その4 女神様にゃ!
ベアーぐまを倒した帰り道。晴れていた空が突如曇り始め、上空の空気が震え始める。
その雲から狙ったかのようにシシャモに落雷が!
「って何度も当たらないないにゃ!」
横飛びで落雷を避ける。
そのとき落雷が!
「うにゃ!」
避ける。
落雷! 落雷! 落雷!
避ける 避ける 避ける。
「だーー! もう当たりなさいってば!」
怒鳴り声と共に一人の女性が現れる。
緑の長い髪になんか白い女神っぽい服、ギリシャの神話に出てくる『キトン』を着て、金色の杖を持っている。
「お前だれにゃ!」
「わたしは、可愛いを
突然現れた女性は背景に光が射し、神々しさを演出しているっぽい。
胸を張り目をつぶって威厳? を表しているのだろうか。
シシャモは黙って見つめる。スピカが薄目で開けた目と目が合う。
スピカの頬に一粒の汗が流れるがシシャモはじっと見つめ沈黙が続く。
「ごめんにゃ、もう一度自己紹介お願い出来るかにゃ?」
「くっ……わたしは、可愛いを司る『可愛い女神 スピカ』です」
下を向き屈辱的な表情でスピカが答える。
「ぷっ、可愛いを司るってなんにゃ! 自分で可愛いとかないにゃ。自意識過剰にゃ」
「あーーもーーわたしも恥ずかしいの! だって仕方ないじゃない。
肩書はネタ切れするのに女神は増える一方、わたしも最近女神になって貰った肩書が『可愛い』よ!
自分でも何言ってんだろうって自覚あるわよ! 恥ずかしいの!」
「まあまあ、落ち着くにゃ。そもそも何か用があったんじゃにゃいのか?」
笑い過ぎで涙目のシシャモを睨むとスピカは姿勢を正し
「こほん、良いですか。獣人シシャモよ。貴女は選ばれたのです。この世界に邪悪な魔王が現れました。魔王を倒すのです」
「いやにゃ。お断りにゃ」
即答で否定する。
「いやだから選ばれたんだって」
「勝手に選ばないで欲しいにゃ」
「勝手じゃないわよ。このね……」
スピカはごそごそと懐を探り1冊の本を取り出す。
「いい、この本に書いてある『千年の谷をこの世に悔いなき乙女が戦いに敗れ落ちるとき、奇跡により魔の者を打つ者とならん』と書いてます。つまりそう言うこと」
女神は再び懐を探り四角い棒みたいなのを取り出しボタンを押すと音声が再生される。
『貴女の心意気良いね! 幸あらん事を祈ってるよ』
「この声聞き覚えない?」
「あるような、にゃいような……」
「これね、条件にあった人がいると自動的に流れるの。で落雷が落ちて魔王のいる異世界へ転送。それでそのままそこの魔王を倒してもらうって流れ」
「そのままそこの」の言葉に反応する。こう見えてシシャモ結構、賢かったりする。自覚がないのと披露する場がなかっただけである。
「ちょっと待つにゃ、その言い方だとあたしは何でこっちに戻って来てるにゃ」
「あーーそれね、あっちにも、こっちにも魔王が同時に現れて、討伐する人がいないから掛け持ちってことで」
「なんにゃそれは!」
「だってさ、谷から悔いなく落ちる奴なんて、普通そうそういないじゃない。シシャモは珍しいんだってだからお願い!」
スピカがテヘって感じで舌を出して可愛い子ぶりお願いするが腹ただしいだけである。
「そもそも魔物が魔王を討伐しに行くのはおかしいにゃ! 魔物が魔王になるために倒すことはあるかもしれにゃいけど」
「それもね、天界で議論になってさ、人間ばっかりが魔王を倒しに行くのは魔物軽視じゃないかあ? 平等に魔王を倒しに行く権利を持たせるべきだあ! ってね」
「にゃんか神様の世界も大変にゃ」
シシャモは天界の事情など知らないが、めんどくさそうな場所だと言うことは感じた。だからと言って魔王を倒しに行く理由にはならない。
「分かってくれる? なら倒しに行って」
「いやにゃ」
「ならば! いい私は可愛い女神……って笑わない!」
「にゃはははは! 可愛いって! ツボに入ったにゃ」
笑い転げるシシャモにスピカがキレる。
「いいこと、貴女がいかないなら行くように仕向けるだけのこと、女神舐めんなよ! この猫が!」
「地が出てるにゃ! お前何をする気にゃ! まさか家族を人質にしてあたしを無理やり魔王の元へ行かせる気にゃ!」
焦るシシャモに対して冷静にスピカが答える。
「そんな悪魔みたいなことしないわよ。シシャモが魔王倒しに行くーー! って噂流すの。そしたらあっちから来るでしょ」
「本気でやめてくださいにゃ」
「まっ、そう言う事であっち行ってそのベルトの使い方聞いてみてよ。役に立ちそうじゃないそれ?
