その4 谷の魔王にゃ!

 2人が進んでいくと岩だらけの道から段々と開け、やがて谷が見え始める。


「見えてきたね、ここが地獄谷だよ。これずーーと海まで繋がっててここを越えるにはあの橋を渡るしかないんだよ。

 ……飛べない人はだけど」


 ペンネが説明するが最後の1文シシャモに気を使ってなのか声が小さくなる。

 だがシシャモは気にしていない。それどころか爽やかな笑顔でペンネに告げる。


「よしペンネ、1人で行くにゃ。あたしはどうやらここまでの様だからにゃ」


 頬を膨らませてペンネが不満を口にする。


「シシャモと一緒じゃなきゃ嫌だよ。魔王討伐してお昼寝するんでしょ。私も一緒にお昼寝するからね! 頑張ろうよ」


 一緒にお昼寝する事に何のメリットがあるのかと突っ込みそうになるシシャモは、ペンネが必死な説得する姿を見て言葉を飲み込む。


「冗談にゃ、ごめんにゃ」

「もーーびっくりしたよ。真剣な顔で言うんだから」


 実は割りと本気でしたとは今さら言えないシシャモ。


 そうこうしているうちに谷の裂け目がハッキリ見え始める。

 そして大きな橋が見えてくる。


「はにゃーー大きな谷と大きな橋にゃ」


 口をポカーーンと開けて驚くシシャモ。


 基本的に昼寝ばかりしていたシシャモは魔界生まれの魔界育ちだが外の事を全く知らない。

 むしろミケ族自体が旅をすることが歴史上初かもしれない。


「ところでペンネ、ここの魔王は昔からいたんだよにゃ?そしてこの橋を行くものを見守るそうだったよにゃ」

「そうだよ、魔王って言ってるけど、どちらかと言うと守り神みたいな存在かな?」


 守り神!その言葉にシシャモが希望を見いだす。


「おぉ! それにゃら戦闘は避けれそうにゃ!」

「うーーんどうだろう? 噂だと強そうな人がくると勝負を挑むとか聞いたし結構好戦的なのかも」


 ふふんっとシシャモが腕を組んで自信満々な顔をする。


「ペンネ、いいかにゃ。確かにあたし達が宣戦布告したことににゃっているがにゃ、だがにゃ!」


 目をカッと開きペンネを指差し高らかにビッシッと事件の真犯人を指差す探偵の様などや顔で告げる。


「名前は割れているが顔は割れてないにゃ!!」

「おぉぉ!シシャモすごーーい!!」

「そうにゃ名乗らなければ通行可能にゃ!」


 2人は嬉しくなりスキップしそうな勢いで橋の前に出る。


「おい! シシャモとペンネだな。全魔王討伐すると宣戦布告したもの達で間違いなさそうだな。我と戦え!」


 2人の希望が秒で破られた瞬間だった。


 頭の上から声がする。2人が上を見上げると大きな鷹のような鳥が1枚の紙を羽に持って、その紙と2人を見比べている。


「ま、まさかあの性悪女神、人相書きまで配ってるのか……にゃ」

「本当に性悪だね……」


 そんな2人の心情など、どうでも良いと言わんばかりに地獄谷の魔王は羽を広げて臨戦体勢に入る。


「我が名は谷の魔王『鷹王たかおう』だ!行くぞ!!」


「もーーやけにゃ!! 来るにゃ!! タカオ!!」


 上空から鷹王が羽ばたき地上に強風が荒れ狂う。

 その風でペンネが上手く飛べない。そして矢の狙いをつけることができても、矢が反らされてしまう。


 シシャモも変身したは良いが強風で動きが制限される。

 ペンネがウインドアローで小さな竜巻を作るが、鷹王の羽ばたきの前にかき消される。


「これはまずいにゃ、なす術がないにゃよ。ペンネのスキルでなにか良いのにゃいか?」


 シシャモの緊迫した表情に対しペンネがちょっと照れた様に言う。


「実はね、さっきLV上がったときにね『友達思い』ってスキル手に入れたんだ。ちょっと恥ずかしくて言いそびれちゃった」


 ペンネが顔を両手で覆ってモジモジする。


「あ、うん。嬉しいけど今それじゃにゃい気がする……」


 強風の中モジモジしているペンネにその状態だと強風の影響ないんだ……とか思いながらシシャモは考える。


「そうにゃ! ペンネは必殺技ないかにゃ?」


 シシャモの声に我に返ったペンネは強風にスカートを押さえながら答える。


「前から聞こうと思ったんだけど、シシャモって『固有技』じゃなくて『必殺技』なんだね。私は魔弓による魔法が『固有技』になるんだけど」


 そう言えば『必殺技』ってなんにゃ?とか思いながらも必死で考える。

(魔弓……キック、爪、昼寝)


