その5 開戦とお試しスキルにゃ!

 ポムは海岸沿いの家の屋根に座りスナイパーライフルを取り出すと腹這いになって照準を合わせる。

 スコープから覗く船は前回来た船より大きく立派で数も多い。


(このライフルの装填数は8発。召喚するなら何がいいんだろな)


 ポムは思い描く。今まで召喚したものは自身が思い描いたもの。島から出たことの無いポムが聞かせてもらったお話や読んだ本で見た事のあるもの。

 この世界では精霊と呼ばれるものが存在しているがそれは実体はなくそこに現象としてあるだけ。

 それらを集めポムの想像と現象を合わせ具現化したものが精霊召喚となる。ポムはこの世界で唯一の精霊召喚師いうことになる。


(風……水……)


「取り敢えずはペンネの動きを見て考えるか。にしてもペンネって強いけどただの変な奴ってわけでもないんだな」


 人間への攻撃を開始するにあたってペンネが先制攻撃を行い船を沈め、陸に来た人間をポムと紅葉で対処するそういった指示が出た。

 そのとき言われたのが


「私が先制攻撃を仕掛け出来るだけ多くの船を沈めますが必ず伐ち漏らしが出ます。

 そこでポムさんの援護が必要になります。

 陸に上がった敵は紅葉さんが中心で討伐しつつここでもポムさんの援護が必要です。

 1番重要な役割ですが宜しくお願いします」


 丁寧で的確な指示。あれだけの高威力の魔法を放つからてっきり「私1人で完璧に殲滅させるからお前らはここで私の活躍を見ておいてシシャモにちゃんと私の活躍を伝えなさい!」とか言い出すと思っていた。


 正直「シシャモ、シシャモ」言ってる変な人だと思っていたのを心の中で謝りスコープを覗く。

 視線を移動させるとペンネが空中でお辞儀をしているのが見えた。



 ***



「南東の方向上空に魔物です!」


 マストの見張り台の兵から伝令が伝わり船上の兵達が上空を見上げる。

 銀髪の赤い瞳の少女がスカートを摘まんでお辞儀をする。


「なんだあれは? 献上品か」

「そうなら上物ですが」


 船上で他の兵より豪華な鎧を来た男達が話していると上空が目映く青く光始める。

 男達を含めて兵達が上空を見上げる。



 ***



「声は聞こえないけど何を言っているのか大体の想像がつくから……うぅ気持ち悪い」


 ペンネが身震いをして弓を召喚し構える。

 青い水を纏った矢が海上に向かって落とされる。


『必殺 メーア シュツルム』


 海上に小さな波紋を起こして水中へと消え去る矢を見て兵士たちは笑い出す。

 所詮島に住む魔物、レベルも制御されている魔物の精一杯の抵抗。虚仮威しにもならないと大声で笑う。


 小さな波紋は少しずつ大きく、大きく広がり3隻の船を囲う大きさになったとたんに海面が円上に陥没し円の中心から渦を巻き始める。その渦の中央に3隻の船が引き寄せられ始める。


「どうなっている! このままだとぶつかるぞ! どうにかしろ!!」

「か、舵が効きません! 衝突に備えて下さい!!」

「ぶつかるーーーー!!」


 混乱する3隻の船が渦の中央でぶつかると木片を巻きながら船内に水の侵入を許すと傾き始める。

 次の瞬間渦の中央から弾け3隻の船が大量の水飛沫と共に空中に舞い上がる。

 500人も搭乗していた巨大な船が宙を舞う姿に皆が度肝を抜かれ唖然とする。

 慣れない宙を舞っていた船は早く海に戻りたいとでもいうように海に飛び込む。


 凄まじい水の柱が上がり滝のような海水が周囲の船に降り注ぐ。どうやら宙を舞った1隻が他の船を巻き込んだ様で真っ二つ折れた船と共に沈んでいく。


「状況! 状況を報告しろ!」

「あいつは? あの魔物はどこだ、見つけて知らせろ!」


 船上が混乱極める中、水飛沫の間を瞳の赤色の残像を残しながら高速で移動するペンネが雷を纏った矢を次々と放っていくと船の側面に穴を開け沈めていく。


 ──プップクプー♪


 船を沈めていくペンネにそぐわない間抜けな音が響く。


〈おめでとーー! 一気にレベル103だよ!〉


「あなたは確か神様でしたっけ?」


〈そうそう、後で説明するけどレベル99の上限突破おめでとう。それでね、ちょっと試作品なんだけど試して欲しい物があるんだ。え~と手元に送るよ〉


 ペンネの手元にうっすらと半透明の四角い枠が現れ画面の様なものに四角で囲った文字が沢山書いてある。

 よく見ると四角でも光って白いものと光らず暗い物がある。


「これは?」


〈それはね。スキルパットって言ってペンネに有益なスキルを選択発動させるものなんだ。まだ途中だから全部は出来てないよ。

 ちょっと使ってみてよ。因みにそれはペンネにしか見えてないからどのスキルを選んだって相手にはバレないからね〉


 訝しげに眺め光ってる文字から使えそうなのをタッチすると赤く光る。違うのもタッチすると赤く光る。


「複数選べるんですか?」


〈現状5つまで同時にいけるよ。因みに効果範囲とか威力上昇は1番大きな数値が有効だから重ねてかけれないから気を付けて〉


「それじゃあ──」


 ペンネが雷を纏った矢をつがえるといつもの矢より雷が激しく走る。


『スキル発動』


 1、魔法威力上昇×1.25倍 

 2、魔法範囲広域化×1.4倍

 3、射速上昇

 4、雷継続ダメージ追加

 5、経験値アップ×1.3倍 


『必殺 ブルタールブリッツ』


 海面を割る様に進んでいく稲妻は巨大な船に大穴を開け突き抜けると隣の船も破壊する。

 沈みゆく船から飛び降りる兵士達だが海面に未だ雷が走り続け飛び込んだ者達を焼いていく。


 そしてペンネのレベルが一気に上昇する。


「すごーーい」


〈よしよし、順調、順調。協力ありがとう。また出来たら渡すから〉


 声と共にスキルパットは消え去る。


「あぁ凄く便利なのになあ」


 名残惜しそうに手元を見るペンネだが気を取り直し弓を引くと次の船を沈めに海上を飛んでいく。

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