その6 蜘蛛男にゃ!

 パパパパーン!

[LV.3→LV.4]

『スキル 対機械時攻撃力+8 ※自動発動スキル』


「おぉ、またレベルが上がったにゃ、これはカンストも夢じゃないにゃ!」


 ラボの前で入り口を塞いでいたコンテナの一部が四角く赤い光で縁取られ溶けて、やがて倒れる。


「所長、通路確保しました」


 溶接用の仮面と手袋をした麻帆が現れる。


「ありがとう、麻帆くん。何でも出来るんだね」

「えぇ、趣味ですから」

「どんな趣味で使うのそれ?」

「そんなことより、シシャモさんです」

「おぉ、そうだね。シシャモくん無事かい?」


 本当に心配してたのかというくらいマイペースに出てくる2人。


「無事にゃ。と言うか倒したにゃ」


 変身を解除して埃を払うシシャモの後ろには、敵が爆発した時に出来たであろう穴が空いている。


「銃の音や爆発音がしたから心配してたけどシシャモくんとそのスーツがあれば大丈夫そうだね」

「そんなことないにゃ、普通に攻撃が効かなかったにゃ。クリティカルが出なかったら倒せなかったにゃ」


「クリティカル? 出る?」


 不思議そうな顔をする窓際。


「見えてるものが違うのか……そう言えば左上の○とか自分のステータスがどうとか……」

「所長、前回と同じくこの騒ぎでも人が集まる気配がありません。

 よく分からないので休憩しましょう。お腹空きました。ご飯が食べたいです」


 1人の世界に入る窓際を麻帆が呼び戻す。


「人が集まらないのは気になるけど、ご飯にしようか。

 そうだシシャモくんも食べるかい?」

「にゃ、こっちの食べ物興味あるにゃ。食べるにゃ」


 窓際の誘いにテンション高くなりピョンピョン跳ねるシシャモ。


 ***


「ちょと待ってて簡単なもの作るから。この間作り置きしたのがあるから、あまり待たせないと思うよ」


 そう言って窓際はキッチンに入る。


「ふふふ~ん♪ にゃにが出るかな?」

「ご機嫌ですね。シシャモさん。所長の料理は美味しいです。期待しても大丈夫ですよ。

 伊達に独身38歳ではありません」


 麻帆の「美味しい」の言葉に更にテンションが高くなるシシャモ。独身はどうでも良いから突っ込まない。


「そう言えば、えっと……」

「麻帆で構いません、私はシシャモさんと呼びます」

「にゃ、シシャモで良いけどまあとりあえず、麻帆は魔王って知ってるかにゃ?」


 首をかしげながら麻帆は考える。


「魔王とは魔の王様ってことですよね? 聞いたことありませんね。この科学の発達した世の中で魔王とかいますかね。そもそも魔物がいませんし」

「そうにゃのかぁ、その辺にいたらとっと倒して、あたしのお昼寝ライフを取り戻そうと思ったのににゃ」


 腕を組んで椅子を揺らしているシシャモに窓際が食事を運んでくる。

 白ご飯とお味噌汁、メインは豚カツだ。


「豚カツって言っても豚は貴重品だからね。8割が人工合成肉だけど。安全だから安心して。

 野菜もプラントで栽培され無農薬、それにこのお味噌は──」


「ご飯が冷めます。所長も早く座って下さい。皆そろって、いただきますが出来ません」


 麻帆に説明を遮られる。どうやらいつものやり取りらしく、遮られた窓際も嫌な顔もせず仕度をする。


 シシャモはいただきますをした後、早速豚カツに手を出す。


 サクッ、肉を咬もうとすると衣が音で先に存在を主張してくる。

 モグ、モグ、モグ 噛むと肉の旨味を感じる。


「これは! 美味しいにゃーーーー!! なんにゃこれは、あたしの中の野生が目覚めるにゃ!」


 テンションマックスで喜ぶシシャモを見て作った窓際も嬉しくて微笑む。


 シシャモは椅子から立ち上がって、左手に豚カツの皿を右手にフォークで刺した豚カツを天に掲げ叫ぶ


「豚カツばんざいにゃーー!!」


 ズドーーーーン!!


「ってここで落雷かにゃーー!? あの女神めーーー」


「シシャモくん消えたね」

「ええ、でも豚カツも一緒に消えたからシシャモさんも喜んでますよ」

「そ、そうなの?」


 ***


「にゃーーーーって?」


 左手に皿、右手に豚カツを掲げたまま森に立つ。


「なんか恥ずかしいにゃ、この移動方法どうにかならないのかにゃ。モグモグ、美味しいにゃ」


「もし、そこのお嬢さん? シシャモさんでお間違いないでしょうか?」


 豚カツを頬張るシシャモに話かける声がする。聞こえていない振りをするがミミは別の生き物の様に音のする方にピコピコ反応する。


「よし、後はお土産にするにゃ。皆喜ぶにゃ」


 豚カツを皿ごとポケットに入れる。因みにポケットはアイテムボックスになっている。食品の保存はOKだ。


「さて帰るにゃ」


 シシャモの前にスーツを着た顔が蜘蛛の男が立っている。

 目を擦る。右へ進むと相手は左へ。左へ行けば右へ来る。

 仕方なく目を合わせる。


「やっと気付いて頂けましたか、わたくしこの森を支配する魔王、フェデリーニ様の執事アルデンテと申します」


「なんか嫌な予感がするにゃ、あたしは家に帰りたいからまた明日で良いかにゃ?」


 立ち去ろうとするシシャモをアルデンテは8本の足を広げ進路を塞ぐ。


「フェデリーニ様より貴女を始末せよとのご命令ですので逃がす訳にはいきません」


 シシャモは諦めた顔で空間からベルトを取り出しセットする。


「一応聞きたいのにゃが、何であたしが狙われるにゃ?」


 ガチャン! キュイーーーーン


「それは先刻、魔界の森に住むミケ族の『シシャモ』が全魔王を討伐すると世界の声で宣言がありました。ただし家族に手出しは無用と」


「あの、性悪しょうわる女神だにゃ。あいつ世界の声と関係があるのにゃ。

 家族に手出し無用って家族います宣言してどうするにゃ! あいつはバカにゃのか」


 ガッチャン! フロッピーディスク リーディングOK! ノーマルモード スタンバイ!


「ところで貴女は先程から何をされているのです」

「にゃ、これかにゃ? 変身にゃ」


 キュキュキュイーーーーン!!


 目映い光りに包まれシシャモは赤い仮面の戦士に姿を変える。


『蜘蛛の糸!』


 危険を感じとったアルデンテは手から糸を放つ。


 シシャモはその糸を掴む。


「にゃははは、遅いにゃ。喰らうがいいにゃ!」


 パパパパパパワーーMAX!!


 糸を引っ張りアルデンテを引き寄せる。


「ネコキックにゃ!」


 その場で回し蹴りをして、アルデンテの首もとに蹴りを決める。


「あーーーーわたくしの出番少ない! フェデリーニ様、お嬢様方お気をつけてーー!」


 空中で派手に爆発する。


「さっ帰るにゃ。にゃ? ドロップアイテムにゃ」


 アイテムを拾ってルンルンで帰るシシャモを木の上から見る者がいた。


「あの子、強い……」


 口の小さな牙が光る。

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