その9 立派になって帰ってきたポムにゃ!

 テオの分身体2体が華麗な身のこなしで家の上を進んでいくのを阻止するべく2発の弾丸が横切る。

 空中で描かれる2つの緑色の魔方陣。そして一陣の風と共に現れるシルフィード。


「そこのお兄さん、邪魔しちゃうぜい」


 出てくるやいなやシルフィードが風の刃で斬りかかる。


「精霊?」


 突然の来訪者に驚くテオが攻撃を避け反撃する。お互い両手に持つダガーが得物。合計6本の刃がぶつかりあい目にもとまらない連撃が繰り出される。


『超固有技 さざなみ


 2人のテオが刃に青い光を這わせ連激を繰り出してくる。


「うわわわっと!」


 危なげながらも捌いていくシルフィードに1人のテオから鋭い蹴りが放たれ吹き飛ばされる。

 壁に激突する前に空中でブレーキをかけ空中を蹴ると両手の刃を広げ体全身を風車のように高速回転させテオに突っ込んでくる。


『必殺 アネムーリオン』


 周囲の地面、建物も切り刻みながら突っ込んでくるシルフィードの攻撃に1人のテオの左腕が飛び落ちた腕は煙となって消える。

 分身体故なのか血も出ず痛がる様子もない。


「ちぇ~2人とも始末する予定だったのにさあ」


 不服そうに頬を膨らませ空中で胡座をかいて揺れるシルフィード。


「でもさ、おいらよくやってるよね!」

「ああ、上出来だぜ!」


 シルフィードとテオの間にポムが両手に拳銃を持って降りてくると2丁の拳銃から弾丸を十数発放つ。


「シルフィード!」

「あいさあ!」


『必殺 ディーネー旋風のスフェラ弾丸


 ポムの放った弾丸の間に風が巻き起こり風と弾丸が縦横無尽に舞う。

 左腕を失った方のテオが巻き込まれ風に切り刻まれ銃弾に何発も撃たれ霧散してしまう。


「マスター! もう1人逃げたよ!」

「いくぞ! こい!」


 シルフィードを引き連れもう1人のテオを追いかける。



 ***


 分身体の思考は常に本体にフィードバックされ本体の意思によって次の行動が決定される。

 分身体では勝てないと判断し島民を探し、目的である前回来た仲間の行方の情報を得ることと、出来れば献上品を得ること。


 突如避難所の教会の前に現れる人間に魔物達が驚き怯える。数人の男の魔物が出てきて武器を構えテオの前に立ちはだかる。


 そんな者など相手にしてないように目もくれず周囲を見渡す。


「前に来た騎士団と冒険者達はどうした?」


 静かだが殺気のこもった声に島民達に緊張が走り静寂が訪れる。その静寂を打ち破ったのが幼い少女の声。


「お、おまえなんか、紅葉様がやつけるんだから!」

「これ、マオカ! 勝手に出たらいけないよ」


 奥の避難所から飛び出てきてテオに飛びかからんとするマオカをライムが必死に追いかけて肩を掴み引き留める。


「紅葉? お前何を知っている」


 テオが男達を払い除けマオカに近づく。マオカの前に立ちはだかるライムも突き飛ばしマオカの前に立つと静かに刃を向け怯えるマオカに殺気を放つが後ろに避ける様に大きく下がる。

 空から風の翼を生やしたポムがマオカとテオの間に土煙を巻き上げ降りてくる。


「ああ~疲れるこれ、マスターちょっと休憩いい?」

「ああ、ごくろうさん。下がってろ」


 風の羽がシルフィードに戻り島民の方へ向かうと、突き飛ばされ尻餅をついているライムに手を貸し立たせ、マオカの頭に両手と顎をのせ寛いでいる。


「妖精さん?」

「ん~親戚みたいなもんかな。ばあさん大丈夫か?」


 突如現れたポムと精霊に驚くがシルフィードは構わずポムの方を指差してにしししと笑う。


「マスターの戦い見てやってくれよ」


 そうシルフィードに言われライムはポムを見守る。



 先に動くテオは両手のダガーで連撃を繰り出しナイフを投げる。

 ポムはダガーを拳銃の背で受けながら銃弾を放ちナイフを撃ち落としていく。

 2人の周りにぶつかった際に起こる火花が散って花を咲かせる。


『超固有技 漣』


 流れる様な連撃を華麗に避けて銃弾を放っていくポム。


「ああん? あたいの動体視力なめんなよ、てめえ燕よりおせえんだよ!」


 カスった銃弾で体に擦れた後が残るテオの背中の地面から冷気と共にフェンリルが現れ氷の刃が襲ってくる。


「ごめんマスター……」


 攻撃を避けられ無表情ながらも悲しい雰囲気を醸し出すフェンリル。


「かまわねえって、それよりもいくぜ!」

「了解……」


『必殺 フローズンスフェラ』


 放たれる弾丸が白い軌跡を残しながら飛ぶ。白い軌跡は弾丸を追いかけるように凍っていくとやがて弾丸に追い付き空中に何本もの凍った氷の氷柱が縦横無尽に走る。

 その氷柱から小さなトゲが出てきて無数の氷の弾丸が放たれる。

 氷のトゲをうけ穴だらけになりながらも立ち上がるテオ。


「ん? こっちの分身体の方がレベル高いのか? まあいいや」


 フェンリルがよろけるテオの手を掴むと掴んだ先から凍り始める。


「凍傷注意……」


 凍り漬けになったテオをポンと押すと地面にぶつかりバラバラに砕ける。

 それを見届けるとポムがライムの元に近付きピコピコハンマーで頭を叩く。ピコッと音がしてライムのHPが『+5000』回復する。


「にししし、怪我治ったか? あんま無理すんなよ」


 周囲の島民にも頭を叩いて回復を施す。


「よっしゃあ、次いくぜ! シルフィード羽だ。フェンリルは一旦下がれ」


 シルフィードがマオカに手を振ってポムの背中に向かうと羽になる。そのまま飛び去るポムの背中を見てライムは嬉しくもありちょっと寂しくもある表情で呟く。


「わたしゃあHP5000もないよ。少しの間にたくましくなるもんだね」


 ────────────────────


『上からスピカちゃん』


「今回は精霊について! ポムちゃんが召喚する『イフリート』『ウンディーネ』『シルフィード』『フェンリル』の4人『火・水・風・氷』の属性を持っているわけですが…………ん? 土? 雷? いないわよそんなの。

 この世界に元々精霊なんてものはお話でしかいません。現象としてそこにあるものに精霊の仕業だ! ってみんなが言ってるだけです。


 じゃあなぜ存在するかと言うとポムちゃんが想像し創造したものだから。小さい頃に読んだ本や聞いたお話からポムちゃんが生み出したものです。


 見た目や性格もそのせいで、『イフリート』は本で見た挿し絵そのまま。

『ウンディーネ』は絵本で読んで絵が優しそうな女性だったことと、ポムちゃんの中で『優しい=のんびり』のせいであんな性格に。

『シルフィード』も絵本の見た目といたずらっ子といったイメージから小さな男の子となってます。

『フェンリル』は本で読んで『メスの狼』と『氷=冷たい』からきてます。実際のフェンリルは無表情なだけで冷たい人だはありませんけどね。


 さて今回はこのあたりで! そろそろ出番こないかしら?」

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