その10 銀の乙女伝説にゃ!
「ブラート!」
「おや? モルシャー様……いえ今は落ちぶれたただの魔物ですかな」
ブラートがモルシャーを見つけると小バカにしたように鼻で笑う。
「ブラート丁度良かったこの方、バトさんをビアシンケン様に会わせてやってくれないか。シシャモ達にビアシンケン様を倒す意思はないのだ」
「それは困りますな。しっかりと魔王ビアシンケンを討ち滅ぼしていただかないと」
ブラートが右手に炎を出すと力を溜めているのか段々と炎が大きくなっていく。
「ブラートお前」
「ビアシンケン亡き後ワシがここの魔王になるのじゃ! 食らうがよいこの貧相な町ごと燃やしつくしてくれるわ!!」
『固有技 インフェルノ』
ブラートの笑い声と共に手から炎が放たれる。
ジュッ
ピンクの閃光が空へと走り飛んでいくと同時に業火と呼ばれたものを掻き消す。
「モルシャー、あの人倒すぜよ。どのみち邪魔にしかならんやろう」
バトが右手をガトリングガンに変えるとブラートへ向かって撃つ。
ブラートが魔法の障壁で防ぎつつ左手に雷の刃を作り出しバトに投げつける。
『固有技 サンダーランス』
雷の槍をバトが左手で受け止めると握りつぶし霧散させる。
「なに!? 魔法を素手で受け止め破壊するだと」
驚くブラートに対しバトは手を握ったり開いたりしている。
「上手ういった。手のひらにビーム障壁を産み出し魔法に干渉させる。研究の成果や」
嬉しそうなバトの後ろで猪の魔物マル達は心の底からバトに絡んでいたのをモルシャーが止めてくれたことに感謝していた。
「ちぃ、ならばこれは受けれまい!!」
ブラートが更に上空に上がると炎の雨を降らせる。
『固有技 フレイムレイン』
『必殺技 バトキャノン』
それに合わせるかのようにバトの両肩からビームを放射状に放ち火の雨は落ちる前に全て掻き消されてしまう。
遠方からの攻撃が掻き消されるだけと判断したのかブラートが地上付近まで降りてきて浮遊したまま連続で魔法を放つ。
「ワシが四天王に登り詰めれたのは近接もこなせるからじゃ! この近接で高速に放たれる魔法に対処できるかのう!!」
両手の甲から出した銀色の剣が魔法を次々と切っていく。
「なんじゃとぉ!? だがまだまだ!!」
ブラートが必死に放つ魔法の一部が反れてマル達の方へと飛んでいくと動くことができず目をつぶるマル達の前にバトが移動し魔法を切り裂く。
それを見たブラートがいやらしい笑みを見せバトから離れ高速で移動を始める。
「なんか知らんがこの町や人を守るのならやってみるがいいわ!」
住宅が密集して入り組んだ貧困街の間を飛びながら魔法を放ち始める。
次々と火の手が上がり始める。
「なんか腹が立つ。モルシャー、避難と消火は任せた。うちはあれを殺る」
バトがそう言い残し腕を伸ばすと住宅の一部を掴み自分の体を引き寄せ移動しブラートを追いかけ始める。
残されたモルシャーとマル達は住民の避難と消火をするため顔を見合わせそれぞれが走り出す。
***
「この混乱に乗じて魔法を打ち込み八つ裂きにしてくれるわ!」
ブラートが狭い住宅街を器用に避けながら飛んでいると ガッシャン ガッシャン と音が聞こえてくるので振り返るとバトが迫ってきている。
「なんじゃ……腕を伸ばしながら高速で移動しているのか。いったいなんて魔物なのだあれは」
未知のものに驚きながらも後ろに向かって炎の球を放つ。予想通り掻き消されたのか霧散する炎。
「いないじゃと!?」
炎の霧散と共にバトの姿も消える。ブラートは自身の周囲に張ってあった探知魔法に集中する。
ブラートの右側の建物の壁を突き破って剣を装着した腕が伸びて襲いかかる。
間一髪で避けるが右肩を少し掠め血が散る。
「ぐぬうっ!!」
