その8 漆黒の太陽にゃ!

 アリアが火の魔法を放ちながら杖に纏わした刃を振るう。ペンネはそれらをかわしながら魔法を放っていくが障壁に阻まれ掻き消されてしまう。


「魔物ってのはこんなに強くなるもんなのかい?」

「どうなんでしょうか? 私も分かりませんがお薬に頼らなくてもいいのは確かですよ」


 そのペンネの挑発するような言い方にアリアがカチンっときた表情を見せ手に纏う炎を激しく燃やし始める。


『超固有技 メガプロミネンス』


 太陽が燃え盛るかのような炎を作り上げるとペンネに向かって放つ。

 その熱く燃えたぎる炎は触れる前から船の甲板はジリジリと燃え焦がしていく。

 そんな炎と熱風の中ペンネが赤い稲妻を体に走らせながら赤い瞳を更に赤く輝かせる。


『超必殺技 グラオザームゾンネ』


 ペンネが黒い矢を上空へと放つとペンネを中心に黒い炎が渦を巻き天に上り始める。その黒い炎は赤い炎を飲み込み周囲を黒い炎が包む。一瞬アリアが黒い炎に巻かれるが魔法障壁を展開し姿を現す。

 ただダメージは大きいようで服は焦げ肌も黒く焼けている。


「なんだってんだいこれは……わたしがここまでダメージを受けるだと」


 黒い炎で身体を焦がされないように魔法障壁を必死に張るアリアが膝をついてペンネを睨む。

 そんなアリアを見てペンネが微笑む。


「まだ魔法は途中ですよ」

「なに!?」


 上空に上った黒い炎は丸く集まり黒い巨大な太陽を作り出す。

 その太陽がゆっくり船に向かって落ちてくる。


「不味いねこれは」


 アリアが呟く時には黒い太陽が船を呑み込み船を跡形も無く消しさると黒い太陽は海面の水をも蒸発させ大量の水蒸気が上がる。

 黒い太陽がある間、海にポッカリと穴が開く。

 ペンネとアリアの戦闘が始まる前から遠くに離れて行った残りの3隻の船は少し揺れるだけで影響は少なそうだった。


「逃げられましたね」


 ペンネは呟き次の船に行こうとするが何かを感知したのか空中でブレーキをかけると凄く嬉しそうな表情で島の端に向かって飛んでいく。



 ***



 ──ペンネが戦う30分程前


 豪華な船を守る3隻の船の1つから1人の男が海へ飛び込むと海面を音もたてずに走って行く。

 海岸沿いでは未だウンディーネが兵達と戦闘をしているがそこから大きく離れ迂回するように島に上陸する。


 紅葉とイフリートが作る住宅街を利用した迷宮をも迂回したその男は『ジガンテスカ王国 暗殺部隊統括 テオドール・ウルフガング』『漆黒のテオ』と呼ばれている無口な男だ。

 暗殺部隊を名乗るだけあって装備は動きを重視した軽装となっている。

 青い髪に切れ長の目、スッと通った鼻筋でなかなかのイケメンである。


 両手にダガーを装備すると魔物の気配のする方へ走って行く。


 ピッ!


 テオの耳に聞きなれない音が聞こえる。直感的に体をひねり宙に逃げるとピンク色の閃光がいくつも走りそれは起動を変えテオを狙ってくる。

 テオが避けながら出所を探ると鉄の筒が鉄の棒に支えられその筒から閃光が放たれているようだった。


 投げナイフを投てきすると何も無い場所に盾が現れ弾かれる。


「やっぱりいるんだ迂回する人。こっちに仕掛けといて正解だったよ」


 テオの視線の先に屋根の上を危なげない足取りで移動している眼帯の少女が近づいてくる。

 先手必勝と投げナイフを数本投てきすると空中に現れた盾に全て弾かれる。

 走って回り込みつつナイフを投げ自身も背中から斬りかかる。

 だが全て、出ては消える盾に防がれてしまう。


「もう! 気の短い人だな」


 突如現れる剣が弾け飛んでくる。これを避けれたのはテオの能力の高さ故だろう。

 だが次々と武器が弾け飛んでくる。それに加え盾が逃げ場を塞いでくる。


 地面に現れた盾が上空へ向かって弾けるのをバックステップで避け着地すると同時に上から大量の武器が弾け放射状に降ってくる。


「!?」


 転がりながらかわすテオだが流石に全て避けきれず怪我を負う。


「これを避けれるんだ!? どういう反射神経してるんだろこの人」


 驚く紅葉の前でテオが緑の薬の入った試験管取り出し一気に飲み干す。

 気配の変わったテオに警戒する紅葉だが、テオが一方足を踏み込むと土を踏む音が3つになり青い軌跡が3つ紅葉に襲い掛かる。


 ガチィン! と甲高い音が3方向からする。


 紅葉の周りには3人のテオがいて同時に攻撃を仕掛けたのだった。


「受け止めるか」


 無表情の中に驚きの色が伺える。

 因みに紅葉はシシャモ達の中では1番能力値は低くテオの攻撃は見えていない。

 前後左右に盾を数枚ずつランダムに展開し前方と左の攻撃を受けとめれただけ。

 右後方の攻撃を受けとめたのはこの度、窓際よりもらったAI搭載盾のお陰だ。

 この時紅葉の心臓はバクバクである。


 そんな事は知らないテオが紅葉を警戒し様子を見はじめなにやら思考を重ねている。

 やがて考えがまとまったのかダガーを構えると3人同時に攻撃を繰り出し盾に防がれている間に2体の分身体が島民の避難する方へ走って行く。


「ああ! なにさ! バラバラで行動するとか卑怯じゃないか!」


 怒る紅葉を前にテオが警戒しながら間合いを図る。


「ポム避難所へ2人行った。対処出来る?」


 紅葉が耳につけているイヤフォンに向かって呟く。



 ***



 ポムが海岸に目をやるとウンディーネが頑張っているのが見える。

 ペンネのお陰か兵も大分減っている。


〈ウンディーネ任せて良いか? あたいは村の方へ行きたいんだが〉

〈だいじょうぶですよ~。マスタ~は行ってくださ~い〉


 召喚した精霊とは念で話が出来るので意思の疎通が出来きる。


「よし、じゃあ行くか!」


 ポムは立ち上がりスナイパーライフルをアイテムボックスに収納し拳銃を手にし屋根の上をピョンピョン跳んで移動していく。

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