その8 燕と紅葉の必殺技とスキルにゃ!

「さてさて、この間の岩場を越えてそろそろ渓谷に着くけど何もいないよにゃ?」


 岩影から覗く4人の前には何もいない。警戒しながら歩く4人の頭の上に羽が落ちる。


「まあ、予定通りかにゃ」


 上を見上げるシシャモはベルトを装着し変身する。


 ペンネも星のついたステッキを取り出すと変身をする。


「紅葉殿は拙者と一緒にいるのだ。この間の闇魔法はここでは使わないようにお願いする。生き埋めになってしまうからな」

「う、うん」

(使いたくても使えないけどね)


 空から降りてくる『疾風の魔王』ことハーピー。


「ふふふ、お前らがシシャモ、ペンネ、、燕とやらだな。我らが疾風の魔王にたてつくとは愚かよのう」


 自分の名前が呼ばれたことが嬉しそうな燕を置いてシシャモが先制の必殺の蹴りを決める。


 空中で爆発するハーピーをバックに地上に着地するシシャモ。


「終わった……」


 紅葉の言葉をペンネが遮る。


「まだ来ます! ってこれ」


 ペンネの魔弓レーダー(最近命名)に映る敵影の数およそ100。


「そう言えば我々とか言ってたにゃ」

「全員で魔王ってことか、どうするシシャモ殿?」

「まあ逃がしてもくれそうにないし全部倒すにゃ。燕、紅葉を頼むにゃ。あたしが突っ込むからペンネは援護をお願いするにゃ」


 そう言うや否や敵の方へ突っ込む。渓谷の谷間を蹴りながらジグザグに進み屍の山を築いていく。


 ペンネもかなりのスピードで飛んで移動しながら魔法の矢を放ち敵を蹴散らしていく。


「あの2人はレベル補正があるから動きも凄いな。まあ羨ましがっている場合ではないがな」


 燕が刀を構える。神速の抜刀(峰打ち)で襲い来るハーピーの群れを殲滅させていく。変身こそ出来ないが燕も強い。


(これならすぐ終わりそう)


 燕の背に隠れる紅葉が安心しているとペンネの声が聞こえる。


「第2波来ます!」


 再び襲い来るハーピーの群れ。


 それでも3人は蹴散らしていくが


「また来ます!」


「いったい何びきいるにゃこいつら!」


 ぼやきながらもフロッピーディスクを差し込みボタンを叩く。


 いいいいいいいと! マキマキ!!


 渓谷に蜘蛛の糸を引いていく。糸に引っ掛かる個体を放置して1匹のハーピーにタッチすると糸を伸ばしそのままハーピーを振り回し周囲を巻き込み殲滅していく。


「追加来ます!」


 ペンネの声が響く。追加の群れはシシャモを警戒してか全てシシャモの元へ飛んでいく。

 さしものシシャモも数で押され苦戦し始める。


 それは燕も同じ。


「刀が折れないのは流石窓際殿といったところか……」


 紅葉を背に庇ったままの制限された動きの中で苦戦し始める。


(もっとこう広範囲の攻撃や遠距離攻撃を覚えていると違うのだが、何レベルで覚えるものなのか。所詮無いものねだりか……)


 神速の抜刀を放ち鋭い足で蹴ってきたハーピーを吹き飛ばす。


《なんでさ? なんでレベル上がるまで待たなきゃいけないの? 自分で考えれば良いじゃん》


「なっ!?」


《レベルは経験、この世界の譲れない理。でも技は変えれるよ。自分次第。

 空を飛んでる子より君とそこの子の方が気付き早そう》


「何者だ!」

《頑張ってねぇ~》


 それ以来声がしなくなる。


(気にはなるが今は目の前だ。拙者の抜刀は一閃で鞘に納め次の攻撃を放つ……それが固有技『峰打ち』最近レベルが上がっても技とスキルを全く覚えていない。

 それは理からの離れ……としたら)


 燕は刀を構える。


(一閃にこだわらない。もっと連続で広範囲に……)


『必殺 燕八閃!!』


 燕を中心に8つの刃が飛び周囲の群れを切り刻む。地面は抉れ渓谷の岩肌に傷がつく。


「出来た! 何となく見えた。一応これでも峰打ちなんだが切ってしまうか」


 苦笑しながら燕は再び構える。


「紅葉殿、今闇魔法は使えないのだろう。だが何かスキルなり必殺技なり覚えれるはずだ。やってみてくれないか」

「覚えれる? レベル上がるの待たなくて?」


 燕の8閃が再び放たれ群れが一旦距離をとる。


「よいか、拙者もこの必殺技を今閃いた。そこにレベルは関係無さそうだ。紅葉殿の方がレベルに縛られてない分いけるかもしれん」

「と言われても……」


 紅葉は考える。


(今のボクが出来ること)


 手から火を放ったり、剣で敵を切ったり、力を溜めて気の様なもので敵を吹き飛ばしたり……それはやりたいけど出来そうにない。


(今出来るのは、アイテムを沢山持てること)


 アイテムのページを開く。町で買い込んだ薬や水……ページを進めると武器や盾。

(どうする、これをどう使えば戦えるんだ)


 ふと思い出す。

(そう言えばゲームでアイテム使うときっていちいち手渡ししてたっけ? なんかこうポーンて投げて回復みたいな。ポケットから出すってそんなキャラいないよね。入れるのも一緒でいちいち持ち上げるとかないよね)


 紅葉の右目に必死で攻撃をする燕の姿が映る。必死で自分を守ってくれている。

(ボクが戦えたら……攻撃? いや、やれることはある。そのスキルが欲しい)

《スキルは1回覚えたら固定だよ。変化はしないからね気を付けて。因みに君はさ、この先も攻撃力とか魔力とかの上昇は皆無だと思うよ。だって元がただの人間だもの。その左目は何か映せる? 出来ることをやりなよ》


「!?」


(なに! 今の!?)


 紅葉が左目の眼帯を押さえる。


(出来ることか……声は気になるけど今は考えろボクのスキル)


 ハーピーの群れが切り刻まれ空中で散っていく。


「体力的にきついな、地味にHPが削られる」


 傷が増え始める燕の頭上に『+10』の表示がされる。


「なんだ!? 回復?」


 驚く燕の背後で紅葉が叫ぶ。


「出来た! 説明は後でするから出来る範囲で攻撃をお願いします。休む時間位は作れるはずです」


 燕に向かってくるハーピーの前に盾が出現しぶつかり衝撃で落ちていく。

 そのまま盾が消える。


「あぁもう! 座標が難しいなぁ、と地面がこうで1/3ぐらい埋めれば」


 燕の前に3枚の盾が地面に刺さった状態で出現しハーピーの進路を制限する。


 盾を避けるように飛ぶハーピーを燕が叩き切る。


「紅葉殿これは?」

「闇の力でアイテムを出し入れしてるだけさ、半径100メートル内でね」

「凄いな闇魔法とは」


 もう少し武器買っときゃ良かったとか思いながら紅葉はアイテムを出し入れしながら思う。


 ────────────────────



 ちょっぴりスピカちゃん


「今回の紅葉ちゃんが得たスキルは『in and out』出し入れって意味ね。半径100メートル内でアイテムを出し入れ出来るってスキル。闇魔法では無いわよ。


 回復アイテムは仲間に重ねたら使用したことになるからちょーー便利。ただ出し入れするだけだからどっかの人みたいに武器を次々に飛ばすことは出来ないわね。


 それにしても謎の声……めっちゃ聞き覚えある!?

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