その15 初めてアース堪能の旅にゃ!

 高いビルが並ぶ街並みの上空が黒く曇り始めゴロゴロと鳴るとすぐに鋭い閃光が地上落ちて地面を焦がす。

 落ちた地点には4人の人影が団子状に固まって転がっていた。


「この転移方法やめてほしいにゃ」


 愚痴りながら立ち上がるシシャモが周りを見回すと、落雷のせいで人集りが出来始めているのに気付く。

 目立つことを嫌い4人は逃げるように去る。


「とりあえずこのフクシィーからスタートにゃ。どうせまたロボとやらが襲ってくるはずにゃ」

「それまでまた野宿のお風呂なし生活かぁ」


 うんざりした表情をする3人。


「ふっふっふ、事情はなんとなく分かった。ボクの存在を忘れてもらっては困るな」


 紅葉が右手にカード状の身分証明書を持って不敵に笑う。


 ***


「春風 紅葉様とお連れの方3名の合わせて4名様の朝食付きでのご宿泊ですね」


 フロントの従業員から部屋のカードキーを受け取ると颯爽と紅葉が3人の元に戻ってくる。


「部屋は取れたよ。さあ部屋へ行こうか」


 自慢げな紅葉に3人が尊敬の眼差しを送る。

 紅葉を先頭に部屋のカードキーを通すとロックが外れドアが開く。

 それだけで歓喜の声があがる。


「にゃ、にゃんにゃこのベットは……この肌触りと寝心地……zzz」

「この箱の扉開けたら涼しい~」

「これは凄い! これを押したら照明がついて、こっちは窓が勝手に開く!? 何の意味があるのだ。手で開ければ良いではないか」


 部屋に入った3人が好き勝手にいじり倒す様子を見て誇らしげな紅葉は一通り機器の説明をする。

 そんな中、ペンネの持つ端末から電子音が流れる。


「窓際さんからですね」

「あ、多分ボクにかも」


 端末を受け取って紅葉がしばらく話をしている。

 やがて通話が終わり端末をペンネに返すと明るい表情で話を始める。


「無事ってのを伝えたし、今の事情も分かってくれたよ。

 学校とかもどうにかしてくれるみたいだし、何より武器とか作ってくれるみたいだよ」


「それは楽しみにゃ、ところで紅葉は帰らなくて良いのかにゃ?」

「あの女神が無理って言うなら無理かも知れないし一緒に着いていく方向で考えておこうかなっと」


 少し間が空いてシシャモが紅葉の肩をポンポンと叩く。


「そうなったら宜しく頼むにゃ」

「うん、まあそうなったらね」


 シシャモにそう答えた後、紅葉が3人を見て今後の予定を提案する。


「みんなの服装浮いてるから服を買いに行こうと思うんだ。今後もこっちの世界とあっちの世界を行き来するのなら便利だと思うんだけど」

「行きます! こっちの洋服に興味あります。更にシシャモの服なんかも選びたいのです!」


 鼻血を出しそうな勢いで興奮するペンネの推しで服を買いに行くことになる。


 ***

 ──デパートの服売り場にて


「こっちの服は多種多様で可愛いのから格好いいのまであるんだ」


 目を輝かせるペンネと変装程度に服を買いに来たシシャモと燕もテンション高く服を選ぶ。


「ほう、こっちの世界は誰が何を着ても良いのだな」

「アースでは服装は自由だからね。燕は角隠す為に帽子をかぶること前提だからそれに合う感じで、ペンネはなんとなく方向性決まってるっぽいね。シシャモは……ペンネに任せようか」


「分かったにゃ、着るから自分で着替えれるから、大丈夫にゃ」

「本当に? これ後ろにボタンがあるから難しいかも。私が着させるよ」


 試着室に一緒に入ろうとするペンネと阻止するシシャモの攻防は店員さんからやんわりと注意されたペンネの敗北で終わる。


 その後それぞれ気に入った服を数点買い着替える。買った服は紅葉のアイテムボックスへと収納される。


「これでこっちの世界に完全に溶け込めたにゃ」

「これも紅葉さんのお陰だね」

「紅葉殿に感謝だな」


 因みに


 シシャモ……ボーイッシュ系

 ペンネ ……カジュアル系

 燕   ……コンサバ系

 紅葉  ……アメカジ系


 で大体統一。


 3人に感謝され照れる紅葉からの更なる提案でシシャモとペンネのテンションは上がる。


「もう夕方だからご飯を食べに行こう。ボクに着いてきて」


 ***


「こ、これは!? なんなのだこの美味しい食べ物達は」


 ビッフェスタイルのレストランにて燕が驚愕の声を漏らす。

 その後ろで狂ったように食べるシシャモに幸せそうに食べるペンネの姿がある。


「なるほど、シシャモ殿達があんなに興奮するのも頷ける。前回来たときはパンだけでも美味しいと思ったが他の食べ物もここまで美味しいとは」


「みんなが何が好きか分からなかったからビッフェにしたけど正解だったね」


 お腹いっぱい食べた一行はホテル近くの温泉へと向かう。


 ***


「最高、最高だよこの温泉とか言うお風呂」


 湯船に浸かりながらシシャモに釘付けのペンネがブツブツ呟く。

 そして湯船に沈むように3人を観察する紅葉。


(燕は見た目からスタイル良いのは分かってたけど、いつも緩い服を着ているシシャモも割りとスタイル良いんだ……。仲間はペンネだけか)


 もっともその仲間のペンネはシシャモしか見ていないが。


「紅葉、お前が女神を名乗るにゃ! あの性悪女神よりあたし達にとっては女神にゃ」

「本当に感謝してるよ、紅葉さん! そう女神だよ!!」


 色んな意味で感謝してそうなペンネに手を握られ恥ずかしそうにする紅葉。


「あれ? 紅葉さん封印の包帯は良いの?」

「あ、えっとこれ。眼帯があれば短時間なら大丈夫なのだ!」

「なるほど、それで顔とか洗いにくそうなのに眼帯だけは外さない訳なのだな」

「その辺は紅葉の方が詳しいにゃ。今は温泉を堪能するにゃ」


 シシャモが紅葉の質問を制するとペンネはシシャモにすり寄り、燕は湯船に幸せそうに浸かる。

 温泉を堪能し、夜はフカフカのベットで寝て朝はホテルの朝食バイキングを楽しむ。



 そんな異世界の旅を楽しむシシャモ曰く


「ここは天国なのかにゃ!」


 とのこと。

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