その3 始まる戦いにゃ!

「すいませんこれおいくらですか?」

「120デーモンだよ」


 ペンネはお金を払うとパンを揚げたお菓子、揚げパンを買い食べながら歩く。


「おっきな町、魔界の森の近くとは比べ物にならないね」


 町の様子を観ながら中央に見えるお城の方へ向かっていく。

 町の近くでブラートの策略によりバラバラに飛ばされたペンネ達だがペンネは飛ばされる途中、賑わっている町が見えたから降り立ってここにいる。


 ブラートの予定では城の庭園に飛ばされたペンネは四天王の1人で対魔法に長けている人物と戦う予定だった。

 何故こうなったかと言うと単純にペンネの魔力がブラートを上回っいたからである。

 転移魔法もペンネが驚いたからかかっただけで普通にしてれば飛びもしなかった訳である。


「ん~皆大丈夫だと思うけどシシャモは心配。かすり傷1つでもついたら大変だし急ごうかな。ただこの町が大きすぎてみんながどこにいるか検討がつかないんだよね」


 揚げパンを頬張り町の様子を眺めていると遠くで爆発音がして赤い土柱が昇る。


「おい! ありゃなんだ!」

「あっちは闘技場の方だ!」

「今日は闘技場休みだろ? なんだってんだあれは」

「普通大会でもあんな爆発起きねえって」


 町の住民が騒いで集まってくる。少しでも見ようと高い所へ上り皆がわいわい騒ぐ。

 そんな騒ぎに兵士達がやって来て住民を怒鳴り諌める。


「いいから落ち着け! あれは四天王のリオナソ様が無法者を成敗されているのだ! 分かったら仕事に戻れ」

「おお! リオナソ様ならあの爆発もうなずけるな」

「見てみたかったなあ」


 騒ぎながらも自分仕事に戻って行く住民達。

 兵士のリーダーはそんな様子を見てホッとため息をつくと部下を連れて戻って行く。


 商店街を抜けて住宅街に差し掛かったとき兵士のリーダーは突然顔を捕まれ建物の間に引きずりこまれる。

 薄暗い建物の間にある壁に顔を持ち上げられ抑えつけられる。


「あっちの闘技場にいる人って誰か知ってます?」


 暗闇に光る赤い瞳が聞いてくる。答えに戸惑っていると顔の締め付けが強くなり顔が砕けそうになり必死に答える羽目になる。


「い、いう。刀を持った女だ。そう聞いている」

「燕さんか」


 兵士のリーダーは拘束を解かれ地面落ちる。慣れてきた目で相手を見ると銀色の髪に赤い瞳の少女。

 薄暗い場所にあっても目立つ姿が妖美であり一瞬目を奪われる。


「お、おまえ、お前は誰だ。あいつらの仲間か?」

「そうですけど」


 あっさり肯定され拍子抜けする兵士だが、この少女に脅された恥ずかしさもあり自分でも情けない台詞だとは分かっていたが、口にだしてしまう。


「い、今頃行ってもリオナソ様にお前の仲間はもうやられているはずだ」

「ん~大丈夫です。私の仲間は強いですから」


 ペンネはにこやかに笑うと兵士に袋に入った揚げパンを渡す。


「私はもう行くのでそれあげます。美味しいですよ」


 羽を広げると上空に飛び立つ。その様子を美しいと思ってしまい魂が抜けた様にしばらく眺める兵士。

 意識が戻ってくるともらった揚げパンを食べてみる。


「確かにうまいな」



 ***



 光の粒が町の上空を高速で飛んでいくと町から離れた建物中に落ちる。


「っとスピカ殿に鍛えられているからこれぐらいの着地は問題ないな」


 燕は地面に軽やかに降り立ち辺りを見回す。

 突然明かりが灯され薄暗かった辺りを眩しく照す。


 うおおおおおお!!!


 突然の歓声が起きると拡声器で話している様な声が響く。


〈皆様! 本日の可哀相な犠牲者は……えーーと、つ ばめ、燕! 魔界の沼近くのオーガの田舎村から出てきた娘! 整った綺麗な容姿に騙されちゃいけない! なんとあの極悪非道の魔王狩りシシャモの一味なのだから!〉


 燕は辺りを改めて見回すと円形に囲われた高い壁がありその上に観客席が設置されている。会場は観客と言うか鎧を着た兵士で埋め尽くされている。


「闘技場ということか」


 状況を把握するとアイテムボックスから刀を取り出し手に取る。


〈おおっと! 極悪人の燕! 武器を手に持ち臨戦体制だあ!〉


 観客を煽るような口調で盛り上げる進行役に燕は感心していた。


(拙者はああやって場を盛り上げることが苦手だからな。冗談の1つでも言えたら良いのだろうが)


 燕がそんなことを思ってるとは会場の誰もが考えてもおらず、神妙な顔で考える燕を見て恐怖で動けない位にしか思っていなかった。


〈さてさて、焦らしても仕方がないので早速いきましょう! まずは、っていうかこれで終わりかも! ミノタウロス兄弟の登場だ!〉


 壁の一部が開き2人の巨漢が現れる。


〈さあ、この兄弟実は双子だあ! そっくり過ぎてみんなどっちがどっちか分からない! でも大丈夫! 本人達も朝起きたらどっちか分かんなくなるってんだから!〉


 会場がドッと笑う。


「なに!? 双子って本人も分からなくなるのか。知らなかった」


 約1名信じている人がいた。そんな燕に巨大な斧を持ったミノタウロスの兄弟は鼻息荒く歩み寄る。


〈さーーて極悪人の燕! ミノタウロス兄弟、ミロとムロの攻撃にどれだけ耐えれるのかあ!? 因みに右がミノで左がムロだ!〉


「む、右がミノ……いや待てあの喋っている者からの右ならムロなのか?」

「おい! なにぶつぶつ言ってやがる。恐怖で頭おかしくなっちまったか?」


 ミロとムロがバカにする様に笑うと2人同時に斧を振り上げる。


「一瞬でミンチにしてやる我ら兄弟の固有技をくら──」


 ドゴーーーーンと爆音と振動が起き土煙が上がる。会場では何が起きたか分からず皆が騒いだり立ち上がってキョロキョロしているがすぐにざわざわしていた会場が静かになる。


 闘技場の壁の一部が倒壊し闘技場の真ん中には燕が1人立っているだけ。


「すまない、結局どっちがどっちか分からなかった」


 申し訳無さそうに燕が呟く。






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