その25 バトの初転移にゃ!

「はいはいお呼びですね」


 バトが通信して15分ほどでスピカが現れる。


「また派手にやったわね」


 あちこちに穴の空いた道路をみてスピカが呆れた顔をする。


「最近戦闘が突然始まるから結界が間に合わないのよね。だからあんまり派手にやらないでよ」


 スピカが力を溜めながらぼやく。


「えぇとあっちは砂漠だったわね」

「うちは初めての転移や。わくわくだ」

「転移マスターのボクに任せなよ」


 楽しそうにするバトと自慢げな紅葉を含め5人が雷に包まれ消える。


「さて、私は別の星に行きますか」


 スピカは姿を消す。


 ***


「おぉ~本当や! 視界の左上に丸がある! ステータス……ほうほう、はあはあ、なるほど、なるほど」


 砂漠の木陰でステータス画面を開き関心しているバトとその後ろで自慢げな紅葉がいる。


「レベルは60で、スキルは『オールレンジ』『高速移動』『鉄の体』と。必殺技が『多数』ってなんなが?」


 バトの質問に皆が自分のステータス画面を開く。結果シシャモ、ペンネ、燕は元の固有技が必殺技に変わって『他多数』と表示されている。


「にゃ? これって書き変わってないかにゃ?」

「うん、この間見たときと変わってる」

「なんでもありだな」


 悩む3人の後ろで別の悩みを持つ紅葉。

(スキルは『in and out』のみ。まあこれは良いとして、なんで必殺技の項目すらないのさ)


「さてと海を渡る方法を探さないとにゃ」

「海? なんか小舟でもあればうちがスクリューなりジェットなりで動かすこと出来るけど?」

「にゃに!? バト凄いにゃ。じゃあ船を探せばどうにかなるにゃ」


 バトの手を握り喜ぶシシャモの後ろで嫉妬の炎を燃やすペンネがいるが皆気づかないふりをする。


「じゃあとりあえずワンウルフ族に会ってみてはどうだろうか? 船を探すにしてもなんか知っているかもしれないし」


 燕の提案にシシャモ達が同意し前回の戦闘場所に向けて出発を開始する。


 ***


「船でしたら我々が木をくり貫いただけの簡単な物を作っています。前に来たときシシャモ様達が海を渡りたいと仰ってましたから少しでもお役に立てればと思い作ってました。是非使ってください」

「おぉ~~なんていい人にゃ! しかもくれるなんて最高にゃ」


 ワンウルフ族の長であるオレガノ達のもてなしを受けて朝を迎える。

 海に船を浮かべると5人が乗り込む。


「なんとか5人乗れた。じゃあ行くぜよ!」


 バトが両手をスクリューに変形させると船が進み始める。ワンウルフ族に見送られ島へ向かって進む。



 ***



「バト凄いね。どういう仕組みなの?」

「仕組み? 秘密や」


 手のスクリューを器用に操り船を進めるバトに紅葉は興味津々である。


「島が見えてきたね。港と町みたいのも見えるけど、なんか見える限りだと建物が古いというか……」

「ボロイにゃ」


 建物の様子に不安を感じながら船をつけ上陸する。

 陸に降りても人の気配があまりしない。


「家に生命反応があるよ。隠れて見ゆーみたいだね」


 バトの言葉に皆が建物を見ると確かに人がこそこそこっちを見ているのが分かる。


「まあいる人に話を聞けば良いにゃ」


 人を探して歩いていくと誰もいない出店が並んでいる。


「お店も開いてないし人の気配がしないね」

「泊まる場所とかあれば良いのだが」


 ペンネと燕が辺りを見回す。そのまま無人の商店街を歩き進むと古びた教会に突き当たる。


 扉が片方無いのでそちら側を潜り中に入る。長椅子が3列程並び、前に祭壇の様なものと朽ちた像が飾ってある。


「ふ~ん、こっちの世界にも宗教とかあるんだね? 魔物も神様信じるんだ」

「あぁん? 信じねえよそんなもん。信じんのは人間と半端もんだけだ」


 紅葉の問いに答える突然の声にシシャモ達が注目すると祭壇の上に寝転がってリンゴを噛る女性がいた。修道院のシスターの様な格好を着崩して片足を曲げ立てて寝転がってるので際どいところまで足が見えている。


「んだぁ? 祈りにでも来たのか? やめとけよ、祈っても腹膨れねえぞ」


 その女性は気だるそうに立ち上がる、三白眼なのもあって目つきが悪い。歯が全てギザギザと尖っており肩まであるショートの黄色い髪。背は燕より少し高くスタイルはかなり良い。

 大きな胸にペンネと紅葉が釘付けになる。


「いや祈らないにゃ。それより泊まるとこと食べるとこ知らにゃいか? あたしら旅してるんだけどこの辺何もなくて困ってたにゃ」

「……」

「なははははは! お前面白いな気に入った、泊まりたいならここ勝手に使えよ。この村に宿屋なんて洒落たもんはねえ。

 食いもんは朝6時から8時の間しか市が開かねえからそのときに行きなよ」


 女性が愉快そうに笑い出してシシャモの肩を叩くと全員の顔を見る。


「お前らなんの集まりだあ? 変わった奴しかいねえじゃんか」

「変わってるのはお互い様にゃ。あたしはシシャモで、ペンネ、燕、紅葉、バトにゃ」


 女性がバトの頭をコツコツ叩きながら聞いている。


「あたいは……まあなんだ、名前なんてどうでもいいだろ! とりあえず適当にゆっくりしてろよ」

「いや名乗れ。どうでもようないって」


 頭を叩かれるバトが怒った様に言う。


「なんだあ、お前ほんと固い奴だな。こまけえんだよ」

「うちは全身固い女や。そこまで頑なに名前を名乗らんと逆に知りたくなる」


 名前を教えてくれない女性にバトがしつこく絡む。そんなことをしていると教会の奥の扉が開いてシスターの格好をした年老いた獣人の様な女性が現れる。


「騒がしいね。お客さんかい?」

「あ、ああ、ばあさん騒いですまねえ。こいつらをここに泊めるんだが良いだろ?」


 シシャモ達を見て優しく微笑むと


「旅人かい? 珍しいねえ。本当に何も無いところだけど部屋も空いてるとこ使って良いからね」


 シシャモ達がお礼を言って自己紹介をする。


「丁寧な旅人だねえ。私はライムよろしくお願いするよ。ところでポム、あんたもう少し言葉使いどうにかなんないのかい?」

「あ、いや」


 ポムと呼ばれた女性が盛大に目を泳がせる。

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