その8 バトのお忍びにゃ!
「何者だお前!」
「何者っ言われてもバトちゃんとしか言えん」
『魔物の町メガロ』の門の前でバトは門番に槍を突きつけられ止められていた。
4人の魔物の門番は皆屈強な男なので小柄なバトは見上げながら考えていた。
(
自分達がフロッピーディスクの為に解体候補になってるとも知らず槍を突きつけている1人の兵士が優しい口調でバトに提案してくる。
「今メガロはビアシンケン様の命により通行禁止で誰も入れないのだ。日を改めてから来るんだな」
(ええ魔物だな。解体はやめちゃるか)
「おい、こいつどっかで見た気がする。ちょっと待て手配書を」
1人の兵が詰所戻り手配書を確認しに行こうとする。
(
バトは手首を下に折ると隙間から細い管が飛び出す。それを立ち去ろうとする魔物に向けると管から針が飛び魔物の首に刺さる。
魔物が突然パタリと倒れたので残りの魔物が慌て始める。倒れた魔物に気がそれた瞬間、槍を突きつけている2人の魔物の後ろに素早く腕を伸ばすと手の平から針を出しを首に刺す。
2人の魔物が意識を失い崩れ落ちるのを最後の1人の門番の目にはゆっくりと映っていた。
そのゆっくりに感じる世界の中に銀色の手だけが凄いスピードで伸びて門番の首を掴む。そしてそのまま眠らされ崩れ落ちる。
「睡眠薬注射しただけやき寝ちょってね。
バトは素早く詰所に向かうと中の椅子に座って何か書いている兵と後ろで暇そうに欠伸をしている兵を確認する。
欠伸をしていて眠そうな兵の額に針が飛ばし刺さるとバタンと倒れる。
音に驚いた作業中の兵が立ち上がって音の方に振り向くと首筋に鋭い痛みが走り倒れる。
「ふむ、壁の中の空洞に兵士用の部屋と通路が張り巡らされちゅーわけか。防衛の薄いとこ探して中に入るとするか」
詰所のドアを開け通路を覗きおよその構造を把握する。通路の天井を見ると穴が空いてあるので腕を伸ばし天井裏に忍び込む。
「おそらく通気孔か。ふ~むこの空気の流れを産み出している羽は魔法で動きゆーのか。でこの配線みたいなのが供給するための物と。
……仕組みが気になる」
バトが配線をたどっていくとだんだん配線の数が増えてくる。やがて各羽に繋がっているであろう配線が集まる部屋に出る。
下を覗くと20人程の魔物が配線が束ねられた場所で何やら力を込めている。
「頑張れ! 後10分で交代だ」
何やら励まし合いながら作業をしているようだ。ジリリリと目覚ましのような金の音が響くと力を込めていた20人が倒れ込むように座る。
「次の班、いくぞ!」
控えの20人が素早く入れ替わり力を込めている。
「エネルーギー元が知りたかったけどこれは効率悪い使えんな」
バトはそっと顔を引っ込めると天井の通気孔を進み始める。熱感知により壁越しでも兵のいる場所は分かるので気づかれないように進む。
「あっち側が外やきあのドアを抜けりゃ行けそうやね」
天井裏から熱感知を行い人数を確認する。
(中に6人、そのうち動いているのが4人、出入口のドアを守るのが2人、そしてドアの外側に2人。外側には閂がかかっちゅーね)
1人目通気孔の下を通ったところを腕を伸ばし天井裏に引きずり込み眠らせる。
2人目は机に向かって書き物をしていたので通気孔から針を飛ばしそのまま眠らせ机に伏せさせる。
ここで通気孔から腕を伸ばし棚の裏まで移動。
バトが潜む棚の反対側に3、4人目は並んで話しているので、わざと棚にあった物を落として音を立てる。
音に気付き1人が棚の裏に回ってこようとしたので棚の上に移動するとこっちに来ないもう1人に向かって針を飛ばし眠らせる。
もう1人が棚の裏に回り込み落ちている物を拾ってる間に同じく上から針を飛ばし眠らせる。
出口の扉の前にいる2人は影から針を飛ばし1人を眠り崩れ落ちさせる。もう1人が慌てているところを後ろに回り込み掴んで眠らせそのままドアに叩きつける。
ドアから大きな音がして外にいた兵が覗き窓から中を覗くが誰も見当たらないので異変に気付く。
外の閂を外し中入ってきた2人組をドアの上にいたバトが腕を伸ばし眠らせる。
そのまま開いたドアから出て閂をかけると素早く物陰に隠れながら町まで降りていく。
「完璧や。さてシシャモ達を探さんと」
***
バトが身を潜め町の繁華街の様子を伺うと兵士が数人グループを作り巡回をしている。
(うちらを探しゆーかは知らんけど見付かるとめんどうさそうやね)
巡回中の兵士を避けていくうちに段々活気も華やかさもない場所へと向かっていく。
建物はあちこちにヒビや穴が空いており手入れもされていないのが一目瞭然だ。
(いわゆるスラム街か、どこにでも光と闇はあるがよね)
兵士の姿も見当たらないので堂々と歩いているとお約束のように絡まれる。
「おい嬢ちゃん痛い目みたくなかったらおじさんの言うことききな」
3人の柄の悪そうな猪の顔をした魔物の男達に道を塞がれナイフを顔の前に突きつけられる。
男達がヘラヘラ笑っているのをバトが青く光る目で見つめる。
「ナンパ?」
「いや、ちげーだろ! ナイフ突きつけてんのにどこをどう見てナンパになるんだ。追い剥ぎだよ。お い は ぎ!」
「突っ込みに切れがあるしリズムも完璧や。ええ芸人になれそう。後ろの2人も頑張れ!」
バトが手をグッとして応援する。男達がキレて騒いでいると後ろから声をかける者が現れる。
「お前たちまだこんなことをしているのか。いい加減やめろ」
バトが振り返ると虎の顔の魔物で体格のいい中年の男性が立っていた。毛並みはボサボサで頭の長い毛は後ろで結っている。一見、清潔感がなさそうだがどこか品を感じさせる男だ。
(ふむ、今日は色んな人に出会うね。これは何か運命的な出会いかもしれん)
バトは男を観察しながらそんなことを考えていた。
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