その9 精神攻撃にゃ!

 バトが絡まれているときに現れた男に対して猪の魔物3人組は罰の悪い顔でなにやら言い訳をしている。


「いや、モルシャー様ね。ほら見たことない怪しい奴が来たんで、なんです」

「あれッス、治安維持ッス」

「おぉヘレ! お前頭いいな、そう治安維持なんですよ」

「……維持」


 モルシャー様と呼ばれた男は呆れた顔のまま猪3人組を見ている。


「さっき自分で追い剥ぎって言ってなかったか?」

「き、聞いてたんですか? モルシャー様も人が悪い」

「悪いッス」

「……詰んだ」


 話が進まないと判断したのかモルシャーがバトに頭を下げてくる。


「お嬢さん申し訳ありませんでした。こいつらの教育はしっかり私が責任もってやりますので勘弁してやってもらえませんか」

「ん? うちは面白かったきええぜよ。この3人ならええトリオ漫才が出来るはずやき教育お願い」


 バトの発言に3人が突っ込むのを見てバトは才能を確信するのであった。



 ***



「バトさんとおっしゃるのですね。失礼ですが種族は?」

「種族? ロボや」

「ロボ? 聞いたことのない種族です。失礼ですが変わった話し方をされますが種族特有の言語なのでしょうか?」

「これ? 普通に話すことも出来るけどうちの個性を消すことになるきこのままいくよ」


 バトはモルシャー達の自己紹介と改めて謝罪を受ける。


「背が高いがマル、低いがヘレ、ガタイがええのがランプね。ふ~ん」

「あぁ! お前興味ねえだろ」

「マル!」


 モルシャーに怒られマルが小さくなる。


「それでバトさんはここに何をしにこられたんですか?」

「仲間のシシャモ達を探しに来たんや。モルシャーはシシャモを知っちゅーか?」


「シシャモ……魔王狩りのシシャモ!? 最近魔王を片っ端から狩り極悪非道な仲間を増やし勢力を伸ばしているあのシシャモ!

 ということは……バトさんは」

「魔王狩りとかカッコええな。紅葉が喜びそうや。そう、うちはシシャモの仲間ちや」


 驚くモルシャーにマル達3人は不思議そうな顔をするのでモルシャーはシシャモ一味が最近魔王と呼ばれる者を片っ端から討伐していること、最近砂漠でデスワームを葬った噂話をマル達に聞かせる。


「てことはこいつめちゃくちゃ強い?」

「おう、お前ら瞬殺や」


 バトが爽やかに物騒な発言をするのでマル達の額に汗が流れる。


「それでバトさんはこの町の魔王ビアシンケンを討伐に来たのですか?」

「ちっくと違う。私達の探しゆー魔王なら倒すんやけんど、ただあっちから攻撃仕掛けてきたき場合によっては倒すかな」


 バトの言葉に腕を組モルシャーはなにやら考えた後バトにお願いをしてくる。


「魔王ビアシンケンを倒すのは勘弁してくれないだろうか?」

どいて?なんで?

「魔王ビアシンケンは私の弟なのです」


 モルシャーがビアシンケンの兄で10年前に前魔王をビアシンケンが亡き者にし魔王の座を奪う。

 モルシャー自身は戦う意思もなく自ら城を出ることで決着としたこと。そして今はこの貧困街と呼ばれる場所生活していることを聞かされる。


「で? おまさんはどうしたいん? 弟言えども父親の仇なんやよね? それに魔王を倒した方が城に戻れるチャンスやないか?」


 モルシャーはゆっくり首を振る。


「魔物の世界は強い者が弱い者を制する。例え父や弟と言えどもそれは変わりません。

 ただ弟ビアシンケンは王として素晴らしい男です。今折角整ってきた情勢を崩したくないのです」

「こがな場所があるのにええ王なのか?」


 バトが貧困街を見渡しながらモルシャーに訪ねる。


「どんなに良い政策をうちだしてもどこかにこのような場所は生まれます。

 前魔王は徹底的に強弱をつけ一度堕ちたものは這い上がれない世界でしたが、現魔王はこのような貧困街からも実力があればチャンスを与えてくれます」

「ふーーむ」


 バトは納得するが腑に落ちない感じでもう一度訪ねる。


「ええ王言うのは分かった。やけんどなんでうちらを攻撃してきたが? 何もしちょらんし話し合うって手もあった思うがやけんど?」


 モルシャーが黙って困った顔をして少し言いにくそうにバトに話しかける。


「あのバトさん。今、話しをして貴女が話の通じる方だと分かりました。それを踏まえて失礼を承知で伺いますが、貴女方シシャモ一味が魔王の間で『魔王を駆逐する鬼畜猫一派』と言われているのをご存じですか?」


 バトは首を横に振る。


「私も魔王候補の1人として認識されたのか半年程前に『全魔王に宣戦布告するシシャモが今からお前らを血祭りにあげる』と天のお告げがあってから『血の華を咲かせ残虐に殺す、ペンネ』『苦しみながら後悔するがいい撲殺剣士、燕』『闇の底に落とし永遠の地獄を味わせる闇の申し子、紅葉』『銀の乙女の前に全ては焦土化とするだろう。青く光る殺戮マシーン、バト』とどんどん増えていき、大体週3回で時間を問わず声が届きます」

「それはきついのぉ…」

「ええ、お陰で魔王達は夜も眠れずシシャモやネコという単語に敏感になっています。私は途中からなくなったので寝れていますが、しばらくはいつ殺されるかびくびくしてました。

 恐らく弟、ビアシンケンもノイローゼ気味なのではないでしょうか」


 モルシャーが本当に辛そうな表情をする。寝れない日々を思い出しているようだ。

(原因はスピカや。魔王に対して精神攻撃を行うとは性悪女神はだてやないな……)


「状況は理解した。うちがシシャモ達を止めよう」

「おお、ありがとうございます。弟は悪い奴ではないのです」


 バトの手を取ってモルシャーが喜ぶ。その時、頭の上から声がする。


「ここにおったか。ワシの術から逃げていた銀の乙女とやら」

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