第65話:それぞれの交流★

 ※「☆★☆★☆」マークの部分ですが、「カクヨム」と他サイトに投稿している分で描写、視点を変えております。また、「カクヨム」では若干性描写が強調して描かれておりますので、苦手な方は他サイトでご覧頂ければと存じます。






「ファッファッファッ! あの気難しいリムクスによくそこまで気に入られたもんじゃ! 勇者と名乗る者ががあんな輩だったのでな、此度は随分と質の悪い勇者がやってきたものだと溜息を禁じ得ない気分じゃったが、なかなかどうして……お主はいい感じじゃないか! これなら王女たちの態度も頷ける」

「……あの男と一緒にはされたくないので、そう言って頂けると有難いですね。同じ勇者の候補としては……本当に恥じ入るばかりなので」


 会議の席を後にする際、話しかけてきたドワーフ……ベルト王だったが、思い出したようにリムクスから渡されていた手紙一式を取り出すと相手の反応がガラリと変わった。余りの変わりように隣にいたユイリは呆気に取られるほどで、結果そのまま彼の与えられていた部屋にまで招待される事になったのだ。


「そのように謙遜する事もあるまい。ふむ……、なかなか面白い武具を開発しとるようじゃな。ストレンベルクでの鋳造も侮れんようじゃ。新天地を求めてと国を出たリムクスたちじゃったが、この様子では快適に過ごしているんじゃろう」

「手紙の他に預かってきたのですが……、それは鉱物……でしょうか?」


 簡易の収納袋から出てきたものは、火酒? の入っているらしき瓶にそのツマミになりそうな食べ物……。そして、幾つかの鉱石と思われる色とりどりの物体をベルト王が手に取りその状態を確認していた。


「うむ、ドワーフ族の手で加工した鉱石じゃな。……なかなか純度も高い良い石じゃ。ストレンベルクで採れた石なのか、他の国より手配したのかは分からぬが……リムクスめ、随分と腕を上げたようじゃな。彼奴の得意気な顔が目に浮かぶわい……」

「リムクスさんには随分お世話になってます。あの方にメンテナンスして頂いたお陰で……数々の局面を切り抜ける事が出来ました」


 刀を扱う前に愛用していたミスリルソードしかり、宗三左文字そうさんさもんじも彼に手入れして貰っていなければ、今までの戦闘で破壊されてしまっていてもおかしくはない……。特に先日のカオスマンティスとの戦いにしたって、奴の猛攻を受け流すたびに何時折られていてもおかしくなかったのだ。ベルト王に一言ことわり、『左文字』を抜いてみると……かなりの刃こぼれが確認できた。


「……やっぱり大分武器を消耗させてしまったみたいだ。まだ前回のメンテナンスから日も経っていないのに……、それだけ危険な相手だったという事か……」

「むう……、これがたった数日でこうなったじゃと? ……別に妙な扱い方をした訳でもないようじゃが、よっぽどの相手と戦ったんじゃな。大方、会合に遅れた事に関係があるようじゃが……」


 ベルト王は僕の刀の状態を見て唸っていたが、やがてひとつ頷くと、


「よし、ならばお主がここに滞在する間、リムクスの代わりにワシが武具のメンテナンスをしてやろう。なあに、奴が腕を上げたとはいえ、まだまだワシには及ばんわい。大船に乗った気持ちでいるんじゃな!」

「え!? 王様自ら武具の手入れを……!? そ、そんな恐れ多い事……! だ、大丈夫です! 僕も一応、鍛冶師ブラックスミスとしてメンテナンスする事が出来ますから……! まぁ……ドワーフの方々に比べると、本当に初歩的なものでしかありませんけど……」

「遠慮はいらん。それともなんじゃ? ワシの腕が信用できんか?」

「そんな事はっ! ……わかりました、ベルト王さえ宜しければ是非お願いしたいです……。僕の腕では、左文字を元の状態に戻す事は難しいでしょうし……」


 これから例の大会に臨まないといけないし……、出来れば万全の状態で挑みたい。結局、和の国のセリカ様は僕の提案を受け入れてくれた。件の転移者は和の国における最高機密の人物のようで、セリカ様にお目通りする以上に難しいらしい……。『正宗』の返還を条件にあくまで彼の意向もあるという事だが、会う段取りはとってくれると女帝自らが約束してくれたのだ。そうなれば……、例え大会がどんなに過酷でも優勝するしかない……!


