その2 四天王候補にゃ!

「町を発見したぜよ。後1時間も歩けば着くはずちや」

「1時間って結構あるね」


 バトからの早い知らせに嬉しくもありこれから歩く時間を考えると憂鬱になる紅葉がめんどくさそうな表情をする。


「これも修行みたいなものだ。スタミナをつければ紅葉殿の闇魔法もガンガン撃てるんじゃないか?」

「スタミナ? MPじゃなくて?」


 燕と紅葉が一緒に首を傾げる?


「技も魔法も出すにはスタミナが必要だが? 魔法使いだって基本は走り込みだからな」


 グランドを走る魔法使いを想像する紅葉。


「なんかイメージと違うね」

「紅葉は住んでた場所が違うにゃ。やり方も違うんじゃにゃいか?」

「ふむ、確かに」


 シシャモに言われ納得する燕。


「みんな止まってくれ、この先に誰かおる」


 バトが全員を止め何か確認している。


「誰かって町が近いなら人の行き来もあるしそう言うのじゃないの?」

「う~ん、装備バッチリで10人程立って、誰かを待っちゅー感じなんやけどな」

「行ってみるしかないにゃ。どのみちそこへ向かうしかないからにゃ」


 シシャモの意見に賛同し皆が歩みを進める。



 ***



「ヤーク様本当にここを通るのでしょうか?」


 ヤーク様と呼ばれた体長3メートルはある大きな豚の顔をした魔物。以前シシャモ達が出会ったオークとは比べ物にならないくらいの大きさだ。

 装備品も綺麗な装飾が施され品を感じさせる立派な物を着ている。


「情報筋だと俺らの町『メガロ』に向かってきているのは間違いない」


 ヤークは頭に被っている兜の上から頭を掻きながら遠くを見つめる。

 テンションが上がったのか突然声を張り上げる


「我らが偉大な魔王ビアシンケン様に楯突くものは俺が始末してやる。町で迎え打つ前にここで消してくれる」

「おお! 流石ヤーク様。魔王ビアシンケン様が誇る四天王候補です。我々も微力ながら加勢致します!」


 部下に煽てられ照れるヤークの元に空から降りてきたワシの魔物の部下が報告にやってくる。


「ヤーク様、手配書の者と思われる人物達がこちらを目指して移動中です。後30分程でここを通ると思われます」

「情報通りか、腕が鳴るな。お前ら俺達の力を見せつけるぞ! 我々が魔王に楯突く不届き者め! 俺の斧で粉砕してくれるわ!」


 ヤークが吠え、部下達も怒号をあげる。



 ***



「って感じや。音声から私達を狙うちゅーのは間違いないのぉ」

「うわーー暑苦しい。汗臭そう」

「さっき四天王じゃなくて候補って言ってたよね? なにさ候補って?」

「ふむ、あのヤークとやら、拙者の峰打ちに耐えれるか」

「なんかスゲーーな。戦うのか? 魔王から向かってくるとかシシャモ達ってスゲーーな」


 バトのドローンからの中継を見て皆がワイワイと騒ぐ。


「ビアシンケンとやらが話が通じる奴かは知らんけど向かってくるなら戦うにゃ。

 と言うか最近思ったのにゃが、話合うのめんどくさいにゃ。

 どうせ向かってくるならこっちから先に粉砕した方が早いにゃ」


「流石シシャモ♪」

「圧倒的力でねじ伏せる、これぞ魔物道」

「いいなその考え。単純で好きだぜ!」

「効率的や。利にかなっちゅーよ」

「え? え? なにこの戦闘民族達……あっちの人達笑えないじゃん」


 シシャモの意見にほぼ皆が賛同する。

 女の子が3人揃うとかしましいとよく言われるが魔物もその例外ではなく6人も女の子が揃うとただただ喧しい。


 魔王討伐に向かう一向にとは思えない賑やかさを周囲に発しながら進むと前方に暑苦しい男達が隊列を組んでシシャモ達を威圧してくる。