「そうにゃ! ペンネの弓って大きいもの飛ばせないかにゃ?」


 シシャモの発言に理解が追い付かないペンネが首をかしげる。


「あたしを飛ばすにゃ! あのタカオにあたしを矢の代わりに飛ばすにゃ!!」

「えーーーー!? 矢の代わりに飛ばすって私の弓この大きさだよ。シシャモが踏んだら壊れるよ」


 ペンネが弓を庇う様な格好に対して、シシャモは指を立ててチッチッと違うにゃ みたいな仕草をする。


「あたしにウインドアローを撃つにゃ! その勢いでタカオを爪で撃ち抜いてやるにゃ!」


 そう言うと今だ戸惑うペンネを置いて準備を始める『くまクロー』を装着し、スキル『跳躍』を使用して高く跳ぶ。


「行けにゃ! ペンネ!!」

「えーーい、ウインドアロー!!」


 意味も分からず照準をシシャモに合わせ『ウインドアロー×3』を放つ。その矢に足を載せるように着地しシシャモは両爪を突きだし風を纏い、弾丸の様に鷹王に突っ込む。


「なに! 我が固有技『暴風』を突破するか!?」

 

 驚く鷹王が身を捻りシシャモをかわそうとするが左の羽が間に合わない!


 シシャモとペンネの間に『??? ?????』の文字が浮かぶ。そのまま弾丸となったシシャモが鷹王の左羽を貫く。


 ズシーーーーン


 鷹王の巨体が地面に落ち土煙をあげる。


「倒せた!?」


 ペンネが喜ぼうとしたした瞬間、立ち上った砂煙の中で目が光る。


『高速突っつき!!』


 大きな文字が浮かび煙を吹き飛ばすように鷹王がクチバシで突っつき、地面や岩壁を破壊しながら向かってくる。


 暴風が止んだことで空を飛べる様になったペンネが鷹王の攻撃を避けながらシシャモの姿を探す。


「ペンネーー!! ファイヤーアローにゃーーーー!!」


 上空から声が落ちてくる。その声に友達の考えを信じてペンネは弓を引く。

 

 5本の火の矢が落ちてくるシシャモに向かって放たれる。一瞬火に巻かれたシシャモは、直ぐに火を振り払うと爪だけに火を灯し大きく振りかぶる。


 一瞬2人の顔がアップしたカットインみたいなのが入る(気がした)

 大きく空中に浮かぶ文字


『合体技  ファイヤーくまクロースラッシュ!!』


 3本の火の軌跡が十字にクロスして鷹王を切り裂き燃やす。

 そして地面にも十字の後を残す。

 燃えた鷹王の羽がヒラヒラと舞い落ちる。


「やったにゃーー!」


 落ちてきたシシャモが地面に転がりながら喜び、ペンネが駆け寄る。

 それと同時にレベルが上がる。


 パパパパーン!

『シシャモ』

[LV.6→LV.8]

[会得スキル 友達思い……友達がいるとき素敵な事が起きる]


『ペンネ』

[LV.11→LV.12]


「にゃんと一気に2も上がったにゃ! このスキルの素敵な事ってなんにゃ? 曖昧にゃ」


 シシャモが首をかしげるが考えても分からないので先へ進む事にする。


 大きな橋の先にはここと同じような岩壁が広がっているのが確認できる。


 橋を渡りながらシシャモは守り神であるここの魔王倒しても良かったのかとか思うが、まあタカオが勝手に襲ってきたんだし仕方ないと忘れることにしてペンネと先へ急ぐ。

 この先にある町のことを考えると2人の足取りも軽くなる。

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