その4 飄風にゃ!凄いにゃ!
〈え、えーーとミノタウロス兄弟は……〉
進行役が戸惑うなか闘技場に2つの影が飛び込んでくる。
「おい! 予定変更だ! 我らが行く」
鎧を着た狼の獣人がブロードソードを構え進行役に向かって大声で伝える。
上空からローブをまとった女性がゆっくり降りてくる。
「私は四天王候補のウィル」
「俺様オットが相手だ」
2人が名乗ると闘技場内に次々と兵士達が入ってくる。
「闘技場とは1対1で戦うものと聞いたことがあるが……乱闘も悪くない」
ウィルを始めとした魔法部隊が一斉に魔法を放つ。
『必殺
鋭い風が吹き抜けると放たれた魔法ごと周囲の兵が斬られ消えていく。
「バ、バカな魔法を斬るだと……」
慌てるウィルを庇うようにオットが剣を構え力を溜める。
『固有技 岩石斬り』
オットの放つ固有技をスッと避けるとそのまま刀を抜刀しオットの鎧を砕きながら壁まで吹き飛ばす。
壁を派手に壊しオットは絶命し消えていく。
『必殺技 真峰打ち』
表示される文字の下で少し悩んで燕が口を開く。
「安心して欲しい。一応、峰打ちだ」
燕の強さに周囲の兵達が引いて逃げ腰になる。
「おいおい、オット様が一撃でやられたぞ」
「こんなの俺らが敵うのか」
背中こそ見せないがジリジリと後ろに下がり燕から距離をとる。
「引くことは許さんぞ!!」
兵が逃げそうになるその時、怒号の様な声が闘技場に響き渡る。
闘技場内にゆっくりと入ってくる下半身が馬で上半身が人間で腕が4本あるケンタウルスの男が入ってくる。
輝く金の鎧が目を惹くその男が耳が痛くなるような大声で名乗る。
「我が名は四天王リオナソ! 我らがビアシンケン様に楯突く罪人よ覚悟するがいい!」
そう高らかに声をあげると場内に大きな虎の魔物が投入される。
「その虎、グランドタイガーは魔王級の魔物よ。それを使役できる我に怯え死ぬがよい!」
グランドタイガーが放たれ燕に向かってくるが動線上にいる兵士達を吹き飛ばしていく。
攻撃範囲に入ったのか大きな口を開きそこにいた兵士ごと燕に噛みついてくる。
燕は軽やかに避けるが、近くにいた兵士はグランドタイガーの牙に鎧ごと砕かれながら断末魔をあげ命を散らす。
「名乗った流れからお主がくるのがセオリーではないか?」
燕はリオナソに訪ねるが無視され本人はグランドタイガーに指示を出している。
『固有技 グランドタイガーパンチ』
グランドタイガーが全身をバネのようにしならせ太い腕から放たれるパンチは兵士達が吹き飛ばしながら燕を襲う。
パンチが避けられ横に崩れた体制を戻しながら地面に着地すると後ろ足に力をグッと入れ弾けたバネのように巨体を飛ばし太い爪の出た前足を繰り出してくる。
『固有技 グランドタイガークロー』
ガッチンッと鉄の甲高い音を響かせグランドタイガーの爪が刀に受け止めらる。燕はグランドタイガーの巨体をものともせず涼しい顔をしている。
その後ろでリオナソにウィルが兵を引かせるよう懇願している。
「リオナソ様! グランドタイガーを待機させて下さい。先に兵達の撤退を!」
ウィルがリオナソに訴えるがバカにした様に笑われ襟首を掴まれると投げ飛ばされる。
「バカかお前はあの罪人は強い。むしろ兵どもはあいつを命をかけ抑えてグランドタイガーが攻撃しやすい様にするのが仕事だろ」
「なっ! リオナソあなたは」
「うるさいぞ。そんなんだから候補のままなのだ」
ウィルは体を起こすと兵達に向かって叫ぶ。
「お前達逃げろ! ここは私が抑える」
「ウィル貴様! 勝手なことを!」
リオナソが問答無用で放つ斬撃をウィルが手に溜めた魔法で受け止める。
「ほうこれを受け止めるとはやるな」
「お誉めに預かり光栄ですよ……一応候補ですからね」
額に汗を流しながら必死に受け止めるウィルにリオナソの残りの3本の手に握られた剣が襲ってくる。
(まっ不味い、両手で精一杯なのにもう無理)
死を覚悟するウィルの耳に甲高い金属音がすると正面いたはずのリオナソが遠ざかっていく。
代わりにフワッと花のような良い香りがする。
