その29 回復師にゃ!
沈む船から数人の人間が命からがら船の破片に捕まったりして上陸を果たす。
「ムダム小隊長、これからどうしますか」
ムダムと呼ばれた男を含む5人の兵はシシャモ達が戦っている海岸とは反対方向に向かっていた。
「そうだな、とりあえず脱出するために船を確保することだ。島民を脅せば船ぐらい見つかるはずだ」
「ですが先程のような魔物がいた場合はどうされますか?」
「あいつらは魔界大陸から来たやつらのはずだ。でないとあの強さは説明がつかん。この島のやつらはレベル10以下で調整しているからな」
ムダムと1人の兵が歩きながらこれからの行動を話し合っていると他の兵が報告しにやってくる。
「ムダム小隊長。島民を発見しました」
「でかした。案内しろ」
***
ムダム達が一軒の家に行くと小さな女の子獣人と男の獣人がいた。
「ほう、この子は連れて帰れば少しは献上品になるかもしれん。おい! 貴様この島に船はないか」
怒鳴るムダムに男は無言で睨む。そんな様子を鼻で笑うと剣を抜く。
「まあいい他の奴に聞くとするさ。それよりもその子をもらってくぞ。献上品と人質になるかもしれんからな」
そう言うや否や剣を振り下ろし男を斬る。
血を流しながら倒れる男。
「とーーちゃん!?」
女の子が泣きながら父にすがり付く。それを無理矢理引きはなそうとする兵達。
「おい! てめえら! その手を離しやがれ!!」
突然怒鳴る声に驚くがその声の主を見て余裕の表情に変わる。
「お前はここの島民だな。さっきのやつらは純潔、お前は混ざりものだから分かるぞ。
それにこいつも連れていくぞ中々いい女だ」
「なんだぁ! おまえら気持ち悪いんだよ!!」
そう叫びながら手に持った棒を振り下ろすが簡単に止められる。
そのまま後ろから羽交い締めにされ暴れるが逃げ出すことが出来ない。
「この! 離しやがれ!! さわんな」
暴れる少女を見てニヤニヤする兵達。
「ったく! ポム勝手に出ていかないでよ!」
再び声がして皆が注目する。
「なんだ、お前?」
突然知らない人から声をかけられ驚く紅葉。驚きながらも状況を把握すべく落ち着いて見る。
知らない鎧を来た男が5人。1人はポムを羽交い締めにしていてそのポムにもう1人が剣を向け脅している。
床に血を流し倒れている獣人の男とその後ろに小さな女の子をもう1人の男が脇に抱えている。
残り2人は紅葉に剣を向け近づいてくる。
1人の男が紅葉の頬に剣を向け脅しながら訪ねる。
「何者だと聞いている! 答えろ!!」
剣を前に恐怖で声も出ない紅葉。そんな紅葉にポムが暴れながら訴える。
「紅葉! お前つええんだろ! このままだとそこのおっさんが死んじまう」
「うるさい、だまれ!」
兵の1人がポムを殴る。
「頼む……助けて」
ポムの声を聞いて黙ったままの紅葉が胸にかけてあるワンウルフの子供から貰ったペンダントを服の上から触る。
「これって貴方達がやったんですか?」
「は? なにボソボソ喋ってんだ。もういい死ねよ!」
兵が剣を振るおうとするが手が止まる。
「な、なんでここに盾が……」
「ねえ? なんでこんなことするの? 弱いものいじめって楽しいの?」
ムダムが焦った様子で他の兵に指示を出す。
「こいつ、さっきのやつらの仲間かもしれん一気にいくぞ!」
一斉に飛びかかろうとする兵達は意味も分からず突然吹き飛び壁に叩きつけられる。
「なにが起きた」
「説明しても分からないだろうけど、同じマスに素早くアイテムを2個重ねると最初に出したアイテムは弾かれるんだ。つまりそういうこと」
ムダムが剣を構え斬りかかるが盾に阻害され手を上げたままになる。
「ボクは春風 紅葉。シシャモの仲間さ」
ムダムの前に大ハンマーが現れたと思うと弾け飛び鎧を砕きながら壁に打ち付けられる。
「な、なんなんだお前らは」
血を吐きながらムダムが絶命する。その刹那他の4人の兵が四方に吹き飛び命を散らす。
紅葉が涙を拭いながら呟く。
「ボクだってこんな事やりたくないよ。でも人を平気で虐げる人間は許せないんだ。やられる方の気持ちを知ろうともしない貴方達みたいな人は」
立ち上がろうとしているポムに手を貸し立たせる。立ち上がったポムは紅葉の肩を借りて少女の父の元へ連れていくようにお願いする。
ポムは父親の横に座るとそっと腕をまくりあげる。
右腕を上げると、胸の傷から血が流れている父親の頭めがけて手を振り下ろし叩く。
バシッと音が響く。
「ちょ、何やってんですか貴方は!!」
紅葉が慌ててポムを止める。
「止めんな、見てみろ」
紅葉がポムに言われ見ると獣人の男の出血量が少し減った気がする。
再び男の頭を叩くと『ー5』の表示が出たあと『+150』の表示が出る。
心なしか男の顔色も良くなってきている。
「つまりどうゆこと?」
「あたいは回復師だ。ただし頭を叩かないと回復出来ない。つまりそゆことだ」
しばらくバシッバシッと男の頭を叩く光景は続くのを微妙な気持ちで眺めている紅葉だったが、確実に男が回復しているのと娘である小さな女の子がその様子を祈るように見ている事から島の人の間でこの回復の仕方は周知の事実であるのだろうと納得させる。
「よし! 終わった。マオカ、父ちゃん連れてベットに寝かせような」
ポムが男を肩に担ごうとするがよろけるので慌てて紅葉が手伝う。
「あれ? 軽い……」
男の人を軽々と担いで困惑する紅葉にポムが絶賛する。
「流石レベルの高い奴は違うな! 紅葉ってレベルどれくらいだ?」
「レベル? ああ72だけど」
「スゲー、あたいなんて8だからな。この島に住む奴はレベルが上がらないよう監視されてるから皆一桁なんだが、あたいも上がれば紅葉みたいになれるかな?」
ポムに絶賛されちょっと調子に乗った紅葉が
男を1人で担ぐ。
背負えば良いのに男をお姫様抱っこをして担ぐ紅葉を尊敬の眼差しで見るポムなのであった。
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