その14 紅葉頑張るにゃ! 

 紅葉が砂に埋まったシシャモの元へ走ろうとしたとき後ろで大きな音とワンウルフ族達の悲鳴が聞こえる。


「なんだあれ、サソリとか言うやつだっけ?」


 振り返ると大きなサソリがそこにいた。黒い体が満月に照らされ不気味に光る。

 巨大な尻尾が怯える子供とそれを庇う母親に襲いかかる。


 破裂音のような音が数回鳴り響き尻尾の先端が止まる。

 鋭い針に3枚盾がぶら下がり4枚目の盾に少しめり込んでいた。


(あ、危なかったぁ。盾3枚貫通しちゃったけどここからどうしよう)


 とっさに盾を出したもののその威力と巨体を目の前にして足が震える。


「ありがとうございます!」

「お姉ちゃんありがとう!」


 声の方にゆっくり振り返ると涙ながらに親子にお礼を訴えられる。

 その親子に背を向けサソリを見ながら体の震えを抑える。


「ふ……ふっふふ、ぼくは春風 紅葉。最強の闇魔法の使い手さ! この名前心に刻むがいい! 君たちがそこにいると闇魔法が全力で撃てない! 巻き込まれない様に下がってくれ」


 再びお礼を言われ親子が走り去り気配がなくなるのを感じとりつつ考える。


(さてどうしよう、ペンネ達はまだ戦ってるみたいだし、シシャモを助けないと)


 考える暇を与えずサソリが前足のハサミを振るう。


「だぁーーヤバイ、死ねるこれ!」


 紅葉が立っていた場所に突き立てられるハサミに恐怖する。


(考えろ、どうしたらこいつを倒せるかを)


 尾の針が振り下ろされる。それもなんとか避ける。


(レベル上げてたからよけれてるのかな? 前のボクなら間違いなく死んでる)


 さらに振られるハサミに対し盾を出してみるが呆気なく弾かれ紅葉は吹き飛ばされる。


「いたぁーー、もう一枚盾出してなかったらヤバかったかも」


 左肩から血を流し立ち上がる。薬草を複数使用しHPの回復を行うが血は止まらない。


(ズキズキする。こう言うところだけはリアルなんだこの世界)


 サソリと距離を取りながら出方を見る。


(堅そうだし剣も効かないかも……どうすれば倒す──ん? そもそもボクが倒せる訳ないじゃん)


 紅葉はサソリの頭上に剣を数本出し落とすと走って逃げる。サソリが紅葉を追いかけ始める。

 注意を引くように度々剣などを落としては走る。


 しばらくすると空が赤く光り火の矢が地上へ落ちて大きな爆発が起こる。

 ちょっと間を置いて凄まじい風が吹き荒れデスワームの断末魔が響く。


「もうちょっと、こいつめこっちへ来い!」


 サソリの気を引きつつ走り続ける。

 サソリのハサミをギリギリでかわしたとき、2本の大きな火の矢が飛んできて火がサソリの体で弾け飛びサソリがひっくり返る。


「紅葉さん大丈夫? あれ? シシャモは?」


 空から降りてきたペンネに訪ねられ紅葉は経緯を説明する。


「だから早くシシャモを助けに行って!」


 ペンネが紅葉をじっと見ると羽を広げる。


「シシャモは大丈夫。それよりも紅葉さんの方がボロボロだよ。

 早く倒してしまおうね」


 そう言うと上空へ飛んで行き弓を引く。

 弓と弦の間に氷の矢が現れ冷気を放つ。


「火の耐性はあるみたいだけど氷ならどうかな?」


 大きな氷の矢が上空から放たれひっくり返るサソリに当たると体を包んで大きな氷の花が咲く。


『必殺 ゲフリーレン・ブルーメ』


 そして氷の花は散る様に砕けサソリも一緒に粉々になってしまう。


「凄い!? 一瞬で倒しちゃった」


 唖然とする紅葉の元に燕が走ってきて一瞬で背中に担がれると紅葉をおんぶしてシシャモが戦っていた方へ走り始める。


「大丈夫か紅葉殿?」

「う、うん。大丈夫それよりシシャモを」


 燕が頷くと紅葉の指差す方へ向かって走る。

 やがてたどり着くとワンウルフ族達が穴を掘りその穴から出てくるシシャモがいた。


「いや~死ぬかと思ったにゃ。みんな無事みたいだにゃ」


 シシャモが砂ぼこりを叩きながら照れ臭そうに話す。そんなシシャモにペンネが抱きつくきそれを冷めた目で燕と紅葉が見ている。


「いや、シシャモ様達本当にありがとうございました。これで我々もこの砂漠で生きていくことが出来ます」


 ワンウルフ族の長、オレガノが代表してお礼を述べる。なにかお礼をと言うオレガノ達に対し遠慮するシシャモ。

 そんな中一人の子供が紅葉の元へ走ってくる。


「闇魔法使いのお姉ちゃん、さっきは助けてくれてありがとう。

 これお礼」


 そう言って手渡される木の皮で作ったであろうペンダント。


「あ、ありがとう」

「どういたしまして!」


 そう言って子供は母親の元に走って行く。そのペンダントを見ながら微笑む紅葉の肩をポンポン叩きながら話しかける人がいる。


「うんうん、強くなった。あなたも立派なシシャモ一味ね。これからも頑張って。あなたの能力はあっちに行けば更に飛躍出来るわ」


 紅葉の前に綺麗目な女の人が立っている。


「にゃ! お前性悪女神!」

「な! この人が噂の性悪女神!」


 シシャモの反応に紅葉が一歩下がって身構える。


「可愛いね、いい? 可愛い女神のスピカちゃんよ」

「ぷっ」


 スピカが下を向くペンネに詰め寄る。


「やっぱお前か! この間笑ったのもお前だろ」

「そんなことどうでもいいにゃ。あっちに行くのか? なら紅葉は戻してやれにゃ」


 シシャモの意見に首を振るスピカ。


「無理。もう上司に紅葉ちゃんも仲間になりましたって報告したもん」

「なんですと!? この人噂にたがわず性悪だ」

「なんとでも言って~、それじゃあフクシーから行ってみよう♪」


 スピカが金色の杖を振りシシャモ達の周囲に雷を集め転移を行う。

 雷の目映い光が放たれ皆が消える。

 そんな姿を目撃したワンウルフ族達はシシャモ達は神の使いじゃないかとどよめきたつ。

 後にシシャモ教なるものが出来て皆で岩を叩いて「にゃーにゃー」言ったり、人を助ける時は「ふっふっふっふ、我こそは闇の使い手!」とか叫ぶようになったとか。

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