その15 魔王討伐? その前にお風呂じゃにゃいかにゃ?

〈ピピッ! 後5キロで県境に入ります〉


 ペンネの持つ端末が音声でトキョーを抜けるのが近いことを教えてくれる。

 ちょうど目の前にベンチがあったので一旦休憩をとる。


「天気が良いときはあっちの海に『折れたお空ツリー』の先端が見えるんだって、それに今いるところ『トキョー』だけど位置的に本当は『グンマー』だって、そして今から行くのが『フクシィー』ね」


 端末を操作しながら町の情報を教えてくれる。


「ペンネにゃんか凄いにゃ。キカイとやらを使いこなしてるにゃ」


 シシャモに誉められペンネはご満悦だ。


「でも端末で道は分かっても食べたり泊まったりが難しいね。最近パンしか食べてないよ」

「ペンネ殿の言う通りなのだが、如何せん食文化が分からないので、違うものが食べたくても冒険が出来ないのと泊まるのにも身分証明がいるのは困ったところだ」


 燕が遠い目をして「お風呂入りたいなぁ」と呟いているが2人も同じ気持ちである。


「ハッキリ言うにゃ! あたし達は臭いにゃ!」


 シシャモが自分を嗅いで、そう宣言する。2人がそれは知っているけど言わないで欲しかったなぁって表情で訴える。


「麻帆に貰ったこのスースーするなんちゃらシートで体を拭いてるだけじゃ満足出来にゃいな! この3日公園でテントを張ろうとすれば注意されて細い木の上で寝ているから体も痛いにゃ」


 ベンチに座っていたシシャモが立ち上がる。


「この旅は準備不足にゃ! いわゆる失敗にゃ。そう言うわけで次の土地を踏んだらそこで窓際のところに戻ってお風呂に入るにゃ」


 シシャモの意見に反論するものはなく3人は県境目指して歩き始める。


〈ピピッ! フクシィーに入りました〉


 音声案内と共にペンネが窓際に連絡する。

 通信の様子から窓際が戸惑っているのが伝わるけど話をつけたペンネがやりきった顔で親指を立てる。

 それにシシャモたちも笑顔で親指を立てて答える。


「じゃあこれを出してここに刺せば良いのかにゃ?」


 シシャモが1メートル程の杭を地面に突き刺す。その杭に3人が引っ付いてペンネが連絡してしばらくすると周囲の空気が震え始める。そしてフワッとした感覚を感じると真っ暗になり宙を浮いている感覚が続く。


 ***


「おーーい、目を開けても大丈夫だよ」


 聞いたことのある声がする。そーーと目を開けると見たことのある顔、窓際と麻帆が立っていた。

 いまいち状況把握出来ていない3人がぼーーとしている。


「皆さん、お風呂の準備出来てますよ」


 麻帆の言葉に我に返る3人。


「そうにゃ! あたし達はお風呂に入るために帰ってきたにゃ!」


 麻帆の案内で3人供お風呂へ直行する。途中麻帆が「臭いますね」と言われへこむがそんな気持ちもサッパリ洗い流してくる。


「はーーーー生き返ったにゃぁ~」


 ラボの椅子でくつろぐシシャモたち。魔王を討伐しに行っているとは信じがたい姿である。


「窓際さん、あの大きい人形みたいなのは何なんですか?」


 ペンネが指差す方には透明のガラスケースに入った金属で出来た人の形になりかけのものが入っていた。


「あぁあれね、あれは戦闘用アンドロイドの試作品で『試作型R-0(仮)』だよ。自立して戦闘も行えるし仲間の支援も行える予定」

「へぇ~窓際たちって平和がどうとか言って割りには危ないもの作ってる気がするにゃ」


 その言葉にちょっと罰の悪い窓際が罰の悪い顔をする。


「それを言われると何も言えないな。今の世界情勢から兵器の開発ってのは牽制って意味で必要悪みたいなところがあるから……言い訳になるけど」


「ふ~ん、よく分かんにゃいけど力は必要ってことかにゃ。まあ、魔王倒すにも力が必要にゃ。何をするにも力は必要なのにゃ」


「時々シシャモさんて賢いこと言いますよね」


 麻帆の突っ込みにシシャモが鋭い眼光で振り返ったときラボの玄関が開いて人が入ってくる。


「おじさーーん、常闇の申し子が遊びに来たよーー♪」

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