもご苦労様。助かったよ」

「もっ♪」

「あぁそんな喋り方なんだね……」



 ***



 ペンネの戦闘が終わった頃落雷が島に落ちる。


「着地にゃ!」

「なぜ微妙に空中へ転移させるのだろうな」


 シシャモと燕が地面に着地する。


「シシャモ。大体終わっちゅーみたいだね。詳しゅうは……ペンネが来るき聞こうか」


 いつの間にか木の上にいるバトが指差す方向には高速で飛んでくるペンネの姿が見える。

 小さな点は高速で近付きペンネのシルエットが見えたと思ったらシシャモに真っ直ぐ突っ込んでくる。


 燕は横に避け離れていくとシシャモは腰を屈め静かに息を吐く。


「シシャモーーーーーー!」

「ふにゃ!!」


 スピードを落とさず高速で突っ込んでくるペンネをシシャモが正面から受け止める。

 地面を削り砂塵を巻き上げ、周囲の木をなぎ倒し家数軒を破壊してようやく止まる。


「会いたかったあ~」

「と、止まったにゃ……ペンネ現状を教えて欲しいにゃ」


 ペンネがシシャモの胸に頬を擦り寄せながらこれまでの事を説明する。


「にゃるほど。大体分かったにゃ取り敢えず今することはあいつらを追っ払う事にゃ。ペンネ2つお願いがあるにゃ」


 シシャモに言われ1つ目のお願いである紅葉とポムをここへ呼び出す。


「じゃあちょっと行ってくるにゃ。燕とバトは紅葉達と合流して待ってて欲しいにゃ」


 ペンネに抱えられ空へ飛んで行くシシャモを燕達が見送る。



 ***



 ジガンテスカ王国の船上では火傷を負ったアリアとテオは回復師によって治療が施されていた。


「なんだいあれは、あの魔法はなんの属性になるんだい。訳が分からないよ」

「こっちも武器や盾が飛び交い、精霊が暴れていた」


 息を切らしながら喋る2人を1人の騎士がバカにしたように顔を覗き込む。

 金髪に見た目爽やかなイケメンで尚且つ立派な鎧の隙間から見える逞しい筋肉。強くて格好いいのでモテるのだがなぜか付き合うと長続きしない……。彼曰くジガンテスカ王国七不思議の1つらしい。


 そんな彼はジガンテスカ王国 騎士団総括 ロルフ・バルトロッツィ 稲妻を纏い戦うことから『閃雷のロルフ』と呼ばれている。


「黒いって言っても所詮「火」だろ」

「ちっ、女にしか興味ない筋肉バカはこれだから。あの火の脅威が分からないとか終わってるね」


 アリアが毒づくが気にした様子もなくケラケラと笑うロルフを燃やしてやろうかと思っていたとき兵達が騒ぎ出す。


「ロルフ様! 報告します。上空より魔物が来ます」

「魔物だと?」

「はっ! 先程アリア様が戦闘した魔物ともう1匹います」

「めんどくさいな、撃ち落とせよ」

「先程からやっているのですが、すべて掻き消されます」


 船の上空に張ってある魔法障壁が強い力で割られるとふんわりとペンネとシシャモが降りてくる。


 ペンネはアリアを見つけると少しだけ微笑み右手を横に払うとペンネとシシャモを中心に風が外側に向かって吹き兵達が飛ばされる。

 それを見ると満足したように深々とお辞儀をしてシシャモより一歩後ろに下がる。


「お前ら人間に警告するにゃ! これ以上あの島を攻撃するにゃら侵略行為とみなして、あたし、魔王狩りと呼ばれるシシャモが人間側に攻め込むにゃ!! そうお前らの王に伝えるにゃ!」


 シシャモがさっきの暴風で吹き飛んでいないロルフ、アリア、テオを指差し宣戦布告する。


 ガチッ!!


 鉄があたる音が響く。ロルフが振った剣をシシャモが左手で摘まんで受け止めた音だ。ペンネが赤い稲妻を纏い始めるのをシシャモが制するとつまんだ剣を砕く。


「なに!?」

「お前はバカかにゃ? 王に伝えるんだから帰れにゃ」


 シシャモがくるっと回ると足の裏でロルフの腹部の鎧を砕きながら蹴り飛ばす。

 壁にぶつかるより先にシシャモが追い付いて掴むと更に勢いを加速させ壁に叩きつけ、壁を破壊しながら引きずり回転するとロルフを宙に投げる。


『必殺 流星ネコパンチ』


 1秒間に100発は放たれてそうな高速ネコパンチがロルフの鎧を粉々に砕きそのままマストに叩きつけてしまう。

 血異闍薬を飲む間もなく気を失ってマストに埋まるロルフ。


「これは逆らわない方がいいねえ」

「同意」


 シシャモの攻撃を見てメッセンジャー役を引き受ける事を承諾するアリアとテオ。


「じゃあ任せたにゃ。 なるべくならもう2度と会わないことを祈るにゃ」


 そう言い残しペンネに抱えられシシャモは飛んで去っていく。

 残された人間たちは早々にジガンテスカ王国へと舵を切る事になる。

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