「拙者は向かって来るものに対して容赦せんが今のやり取りは如何なものか」
ウィルの目の前に敵である燕が立っている。何が起きているか分からず立つことも出来ないウィルはただ見ているだけになってしまう。
「貴様! 我を足蹴にするとは許さんぞ! 行けグランドタイガー!!」
リオナソの号令でグランドタイガーが跳ね襲いかかってくる。
燕は小さくため息をつき刀を抜くと
牙による攻撃を回転しながらギリギリのところでかわし刀をグランドタイガーの額から下顎に向け振り下ろしそのまま地面に叩きつける。
地面に刀で縫いつけられたグランドタイガーに対しアイテムボックスから刀をもう1本出すと縦に斬撃を放ち真っ二つに切り裂く。
「グランドタイガーに対し一撃も食らわないだと……」
「リオナソ殿と言ったか、拙者は戦うのは好きだ。日頃から鍛えその成果が目に見えて分かった時は嬉しいからな」
燕が刀を鞘に戻し構える。
「だがお主のやり方は間違ってないか? お主も強者なら向かってくればいい。違うのであれば戦いを語らないで欲しいな」
燕に睨まれリオナソが激昂しながら叫ぶ。
「バカにするか! この四天王の1人リオナソ様を。食らうがいい我が最大の固有技を! 4本の手から同時に放たれる斬撃を避けれるか!!」
「腕があればな」
燕の呟きに気付いた時にはリオナソの腕は4本とも消えていた。
「お主の様な奴は好きになれん。感情に左右されるのは嫌いだが本気でいくぞ」
いつもより深く構える燕の周囲に赤い風が吹き荒れる。
抜かれる刀は赤い風を纏いながら光を放ち風は激しく吹き荒れる。
赤い風の刃は渦となり天へ昇っていくと闘技場の天井を爆音と共に突き破り大空へ巨大な柱を生み出す。
リオナソは断末魔も聞かれることもなく消えていく。
『超必殺
やがて吹き荒れた風がやむと燕が刀を納める。そして周囲を見回すとホッとした表情を見せる。
「一点集中させたお陰で被害はあまり無さそうだな。ん? これは」
燕がグランドタイガーがいた場所にあったドロップアイテムを拾う。
「グランドタイガーの牙か。シシャモ殿の役にたちそうだな」
嬉しそうに懐にしまいアイテムボックスへ入れる。
「あ、あの」
燕に恐る恐る声がかけられる。振り向くとウィルが怯えた表情で燕を見ている。
「どうしたのだ? まだ戦うなら受けるが」
ウィルは必死に首を横に振る。
「そうか、じゃあ怪我した者を手当てするといい。おっとそうだ拙者の仲間シシャモ達を探しているのだが知らぬか?」
「あ、えっと申し訳ない。私はここしか……」
申し訳なそうにするウィルに微笑むと燕は歩き出す。
「分かった、適当にブラついて探すとしよう」
そう言ってすれ違う際、フワッと花の良い香りがする。
ウィルを始め兵達がその香りにうっとりする。
燕が去ったあとウィルに兵が訪ねてくる。
「あの者は一体なんなのでしょうか」
「分からん、だがこの血塗られた戦場で花の香りを放つ剣士など聞いたことがない。
花の剣士とでも言うべきか……」
燕の知らないところで変な通り名がつけられそうになっていた。
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『勝手にスピカちゃん!』
「あまりに出番がなくて干されてる疑惑のスピカちゃんが勝手に解説しちゃうコーナー。
はい、後半に燕ちゃんから「花の香りが」って言われてるけどこれ実は柔軟剤の香りです。
前に帰った時、紅葉ちゃんが洗濯機を持って帰ってます。電源はバトちゃんから。
水はペンネちゃんが生成し排水も分解して水とゴミに分けてます。
水は自然に返しゴミはペンネちゃんが焼き払ってます。
つまりシシャモ達はみんな花の香りがします。汗に反応して薫るなんて最近の技術は凄いです。
因みに使いすぎは「香害」になって他人に迷惑ですから気を付けて下さいね。
おお、良い感じ! 今度から勝手にやっちゃおう」
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