その28 上陸阻止にゃ!
船が燃えながら海に沈んでいく。その様子を見つめる赤い瞳の少女ペンネは少し苛立つ表情を見せる。
「思いの外時間がかかっちゃた。対魔法戦って初めだったとはいえ一隻上陸を許してしまったよ……」
真ん中の他より大きい船はもう砂浜に突き刺さるように止まっている。
「ここで文句言ってても仕方ないね。あっちに向かおう」
ペンネが陸の方に向かって飛んでいく。
***
同じ頃左舷側の船も一隻沈み始めていた。
「ペンネみたいに1発の威力がないのと射程が狭いのが問題や。後、ビーム兵器のエネルギー効率の悪さも課題や」
バトが燃え盛る炎のなかで口に手をあて考えるように歩く。炎の中から1人の男が飛び出してくる。
「化け物め! これでもくらえ!」
男は手に炎を集めるとそれをバトに向かって飛ばす。炎はバトにあたると飛散して消える。
バトの頭上に『0』の表示が出る。魔法を使った男は恐れ腰を抜かして後ずさる。
バトは気にする様子もなくペンネが沈めている船を見る。
「魔法、この兵器についてもうちっくと知る必要がある。今後対策が必要になるかもしれん」
バトが左手のガトリングを回し男の息の根を止めると沈み始める船を蹴って海上へ飛び込む。
***
先頭を走っていた船が乱暴に砂浜の浅瀬に乗り上げ停止すると船上から飛び降りる人間達がいる。
皆、兵士とは違う個性豊かな装備をしており飛び降りるやいなや武器を構え、浅瀬を走り始める。
砂浜に着物姿の1人の少女が立ち刀を構える。
「なんだ! オーガの女か?」
「オーガの平均レベルは20~30だ、40オーバーの俺らの敵ではない」
男女混合のチームは各々手に持つ武器に力を込めオーガの少女、燕に向かう。
が、たどり着く前に風のような斬撃が男達の間を走り抜けると鎧ごと切られ崩れていく。
後方の魔法使いが一斉に炎や水、雷、風など多種多様な魔法を燕に向け放つ。
それらの魔法が全て弾き飛ばしながら水面が水飛沫をあげ進んでくる。
気がついた時には魔法使い達のすぐ近くに燕が立っていた。驚きの声を出す間も無く図上に表示される文字。
『必殺 アマツバメ』
燕を中心に綺麗な円が描かれる。その円は海面に波紋を広げながら周囲の人間を全て切る。
「峰打ち……ではない」
カチンと音を立て刀を鞘に納める。
***
上陸した船上で赤い鎧の屈強な男が燕の様子を見て残っている仲間に注意を促す。
「おい、あれはなんだ。その辺の魔物とはレベルが違うな。魔王級と言われてもおかしくない。隊を組んで討伐するぞ。
それと中隊長さんあんたらも砲撃で俺らを援護してくれないか」
中隊長と呼ばれた男が頷き兵に指示を出す。
「簡単な護衛の仕事だって聞いて受けたけど、とんでもないな」
「申し訳ない、ダヴィットさんと他の冒険者の方々。私達に力を貸してくれませんか」
中隊長がダヴィットと呼ばれた赤い鎧の男をはじめとした冒険者達に頭を下げる。ダヴィットがそんな中隊長の肩を叩き船の端まで歩いていく。
「王国軍の中隊長であるローベルさんが謝る事じゃないさ。まあ帰ったら報酬金上げてくれよ」
そう言うと冒険者達は船から飛び降り浅瀬を走り始める。中隊長、ローベルの指示が飛び砲撃が開始され燕を狙い撃つ。
燕が砲弾を弾いているところに数十人の兵が捨て身で攻撃をしている間に冒険者達が攻撃に加わる。
砲撃と冒険者に1人で対応する燕の元にペンネが降り立つ。
「こいつは弓を引くのが詠唱時間だ弓を引かせないよう細かい攻撃を与えろ!」
ダヴィットの指示で弓や魔法で牽制しつつ剣などの絶え間ない攻撃がペンネに繰り出される。
「むう、燕さんがいるから大きな魔法は使えないし。ダメージはあまりないけど攻撃もなかなか出来ない……けど」
空から赤い仮面のシシャモが落ちてくると兵を蜘蛛の糸を巻き付け空中に投げ砲弾とぶつける。
魔法を素手でかき消し、剣や盾を砕いていく。
唖然とする人間達を殴り飛ばし一撃で絶命させる。
「な、なんだこいつは! 他の魔物とレベルが違う、恐らくこいつがボスだ! 俺がやる、サポートを頼む」
ダヴィットが剣を構えシシャモと向かい合う。
「俺は冒険者のダヴィット。魔物に名乗る風習があるか知らないが名乗らせてもらうぜ」
「あたしはシシャモにゃ。お前ら人間に聞きたい、この島に何しに来たにゃ」
シシャモの問いにダヴィットは剣を向けたまま答える。
「そりゃあ珍しい魔物を捕まえに来たんだろう。俺らはその護衛だがな」
「お前はあたし達魔物が珍しい人間を捕まえに来たらどうするにゃ」
ダヴィットは少し考えて答える。
「全力で抵抗して叩き潰す」
「なるほどにゃ」
シシャモの体が全身赤くなる。
「全力でいくにゃ!!」
ベルトのボタンを叩きながらその場で回転して繰り出される蹴りはダヴィットの剣、鎧を砕きながら海上の遥か彼方に飛ばす。
やがて遠くで爆発が起こる。
何が起こったかも分からない冒険者や兵達は、シシャモ、ペンネ、燕に討伐されていく。
***
船上でローベル達残存兵は目の前の惨劇に理解が追い付いていなかった。
「なんなんだこれは、なにが起きている。たかだか3匹の魔物にこれだけの人数がやられると言うのか」
あせるローベルの後ろから声をかけられる。
「うちは魔物やないけんど、人数に入れて欲しいぜよ」
驚くローベルの顔を銀色の手に突然掴まれると引き寄せられ銀色の少女、バトに宙に吊るされた状態になる。
顔面の骨が砕けそうで声も出ない。
「おまさんが隊長やか?」
バトが訪ねるが声も出ず苦しそうにするローベルだが周りの兵達が騒いで攻撃を仕掛けてくる。
「中隊長をはなせ!!」
1人の兵がそう言いながら襲いかかる。バトはローベルを左手で掴んだまま右手をガトリングに変えると周囲の兵を蹴散らす。
「やっぱり隊長で合うちょったね。それじゃあ船ごと消えてもらうき」
ローベルを甲板に叩きつけてめり込ませると両肩にビーム砲を展開すると空を見る。
「残念ながら月は出ちょらんけど全力で撃たせてもらうき」
両肩の砲身にピンクの光が集まり始める。
『必殺 バトキャノン』
2本の太いビームが船を裂いて崩壊させていく。
海岸沿いで事の一部始終を見ていた島民達は海上で燃え崩れる5隻の船を背に浅瀬を歩く4人の魔物を見て驚き歓喜するのだった。
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