その11 ペンネ初めてのアースにゃ!

 研究所の真上で落雷が落ちる。


「うにゃああああ」

「きゃあああああ」


 ボスッ


 クッションのような物の上に2人は落ちる。

 そのクッションがゆっくりと回り始め階段が端の方に現れる。


 シシャモは怖がるペンネの手を引いて階段を下りる。


「やあ、シシャモくん。落雷関知システムとシシャモ安全着地装置はどうだったかな……ってその子はどちら様?」


 窓際が自慢げに話すが、すぐにペンネの存在に気付き聞いてくる。


「この子はペンネにゃ。ペンネこっちの人は窓際にゃ、あっちにいるのは麻帆にゃ」


 ちょっと離れた机でコーヒーを飲んでいる麻帆が手を振る。


「えっとわたしは、ペンネ フェデリーニと申します」


 ペコリとお辞儀をする。


「これはご丁寧に、僕は窓際 煙太よろしくね。きみはシシャモくんのお友だちかな? 猫ミミも無いし種族的なものが違う気がするけど」

「はい、シシャモのお友だちです。私は吸血鬼になります」


 吸血鬼の言葉に窓際が反応すると一気に近寄る。ペンネとの距離が近い。

 38歳独身中年が興奮しながら少女に接近する姿に犯罪臭がするなぁ、なんて麻帆が思っているとは窓際は知らない。


「え! なに? 食事は血? 血だけで栄養を補えるの? 栄養片寄らないの? やっぱり太陽に弱かったり胸に杭を刺せば死んじゃう?」


 ぐいぐい質問をしてくる窓際に押されながらも丁寧に答えるペンネ。


「えぇえっと、血は吸えますけど普通のご飯を食べる方が好きです。後、森林浴とか好きですし、お日様は気持ちいいから好きです。

 それと杭は胸に刺したら大抵の方は死んじゃうと思います」


「ふ~む、そうなのか。そう言えばシシャモくんは身体能力が高いけどペンネくんは何か特技あるの?」

「あぁはい、空が飛べるのと。魔法が使えます」


「魔法……」


 ペンネのすぐ後ろで声がし抱き締められている……いや補足されている。


「あなたは魔法が使えるんですね。さあ見せてください。はあ、はあ、みせてよあなたの力をさあ、はぁ、ふぅふぅ」

「ひゃぁぁ、こわい、こわいよ、助けてシシャモ」


 怯えるペンネにシシャモが麻帆の姿に怯えながらも助け船を出す。


「麻帆、ペンネ怯えてたら魔法使えないにゃ。離してあげるにゃ」


「これは失礼しました。ささ、ペンネさんあちらの兵器試験室へ」


 麻帆に背中を押され涙目で連れていかれるペンネに、シシャモと窓際がついていく。


 ***


 ドーム状の部屋に案内される。周囲は衝撃を吸収するような素材で出来ており、真ん中にマネキンのような的が置いてある。


「さあ、ここなら少々の攻撃は問題ありません。ペンネさんやってください」


 まだ怯えた様子ながらもペンネは構える。


「魔弓」弓を召喚し


「ファイヤーアロー」

 3本の火の矢を放つ。放たれた矢は的に当たり炎に包まれる。


「サンダーアロー」

 続けて3本雷の矢を放ち燃えていた的に電撃が走る。


「アイスアロー」

 氷の矢が刺さり的が氷に包まれる。


「良いですね♪ 良いです♪♪ こっちへ来てください! サイズを計りましょう! さ、さ、さあ!」

「ああっと、ちょっと麻帆くん待って」


 窓際が麻帆を止める。


「ペンネくんはその弓でどうやって狙ってる? 見た感じ、何本か放って1本当てて、後の矢は地面で弾けてダメージ与えてる感じがするんだけど。

 全弾命中させた方が威力高くならないかな?」


「目で狙いをつけてます。魔法は地面で弾けても効果はあるんで、あえて地面に当ててます」


 ペンネの答えにうなずきながら何か考える窓際。


「ペンネくん弓貸してくれるかな? 悪いようにはしないから」

「え、ああはいどうぞ」


 ペンネから弓を渡されて嬉しそうな窓際。


「ありがとう、ちょっと待っててね。そうそうシシャモくんにも良いものあるから後で渡すね、よし麻帆くん良いよ」


