その12 パワーアップにゃ!

「で、これをどうするにゃ?」

「まずは変身してみてよ」


 窓際に言われシシャモは変身する。


「それでこのフロッピーディスクを同じ所に差し込んでみて」


 言われた通りに差し込む。


 ──ガッチャン! リーディングOK!

「くま!!」

 デデデデン 装着! 

「くまクローー!!」──


 シシャモの両手に熊の太い手が装着され鋭く長い爪が延びている。


「おお! 強そうにゃ!」

「この間の熊の爪をベースに作ってみたんだ。そいつは厚さ8㎜の鉄板なら軽く切り裂けるよ。

 僕は本来、フォームを変えたり、追加装備でパワーアップより訓練して自ら強くなる方が熱くて好きなんだけど……」


 熱く語る窓際をシシャモの困った声が遮る。


「窓際、手が使いにくいんだけどどうにかならないかにゃ? レバーとか引きにくいにゃ」


「あぁそれはね。今、手をグーに握ってないかな? その熊の手の中でグー、パー、グー、チョキにしたら爪が収納されて熊の手が自分の手と同じ動きをしてくれるようになるから」


「おぉ! 爪が無くなったにゃ。でもなんか手が使いにくいにゃ。

 手が遠くにあるみたいで気持ち悪い感覚にゃ」


 シシャモが熊の手をグー、パーしながら眉間にシワを寄せている。


「まあ細かい作業をする訳じゃないからね。レバーが引ければ問題ないはずだよ」

「そんなものかにゃ。にゃ! もう一回やったら爪が出るのにゃ」


 シシャモが変身を解除する。


「元に戻ると爪も一緒に戻るのにゃ、そうだこれ使えるかにゃ?」


 シシャモがポケットからドロップアイテムの「蜘蛛の糸」を取り出す。それを受け取った窓際は真剣に見る。


「この繊維は粘りけがあるし蜘蛛の糸みたいなもの? にしては構成する繊維が太いなあ。うん、面白いね。なにか使えないかやってみるよ」


 ちょっと嬉しそうな窓際にペンネが訪ねる。


「窓際様はアイテム加工屋さんなのですか?」

「アイテム加工屋さん?」

「ええ、ドロップアイテムなどを組み合わせて、違うアイテムや装備を作ってくれる職業の方です」

「ふーーむ、技術職な感じかな。だとしたらそれに近いかもね」

「でしたら、お金を払う必要があるのではないですか?ここまで凄い装備を頂いてタダと言うことはないですよね」


 自分で言ってて若干不安になってきたのかペンネが恐る恐る聞く。


「そうだねえ、結構お金はかかってるよ。シシャモくんのベルトなんて、それはそれは高額なお金がね」


 その言葉に汗をだらだら流し始めるシシャモ。


「でも支援してくれる団体がいてね。シシャモくんの戦闘データーを送ったら喜んでくれてね。そのベルトを普通の人間でも使えるように研究中だし、君たちが今後戦闘データーを取ってくれればタダで良いよ」


 タダと言う言葉に胸を撫で下ろす2人。


「お、そうだ君たちの世界の話聞かせてよ。そうしたら食事もご馳走するよ」


「おお! トンカツかにゃ? あれは美味しいにゃ!」

「今日はハンバーグだよ。えーとねお肉を捏ねて焼く料理ね」


 いつの間にか麻帆が立っている。


「和ですか? 洋ですか? 私は洋を希望します」


「洋だよ。じゃあ麻帆くん2人を案内してあげて、ご飯を用意するから」


 ***


 夕食の時間になり4人で食事をする。


「これ凄く美味しいです! お肉を焼いてソースをかける料理はありますけど、こんなにふっくらして濃厚なソースをかけたお肉は初めて食べました」


 ペンネが感激の声をあげる横で涙を流しながら声もあげず食べるシシャモ。


「そんなに誉められると恥ずかしいな。それでさっきの話の続きだけど、君たちの住んでいるところは魔界大陸の魔界の森と言うところなんだね」


「ええ、そうです。生活するならLV.5~15位が最適な森になります。隣にある草原が人間の住む大陸と繋がっていて人間が入ってくるならそこからになります。

 滅多に来ることはありませんけど」


 興味津々で目を輝かせ聞いてる窓際とハンバーグを頬張りながら聞いてないようでしっかり聞いてる麻帆に対しペンネは話を続ける。


「森を抜けると谷がありそこを抜ければ魔物の町があります。

 そこから先も色々な場所があるようですけど、私が知っているのはここまでです」

「へえ~知らなかったにゃ」


 シシャモが口についたソースを麻帆に拭いてもらいながら感心している。


「シシャモくんが知らないのは置いといて、じゃあ魔法についてだけどみんなが弓を使って魔法を出すのかい?」

「いえ、何を使うかは本人のイメージしやすいものや、愛着のあるものになります。私の2人のお姉さまは剣と杖ですからその辺りは個性が出ると思います。

 飛ばす魔法の形も私は矢ですけど、剣や球状だったりします」

「へぇ知らなかったにゃ」

「シシャモさんは今まで何をして生きてきたのですか?」


 何気にかなり酷いことを麻帆から言われるが、おかわりのハンバーグに夢中で聞いていない。


「それにしても魔法かぁ、昨日なら学校休みだったから紅葉ちゃん呼べたのになあ」

「そう言えば前も言ってたにゃ? もみじがどうとか、なんにゃそれは?」

「あぁ、ぼくの姪っ子でね魔法とかが大好きな子なんだ。君たちに会ったら喜ぶと思うんだよね」


 そう言う窓際に、麻帆が不服そうな顔をする。


「所長、あの子は魔法好きではありません。あの子は病気です」

「んーー、まあちょっと行き過ぎてる気はするけど麻帆くんも中々だと思うよ」


 更に不服そうな顔をして麻帆が反論する。


「私は魔法が好きで、それを科学的に再現しようとしている至極全うな人間ですよ」


 その言葉にペンネがなにか言いたそうにしていたが目を反らし耐える。


「まあいいにゃ、いつかそのもみじに会えば良いにゃ。病気で苦労してるみたいだし魔法が好きならペンネのを見せれば喜ぶかもにゃ」


 シシャモの手を握ってペンネが尊敬の眼差しを向ける。


「シシャモは優しいね。私の魔法が病気の子に希望を与えれるならもっと凄いのを覚えようかな」

「おぉ! 良い考えにゃ! あたしも手伝うにゃ。その子がそれを見たら生きる希望になるかもしれないにゃ!」

「うん! 頑張ろう!」


 盛り上がる2人。


「いや、病気ってそう言うのじゃあ……」


 窓際の声は届かない。

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