「お前らが我が魔王ビアシンケン様に楯突こうと言う愚か者どもだな! 俺の名前はヤーク! 偉大な四天王の候補者だ!」


 大声でヤークが名乗ってくる。シシャモが1人前に出る。


「シシャモにゃ。魔王ビアシンケンって3大魔王の1人かにゃ?」


 シシャモの質問にヤーク達が失笑する。


「そんな事も知らないで我らが魔王に楯突いたのか! よく聞けビアシンケン様は3大魔王の1人、いずれこの魔界大陸を支配される方だ!」

「ふ~ん、ありがとにゃ。じゃあビアシンケンに会わせてほしいにゃ」

「会って何をするのだ?」

「にゃ? 別にあたしの探している魔王か確かめるだけにゃ。違うならどうでも良いにゃ」


 シシャモの答えにヤーク達がキレる。


「ふざけるな! 我らが魔王をどうでも良いと言うか! 侮辱しおって、死を持ってもその罪償えぬと知れ!」


 5人の魔物の兵が一斉にシシャモを襲うがシシャモが拳を突き上げると鎧が砕け兵達が宙を舞い地面に落ちていく。

 この時ポムのレベルが3上がったので5人とも一瞬で命を散らした事になる。


(な、なにさあれ。どっかの星座の鎧着て戦う人みたいな技)


「ふむ、シシャモ殿は変身しなくても強いな」

「シシャモカッコいい」

「スゲーースゲーー!」

「ふーーむ、ええやつおらんかなあ」


 シシャモサイドの外野は騒がしいがヤーク達は言葉も出ない。


「なんだ、あいつ。ミケ族って報告があったが嘘だろ」


 怯むヤークだが手に持つ斧を握りしめ己を奮い立たせると斧を振り上げ突進する。残り兵達も一緒にそれぞれの武器を手に突っ込んでくる。


「うおおおおおお!」


「変身にゃ!」


 差し込まれるフロッピーディスクと共に光に包まれ、赤い仮面が見えた瞬間に兵達は絶命し宙に舞い上がり、ヤークは鎧を砕かれシシャモの拳が突き刺さっていた。


『必殺 シシャモパンチ』


 空中で爆発が起き塵が空から落ちてくる。そんな背景を背に変身を解いて戻ってくるシシャモ。


 一部始終を物陰から見ていた者はこの事を知らせようと背中の羽を広げ飛び立つ。


「ヤーク様を1撃で……ビアシンケン様に報告を」


 ワシの魔物が羽を懸命に羽ばたかせるが進まない。


「なんだ?」


 魔物が足を見ると銀色の手が足を握っている。

 突然グンっと引っ張られ地上に戻されると銀色の顔に青く光る目を持つ見たこともない魔物が言葉を放つ。


「隠れても無駄やき。われフロッピーディスクになれ。スパーク!」


 突然電撃が走り体が痺れると地面に叩きつけられる。


『必殺 バラバラ解体ショー(強制ドロップ100%)』


 放送出来ない状態で解体されていく魔物は余すとこなくドロップアイテムとなる。


「羽が欲しかったんや。シシャモ喜ぶかな」


 羽を体内に入れ解析を行いながらルンルンでシシャモの元に戻るバト。


 バトが戻るとそこには1人の老人が空中に浮かんでおり皆が大きな魔方陣の中で光に包まれていた。


「ワシの名はブラート。偉大なビアシンケン様に仕える四天王が1人だ。お前ら全員を相手にするのはちっと辛いからの。バラバラにしてやるから皆に可愛がって貰うとよかろうて」


 ブラートが杖を振ると光は大きくなり皆が消える。


「だははははは、ビアシンケン様に楯突いた事後悔して死ぬがよかろう!」


 笑い声と共にブラートが消えていく。


「ありゃ、うちだけ置いてけぼり? 走れってこと?」


 ちょっぴり寂しそうなバトは町へ向かって歩いていく。

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