その7 血異闍薬(チイト薬)にゃ!

 ポムはスコープを覗き4隻の船の内1番手前の船に狙いを定める。


「ペンネが慎重になる船。さて何が起こるのか」


 引き金が引かれ銃口から弾丸が放たれる。

 スキル『弾丸コーティング』『弾道補正』の力であり得ない程真っ直ぐに飛んでいく弾丸は1番奥の豪華な船から左舷の船のマストに2発縦にヒットする。


「なんだ? 魔法障壁が反応しなかったということは物理攻撃か」


 なにかと際どい衣装の魔法使いの女性が呟くとマストに刺さった弾丸から緑の魔方陣が浮かび上がり縦に2つ並ぶ。

 ポンっと音がして風が吹き上がる。


「にしししし! おいら参上!」


 声のする上空を皆が見上げると緑色の髪、瞳に服。先端がちょこんと折れたトンガリ帽子に靴も緑。赤いチョッキと白い蝶々の様な羽がアクセントになってる。

 少し尖った耳にギザギザの歯ときの強そうな目が特徴の妖精のような出で立ちの男の子。


「おいらシルフィードってんだ! よろしくそしてサヨナラだ!」


『必殺 クー・ド・ヴァン』


 空中でくるりとバク転し少し後ろに下がると弧を描くように兵達の間を飛ぶと鋭い風が吹き風に当たった者が真っ二つ切れてしまう。

 ただ1人、魔法使いの女性を除いて。


「なによあんた。本とかで見る精霊みたいな格好してるけど」

「あれれれ? 確かに当たったのに切れてないや。なるほど、なるほどマスターが警戒してた訳だね」


 少し嬉しそうなシルフィードは両手にダガーを逆手に持ち構える。

 魔法使いの女性は金属製の杖を構える。


 1撃、1撃鋭い風が吹きながら流れるような連撃が放たれるが魔法使いの女性が杖で捌きながら魔法を放つ。


「くわぁ~やるう~」

「ちょこまかと」


 2人が一旦距離を取りお互いの出方を伺う。


「おばさんさあ、レベル高すぎない? おいらさレベル91なわけ。人間で90越えって今時珍しいよね」

「おばさんん? わたしはまだ28よ!」


 シルフィードが宙をくるくる回るとバカにしたような笑い顔をする。


「ふ~ん28でその格好はちょっとないかなあ。露出も加減が大事だとおいら思うな~」


 魔法使いの女性が無言で踏み込み杖に這わした炎の刃を振るう。


「うわっち! あつつつ!」

「ガキが! 魔法は効くみたいじゃない」


 シルフィードが服についた火を手で叩いて消すと手が熱かったのか息をフーフー吹き掛け冷やしている。


 そんな2人の間に5発の弾丸が甲板にめり込むと白い魔方陣が床に描かれる。

 水面から出るように床から後ろ頭が出てきて上半身を反り長く白い髪をかきあげながら出てきて床に腰かけると右足、左足の順で出してスッと立ち上がる。


 真っ白な長く白い髪に水色の瞳。白く透き通るような肌をしているが1番の特徴は頭の大きな狼の耳と尻尾だろう。


「フェンリル……」


 ボソッと自己紹介するとシルフィードを指差す。


「シルフィード……遊び過ぎ……めっ」

「ええ! おいら真面目にやってるよ~」


 フェンリルに怒られ宙をくるくる回って文句を言うシルフィード。


「何よ! 次から次と」


 魔法使いの女性が杖に纏わした炎の刃を振りシルフィードとフェンリルに斬りかりながら魔法を次から次へと放つ。


 風の刃と氷の刃が炎の刃とぶつかり合う。


「強い……」


『必殺 フロストフラワー……』


 フェンリルが氷の刃を連続で魔法使いの女性に叩き込む。それを全て受け止められ刃が当たる度に氷の刃が欠け散っていく。


「なによそんな技が効くわけないでしょ」


 魔法使いの女性が足を前に出そうとするが動かない。足元を見ると氷の花が沢山咲いており右足が凍っている。


「足元注意……」

「だぜ!!」


 シルフィードとフェンリルが同時に斬りかかる。魔法使いの女性が杖を振って自分の周囲に炎の渦を作り出し2人の攻撃を防ぎ足元の氷を溶かす。


「ああウザい! ウザいのよ!!」


 魔法使いの女性が手に緑色の液体が入った試験管が握られている。蓋のコルクを抜き飲み干すと舌なめずりをする。


「コラーゲン?……」

「うわぁ飲み方も気持ち悪いや」


 毒づく2人を無視して杖に炎を這わす女性がニヤリと笑う。


『超固有技 グラウンドフレア』


 船の甲板全体に炎が走り上空へ向かって炎が上がり残っていた兵もろとも2人を焼き払う。


「あつい……」

「あいたた流石にダメージでかいや」


 ダメージを受けた2人が座り込んで魔法使いの女性を見ると女性は嬉しそうな顔をする。


「流石に固いわねぇ。でも次でお・わ・り」


 女性が杖を構えるとシルフィードがピョンと立ち上がる。


「ここまでだね」

「うん……後はペンネ様にお任せ……」


 そう言い残し白と緑の魔方陣を足元に出し消えていく。

 刹那、上空の魔法障壁を突き破ってペンネが女性に突っ込んでくる。

 炎を纏う弓と杖が火の粉を散らし打ち合う。

 その衝撃も凄まじくぶつかる度に船の甲板の板が割れ、太いマストにヒビが入っていく。


「なんだいあんた? 今のわたしの攻撃についてくるとか普通じゃあないねえ」

「さっき飲んだ薬。あれで一時的に強くなってる。で合っていますか?」


 打ち合いを止めて離れる2人。


「お嬢ちゃん強いねえ。いいわ教えたげる。さっき飲んだ薬は『血異闍薬チイトやく』レベルを一時的に120まで上げるのよ」


 女性が話し終わると同時に火炎を放つが暴風が吹き荒れ掻き消されてしまう。


「お嬢ちゃんもしかして複数得意属性の子? わたしは火がメインになるんだけど」

「私は全属性得意ですよ。好き嫌いは無いタイプです」

「はあん? そんな奴いるわけないでしょ。反属性はどうしてもいがみ合うもの。常識でしょう」


 ペンネが右手に炎を出し左手に氷を纏わせる。その手で弓を引き放つ矢は燃える氷の矢。

 甲板に刺さると辺りを凍らせながら炎が燃え進む。


「嘘でしょこんなの!?」


 女性が自身の炎で氷と炎を消していく。


「ちっ、やるわね。わたしはジガンテスカ王国の魔法軍統括アリアドナ ・ サリナス通称『業火のアリア』お嬢ちゃんお名前は?」

「私は……魔王狩りシシャモ、魔法軍団長。将来のお妃ペンネ・フェデリーニです」

「将来のお妃? お姫様が自ら戦うとは魔物はたくましいねえ。さて自己紹介も済んだことだし続きをやりましょう」

「ええ」


 2人が構える。



 ***



(ペンネの野郎、つーしん入りっぱなしで聞こえてるっての。んだよ魔法軍団ってしかもお妃って。やっぱあいつおかしいわ)


 ポムのペンネに対する評価は再び『おかしい人』になる。

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