限界突破の戦いにゃ!

その1 黄泉の魔王の侵略にゃ!

 魔界の巨大な町メガロは先の戦いで一部に大きなダメージを受け復興の最中だった。

 そんなメガロは今復興の手を止め西側の平野と森を中心に戦闘が行われている。

大きなダメージを受けたメガロを我が物にしようしている『黄泉の魔王』による侵略が行われているのだ。


 混乱のメガロの中心にある城は今、シシャモ達との戦闘によって上が何もない状態だ。

 青空の元でビアシンケンは兵に囲まれ玉座に座っている。


(あぁまずいな、なんにも思い付かない。自分でもビックリするくらい思い付かない。

 やばいわ~ほんとやばいわ~。あーー青空綺麗だな、どっか飛んでいきたいわーー)


 青空の玉座に堂々と座り時々空を見つめるビアシンケンを兵達は期待の眼差しで見ている。


(あのビアシンケン様が時折空を見上げてらっしゃる。なにか考えあってのことだろう)

(知ってるか? 前回の魔王狩りとの戦いを利用して四天王の裏切り者を炙り出し、尚且つ実力者の選別も行ったらしい)

(裏切り者のブラート、部下を駒の様にしか扱わず四天王としてふさわしくないと言われていたリオナソなどこの戦いでふるい落としたと言うことか)


 兵たちがこそこそ話すなかビアシンケンは天に祈る。

 晴れ渡る空の一部に黒い雲が現れ落雷が落ちると玉座の近くに3人の影が立ち上がる。


「今回は普通の転移で助かったにゃ」

「毎回こうだと助かるんだが」

「無事着いたようや」


 3人の影、シシャモ、燕、バトがビアシンケンを見つけると近づいていく。


「にゃんか黄泉の魔王が攻めて来てるって聞いたにゃ。状況を知りたいにゃ」

「あ、ああ2日程前に突然西の方から死者の軍が攻めてきたのだ。こちらは町に入らせない様に防衛するのがやっとであちらに攻めいる事も出来ないのが現状だ」


 突然のシシャモの来訪に心臓バクバクのビアシンケンは必死に平静を装いながら話す。


「攻めいるか……シシャモ殿ビアシンケンの言う通り親玉を叩くのが1番早いと思うが」

「だにゃ、ビアシンケン地図とかあるかにゃ?」


 ビアシンケンが兵にこの辺りの地図を持ってこさせシシャモ達に見せる。


「西の洞窟から地下の迷宮に入り黄泉の魔王が待っちゅーわけか。3人で3方向からから攻めて洞窟に向かっていけば敵の陣形も崩せるし良うないか?」

「じゃあ、あたしが直線で真っ直ぐ西に向かうにゃ。燕が北西、バトが南西から行くでどうにゃ?」


 燕とバトが頷く。


「そう言うことにゃ。あたしらは行くから残った敵は自分達でどうにかするにゃ」

「あ、ああ」


 シシャモ達は城の段差を使って飛び降り西を目指していく。

 その姿を少しホッとした顔で見送るビアシンケン。


(ビアシンケン様はこれを待っていたのだな。1度は負けた相手でもその強さを逆に利用する。流石だ)

(俺なんか雷落ちたときビビってひっくり返ったのにビアシンケン様、微動だにしないってやっぱり凄いな)


 またもやビアシンケン対する兵達の信頼度は上がっていく。



 ***



「ペンネ殿の方は大丈夫だろうか?」

「ペンネも元はちゃんとしてるから大丈夫にゃ」

「『元は』ってのが気になるけど、うちも大丈夫思う」


 燕が心配するペンネ達はポムの故郷ミッシング島に行っている。

 この班編成にあたって軍と正面からぶつかる事を考慮し『シシャモ・燕・バト』の攻撃特化のメンバーを選び黄泉の魔王までを一気に攻略する。

 ミッシング島は『ペンネ・紅葉・ポム』の3人が行っている。ポムは自身の出身なので決定。人間は船で来ているとのことなので、空を飛べ船を単体で沈められるペンネが、島の住民を守りながらの戦いが予想されるので紅葉が選ばれている。


「あの3人なら問題ないにゃ。それじゃあこの辺から別れて進むにゃ。怪我するにゃよ!」


 3人が各々の方向に別れて走り出す。



 ***



 燕が城壁の上から見ると下では盾と剣を持ったスケルトンが数百体攻めて来ておりビアシンケンの兵が必死に戦っている。

 燕が勢いよく上空へ飛び上がると刀を構える。


『必殺 隼・疾風はやて


 上空からの神速の抜刀で10体程の敵が真っ二つ斬られ、抜刀の風圧で鋭利な風が周囲のスケルトンを切り刻みバラバラにする。

 一瞬で100体近くのスケルトンを倒し突然空から降ってきた燕に驚く兵達。


「ああ! あなた様は花の剣士、燕様!」


 兵の中から1人のローブを羽織った魔法使いが前に出てくる。


「ウィルです。覚えていますか?」

「あぁ確か闘技場にいた。ところで花の剣士とは?」


 目を輝かせたウィルが祈るように両手を組む。


「燕様が花の薫りを纏い戦場を駆け抜ける事から我々が命名致しました」

「花の薫り?」


 燕が自分の服の臭いを嗅ぐ。


(ああ、なんだ柔軟剤だったか? 紅葉殿が入れると良いと言ってた液体の匂いだな。

 にしてもこのウィル殿の目はペンネ殿に近いものを感じる……)


「拙者はこのまま先に進む。うち漏らした残党のスケルトンがこっちに来るかもしれんが頼んだ」


 燕は刀を鞘に納めると必死で頷くウィルに背中を向けスケルトンの軍を粉微塵に刻みながら進んでいく。

 その姿を驚異と尊敬の眼差しで見る兵たちと、少し熱を帯びた目で見るウィル。

 後に『花の剣士ファンクラブ』なるものが出来る。女性多めのファンクラブだがその未来の会長は燕の姿が見えなくなるまで熱い視線を送り続けているウィルその人だったりする。

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