その11 ペンネの魔法にゃ!
王座に座る虎の魔物はそこにいるだけで王たる威厳を感じさせ、その威圧感に周囲の兵達は恐れ跪く。
「ビアシンケン様。ブラートが予定通りシシャモ一味を分散させ各個撃破を行っています」
「そうか」
ビアシンケンは一言だけ発して黙っている。
「あの、恐れ多いのですがビアシンケン様。シシャモ一味とやらをここまで警戒する必要はあるのでしょうか?」
現状の報告をした兵がビアシンケンに恐る恐る訪ねる。周りの兵がその発言に驚きその結末を見守る。
「確かに私1人でも対処出来よう。だが考えてみろ5人をまとめて相手にした場合周囲に被害が及ぶであろう。
兵や民の事を考えれば力を分散させて被害を減らすのが王の勤めだ」
──おお!
周りの兵達がビアシンケンの発言に感動し涙する者までいる。
ズドーーーーーン!!
城が揺れるほどの衝撃が外から伝わる。城の壁から小さな石の破片がポロポロ落ちて来て埃が舞い上がる。
皆が慌てるなか再び轟音が鳴り響き城が揺れる。
「な、なんだ!? 誰か確認してこい!」
兵体長が命じ部下が外へ出ていく。
「ビアシンケン様、ご安心を我々が対処しますので」
「ふむ、私は大丈夫だ。お前達こそ武運を祈る」
「は! 勿体ないお言葉です」
兵達はビアシンケンの偉大さに感銘を受ける。だがビアシンケンの心のうちは……
(なに今の爆発。やばくね? だれ? だれが来たの? どうなるの俺、血抜かれるの? 撲殺? 磨り潰される? 解体? それとも鬼畜猫にもてあそばれ死んでいくの? あぁやだな~なんで俺が王の時に来るんだよ最悪)
そんなことを考えて座っているとは思わず皆が尊敬の眼差しを送るなか王の間の扉が開き慌てた様子の兵士が報告する。
「お伝えします! 庭園にてボローニャ様が銀髪の少女と交戦中です」
「して経過は?」
「ボローニャ様劣勢とのことです!」
(銀髪って吸血鬼か~血の花咲かせて殺されるんだ俺……やだなぁ~痛いんだろうなぁ)
涙が出そうになるのを我慢してビアシンケンは王座に座る。いや怖くて立てない。
***
ペンネが町から城の方へ向かって飛んで行くと庭園が見えそこに大勢の兵士達とひときわ目立つ金の鎧を全身にまとった兵が立っていた。
無視して飛んでいこうとすると下から矢や魔法が飛んでくる。
「めんどくさいなぁ」
ペンネが雷を纏い全て振り払い地上に降りてくる。
あっさりとすべての攻撃を掻き消しやって来たペンネに兵達は警戒し距離を取る。
「なにか用でしょうか? 私はシシャモを探しているんですけど」
「シシャモかあいつなら今頃この世にはいないはずだ」
金色の鎧の男が勝ち誇った様にペンネにそう告げる。
ペンネの周囲に火の粉が舞い始めるジリジリと周囲を焦がすような熱風が吹き荒れ始め炎の渦が巻き兵達が飲み込まれ蒸発していく。
「もう一度言ってもらえますか」
ペンネの起こす熱風の中でも平然と立つ金色の鎧の男。
「何度でも言おう、シシャモとやらはもう死んでいるだろう。その銀髪に赤い瞳、お前が罪人のペンネとやらだな。
我は四天王の1人、ボローニャ!」
ペンネはボローニャが名乗るのも構わず弓を引き矢を飛ばすが矢は鎧に当たると飛び散り消えてしまう。
「ふっ、我が魔法封じの鎧は魔法を打ち消す力があるのだ! 我は魔法殺しのボローニャとも呼ばれておるのだ! 相性が悪かったな、己の運の悪さを恨むがいい!」
ボローニャが剣を抜こうと柄に手をかけた瞬間氷の矢が数本飛んできて手に元に当たり剣を抜くのを邪魔する。
ただ鎧の能力によりダメージはなく剣を抜くのを邪魔するに留まっている。
ペンネの体に電撃が走り周囲に風が吹き荒れ始めると星のステッキをゆっくりと振る。
「ペンネ スターライト メイクアップ」
ボソッと呟くペンネの周囲に星が回り囲まれ弾けるとゆるふわなお姫様みたいな格好に変身する。
大きく羽を広げると火の粉を散らしながら空へ飛び上がり弓を引く。
『必殺 シュプレンゲン』
大きく鋭い形の矢が上空から落ちてくる。
「だから魔法は効かぬと言っておるだろうに」
呆れたようにボローニャが言いながらペンネを見上げる。
その矢を避ける訳でもなく両腕を出して受け止める。鎧に触れる炎の矢が火の粉を散らしながら散っていく。
「ぐうおっ! 中々の威力だがこの程度!」
ボローニャが炎の矢に押されながらも耐える。段々と炎を散らしていく矢を見て、鎧の中でほくそ笑むボローニャが矢の中に周囲とは違う燃え方をする球状の炎を見つける。
その球状の炎が光を発した瞬間地面をえぐる程の爆発が起こる。
「ぐはっ、なんの魔法だこれは」
ダメージを負ったボローニャが自身の鎧を見ると僅かながらも亀裂が入っているのが確認できる。
上空を見上げると次の矢が降ってくる。
慌てて避けると矢は突き刺さり地中へと潜っていく。そして周囲を赤く染めると爆発を起こす。
その爆発は地面を揺らし空気を震わせる。
「貫く炎と爆発する炎を組み合わせて撃ち込んでるのか……ありえん」
対魔法のスペシャリストを自負するだけあって魔法の知識にも詳しいボローニャはペンネの魔法の精密さと恐ろしさに気付く。
ただ気付いたところでどうしようもなく矢は次々と降り注ぐ。
全力で逃げるしかないボローニャだった。
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