「フォッフォッフォッ! まあワシに任せておけ。折角じゃし、色々と聞きたい事もある。機密のようなモンには触れぬから、差し支えないところは教えてくれ。特に……手紙にはお主は火酒や料理の事に精通しとると言うではないか? ワシらドワーフにとって、酒とそのツマミには並々ならぬ思いがあるんじゃ。是非、聞かせて貰いたいもんじゃな」

「わかりました、僕の知っている事で宜しければ……」


 「そうこなくてはな!」っとばかりに大笑いするベルト王。何にしても、彼にメンテナンスして貰えるのは有難いし、近くでその高度な技術を学ぶことも間違いなく今後に生きてくる……。笑うドワーフ王を肩を竦めて見ているユイリに、僕の接待係となっているシャロンさんが恐縮している中で……、気のいいベルト王と交流を深めていった……。






「すみません、シャロンさん……。貴女にまで付き合わせてしまって……」

「いえ、私の事は貴方様に仕える侍女のように扱って下さって構いません。それが私のお役目でありますので……」


 シャロンさんはそう言うが……、ユイリの話によると彼女は相当高貴な家の出の令嬢のようだ。本来ならば、こんな風に侍女の様に連れまわしていい人物ではないらしい。上の人間アーキラ皇太子はあんな感じだが……、何のかんの言ってもイーブルシュタイン連合国として勇者を歓待しているという事、……なのだろう。


「それよりも……本当に申し訳御座いませんでした。我が国の皇太子が、まさかあのような事をなされるなんて……」

「……国としての謝罪、というのならば要らないわ。貴女に謝罪して貰っても、当の本人が何とも思っていなければ意味が無いもの」

「まぁ、シャロンさんに反対されてもそのまま退席されちゃうくらいだしね。こういう場でホスト側が席を立つって決裂を意味するんじゃないかって思うけど……、自分たちが何をしても許されるとすら思っていそうだし……」


 僕とユイリがそう指摘すると……、シャロンさんは恥ずかしそうに顔を伏せる。


「そもそもの話だけど……、シャロンさんはどうしてあんな横暴とも言える命令に従ってるの? いくら皇太子だろうと……別に国のトップという訳ではないのでしょう? 貴女自身、良家の出身のように思うんですけど……。やっぱり、皇族だから逆らえないんですか?」

「……勿論、次期天皇となられるアーキラ殿下を敬わなければ……というのはありますわ。そして、私は皇太子妃となったお姉様を補佐するようにも申し受けております。此度の勇者候補者様は二人……。流石にお姉様お一人で対応されるのは難しいと判断され、私もその任に就く事に……」

「……少なくとも、ストレンベルクでは貴女こそがアーキラ皇太子のイーブルシュタインでの婚約者と伺っておりましたわ。外交上での絡みからレイファニー殿下に婚約の打診があった時には既に皇太子妃教育を受けられておられた筈です。それなのに、何時の間に変更に……」


 ユイリの言葉に、シャロンさんは一瞬悲痛な顔を浮かべるも、直ぐに表情を戻し、


「…………アーキラ殿下との婚約は解消されました。アーキラ殿下曰く……、可愛げのない私よりもイーブルシュタインの花と謳われるお姉様との方が華がある、と……。それに同じフィレンシュ家から娶るのだから面倒も少ないと仰られ……」

「…………は!? 何それ? そんな事が許されるの……?」

「許される筈御座いませんっ!!」


 シャロンさんの余りの境遇に言葉を失っていると、別のところからそんな言葉が飛んでくる。見ると薄い青緑色の髪を背中まで靡かせながら、ドレスの裾を抑えつつ早歩きでこちらに来る女性の姿が……。僕らの下までやって来ると軽くカーテシーにて挨拶をすると、


「話に割って入るご無礼、どうかお許し下さいませ。ワタクシはアストレア・リオネヌームと申します。他国の方とお見受け致しますが、何卒シャロン様を……」

「アストレア、やめなさい!」


 令嬢の背後からさらに声が掛かり……、壮年の男性がやって来る。


「お父様……」

「シャロン嬢、お仕事中に娘が引き止めてしまい申し訳ござりませぬ。そちらは……ストレンベルク王国のシラユキ公爵家のご令嬢でいらっしゃいますか? ともすれば、隣におられる方はかの勇者殿であらせられますかな?」