「さああ! ペンネさんこっちへ! サイズ計るから服は脱ぎましょうね。ささ、はあ、はぁはぁ」

「ひゃぁぁぁ」


 物凄い勢いで引きずられていく。


「あぁごめんにゃペンネ、あたしの力じゃ助けれそうにないにゃ」


 シシャモが辺りを見回すと誰もいない。窓際も弓を持ってやりたいことをやりに行ったに違いない。


「暇にゃ。ちょっと外へ出てみるかにゃ」


 ***


 玄関を開け外へ出ると以前と変わらない海が広がる。


「にゃあーーこの湖は広いにゃ。なんか風の匂いが違うのはこの世界だからかにゃ?」


 潮風に吹かれ気持ち良さそうに目を細め、髪とアホ毛とネコ耳をなびかせる。


「本当にこの世界に魔王がいるのかにゃ? あの性悪女神の事だから間違ってんじゃないかにゃ」



「ふえぇぇぇぇ!」


 泣きながらペンネが外へ飛び出てきてシシャモに抱きつく。


「にゃ、にゃにがってその格好はどうしたにゃ……」


 その姿はドレスで前を隠しているだけで下着姿だった。


「ぐすっ、あの人がサイズを計るって言って突然服を脱がしてきたの。わ、私こんな格好でもう……ねえシシャモ私をもらってくれる? 友だちとして」

「そ、それは友だちの正しいあり方なのかにゃぁ……とりあえず服を着るにゃ。ほら」


 ペンネに服を着せていると麻帆が出てくる。怯えてしがみつくペンネを抱き締めたままシシャモは怒る。


「麻帆、ペンネ怯えてるにゃ! 何かするなら先に説明してあげた方が良いにゃ!」


「申し訳ありませんつい興奮してしまうと自分が押さえられないんです。お詫びではないですがペンネさんに私が開発中の装備を完成次第差し上げます」


 麻帆が申し訳なさそうにしている。反省しているのか小さくなっている。


「ほらペンネ、麻帆も反省してるにゃ。あたしもついていけば良かったにゃ。ごめんにゃ」

「うんうん、シシャモは悪くないよ。それより私の代わりに怒ってくれてありがとう。うれしかったよ」


 そう言って再び抱きついてくる。


「う、うん。どうもにゃ。なにか友だちの基準があたしの中で揺らいでるにゃ……」


 混乱しているシシャモと嬉しそうなペンネに窓際がペンネの弓を持ってやって来る。


「いたいた! ペンネくんこれ使ってみてよ」


 そう言ってシシャモ達は再び兵器試験室へ行く。


 ***


「あの~これはどうすればいいんですか?」


 ペンネは弓についた筒状のものを指差して訪ねる。


「いつも通り弓を引いてみて」


 窓際の答えに不思議そうにしながらいつも通り弓を引くとペンネの目の前に文字と白い三角が1つ現れる。


「え? なんですかこれ?」

「その筒がペンネくんの目を感知して、空中にプロジェクターを展開し相手の距離や大きさなどの情報を映し出すんだよ。

 とりあえずは、その白い三角形が赤く光ったら矢を飛ばしてみたらOKだから」


 言う通りに弓を引いて的を狙うと三角形が赤色に変わる。


「ファイヤーアロー」

 3本の火の矢が飛び的に突き刺さり激しく燃え始める。


「凄い!」

「因みに5体まで敵を補足出来るし、暗闇でも敵を見つけ出しロックオン出来るよ」


 驚くペンネに自慢げに説明する窓際。


「窓際、あたしにもなにかあるって言ってなかったかにゃ?」

「おおそうだ! シシャモくんにはこれを渡すんだった」


 そう言って下手くそな絵が描かれたフロッピーディスクがシシャモに渡される。


「なんにゃこのキメラの絵は?」

「絵? あぁ熊だよ」


 フロッピーディスクの表面に描かれた絵を眺めるシシャモの瞳には仁王立ちする毛むくじゃらな絵が映る。

 熊なのか……「がおー」と書いてあるのが更にこの絵を迷画に昇格させている。


「で、なんにゃこの化物は?」

「熊だよ」


「……」

「……」


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