その15 ビアシンケン討伐にゃ!

 炎の中をゆっくり歩くシシャモにエポワスは自身の震えに気づく。


(我輩はあの者、シシャモを恐れているのか)


 己の弱気を振り払うように鼻先の剣の様な角に力を集めると鼻先の角が燃え始める。


『固有技 ボルケーノホーン』


 エポワスが首を縦に振るようにして角を振ると地面を切り裂きながら炎の道がシシャモに向かって走る。


 シシャモは燃え盛る炎の中、目の前に迫り来る炎を前に静かに構える。

 静かに全身の力を込めていくと体が真っ赤に燃えるように光り始める。仮面の目が鋭い光を放つと叫ぶ。


「いくにゃ!」


『超必殺 天猫昇雲突てんびょうしょううんとつ


 天に向かって振り上げられた拳は周囲の炎を全て巻き上げ掻き消しその衝撃波は洞窟の天井を突き破り真上にあった城をも突き抜け天に真っ赤な柱を昇らせる。


「ガハァァァ」


 エポワスが全身から血を流しながら倒れる。


「直接当たってなくてこの威力だと……」


 変身を解除したシシャモが歩いてくるとエポワスの隣に立つとじろじろと見る。


「後で治せる奴連れてくるから待っとけにゃ。体でかいからしばらく大丈夫だろにゃ」


 シシャモが壁を蹴りながら上に向かって行くのを倒れたままのエポワスは見送る。


「体がでかくても痛いものは痛いわ。しかもあいつ封印を壊しおった」



 ***


 大きく城が揺れ地鳴りのような音が下からしたと思うと赤い光が天を貫き空に浮かんでいた雲も吹き飛してしまう。

 すぐに大きく空いた穴からシシャモが飛び出してくる。


「全員いるにゃ……ってどうしたのにゃ」


 紅葉の前に正座しているペンネとバトの姿を見て首を傾げる。


「説明は後でしよう。今はそこにいるビアシンケンだが」


 燕がバトから聞いたビアシンケンの話を含めて現状を説明する。説明を聞いたシシャモがビアシンケンに近づいていく。

 微動だにしないビアシンケンを前にして上から睨むシシャモを恐る恐る見上げるビアシンケン。2人の目が合う。


「ポム、地下の一番下にドラゴンが寝てるにゃ。治療をお願いしても良いかにゃ?」

「おう! 任せとけ」


 ポム嬉しそうに答える。


「燕、バト、紅葉はポムと下に降りて行くにゃ。ペンネは残るにゃ」


 シシャモの指示でそれぞれが動き出す中、シシャモとバトの目が合うと互いに頷く。

 ペンネは目を輝かせシシャモの元に飛んでくる。


「なに、なに? シシャモ私何すれば良いの」

「今後の予定をちょっと相談したいにゃ。その前にこいつを」


 今後の予定と言われて1人舞い上がるペンネをおいてシシャモがビアシンケンの肩を叩いて悪魔の様な笑顔になる。


「お前このままこの町で魔王をやっていけにゃ。ただしあたし達に全面的に協力することを約束しろにゃ」


 ビアシンケンに顔を近づけ更なる邪悪な笑みをみせるシシャモ。


「全面協力を約束してくれればその椅子の上の粗相は黙っておいてやるにゃ」


 ビアシンケンは黙って頷く。シシャモが満足したように笑うとペンネを呼ぶ。


「ペンネ雨を激しく降らせて欲しいにゃ。それと魔法で拡声は出来るかにゃ?」

「任せて!! どっちも出来るから♪」


 ペンネが空に矢を放つと青い矢が弾け町の上空に大きな魔方陣が描かれその魔方陣から水が落ちてきて雨が降り始める。

 青空なのに激しく降る雨に町の住人は足を止め空を見上げる。


 ペンネがサッとアイテムボックスから出した傘をシシャモにさし雨に濡れないようにすると城下に向かって手のひらを広げシシャモに準備出来たことを教える。

 シシャモが大きく息を吸って城下に向かって叫ぶ。


〈聞くにゃ!! この町の魔王ビアシンケンはあたしシシャモが討伐したにゃ!! だがこの町には必要な魔王だと判断したのであたしの配下として引き続きこの町を治めさせるにゃ!! お前らビアシンケンの言うこと聞いて町の復興に励めにゃ!!〉


 町中に響くシシャモの言葉に住民達は驚きざわめくが混乱までには至っていない。


 シシャモが雨でずぶ濡れになるビアシンケンに再び近づく。


「と言ったものの支配する気なんてないにゃ。今まで通り好きにやれば良いにゃ」

「お、お前はいったい……」


 驚くビアシンケンだがそんなことはどうでも良いのかシシャモは自分の聞きたいことを聞く。


「後2人、強い魔王がいると思うのにゃが何処にいるにゃ?」

「死者の国を支配する『黄泉の魔王』はここより西にある谷より入り地下に広がる迷宮に、絶対的な強さを誇り部下はいるが一人で全てを蹂躙する『孤高の魔王』は更に西に行った森の中にそれぞれいるはずだ」

「分かったにゃ。それじゃあ頑張れにゃ!」


 城に空いた穴に飛び込みピョンピョン跳ねながら下へ降りていくシシャモ。

 ペンネも羽を広げゆっくりと穴を降りていく。


 シシャモ達が降りた後、ビアシンケンはずぶ濡れになった体と町を見て復興に力を入れようと心に決めるのだった。



 ***



「ねえシシャモ。今後の予定なんだけど」

「おおそうにゃ」


 降りていく途中で止まりペンネに耳うちをする。ペンネの顔が赤く嬉しそうなのはいつもの事である。


「…………!?」


 耳うちが終わるとペンネが驚いた顔をするがすぐに妖艶な笑みを浮かべる。


「私はシシャモについていくからね」

「まあ可能性の話にゃ。ついでにアースの方もにゃ」


 2人は再び地下を目指すと燕達とドラゴンが待っていた。


「元気になったようで何よりにゃ」

「おおシシャモよ。お前にこれを渡そう。何かに使ってくれ」


 エポワスが自身の鱗を1枚引き千切ると渡してくる。


「ドラゴンの鱗って装備とか色々使えるやつにゃ。かなり大きいにゃ、バト使えるかにゃ?」


 鱗をバトに渡すと一部を体内に入れる。


「面白いがが作れそうちや。そうや、これを渡しちょこう」


 バトが渡す2枚のフロッピーディスク。


「イーグル、タイガー、おおぉ! 強そうにゃ!」

「本当に強そう。良かった良かったってことでそろそろあっちも進めようか」


 突如現れるスピカが両手に力を入れ雷を纏う。両手を中心に電撃が全身に走ると右手をシシャモ達に向かってつきだす。


「私が編み出した必殺技食らいなさい!」

「にゃ、にゃに!」


『必殺 雷解かみときの風巻しまき


 洞窟内に激しい風と雷が吹き荒れシシャモ達は消えてしまう。

 後に残されたエポワスにスピカがペコリとお辞儀をして消えていく。


「騒がしい者達だな。さて久々に外へ出てみるかのう」


 エポワスは大きく空いた穴を見上げると空へ向かって飛び立つ。

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