その7 ペンネ フェデリーニです。えっと……にゃ!

 シシャモが家の玄関を開けるといつもの家族と女神スピカがいた。


「なんでお前がいるにゃ!」


 シシャモの問いに答えてくれたのは母メバルだった。


「こちら女神のスピカ様にゃ。シシャモが全魔王に宣戦布告したって言うからにゃ、保険の話をちょっとしてるのにゃ」


「にゃ! 保険?」

「良いからシシャモも聞きなさいにゃ。将来役に立つにゃよ」

「わ、分かったにゃ」


 母に背中を押されシシャモは席につく。母と父、シシャモが席についたのを確認したらスピカが保険の説明を始める。


「いい、娘のシシャモさんが亡くなった場合に今まで天界からの保証は無かったんだけど、天界の方で見直しがあって金銭的保証、まあこちらの家族の場合だと食料保証になるのかな? 30年は保証されるわ。

 あ、そうそう勿論掛け金とかはなし、魔王を討伐に行ってくれることが支払いの代わりね。

 で、もし怪我をした場合は……」


「ってちょっと待つにゃ! お前何を話してるにゃ!」

「なにって保険の話しよ。魔王討伐に行くんだから家族に何か残しなさいよ。死んでからでは遅いわよ」


 怒るシシャモに対しスピカがあきれた顔をする。いやむしろこの親不孝ものがと言わんばかりの表情だ。


「そもそも性悪女神があたしが魔王を倒す! とか言わにゃかったらそんな保険も必要ないにゃ! にゃんで全魔王に宣戦布告したにゃ!」


 スピアはめんどくさそうに髪の先を指で絡めて遊んでる。そんな姿に苛立ちを感じるシシャモに対し更に苛立たせるスピカの発言が飛んで来る。


「それだけどさ、邪悪な魔王だけ倒せば良いんだけど、ここの世界って何々魔王! って感じで魔王が多いわけ。でね、どれが討伐対象か分かんなくなったからとりあえず全部宣戦布告しちゃった、てへっ」


 舌を出して可愛い子ぶる。


「にゃんか腹立つにゃーー!! お前の怠慢じゃないかにゃ!」

「だってさーー私新人なのに8個も世界監視してんだよ。仕事の量多すぎ、業務量の見直ししろっての。

 しかもその内2個に世界を滅ぼす魔王が現れるとか運悪すぎでしょ。私も被害者なんだって」


 2人が言い合いをしていると仲裁をするようなタイミングで玄関の戸がノックされる。


「あら、お客様にゃ」


 メバルが戸を開けると、黒いドレスに銀髪の少女が立っていた。年齢はシシャモと同じぐらいだろうか。

 見るからに育ちの良さが分かるたたずまいと真っ白な肌に赤い目が特徴的だ。


「こんにちは、わたしはペンネ フェデリーニと申します。シシャモさんはいらっしゃいますか?」


 ちょこんと可愛くお辞儀をする。


「あらあら、シシャモのお友達かにゃ、可愛いお友達にゃ。ささ座るにゃ、お茶飲むにゃ?」

「あ、いえわたし、シシャモさんを倒しに来たんでお構い無く」

「そうにゃのね、倒すのは後にしてとりあえず座るにゃ」


 メバルに無理やりペンネは座らせられる。これ幸いとスピカがわざとらしい口調でペンネと入れ替わるように玄関へ向かう。


「よーーし! 私はこれで帰るわね。メバルさん、ここにパンフレット置いとくわね。じゃ、シシャモ頑張って!」


 なんか親指立ててウインクまでして、逃げるようにスピカは去っていく。そんなスピカに塩でもまいているような目でシシャモは追い払う。


「ねえ、あなたがシシャモだよね?」


 小声でペンネが話しかけるのでシシャモも小声で答える。


「そうにゃ」

「見つかって良かったあ、後で倒すわね」

「なに友達同士がこそこそ話してる感じで倒すとかなんにゃ? お前頭大丈夫かにゃ?」


 2人がこそこそ話しているとメバルが緑色の饅頭を運んでくる。それを見たシシャモのテンションが上がる。


「薬草饅頭にゃ! 一個で薬草10個分にゃ。お茶と合うにゃ」


 早速1個を取って食べ始めるシシャモを苦笑しながらメバルが、饅頭とにらっめこしているペンネに饅頭を勧める。


「ごめんにゃさい、こんなものしかにゃいけど、どうぞにゃ」


 ペンネが手にした饅頭を小さな口で頬張る。


「美味しいです」

「お口に合って良かったにゃ」


 笑顔で答えるペンネにメバルもニッコリする。


 饅頭を一口食べる度にシシャモとペンネの頭の上に『+10』の文字が出ては消えていく。

 薬草10個分は嘘ではなさそうだ。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


 ペンネが丁寧にお辞儀する。


「いえいえ、お粗末さまにゃ」


 メバルも丁寧にお辞儀をする。


「では、シシャモさん外へ出て戦いましょう」


 椅子から立ち上がるとペンネから戦いの誘いを受ける。


「この流れで戦うのかにゃ」


 シシャモは渋々外へ出る。


 ***


 ペンネは外に出るとちょっと高くなっている石の上に立って背中からコウモリのような羽を出して広げる。


「改めて自己紹介します。わたしは吸血鬼のペンネ フェデリーニ。

 この森の魔王フェデリーニの3人姉妹の末っ子。あなたを倒しにきました!」


 威勢よく自己紹介した後、ペンネはペコリと丁寧にお辞儀をする。


「あたしはシシャモにゃ」


 シシャモもペコリと丁寧なお辞儀する。


「アルデンテを倒したからって調子にのらないでください。彼のLVは8。私は18! シシャモさんに勝ち目はないです!」


「えっと、あたしはLV.4にゃ」

「えっ!? LV.4?」


 ペンネは目を丸くして驚く。


「ま、まあ良いです。とにかく戦いです! お父様に歯向かうシシャモさんを倒します!」

「えーーめんどくさいにゃ」


 こうしてシシャモとペンネの戦いが始まる。

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