「パラスティン議長、ご無沙汰しております。アストレア嬢も、久しぶりですね。前にお会いしたのは……学園を卒業した時以来かしら? ご推察の通り、シラユキ公爵家のユイリ様と……、召喚された勇者候補でいらっしゃるコウ様ですわ。こちらはイーブルシュタインの最高評議会議長のパラスティン殿と、そのご令嬢アストレアさんです」


 シャロンさんより紹介され、僕は挨拶で応えながら、


「ところで、先程アストレアさんが言い掛けた事ですが……」

「……他の国の方々に我が国の恥を晒すようで申し上げにくいのですがね。それに……シャロン嬢、よろしいのですか?」

「……構いませんわ。もう既に起こってしまった事です。今更事実を隠す必要もありません」

「本当に殿下たちはシャロン嬢の事を何だと思っているのかしら……! コウ様、ユイリ様……、聞いて下さい……!」


 そうしてアストレアさんから聞いた話は……正直耳を疑うレベルの内容だった。はじめはあのアーキラ皇太子の婚約者に内定していたシャロンさんだったが、ストレンベルク王国で招待召喚の儀が執り行われたと聞くや否や、一方的にかつ公衆の面前で彼女との婚約破棄を申し渡したという……! しかもその理由というのが、シャロンさんがストレンベルク王国への働きかけを上手く進めなかったからレイファニー王女との婚約の内定が棚上げになってしまったという意味不明なもの。挙句の果てにはシャロンさんは実家においてもわざと不利益を齎し、家族には当たり散らすは妹は虐めるはとイーブルシュタイン連合国に叛意ありと断罪され、あわや国外追放か最悪処刑される事態にまで陥ったとか……。


「……シャロン様を知る私達からすれば、どれもこれも言い掛かりに近いお話でした。ですが、それがまかり通る異常な事態で……、証拠も無くあちらの証言のみが真実ととられてしまって……、結果シャロン様は拘束されてしまったのです」

「いや、おかしいでしょう!? そんなに皇族の力が強いんですか!? いや、それとも僕が知らないだけで、貴族世界の中では普通に起こり得る事なのか……?」

「安心しなさい、コウ。貴方の感覚は極めて正しいわ。……こんな事がストレンベルクで起ころうものなら、国として立ち行かなくなるでしょうから……」


 ユイリがそのように補足してくれた事で、今回この国で起こったものは明らかに異常な事件であるとわかりホッとする。僕は少し冷静さを取り戻し、パラスティン議長に向き直ると、


「……この国って確か共和制をとっているという事でしたよね? 先程も最高評議会と言ってらっしゃいましたし、そんな横暴を止める事だって出来たのでは?」


 僕がそう言うと、パラスティン議長は苦汁をなめたかのような表情で、


「勿論、皇室が好き勝手に出来る訳ではありません。実際に天皇を決めるのも議会の決定が必要ですし、天皇が何かを推し進めようとしても議会の存在は無視できません。しかし、それが起こってしまったのです。皇太子の暴挙ともいうべきソレが起こり、我々が把握した時には既に手遅れの状態で……、他国への醜聞も考えて婚約者をシャロン嬢から姉君であるアマンダ嬢へと移行し、あくまでフィレンシュ家の内輪揉めという体裁をとったのです」

「……仮にもレイファニー王女殿下との婚約の話も出ていた我が国に一言もないというのは如何なものかと思いますわね。外聞というのも分からないでもありませんが、それが判明した際貴国の信用が著しく損なわれると思いますが? 事実、私のイーブルシュタイン国に対する信頼は地の底です。この事をレイファニー殿下がお知りになったら、同様の事になるかと存じますが……?」


 僕の気持ちを代弁するようにユイリがパルスティン議長に問い掛けると、彼は一層項垂れてしまった。


「…………返す言葉もありません。いえ、議会でも今回の件を重く受け止め、アーキラ殿下の皇位継承権、皇太子称号の剥奪も検討されたのです。しかし……、明らかに皇室の息が掛かっていると思われる者達が評議会のメンバーに多くいるようで……、結局アーキラ殿下は皇太子のまま事実上のお咎めなしとなり、シャロン嬢も証拠不十分で刑罰をお与えるといった事は避けられたのですが、冤罪を晴らすまでには至らずにアーキラ殿下の希望通り婚約は白紙となり、イーブルシュタイン連合国への叛意が無い事を証明させるといった理由によって、天皇陛下とは齢の離れた皇弟殿下の婚約者へと強要される結果となった次第です……」

