その3 必殺技にゃ!

 魔界の森に雷が落ちる。その閃光と同時にシシャモが顔面から落ちる。


「おぶっ!」


 顔面着地と共に空中に表示される『ー2』の数字。


「にゃ! ダメージ受けたにゃ。草、草、あったにゃ」


 ポケットから出した薬草をモグモグ食べる。


『+10』が表示される。


「これで全快にゃ!」


 地面に座り頭を掻く。とりあえず現状把握をする事にしたシシャモは自身のステータスを確認する。

 表示されるLV.2の文字を確認すると首をかしげ尻尾をパタパタさせながら考える。アホ毛もピョコピョコ揺れる。


 空間に手を伸ばすと空間に穴が開く。そこに手を入れるとベルトが出てくる。夢ではない……更に考える。


 空を見上げると日が沈みかけている。


「よし! どうでも良いにゃ。暗くなるまでに帰るにゃ」


 ***


「ただいまーー! シシャモ、今帰ったにゃ」


 家の玄関を勢いよく開ける。


「あら、遅かったのにゃね。お帰りにゃ」


 優しい声の主はシシャモの母、『メバル』

 いつもニコニコしてエプロンが似合うシシャモ自慢の母。アホ毛がチャーミング。得意料理は焼く! 圧倒的火力で焼く!


「お帰りにゃーーお姉ちゃん! ねぇ聞いてにゃ、カレイお昼寝連続6時間出来たにゃ。凄くにゃい?」


 シシャモの妹『カレイ』シシャモを幼くした感じでそっくりだ。

 こう見えて最近、連続お昼寝時間の最年少記録を塗り替えそうなミケ族期待のホープだ。

 勿論アホ毛は装備済みだ。


「ただいまにゃ、父さん」

「シシャモ、お帰りにゃ」


 釣りざおを磨きながら答える父の『マグロ』鼻の下にちょび髭を生やした中肉中背の自称渋い男。

 スキル『一本釣り』を持ち魚釣りの名人、家の食料担当だ。

 母メバルのハートを一本釣りしたとかしなかったとか。


 そんな家族に向かってシシャモは鼻息荒く大きな声で告げる。


「ねぇ、みんな聞くにゃ! あたしLV.2になったにゃ!」

「おお!それは凄いにゃ。シシャモはゆくゆく魔王かにゃ」

「おーー! お姉ちゃんは魔王にゃ!」

「ハイハイ、魔王シシャモさんは早くご飯食べてお風呂に入りにゃさい」

「はいにゃ!」


 家族の祝福を受けテーブルにつく。今日のメニューは河魚ウグインを使った『ウグインの圧倒的火力焼き』だ。焦げた部分は大人の味がする。

 未来の魔王を囲んで楽しい食事をする。基本的にミケ族はのんきである。


 ***


 お風呂で変身した時の事を思い出す。


「ふふふーーんにゃ♪ いい湯にゃ。あの時のネコパンチは一味違ったにゃ」


 浴槽でネコパンチをしてみる。当たり前だが水飛沫みずしぶきが上がる。


「おぉ! いつもより水飛沫が大きい気がするにゃ! 流石LV.2にゃ!」


 バシャバシャバシャバシャ!


「連続ネコパンチにゃ! ふははは、これで敵は殲滅にゃ!」


 どうでも良い事で夢中になり時間を潰す。ミケ族あるあるだ。



 お風呂から上がりベットの前で伸びをしてシシャモは寝る。


「さーーて、明日は良い日になるはずだにゃ!」


 …………

 ………

 ……

 …


「……だったはずにゃのだが、なぜお前がここにいるのにゃ!」


 シシャモとベアーぐまはお互い距離を保ったまま円を描くように動く。


「オレ LV.5なった クマミさんに告白 振られた 腹いせにお前 殺る」

「にゃーー! 意味分かんないにゃ! なんで人が魚取ってたら突然来て殺る! とかなんなんにゃ! お前、頭おかしいにゃ!

 そんなんだから振られるにゃ! 最低男にゃ!」


 ピキッ、シシャモの罵倒がベアーぐまの殺る気スイッチを押してしまう。


「お前 殺る!」


 ベアーぐまの素早い爪攻撃をバックステップで華麗に避ける。


「なに! 速い」

「ふっふっふ、昨日のあたしと同じと思うにゃよ!」


 腰を屈めてからの体重をのせた重いネコパンチ!

『-1』の表示がでる。


「ほう、ほう、ダメージ1かにゃ。お前がHP100(仮)として後、99発……お前の負けにゃ!」

「意味分からん うるさい!」

 

 ベアーぐまが両手の爪攻撃を連続で繰り返す。

 避け損なった爪が腕を切る。

『-6』


「痛っ! 血が出てるにゃ! しかもかすっただけにゃのにこのダメージにゃんて」


 ポケットをさぐり薬草を出して食べる

『+10』ダメージを打ち消す。


「こいつを倒すにはこれしかないにゃ!」


 シシャモが右手を横に伸ばす。空間に波紋が出来き、空いた穴からベルトを取り出しお腹に巻く。


 ガチャン! キュイーーーーン


 レバーを引きフロッピーディスクを差し込み


「変身にゃ!」


 キュキュキュイーーーーン!!


