その9 沼の魔王にゃ!

「結局行くようになっちゃったね」

「しつこかったにゃ……仕方なかったにゃ」


 結局沼へ行くことになった2人。村長と燕の『沼の魔王討伐するよな?』の圧に負けた結果である。

 テンションの低いシシャモ達に対し燕のテンションは高い。


「シシャモ殿の変身とやらが楽しみだ。ペンネ殿も魔法使いなのに弓の名手なのだろう。

 拙者父上との約束で強さを追い求めていてな近々、旅に出ようと計画してていたんだ」


「旅に出る計画」の言葉に敏感にシシャモ達が反応する。(まずい! ついてくるかも 阻止せねば!)2人は心の中で意見が一致した。


「燕、昼寝は好きかにゃ?」


 話を反らす作戦に出る。ペンネと目が合いシシャモがウインクする。


「ああ、十分な休息は強くなるのに必要だからな。旅に出るなら必要な技術だ。短い睡眠でどれだけ体力回復出来るかが大事だからな」


 シシャモ撃沈。屍となる。


「あの、燕さん。好きな食べ物なんですか?」


 ペンネがシシャモの屍を越える。


「好き嫌いは無い。あっては旅に出れないからな。

 そこで旅に出る話なんだが、シシャモ殿達はもう出ているのだろう? 実際どうなんだ? 強くなれそうか?」


 ペンネ撃沈。屍が追加される。


「う、うーーんあんまりそうでもないかにゃあ?」

「そ、そうだよね。私も魔法が増えたとかないし、旅では強くなれないと思います」


 2人はしどろもどろになりながら必死で旅では強くならないよアピールをする。

 燕はそれを聞いてなにやら考えていたが沼が近づいてきたことで話題が変わる。


「沼の魔王、化け蛙とも言われているが、こやつの特徴が体が柔らかく、長い舌で攻撃をしてくる。

 この舌が岩をも砕くのだ」


 その後に「拙者の刀も通じない!」みたいな事をいってた気がするが2人は聞き流す。


 ***


 魔界大陸の北側に存在する沼、『泥沼』そこに住む『沼の魔王』こと『沼蛙』種としては珍しいものではないが体長4メートルを越えるものはそういない。


「でかいにゃあ~あれなら探す必要はなくて良いにゃ」


 ちょっと遠巻きに立つシシャモ達の目の前には沼のど真ん中にたたずむ蛙の姿がある。

 全体的に茶色っぽい。柔らかそうなブニョブニョした体に皮膚はヌメヌメしているのか日の光りを嫌なテカリとして反射させている。

 大きい以外はただの蛙の魔物な訳で、顔をみる限り何を考えているか分からないまるで知性は感じられない。


「気持ち悪い、触りたくないね」


 心底嫌そうな顔をするペンネに2人も同意見である。


「話し合いなんて無理そうにゃ、とっとと倒すにゃ」


 最近気付いてないがシシャモは割りと好戦的になっている。


 シシャモは走りながら変身する。眩い光りに包まれ赤い仮面の戦士に姿を変え白いマフラーをたなびかせ走る。


「おぉ! それが変身か! それは格好いいな!」


 燕が走って沼蛙に向かいながらシシャモの変身に興奮気味だ。


 空に浮かぶペンネが目の前にある透明のパネルを操作している。


「確かこれをこうして……あ、出来た。シシャモ聞こえる?」

「にゃ? ペンネの声が近い!?」


 驚くシシャモにペンネからの通信は続く。


「これが何かは後で説明するから、まずはあいつを倒そう。私が牽制した後、沼に足場を作っていくからそれを使って近づいてみて」

「了解にゃ!」


 シシャモは隣を走る燕にペンネの作戦を伝え先行する。


 沼蛙がシシャモ達に気がつくとノーモーションで口から長い舌が飛び出す。

 横に飛んでかわすと舌があたった地面に大きなクレーターが出来る。

 沼蛙が少しだけ体を屈めるとペンネからファイヤーアロー5本が飛んできて、上から当て屈めた体を沼に沈めるように叩きつける。

 沼の泥水が沼蛙の体積に押され盛大に飛び散る。


 その中を連続でアイスアローが放たれ陸地から沼蛙までの氷の道を作り出す。

 その氷を飛び渡りながらシシャモと燕が構える。


『ネコキック!』 『峰打ち』


 それぞれの文字が浮かぶ中、沼蛙に放つ。


「にゃ!?」「やはり効かぬか!?」


 2人の攻撃が弾かれる、と同時に


『大ジャンプ!!』


 の大きな表示。沼蛙が高く飛ぶ。そして物凄いスピードで落ちてくる。

 ペンネが魔法の矢を連続で放つがあまりダメージを与えられない。


 シシャモと燕は横に大きく飛び避けるが沼蛙が落ちた衝撃で地面あが揺れ、沼が荒れ狂った海のように暴れ体勢が立て直せない。


『大ジャンプ!!』


 再び表示される文字。シシャモはパワードスーツのお陰ですぐ立ち上がるが足元はぬかるんで動きが制限される。燕は沼にはまってもがいている。


 ペンネが降りてき燕を引っ張るが引き抜けずもがいている。


「まずいにゃ! ペンネと燕が」


 足が抜けない! なにかしにゃいと! 気だけが焦る


 !?


 視線を感じる……シシャモが今まで感じたことのない嫌な視線。

 絡み付くような視線。そして今の状況を楽しんでるようないやらしい感じがする。


「にゃんだか知らないけど! あたしは目の前の友達位は助けるにゃよ!!」


 その視線が望んでる結果が伝わってきて頭にくる。生まれて初めて感じる激しい怒りの感情。


 ベルトのボタンを叩き沼を拳で叩いてその勢いで我が身を空中に投げ出す。そのままキリモミしながら沼の中の小さな岩場を両足で踏みつけ岩を砕きながら跳躍する。


「にゃあぁぁ! シシャモをなめるにゃよ!!」


 体全身を赤く光るシシャモが蹴りの体勢を取る。赤い弾丸のような蹴りは沼蛙の腹と背中を引っ付け突き破らんばかりの勢いで沼蛙の体を伸ばす。


『必殺 シシャモキック!!』


 文字の表示共に沼蛙が上空へ押し返される。そして空中で大爆発を起こす。


 火の粉が舞落ちる中変身を解いたシシャモが肩で息をしながら振り返る。


「大丈夫かにゃ? ペンネ、燕」


 笑顔でそう言うシシャモを見て、ペンネは勿論だが、燕も心打たれる。


 ***


 泥だらけの3人は村に帰り村長に魔王討伐を報告する。


「そうかやってくれたか、本当にありがとう。これで我々もあの辺りに行くことが出来るわい」


 深々と頭を下げる村長に燕が決意した顔をする。


「村長、拙者修行の旅に出ます。必ずや剣の道を極めようと思います!」


 村長は優しく微笑んでいる。燕の旅はどうやら承諾されたようだ。


「頑張るのじゃぞ」

「はい! シシャモ殿達と共に頑張ります!」


「にゃ?」「え?」


 固まる2人の元へ余計な人物がやって来る。


「話は聞かせてもらったわーー!」


 勢いよくドアが開いてスピカが入ってくる。入るなり燕の手を取って怒涛どとうの勢いで話す。


「名前は『燕』ちゃんね。よしよし登録しておいてまた放送しないといけないわね」


「おい! 性悪女神何しに来たにゃ?」


 圧倒される燕の手を握ったままシシャモの問いに答える。


「あっちの準備が出来たんだって、よし行こう! ほい!」


 村長の家を突き破り雷は3人を巻き込みアースへ飛んでいく。

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