「……本来、評議会は皇室とは一定の距離を保ち、それぞれに権力が集中しないよう分離して考えねばならないのに……。本当にこの国の者として恥ずかしい限りですわ。いくら殿下とシャロン様のご実家であるフィレンシュ家が強く望んだとしても、このような暴挙を……。結局はシャロン様を今まで通り政務に縛り付けるという意図があるのでしょうけど、いくら何でもこれは……」

「私を案じて下さるアストレア嬢のお気持ちは嬉しく思いますわ。幸い、シーゲル皇弟殿下は私に同情的で……、良くして下さってます。尤も、本来お姉様が為さるべき皇太子妃としての職務を押し付けられている事もまた事実ですが……」


 …………取り敢えずこの国が、イーブルシュタイン連合国が出来るだけ関わり合いになりたくないヤバいところだという事がこれでハッキリした。とはいっても既に『天下無双武術会』に参加すると表明した以上、最低限関わらなければならないが……。


「やれやれ……、確か僕の他にレンも出場資格は有しているって事だっけ? 元『獅子の黎明』の団長で、名前も知られていたって言うのに大丈夫なの?」

「あの大会は強者登用も兼ねているようだから、国に仕官しているかどうかが大事なのよ。……貴方も所属している『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』はストレンベルク王国の秘匿組織。レンは表向きには冒険者から引退したていになってるわ。あまけにシェリル姫と同様、この国にも秘密裏に入国してる。出生を洗われる心配はないわ」

「……私がお伝えする事ではありませんが、呉々くれぐれもお気をつけ下さいませ。回数を重ねるごとに被害や犠牲も多くなっている大会です。昨年はかなり女性にとってかなり悲劇的な事も起き、今年は女性の参加は禁止されてしまった程ですので……」


 ……うん、碌な大会じゃない事はあの後、各国の出席者から聞いたからわかってはいるつもりだよ。いくら和の国とコネクションを得たいと思ったからとはいえ、少し早まったかな……? そんな僕たちの会話を聞いていたアストレアさんが、


「まぁ、あの野蛮な大会に……!? あれは去年で廃止すると決まっていたのではありませんの……? お父様……」

「……アーキラ殿下が何処からか目玉となる賞品を手配してしまったのでね。その事もあって、今年も主催されることとなったのだ。……失礼ですが、コウ殿も参加されるのですか? あの大会は最早格式も何も無い、ただの暴力自慢を謳うものに過ぎません。事態なされた方が賢明かと……」

「……ご忠告は有難く頂戴致します、パルスティン卿。ですが、既に参加は決定事項なのです。申し訳ありませんが、辞退するという選択肢はありません」


 もう既に和の国のセリカ様とは交渉してしまっている。今更やっぱり辞めるなどと言い出せる筈も無い。


「此方を案じてくれる方がこの国にいらっしゃったのは僥倖でした。僕が見てきた人たちは酷いものでしたからね。パルスティン卿やその心を同じくした方々がイーブルシュタイン国をうれい、心を砕いて下さるなら……、いずれは変わっていく事でしょう。そうなる事を、僕は願ってやみません」


 こんな無責任な事しか言えないけど、パルスティン議長達には頑張って貰うしかない。現時点においてこの国の皇太子は全く信用できそうにないのだ。他国の王女であるレイファニー殿下への振舞いや、婚約者だったシャロンさんへの処遇、『正宗』を巡る和の国への対応にも不信感しかない。


「……そう言って頂けるだけで有難い。この国で何か不都合な事がありましたら、何時でもご連絡下さい。何が出来るかはわかりませんが、リオネヌーム家として力となりましょう」

「そう言う事なら、ユイリ……」

「……ええ。実は侍女や使用人の事でお願いしたい事があるのですが……」


 そう言ってユイリが懸念だったシェリルの侍女の件をパルスティン議長やシャロンさん達に伝えていく……。そして一通りの事を話し合い、僕らは待っているであろうシェリル達の下へと戻るのであった……。






 ☆ ★ ☆ ★ ☆






「あああっ! あのクソ共がぁっ! ふざけやがって……っ!」


 ほぼ強制的に会議の場を退席させられ、オレは与えられた部屋で苛立ちを隠せずにいた。


「どいつもこいつも……っ! オレ様が勇者だって事をわかってねえのか、アイツらはっ!? マジでイラつくぜ……っ!!」


 あの糞ドワーフもそうだが、特に腹立たしいのは元デブでハゲのかませ犬だ……! オレと同じ勇者候補だなどとほざきやがっただけでは飽き足らず、オレがかけてやった恩も忘れて歯向かいやがるとは……っ!