 眩しい光と共に赤い仮面の姿に変身する。


「な なんだ!?」


 目の前にいたミケ族のメスの姿が突然変わり、ベアーぐまは焦る。


「ぐおーー!!」


 ベアーぐまは焦りを打ち消す為に、再び連続爪攻撃を繰り出す。その攻撃を華麗に全て避けていくシシャモ。


「ふふふふ! 当たらなければどうってことはないにゃ!

 そして食らうにゃ!」


 攻撃を避けて脇が空いて隙だらけのベアーぐまに右フックネコパンチ! 『-7』そのまま顎に左アッパーネコパンチ! 『-7』それぞれダメージが表示される。


「さっきよりは終わりが見えそうにゃ! もう1つ食らうにゃ!」


 シシャモの攻撃するための右拳は、ベアーぐまの左手に捕まれる。


「にゃ! しまったにゃ!」


 ベアーぐまは腰を落とし右手の爪を出した状態で力を溜め爪が光る。

 この世界における自身の得意技それを『固有技』と言う。そして今ベアーぐまの固有技が放たれる。


『ベアー爪スマッシュ』


 右手を捕まれているので、もろにお腹に爪の攻撃を食らう。


 シシャモは思い切り吹き飛ばされ地面を派手に転がり木にぶつかり停止する。


「あーー死んだにゃこれは。多分お腹は今モザイクかかってる状態にゃ」


 薄目で頭上を見ると浮かぶ『-4』文字。お腹を触るとなんともなっていない。

 倒れたままステータス画面を見る。

『防御力 7』の数字が確認出来る。パワードスーツの4倍補正で『28』として今の攻撃のダメージが『-4』なにか違和感を感じる。

 寝てても仕方ないので、この現状を打開する為立ち上がる。


「お、お前生きてるのか なぜだ」

「そんなのこっちが聞きたいにゃ! と言うか、戦うのをやめるにゃ! これ以上は無意味にゃ!」

 

 シシャモは停戦を試みる、ベアーぐまは戦闘体制のまましばらく黙る。


「いや! お前を 倒す そしたら告白 もう一度する! 今度は成功する気がする!」

「にゃんじゃそれは! 諦めろにゃ! しつこいにゃ! 女の敵にゃ!」


「うおーー!! 右手の爪攻撃力『73』左手の爪攻撃力『68』合わせて『141』それに突進のスピードを2倍に、回転をいつもの2倍で……」

「にゃんの理論を言ってんだあいつは! しかも普通に喋れるんじゃにゃいか!」


 よく分からないがベアーぐまは最大の技を繰り出そうとしているようだ。


「にゃにかないかにゃ……」


 お腹のベルトを見る。レバー……


「そう言えばレバーを押し込んだら変身解除だったにゃ、もう一度引っ張るとどうにゃるにゃ」


 割りとピンチな状況だが気になると好奇心の方が勝る。ミケ族あるあるだ。


 レバーを引っ張る。


 シューーーン! 必殺!


 聞いたことのない音声が流れる。


「必殺……必ず殺すにゃ、次があるのかにゃ」


 ベルトを見る。あと出来そうなのは真ん中のボタン。試しに叩く。


 パワーー!


 新しい音声が流れる。よく見るとベルトの正面にある丸い縁取ふちどりが一部赤く光っている。


 もう一度押す。


 パワーー!


 赤い光が増える。連打してみる。


 パパパパパパワーーMAX!!


 ベルトの正面に赤い光の輪が出来る。そして右足が赤く光り始める。


「これはいける気がするにゃ」


 飛ぶようにベアーぐまの元へ前進すると地面を蹴って飛び上がり右足で飛び蹴りをする。


「──今日の朝食の蜂蜜分で攻撃力プラス『3』──っておぶっーーーー」


 まだ何か言っていたベアーぐまは、シシャモの飛び蹴りによって吹き飛び地面にバウンドするように叩きつけられると空中で爆発する。

 シシャモは蹴った後、空中で1回転し着地を決める。


「にゃんで爆発するにゃ!? しかもダメージが見えないにゃ」


 パパパパーン!

『LV.2→LV.3』


「レベルが上がったにゃ、一応倒せたってことかにゃ」


 手をグーパーしながら自分の姿を確認する。


「うーーん、戦闘経験がないからよく分かんにゃいけど、にゃにか違う気がするんだよにゃぁ」


 ベアーぐまが爆発した後にキラリと光る物を発見する。


「お! これが噂のドロップアイテムだにゃ。初めて見たにゃ」


『ベアーぐま爪の欠片を入手』


「感動だにゃーー使い道は分かんにゃいけど。カレイに自慢するにゃ」


 シシャモは違和感を忘れルンルン気分で家に向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る