その11 戦いが終わって宴にゃ!

 シシャモが宣戦布告し戻ってくるとポムと紅葉も帰ってきており6人が揃う。


「取り敢えず皆無事なのでお祝いするにゃ! 前回のお返しにゃ!」

「お祝いってボクたち何も作れないよ」


 シシャモの提案に紅葉が疑問を投げ掛ける。だがシシャモは自信ありげな表情で紅葉を指差す。


「紅葉が持ってるにゃ」



 ***



 その夜ミッシング島で人間を追い返したお祝いがシシャモ達によっておこなわれる。


「はあ、なるほど確かに持っていたね。前にビュッフェから逃走のどさくさに紛れてアイテムボックスに収納したものが……ん?」


 服の裾が引っ張られ紅葉が振り向くとマオカが引っ張っている。


「紅葉様、このお魚すごく美味しいです! どうやって作るんですか?」

「アクアパッツァか……こっちの食材よく知らないけど作り方なら知ってるよ」

「さ、流石です! わたし頑張って覚えますから教えてください!」

「うん、良いよ」


 この2人のやり取りを見つめるペンネはマオカが最後に「紅葉様と2人きりで手取り足取り……ふふふ」と呟いたのを聞き逃してはいない。


(あの子から学ぶことは多い。私には足りない駆け引きをあの年齢で会得している)


 ペンネが真剣な表情でマオカの行動を見て学んでいるその横では、ライムを始め島民の人達がポムと話をしている。

 島民がポムにお礼を言いつつ誉めちぎってるのでポムは居心地悪そうな表情をしている。


「ああもういいって、あたいはそんなに強くない。他のやつらのがつええんだって、いてっ!」

「えらいねポム! ちょっと前まで祭壇に寝転がってお祈りに来る人を追い返したり、近所で喧嘩があれば参加してボロボロになって帰ってきたころから成長したもんだよ」


 ライムがポムの背中をバシバシ叩いて誉める。


「やめろよ、昔の話だろ」

「そうかにゃ? あたし達が来たとき神に祈っても腹いっぱいにならねえぜとか言ってた気がするにゃ?」

「言ってたな」

「映像記録……」


 照れるポムに3人が追い討ちをかける。ポムの過去の話を聞きたがるシシャモをポムが必死に止める。

 島民達も人間界から持ってきた未知の食事を楽しみ賑やかな宴が遅くまで開かれる。



 ***



「ごめん、マオカがなかなか寝なくて」

「いいにゃ。あたしも寝てたしにゃ」


 宴が終わった後シシャモに呼ばれ6人が集まる。焚き火を囲んで最後に来た紅葉にバトがお茶を手渡す。

 紅葉が座ってシシャモに視線が集まるとシシャモが皆を見て口を開く。


「あたし達が求めてる最悪の魔王の事なのだがにゃ。おそらくこの魔界大陸にはいないにゃ」

「いない? まだ孤高の魔王が残ってる。それに拙者の村の近くにいた蛙のような魔王もまだいるのではないか?」


 シシャモが燕の意見に頷いて話を続ける。


「仮説ににゃるが、最悪の魔王は魔物の王じゃなくて人間の王かもしれないにゃ」

「根拠があるのやか?」

「ペンネ達が話していた人間が飲んだ薬、血異闍薬にゃ。あたしと燕、ペンネはレベルが100を越えたにゃ。そのタイミングで同じくレベルの限界を超える人間が出てくるのは出来すぎにゃ」


 シシャモの話に頷きつつも考える面々。


「じゃあさ仮に人間の王が最悪の魔王としてどうやって討伐するのさ? 魔物同士だから暴力で解決も許されたんでしょ」

「紅葉の言う通り、拙者達が人間に向かって攻めるにはこの度の島襲撃を理由にするには弱かろう。なにせ魔界大陸と人間の戦争になってしまう」


 紅葉と燕に言われてもシシャモの表情に焦りなどは見えない。


「そこも考えてるにゃ。ただちょっと待って欲しいにゃ、先にこいつに会ってくるにゃ」


 そう言ってシシャモが皆に1枚の手紙を見せる。

 その紙には汚い字でこう書かれていた。


『ま ●おうがりツシャモ! ●✕孤 ●高まおうがあいてする 1人でこい!』


「なにこの塗りつぶして消した後がいっぱいの手紙?」

「ここに来る前にビアシンケン殿に渡されたものか」

「そうにゃ、こいつに会って最悪の魔王じゃないか確認してくるにゃ」


 そう言って立ち上がるシシャモ。


「眠いにゃ。明日の朝あたし1人で行くから皆はここで休んでいてくれにゃ」


 半目になるシシャモさりげなく支えるペンネが「お風呂に入って寝た方が良いよ。私が洗うから一緒に入ろう。隅々まで洗うから」とか言ってるのを気にするメンバーはもはやいない。


「ああそうにゃ、この魔王にあって確認出来たら今後の予定を話すにゃ。そのとき決断を迫るかもしれにゃいけどよろしくにゃ。特に紅葉は苦労かけるかもしれにゃいな」


 それだけ言ってペンネに連れられて眠りに行く。


「うわぁめっちゃくちゃ気になる。ねえ燕はなんだと思う?」

「拙者は元々シシャモ殿についていけば強くなれると思っていたからな。人間大陸を攻めるならついていくさ」

「うちもシシャモをサポートする為におるきね」


 即答する2人にバトも以外と魔物よりの思考だよねと紅葉は思いながら終始無言のポムに話しかける。


「ねえポムはなんだと思う?」

「ん? わかんね。シシャモが話してから考えればいいんじゃね?」

「まあそうなんだけどさ、気になるじゃん。なんだろボクの決断って」


 焚き火の前で頭を抱える紅葉の長い夜が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る