因みに落雷は基本私が落とすけど、たまに天界直接ってのもあるからね」
「にゃに!」
「今回は私、えい! 落雷」
雷鳴と共に油断したシシャモが雷に打たれる。
「さーーてどんな噂流そっかな~フフフン♪」
落雷と共にシシャモ消えるのを確認するとスキップで女神スピカは去っていく。
***
「所長、こちらの素材の構築ですがどのようにされていますか?」
「あぁ、ここをずらして、んーー相反するものを一緒に混ぜるのが難しいな、耐火、耐水……」
2人がラボで作業をしていると爆音と共に天井を突き破りシシャモが落ちてくる。
「いたいにゃあ、あの女神最悪にゃ。ん?」
頭の埃を払いながら周りを見ると前回見たことのある人間が2人。
男の人、『窓際』が話しかけてくる。
「あーーネコミミの子、きみはいったいなんなんだ?」
「なんなんだって、シシャモはシシャモにゃ」
「シシャモ? 君の名前かな?」
話の進みそうにない2人に女の人『麻帆』が仲裁に入る。
「所長、ここは状況整理です。お互い知っている事を話して情報交換をするべきかと」
「おぉ、流石だ麻帆くん。えっとシシャモくんだっけ、今お茶でも入れるから待ってくれ」
一旦お茶を用意して3人はテーブルにつく。
「さて、まずは自己紹介からかな。ぼくは 窓際 煙太このラボの所長だ」
清潔感のあるひょろっとした中年、優しそうだが冴えない感じを受ける。
「私は、杉砂 麻帆。このラボの職員です」
化粧気の少ない綺麗な女性。眠そうな目と体から滲み出るやる気のなさが、折角の見た目を残念な感じにしている。
「あたしはシシャモにゃ」
「よし、じゃあシシャモくんは前回も天井を突き破って来たけど、どうして落雷と共に現れるんだい?」
「あぁそれにゃ、女神があたしに雷を落として違う世界に飛ばしてるらしいにゃ」
穴の開いた天井を2人で見上げる。
「女神? 違う世界に飛ばすって他の星に転移させるってことかい?」
「星? 空に光るやつかにゃ?」
「じゃあ質問を変えよう。君はどこから来たんだい?」
「魔界の森にゃ、魔界大陸の端にある森にゃ」
「魔界? ここはアースと言う星のジャパンと呼ばれる国なんだけど知ってる?」
「あーす? 知らないにゃ」
会話が平行線をたどる。
そんな中、主にシシャモ……いや主にネコミミと尻尾に熱い視線を送る麻帆がゆらりと席を立つ。
「お話中すいません、シシャモさんその耳はどうなっているのです?」
「どうって、耳にゃ」
ピコピコ動かしてみる。
「はーーはーー、触ってふふっ、触っても良いかしら、いや触りたいはぁーーはぁ」
「にゃんか怖いにゃ……えーーと、どうぞにゃ」
スッとシシャモの背中に麻帆は立つ、ヨダレを滴す勢いで耳を撫でいつのまにか尻尾も撫でている。
「ふにゃぁーー、いつのまに背後に見えなかったにゃ。にゃ! くすぐったいにゃ」
「はーーはぁーー所長本物です。もうたまんねぇなぁおい、はぁはぁ」
「あの、麻帆くん戻ってきてくれると、うれしなあ」
窓際の声に麻帆が真顔に戻る。
「はい、所長。この耳本物です。この事から推測するに他の星の生物かあるいは違う世界からきたと言う話は本当だと思われます」
「うん、切り替え早いね。とりあえずこの星の人ではないってことだね」
「あー耳がむずむずするにゃ、そうだ、ベルトの事知りたいにゃ」
シシャモがベルトを取り出そうと席を立つとポケットにいれ損ねてたベアーぐまの爪が落ちる。
「ん? これは」
「ベアーぐまの爪にゃ」
「ベアーぐま? 動物? シシャモくんの世界には動物がいるのかい?」
「にゃ? 動物? いるけどこれは魔物にゃ」
「シシャモくんこっちへ来てもらえるかな」
そう言ってラボの奥にシシャモを案内する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます