その9 友達の始まりにゃ!

 夕方の時間になり食卓にご飯を並べながらメバルがペンネに気を使う。


「今日のメニューは鶏肉の中火力焼きに山菜のサラダにゃ、ペンネちゃんは嫌いな物はないかにゃ?」

「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 丁寧にお辞儀をするペンネにお昼寝から帰ってきたカレイが目を輝かせて矢継ぎに質問する。


「ペンネさんって歳いくつにゃ? お姫様みたいな可愛い服着てるけど何処に住んでるにゃ? お姉ちゃんといつ知り合ったにゃ?」

「これこれカレイ、ペンネさん困るだろう」


「いえいえ、妹が出来たみたいで嬉しいです。わたし3姉妹の末っ子なんで妹欲しかったんです」


 カレイが父のマグロに注意されるが、ペンネは本当に楽しそうな笑顔で答える。


 そんな様子をちょっとつまらなそうにシシャモは見ている。なんでつまらないのかは本人にもよく分からない。


「なんか腑に落ちないにゃ。あたしはさっき命を狙われたはずなのに、この光景」


 カレイがいつの間にかペンネの横に引っ付いて頭を撫でられている。

 日頃ちょっぴりうっとうしい時もある妹のカレイが、ペンネに懐く姿を見てモヤモヤを感じシシャモは膨れっ面で食事をする。

 

