その11 砂漠の民にゃ!
「ん? 前に何かいないか?」
燕が目を凝らして前方を見る。
「私が見てみますね」
ペンネが上空から偵察し戻ってくる。
「白い衣装に身を包んだ人々が馬のようなものと一緒に集団で移動してるよ」
ちょっと考えてシシャモがペンネを上空で待機するように言う。
「接触してみるにゃ。燕はあたしと一緒に来るにゃ。紅葉はアイテムが使える範囲まで近づいて待機にゃ」
砂漠を歩いて移動する集団の前にシシャモと燕が向かっていく。やがて相手も気付き立ち止まると、数人が前に出て槍の様な物を構え警戒する。
「あたしはシシャモにゃ。こっちは燕。ちょっと尋ねたい事があるにゃ」
白い衣装の者達は顔を見合せ恐らく長と思われる者の判断を待っている。
「何故この様な砂漠まで来たのです。まずはそれを教えて頂けないでしょうか?」
皆に守られる様な格好でいた背の低い嗄れ声の人物がシシャモ達に問いかける。
「この辺りに魔王はいるかにゃ? いれば倒すなり何なりするにゃ。それが目的にゃ」
その言葉に皆が驚き戸惑う。
「なんと砂漠の魔王と呼ばれるデスワームを倒すと言うのですか。にわかには信じがたいのですが」
「別に信じなくても良いにゃ。いるなら話し合うか、倒すかするにゃ。そいつは話せる奴かにゃ?」
「いやぁ無理です。巨大なミミズの様な化物でしかありませんし」
長と思われる人物はそう言って少し考えシシャモに提案する。
「我々砂漠の民はこの地に先祖代々住んでいたのですが、あの魔王が現れてからは逃げる様に砂漠を転々としています。
勝手なお願いですがあやつらを討伐してもらえないでしょうか? 我々では敵うことが出来ません。勿論お礼は致しますので頼まれて頂けないでしょうか」
「……」
「この世界は弱肉強食、魔物が他の魔物に頼んで生き延びるなどおかしいのは分かっています。ですがこの子達の事を考えると……」
数人の子供達が親であろう者にすがってシシャモを見ている。
「どのみち倒す予定にゃ。その砂漠の魔王の情報が欲しいにゃ」
「おぉ、でしたら少しお待ち下さい。我々の準備を整えておもてなしをさせて下さい」
砂漠の民達が近くのオアシスに移動しテキパキと移動式の住宅を組み立てていく。
その間シシャモ達は木陰で休んでいると砂漠の民の子供達に囲まれる。
フードで覆われて顔がよく見えなかったが犬系の獣人達のようだった。
「ねえねえお姉ちゃん達って強いの?」
子供達の無邪気な疑問に答えるべくシシャモが変身する。
「なにそれーすごーい!?」
「いいから見とくにゃ」
シシャモの変身にはしゃぐ子供達を遠ざけて近くにあった岩に拳をぶつける。
大きな音と共に砕ける岩を見て子供達は驚き声が出ない。
「これくらいはここにいる全員出来るにゃ」
(え、出来ないよボク)
(魔法を使っても良ければね)
(刀が折れるかもな)
目を反らす3人。
「と言うわけにゃ。砂漠の魔王とやらもとっと倒すにゃ!」
「にゃーー!」
子供達がシシャモの語尾を真似して叫ぶ。見た目犬っぽいのに「にゃー、にゃー」叫ぶ光景がしばし続く。
やがて砂漠の民の準備が出来たのかシシャモ達は大きな住居に呼ばれる。
「待たせて申し訳なありません。客人をもてなす準備もあった故に遅くなったことをお詫びいたします。
挨拶が遅れました、我々は砂漠の民『ワンウルフ族』の長を勤めるオレガノと申します」
犬と人間の中間ぽい見た目の長が頭を下げる。年齢的に結構歳をとっているのか他の者達より毛並みに艶があまり無い。
(ワンウルフって犬なの? オオカミなの? そう言えばシシャモってミケ族って言ってたけどミケ猫?)
混乱する紅葉を置いて話は進む。
「シシャモ様が知りたがっていた砂漠の魔王ことデスワームですが山の様に大きく2匹、つがいで行動します」
「ふ~ん、どうやったら会えるにゃ?」
「獲物を求め地中を移動しております。そして獲物が多い場所に現れるので我々がこのまま滞在し続ければ恐らくここで出会えるかと」
オレガノの顔が曇る。
「滞在を3日以上しなければ襲われる事はないのです。故に我々は移動を繰り返しここに住んでいます」
「他の場所に住まないのかにゃ?」
「我々は力無き種族。他の場所に移住し領土を確保出来るような力がありません。先祖代々住むこの土地で多少の犠牲を出しててでも生きていくしかありません」
シシャモが目をつぶり上を向いて考える。
「分かったにゃ。どのみち話し合いも出来ない魔王なら倒すにゃ。そいつがあたしの求める魔王かもしれないしにゃ。
別にお前達の為じゃないから気にする必要はないにゃ」
シシャモの言葉に感極まるオレガノ達数人のワンウルフ族。と目を輝かせ熱い視線を送るペンネ。
「そうにゃ? この島ってにゃにか知ってるかにゃ?」
そう言って地図を広げ砂漠近くの海に浮かぶ島を指差す。
「そこは確か……人間と魔物の間に生まれた者が集まると言われる島とし聞いていますがそれ以上は分かりません」
「にゃるほど、人がいるなら行く価値はあるにゃ」
シシャモは地図の島に情報を書き込む。
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