その19 略してバトや!おっと忘れちょった、にゃ!

「いたたた、天井が落ちるとか最悪だ」


 紅葉が崩れ落ちた天井を見て文句を言う。

 少し落ち着いて辺りを見回す。


「おじさん達どこに行ったんだろう?」


 立ち上がって薄暗い部屋を見る。電気が落ちているのか辺りが見えない。

 アイテムボックスから火のついたランタンを取り出す。


「本当に便利だよね。火をつけたまま収納出来るし」


 窓際達を探し歩くと筒上の水槽の様な物が数本立っている場所に出る。


「確かロボットを作るとか言ってた場所だったような」


 記憶をたどりどの辺りの場所か思い出していると紅葉が入ってきた方とは別の扉が開く。


「おい、この辺りにいないか?」

「これだけ探しても見つからないって逃げたんじゃないか?」

「いや、別動隊からの報告だとこのラボからは出ていない。このラボ内に潜伏しているか地下を通って逃げているか。その道地下を疑うべきだ」


 3人の銃を持った黒いスーツを着た男達が入ってくる。


 紅葉は慌ててランタンを収納すると机の影に隠れる。

(銃を持ってる。ボクは攻撃手段が無いから隠れるしかないな)


「おいこれはなんだ?」

「報告にあった人形戦闘用ロボじゃないか?」

「少女みたいな姿してるけど強いのかこれ?」

「でもここの博士のお陰でベルトや戦闘ロボなんかの兵器の研究は進んだってよ。その姿は趣味かもしれんが優秀なのは間違いない」

「なんとしても捕らえてボスの所に連れていかないとな」


 男達の会話を聞きながら影からそっと覗く。

 水槽の中に浮かぶ様に銀色のロボットがいた。

 顔はツルッとして大きな目と思われるものがついている。口は無いが鼻を表現しているかのように一部がポツッと飛び出ている。


 スカートの様なものから足が出ている様に見えるデザインといい、手足や体がなんとなく丸みを帯びている事から女性、どちらかと言うと少女みたいな外見だ。


 頭から出ている2本のパーツがツインテールの様に見えるのが益々幼く感じさせてしまう。


(おじさんの趣味なのかな……あんまり強そうじゃないけど兵器なんだよね)


 もっと見ようとぐっと体を伸ばしたときに下にあったゴミ箱を蹴る。


「あっ」


 一斉に男達が散開すると銃を構える。そのまま身を隠しながら移動を開始する。


(まずい、見つかる。回り込まれる前にこっちからどうにかしないと)


 紅葉が盾を持ち移動を開始する。


 撃たれる銃弾を弾きながら移動していく。


(痛い、痛い! 手がビリビリする)


 盾を次々に出しながら受け止め移動していく。


(いけるこれなら)


 紅葉が油断した瞬間に頭に銃口が向けられる。そしてライトが照らされ紅葉は顔をしかめる。


「悪いねお嬢ちゃん。俺たちもプロだから逃がす訳にはいかないんだ」


(銃弾は陽動で1人回り込んでいたってこと!?)


 1人の男が端末を見て呟く。


「こいつは博士の姪子。春風 紅葉だな」


(プライバシーってなんなのさ)


 心でぼやきながら後退りする。


「関係者なら話しは早い窓際博士を探しているんだが知らないか?」


 紅葉が首を横に振ると一発の銃声と共に地面が抉れる。


「次は足を撃つ。嫌なら知ってること、心当たり話てくれる?」


 男がニッコリ笑う。優しい微笑みのつもりかもしれないが逆に怖い。


 紅葉が更に下がるが水槽の周辺機器にぶつかる。


「観念して話した方が良いよ」


 そう言いながら足に向けられる銃口にアイテムボックスの選定が上手くいかない程恐怖する。

 倒れそうな体を支える為後ろの機器に手をつく。


『認証開始…… 照合…… 春風 紅葉 解放します』


 突然の音声に皆が慌てる。


 ロボットの入った水槽の水位がどんどん下がっていく。


「なんだ! お前何をした」


 男が銃を紅葉に向ける。

 その男の顔が掴まれる。紅葉を含めた3人が手を見ると銀色の機械の手、肘から上の部分だけで銀のワイヤーみたいなのが水槽まで繋がっている。

 その水槽を銀の塊が突き破って腕を男ごと手繰り寄せると目を青く光らせてもう1つの右手で殴り飛ばす。


「まず1人目や」


 その銀の物体に男達が銃を撃つが弾は火花を散らしながら弾かれる。


「女の子に銃撃つとか信じれん。銃はこやって撃つがよ」


 腕を銃の様な形に変形させると男2人に銃弾が放たれる。

 3人の男が倒れると紅葉のレベルが上がる。


「初めてまして、うちはFor military軍事用 Combat戦闘 Mechanical doll機械人形略してFCMって呼ばれちゅうが気に食わん」


 紅葉の目の前のロボットは表情こそ変わらないが今何を考えているか分かるくらい流暢な言葉と体の動きがある。


「そうや! 『バト』と呼んでくれ。バトルマシーンの略や」

「いや、どこにバトルマシーンとか言葉があったっけ?」

「細かいこと言わん」


「ええとボクは春風 紅葉」

「あぁ自称中二病」

「お前、中に誰か入ってない? 本当にロボット?」


 バトが腰に手を当て胸を張る。


「その辺のロボットと同じにせんで欲しいな。高性能なんちや」

「それになんなのさ、そのしゃべり方」

「何って土佐弁ちや! 失われた言語やき、おかしいとこあるかも」


 色々突っ込みたいとこはあるが紅葉は堪える。


「シシャモ達が大変なんだ。えっとバト手伝ってくれない?」

「任せちょけ! シシャモ、ペンネ、燕やったか。はよう本物見たいしな」


 バトがどこをどうやったか分からないが背中から出した砲身を右肩にセットすると天井に向ける。


「照準完璧や」


 砲身の先がピンク色に輝くと天井に向けて太いビームが放たれる。


『必殺 バトビーーム』


「なんや? この表示?」


 バトが首を傾げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る