一方その頃ですわ。えっ!言うんですの?ファルファッレですわ にゃ


 森の中を1人の少女と2人の黒ずくめの男が足早に進む。

 男2人はスーツを着ておりよく見ると顔が蜘蛛で2本足で歩き3本の手を有している。


 少女の方は赤い瞳に鎖骨ほどまで垂れるふわふわな銀色の髪を優雅に揺らし、日傘を射している。

 その歩き方からも上品さが伝わってくる。


「ファルファッレ様、先に飛んで行かれても良いのですよ。あちらにも仲間が居ますから問題はないと思われます。何も我々と一緒に歩いて行かれなくても」


 ファルファッレと呼ばれた少女は後ろを振り向いて蜘蛛執事を見ると可憐に微笑む。


「良いのよ。わたくしが歩きたいんですよ。それよりあなた方の方こそ疲れていませんか?」

「い、いえ! 大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 深々と頭を下げる蜘蛛執事を見ると微笑み前を向く。

 正面を向くと半目になり心底めんどくさそうな顔をする。


 ファルファッレ フェデリーニ。3姉妹の長女、ペンネの姉だ。

 父ダンジェロの命によりシシャモ条約を守るためシシャモの実家に向かっているのだ。

 シシャモ条約を破ると末の妹ペンネの命が危ない、それは分かっている。

 シシャモ一家を守るのが条約の内容なのだが既に執事達を送り護衛を開始している。


 ここからが問題なのだが交代で城に戻ってきた執事達が皆、シシャモ家はいい人達だったと口を揃えて言うのだ。

 洗脳の魔法などをかけられている訳でも無さそうだが皆が言うので念のために調べてきて欲しいとファルファッレが選ばれた訳である。


(あーーめんどくさい。せっかく家でくつろいでいたのに。次女のイーネに任せれば良いのに……でもあの子は攻撃的だから護衛とか向いてないかぁ。

 はーー結局長女のわたくしがいつもこういう役回りなのよね)


 泥がつく靴を見てうんざりする。飛んで行っても良いのだが護衛期間は3日間。だらだら行って時間稼ぎ中な訳だ。


(ペンネのことは心配ですけど冷静に考えたらあのネコちゃんそんなに悪い子に見えなかったのよね。お父様は夢にまで見てうなされるとか言ってましたけど)


「ファルファッレ様もうすぐで着きます」


 蜘蛛執事の声で現実に戻る。


「えぇ、思ったより早く着きましたね」


 本音も混ぜつつ執事達に微笑む。


 ***


 目の前にあるこじんまりとした家。我が家のリビングより小さいのではとか思いながら扉をノックする。


「はーーい!」


 元気な声と共に扉も元気よく開く。

 目の前に小さなミケ族の子供が立っていた。


「こんにちは! あたしカレイにゃ!」


 見た目通りの明るく元気な挨拶をしてくる。


「わたくしはファルファッレ フェデリーニ。ペンネの姉です」

「おーー! ペンネさんのお姉ちゃん!! スゴく綺麗にゃ!!

 さあ中へどうぞにゃ」


 カレイに手を引かれて中へ入る。予想通りこじんまりとしている。

 中では2人のミケ族の夫婦がおり挨拶をしてくる。


「ようこそにゃ、シシャモの母のメバルですにゃ」

「はじめまして、父のマグロですにゃ」


 ファルファッレも挨拶をするとカレイに手を引かれ椅子に座らせられる。


「お疲れでしょう、お茶でいいですかにゃ」


 そう言われメバルがお茶を運んでくる。


 …………


「あ、わたくしは護衛に来た訳ですからこんなにくつろいでる場合ではないのですが」

「ここに来るまで疲れたでしょうにゃ。ゆっくりしてくださいにゃ」


 メバルに言われて横を見ると一緒に来た蜘蛛執事は2人ともくつろいでいる。

 若干腹が立ったが言葉に甘えることにする。


「ねえ、ふぁっファりゅ?」

「ファルでいいわよ」

「うん! ファルお姉ちゃん! カレイね6.5時間の連続お昼寝を達成したにゃ!!」


 それは昼寝なのか? そして凄い誉めて欲しそうに言っているがどうやって誉めれば良いんだ? 疑問は尽きない。


「凄いわね」


 無難に「凄い」と言って。頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める。

 イーネやペンネには無い無邪気な可愛さにファルファッレの心が射止められる。


「ファルお姉ちゃん! 魔法使えるにゃ? 見たいにゃ」

「魔法? 良いけど面白いものではないわよ」


 カレイに連れられ家の外で魔法を披露する。


「いでよ、マジカルスタッフ」


 ファルファッレの手に杖が握られる。始めにファイヤーの魔法で火の玉を浮かせる。

 これはネコパンチをしたくてウズウズしているカレイが危ないのですぐにやめる。


「じゃあ、これなら触っても大丈夫」


 水の魔法で小さな丸い玉をつくって飛ばす。いわゆるシャボン玉だ。これにアクロバティックな動きで水の玉を割るカレイに拍手を贈ると照れている。


 ***


 夕御飯近くになり夕食の支度をするメバルの手伝いをする。


「ファルちゃんは座ってて良いにゃよ」

「いえ、わたくし護衛で来てるのになにもしてませんし野菜を切るぐらい出来ますから。それに我が家から来てる者の食事まで準備して頂いて何も手伝わないなんて出来ません」


 2人で台所に並び夕食の準備をする。因みにカレイは寝ている。

 そうこうしていると玄関が開きマグロと2人の蜘蛛執事が帰ってくる。


「母さん大漁だよ。皆さんが手伝ってくれるから本当に助かるよ」


 夕食を種類豊富な野菜と魚が彩る。狭いながらも皆で楽しい食事、次の日も遊んで、野菜を取りに行って、魚釣りも初体験。

 楽しい日々────


 そしてあっという間の3日間──


「わたくしまだ帰りません、お父様にそう伝えて下さい」


 帰りたくないと駄々を捏ねるファルファッレお嬢様の姿があった。

 

 数日後に『シシャモ一家はいい人達、1度はお父様も行ってみては?』とかどうでも良い報告がダンジェロの元に届くのである。


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