 いつもより美味しくない夕食が終わる。

 そのままの流れでお風呂へと行ったわけだが、お風呂から上がってきたペンネがモジモジしている。

 歩き方が変だ。背を壁沿いに横に歩いているので足の怪我のせいではなさそうだ。

 シシャモを見つけると若干涙目で助けを求めてくる。


「あの~シシャモ……さん、このパジャマのズボン後ろに穴が空いてて恥ずかしいんですけど」


 シシャモが首を傾げるがすぐに答えを導き出す。


「あぁシッポの穴にゃ。お前にシッポはなかったにゃ。ご飯食べて、寝れるんだから文句言うにゃ」

「うぅ、そうなんだけど」

「明日家に送るからもう寝るにゃ」


 ペンネを自分の部屋へ連れて行きベットに座らせると、毛布をもって床に転がるシシャモ。その姿を見てペンネが慌てる。


「わたしが下で寝るよ、シシャモさんはベットで寝て」

「お前は怪我人で一応客にゃ、気にせず寝るにゃ」

「う、うん」


 訪れた静寂をペンネの遠慮するような小さな声が破る。


「……ねえ、シシャモさん、寝た?」

「なんにゃ?」

「今日はごめんなさい。それと助けてくれてありがとう」

「気まぐれにゃ。それと「さん」は要らないにゃ、シシャモで良いにゃ」

「うん、じゃあわたしはペンネって呼んで」

「ペンネもう寝るにゃ」


 再び静寂が訪れるが寝息は聞こえない。薄暗い中でも赤く輝く瞳が天井を映している。

 瞳の表に映している天井の裏では色々な事が想い描かれる。

 意を決したようなペンネの声が再び静寂を破る。


「良い家族だね」

「それはありがとうにゃ。ペンネの家族は違うのかにゃ?」

「うんうん、とっても良い家族。でも優しすぎてわたしダメになるんじゃないかって思って……その……」


 言葉に詰まってしまうペンネの言葉をシシャモが繋げる。


「あたしを倒しに来た訳にゃ」

「う、うん」

「もういいにゃ。この魔界は弱肉強食にゃ、恨みっこはなしにゃ。

 ペンネも悩んで考えた結果なら今日のことはもう気にしないにゃ」

「うぅぅぅ、ありがどぅぅ」

「にゃーー! 泣くにゃ! 明日ペンネの親にも言ってやるにゃ。もう少しペンネを信じて自立させてやれってにゃ」

「うぅぅぅぅ……」

「泣くにゃぁぁぁ!」


 シシャモが毛布をはね除け飛び起きる。そのままペンネを覗くと頬に涙の跡をつけスースー寝息をたてている。


「このタイミングで寝るかにゃ、勝手な奴にゃ……あたしも寝るにゃ」


 そう言ってペンネの毛布をかけ直し床に転がる。


 ***


「ふにゃーーーー朝かにゃあ」


 大きく伸びをしてペンネを見るとすでに起きているが、足を押さえている。


「どうしたにゃ? 足がまだ痛いのかにゃ?」

「う、うんちょっと腫れてる。怪我状態(※ス1)になったみたい」


 見せてもらうと右足首が腫れていて見ているだけでも痛そうだ。


「本当にゃ、歩くのはつらそうにゃ」

「飛んで帰れば良いんだけど、それじゃあシシャモが道分からないし」

 

 ペンネの言葉にシシャモは目を丸くする。


「そうにゃ、飛んで帰えれば良いにゃ! よし帰れにゃ!」

「うんうん、シシャモと行きたい。わたしお父様にシシャモは悪い人じゃないって教えたいの! お父様も直接シシャモに会ったら分かると思うの。

 わたしは地面を浮いてゆっくり進むから。ね? 一緒に行こう」


 ペンネは首をブンブン振って必死に否定する。


「まあ戦いが避けれるなら良いかにゃ……流石に娘がいたら攻撃を仕掛けてこにゃいだろうし。分かったにゃ、一緒に行くにゃ」

「うん、ありがとう」


 ペンネが笑顔を見せる。その後メバルを呼んで足の捻挫を応急処置する。


 ***


「母さん、ペンネを家まで送ってくるにゃ。そのときあたしの魔王討伐宣言の誤解を解いてくるにゃ」


 朝御飯の席でシシャモが家族にそう伝える。家族が注目する中メバルがミルクをコップに注ぎシシャモにさとすようにゆっくりと口を開く。


「わかったにゃ。ペンネちゃんをちゃんと連れて行きなさいにゃ。あとシシャモ、あなたはノンビリそうに見えて喧嘩っ早いから失礼のないようににゃ。

 そうそう土壇場で焦って変なこと言わないようににゃ」

「うぅ……」


 シシャモのネコミミがお辞儀をして少しでも音を遮断する構えをとる。心なしかアホ毛も力なく倒れているようだ。

 そんな様子を見てペンネがクスクス笑う。


「にゃにがそんなに可笑しいにゃ……」


 ミミが垂れたままジト目でみるシシャモ。


「ご、ごめん。良いなあって思っただけだよ。わたしそんな風に言われたことないもの」

「にゃにが良いかにゃ、言われない方が良いにゃ。ペンネは誉めれて育てられてそうにゃ」


 ペンネが首を横に振る。


「そんなことないよ。怒られないけど誉められることもあんまりないよ。

 それに怒られないと言うか怒られる状況にさせてくれないのかな?

 何もしなくて良いから大人しくしてなさいって感じって言えば伝わるかな?」


 シシャモがアホ毛を立てて思考する。


「それはそれで大変そうにゃ……でも」


 シシャモが立ち上がる。


「カレイ! お前はさっきからニヤニヤして許さないにゃ!」

「お姉ちゃん今喧嘩っ早いって言われたばっかにゃ! 理解できてないにゃ!」


「シャーー!!」


 おでこを擦り付け2本のアホ毛が激しく戦う……がメバルに叩かれてアホ毛2本とも力なく倒れる。


 赤い瞳に映すその光景は楽しそうにキラキラ輝いていた。



 ***


「※ス1……について文中に入れると流れが悪くなるので、可愛い女神スピカさんが説明します。

 シシャモの世界では薬草や回復魔法により体力が回復出来ますが、怪我をした場合は一旦回復した後に怪我のダメージが継続的に続きます。


 HPが0になったら死にますが、薬草や回復魔法を与え続ければ理論上死にません。でもどちらも限界があるので大ケガの場合やっぱり死んじゃいます。

 因みに蘇生する方法はありません。今回のペンネの場合は捻挫だから継続ダメージはありません。


 あーー疲れた。本当は真面目で可愛いスピカの説明でした。

 これコーナーに出来ないかしら? 教えて! スピカちゃんとか?」

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