その12 嵐の予感にゃ……
もう周りの兵達は全滅して人影は見当たらない。かつて花の咲き誇る美しい庭園は見る影もなく焼け野原となっていた。
「なんだと いうのだ この状況は」
息を切らしハアハア言いながらボローニャは走り続けていた。
そんなボローニャの前に上空からペンネが降りてくる。
「ボローニャさん。シシャモはどこにいるんですか?」
静かに問いかけるペンネに対しボローニャは素早く剣を抜くと斬りかかるがペンネはそれをそっと右手で受け止める。
「なんだお前は本当に魔法使いなのか」
ペンネが右手で受け止めている剣先が氷始めるとパキパキ音をたてながらボローニャの鎧を氷が侵食していく。
やがて全身を氷が覆うと氷と共に鎧も砕ける。
「ば、バカな我の魔法封じの鎧が魔法で壊されるだと」
鎧が砕け中からの蛇の魔物が現れる。
「最後です。シシャモはどこでしょう?」
「シシャモはこの城の地下深くにいるドラゴンの元にいるはずだ。だが今から行っても手遅れだ」
ボローニャは観念し片膝をついてペンネにシシャモの居所を教える。
ペンネはしばらく地面を見ていたがボローニャを見るとスカートを摘まんで可愛らしくお辞儀をすると上空へ飛び去る。
「とどめはささないのか……」
焼け野原となった庭園にボローニャは寝転がり大の字になると空を見上げる。
「鎧に頼りすぎだった。我も鍛え直さないとな」
***
上空へ飛び城のエントランスから侵入するペンネは上機嫌だ。
「シシャモは無事なはずだから私が先にここの魔王を倒しておけばシシャモ喜ぶかな」
城内で向かってくる兵を魔法で蹂躙しながら歩いていく。
「待て! ここから先へはこの王親衛隊の──」
爆風と共に名乗っていた兵が吹き飛ぶ。
ペンネがその辺りに転がっていた兵を掴むと持ち上げ訪ねる。
「ここの魔王、ビアシンケンという人はどこにいますか?」
瀕死の兵が王の間を教えるとペンネはお礼を言って進んでいく。
***
「あら、嘘を教えたんですねあの兵隊さん」
教えられた通りに進むと少し広い部屋にたどり着いた。
3方向あった扉が閉まり地面に魔方陣が描かれると巨大なバイソンの姿をした魔物が現れその背中にワイルドな格好をした女性がたっていた。
「私の名はデラこの魔物を操るテイマーよ。一度暴れたら相手が死ぬまで止まらないラーゼンバイソンに──」
ペンネが周囲に稲妻走らせながら弓を引く。
『必殺 ブルタールブリッツ』
表示と共に鋭い稲妻が横に走り抜けラーゼンバイソンは一瞬で炭となりデラは吹き飛ばされ激しく壁に叩きつけられる。
稲妻はそのまま走り抜け城の壁を次々と破壊していく。
その様子をデラは薄れ行く意識の中見て自分の最後を悟る。
だがペンネはデラのことなど気にも止めずなにやら悩んでいる様子だ。
「う~ん上かな? みんな嘘しか教えないから自分で探そう」
ペンネが天井に向かって弓を引くと稲妻が下から上空へ向かって走り抜ける。
羽を広げると天井に空いた穴を使って各階を移動する。
***
「ここっぽいね」
ひときわ大きい扉を開けると奥の王座に立派な鎧を着た虎の魔物が堂々と座っている。
周囲にいた兵達が集まりペンネに槍や剣を向ける。ただ兵達の表情は堅くペンネを恐れているのは見て明らかだった。
そんな兵達を無視してスカートの両端を掴みお辞儀をする。
「私はペンネ・フェデリーニと申します。貴方はこの町メガロの魔王ビアシンケン様でしょうか?」
黙ってペンネを睨むビアシンケンを見てペンネが笑うと周囲に暴風を起こす。
次々と吹き飛び壁に叩きつけられる兵達を見ても動かないビアシンケン。
「流石このクラスの魔王様はこれくらいでは微動だにしないんですね」
ペンネは自分の父親なら慌てふためいているだろうと思うと目の前の魔王の堂々とした佇まいに感心していた。
ペンネが一歩足を出そうとしたとき天井が赤く円を描いて燃え始める。
大きく太い腕が現れ天井を破壊すると盾を空中に横に並べながら階段のようにして紅葉とポムが降りてくる。
「ここが当たりっぽいな。流石紅葉だな」
「まあ上の方に偉い人いそうだからこの辺かなって思ったんだけどね。あれ? ペンネ先に来てたんだ」
紅葉が挨拶すると同時に横の壁に線が入り崩れ落ちる。
「ここであってるのか。手当たり次第破壊していったからな!? ペンネ殿流石に早いな」
崩れた壁から燕が入ってくると4人がワイワイと賑やかに話し始める。
楽しそうに話す4人を前にビアシンケンは動けない。
(なんで4人も同時に来るんだ。四天王どうしたのよ。1人誰か分からないけど、どっち道殺されちゃうんだろうな俺)
「では私が行きます。シシャモの為に」
ペンネが炎を纏い熱風と共に近付いてくる。
ビアシンケンが死を覚悟し近付くペンネをただ見ていると天井がぶち抜かれ銀色の物体が降りてくる。
「間に合うた。ペンネちっくと待って欲しい」
バトがペンネの前に現れる。
「なんでしょうか?」
「その魔王の兄、モルシャーに討伐を待って欲しい言われたんや」
バトがスピカの精神攻撃の話し、ビアシンケンがこの町のこれからに必要なことを説明する。
「分かりました。でも話し合いもせず私達を危険な目にあわせたのは事実ですよね」
ペンネが羽を広げ瞳を赤く輝かせると周囲に暴風が吹き荒れる。
「特にシシャモを危険な目にあわせたのは許せません。私はこの魔王ビアシンケンを討伐します」
「頭の固い人や。シシャモが絡むとめんどくさいよ」
バトの言葉にペンネが反応する。
「今なんて言いました?」
「めんどくさいっていった」
ペンネの殺気がバトに向く。バトは殺気を受けても涼しげに立っている。
「ねえ、あれ不味くない。燕止めれない?」
「あの間に割って入るのは無粋だろう」
「お互い言いたいことあるんだろう? やらしときゃ良いんだよ」
焦る紅葉に冷静な燕とポム。そして心中穏やかでないビアシンケン。
(ええ!? なにこれ? なんで魔王を目の前にして仲間同士で喧嘩初めてんの。どうしよう。流れからいくと銀の乙女を応援した方が良いのかな?)
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