切られながらもバランスを崩さず手が伸びてきた方向にむかって雷撃を放つが建屋に刺さる前に手が握りつぶし去っていく。
探知魔法が後ろから来る物体に反応する。
後ろから拳が襲ってくる。ブラートは真っ直ぐ飛んでくる拳を下がって避けるが、拳はその場に留まると腕から金属がせりあがってきてガトリングに変形し銃弾を撃ち始める。
「なんだというのだこの魔物は」
魔法の障壁で銃弾を受け止めるブラートの目に下から向かってくるピンクの光が目に入る。
その光、ビームは障壁を破りブラートの右肩をえぐる。
「ぐおぉぉぉ」
痛みにもがきながらも肩に治癒魔法をかけ止血を行うと飛びながら逃げる。
「まずい、ここまで何も出来ないとは思わんかった。戦うべき相手ではないのう、あれは……」
バトから逃げるため高速で飛ぶブラート。高速かつ入り組んだ場所をランダムで移動しながらバトを撒く……と思っていた。
突然左足に激しい痛みを感じると空中でバランスを崩し壁に激突する。魔法の障壁を常に張っているお陰で衝突のダメージはほぼないが痛む左足を急いで確認する。
左足の脹ら脛辺りを何かが貫通して穴が空いている。その傷は焼けたように黒くなり見た目に対し出血は少ない。
周囲を見回してもバトの姿は見当たらない。意味は分からないが力を振り絞り再び飛び上がる。
移動を始めたとき探知魔法の範囲外を飛ぶ何かが視界に入る。長く太い棒の様なもの。それがなにかは理解出来ないが自分に対して敵意があることだけは分かったブラートは逃げるように建物の間に隠れながら移動を開始する。
見えなくなった物体に安心して下を見ると同じ棒がブラートに合わせて平行に飛んでいた。その棒が向きを変え先端を向けるとビームを放つ。
間一髪避けながら上空へ逃げると上からも例の棒がビームを放ち襲いかかる。
「なんじゃこの棒は!?」
「棒やないぜよ。オールレンジ攻撃を可能とするバトちゃんお気に入りの武器『チェイス』しつこいぜよ」
いつのまにか建物の屋根に立っているバト。頭にあるはずのツインテールのパーツがなくなっている。
そこにチェイスと呼ばれた棒が4本集まり合体し2組になるとバトの頭にツインテールとして装着される。
ロボットなどという概念がないブラートにとってバトは未知の生物でしかない。その未知の生物に恐怖する。
「く、悔しいがワシの負けじゃ。もう魔力も残っておらん。ビアシンケン様の元に案内する。だから」
ブラートが許しをこう様に頭を下げた瞬間
「だから死ね!!」
ブラートが魔法を放とうとした右腕が宙を舞う。理解が追い付かないブラートが最後に見たのはチェイスと呼ばれる銀色の棒が自分の周りを囲い一斉にビームを放つ瞬間だった。
『必殺技 バトチェイサー』
チェイスによる多角的攻撃によりブラートは跡形もなく蒸発する。チェイスはバトの頭の上に来るとツインテールに戻る。
「見事に悪役テンプレな行動をするね。それよりも火をどうにかせんといけんね」
バトが町に燃え盛る火を見ると住民が桶の様なものに水を汲みバケツリレーをして消火しているのが見えた。
水を汲んでいる水源に向かってバトが移動を始める。
突然現れる銀色の魔物に皆が驚くがバトは気にせず左腕を伸ばし水源に突っ込むと右手を放水銃の形に変形させ放水を開始する。
あっという間に周囲の火が鎮火する。
「奥までは届かんきそっちは任せた。うちはやることがあるき行くね」
そう言い残しバトは去っていく。
この光景を見た住民達が銀の乙女が救ってくれたと感動し、いつしか貧困街を救うヒローとして銀の乙女伝説は語り継がれるようになる。
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