「大体、あの女も何なんだ!? ベアトリーチェの奴、オレの専属の分際で……敵にまわりやがっただと!? この場にもついてこねえし一体何考えてやがる!?」


 ああ、本当にむしゃくしゃする……! ここにベアトリーチェが居ればあいつにぶつけてやるんだが……、行き場のない怒りはそのまま部屋に整えられていた調度品に当てられる事となり……、古びた壺が大きな音を立てて割れると辺り一面が悲惨な状況となった。

 唯一部屋に居たエリスがそれを片付けようとして……代わりとばかりに彼女を抱き寄せる。抱き心地はいいんだが……如何せん胸のボリューム足りず、何処か満足感が得られない。


 ……何でこんなに上手くいかない? オレは、選ばれた者の筈だ……! 何て言ったって、オレは勇者だぞ? 何でオレを優先しない? あの王女は、どうしてオレを受け入れないんだ……!?


「ジェシカの事もそうだが、何でオレが我慢しなければならねえんだ……っ! あの時だって、本当であればオレの手中に納まっていた筈なんだっ! それなのにっ……!」


 どうしてこうも上手くいかないのか……。オレは千載一遇のチャンスであった筈のあの時の事を思い出していた……。






 マリアベーラとの逢瀬の後、ジェシカの他に付けていた使い魔からの連絡が入り、オレは夜の王都に身を潜めていた。ちょうど目の先には……ターゲットの女と冒険者らしき男がいる。彼氏なのかどうかは知らないが、場合によっては排除すればいいだけの話だ。だが、見たところによると二人は家に到着する前に別れるみたいだった。それならば、女が一人になった時を狙えばいい……。




 NAME:サーシャ・リンスロート

 AGE :21

 HAIR:亜麻色

 EYE :ロイヤルショコラ


 RACE:ヒューマン

 Rank:25


 身長    :163.4

 体重    :46.3

 スリーサイズ:93/56/88


 性の経験:処女ヴァージン


 JBジョブ:コンセルジュ

 JB Lvジョブ・レベル:20(MAX)


 HP:71

 MP:77


 状態コンディション:悲哀

 耐性レジスト:混乱耐性、魅了耐性、ストレス耐性


 力   :28

 敏捷性 :45

 身の守り:26

 賢さ  :179

 魔力  :94

 運のよさ:42

 魅力  :180




(クククッ、目を付けただけあっていいオンナじゃねえか……! カラダもグラマラスでナイスバディという事なし! ギルドの受付嬢をさせとくなんて勿体ねえ……。オレ専用の秘書にして存分に可愛がってやるからな……!)


 『評定判断魔法ステートスカウター』で確認したデータにふるいだちそうになるの抑えつつも舌なめずりをする。光源氏計画として囲う予定だったジェシカはとられてしまった為、その時の失敗をを活かすべく、オレはあの受付嬢を拉致して秘密裏に監禁するつもりだ。行方不明という事にしてしまえば、オレの関与云々と言われる事も無い……。何か言われてもしらばっくれればいいだけだし、空間スキルの『プライベートルーム』に閉じ込めていれば誰にもバレる事はないのだ。


(女の状態から見ても、恋人同士って訳ではないようだな。男の方は命拾いしたって訳だ。じゃあ彼女の事は慰めてやらないといけないな! 処女であるようだし、先ずは男の温もりというものを教えてやるとするか……グシシッ)


 むしろ、勇者のオレに選ばれるのだから光栄に思って貰わないとな。まぁ、二度と外へ出すつもりはねえし、その豊満なカラダでオレを暖める……いわば慰み者として貢献する事となる訳だが、世界を救う事になるオレの性奴隷だったらそう悪い話でもあるまい。

 さて……、二人はもう別れたようだし、一人になったターゲットを確保……もといお迎えに上がるとするか。




「っ! うむぅ!? んー!」

「へへへ、抵抗しても無駄だ……大人しくしなっ!」


 家に辿り着く前に例によって音も無く彼女に近付き……、サッと後ろから抱きすくめて捕まえる。抵抗を許さずにそのまま抱えて死角に設置したプライベートルームの出入口にまで連れて行き……、足が地面につかずバタバタと暴れる彼女を伴って出入口を閉じた。


「何をするんですかっ!? 私を家に帰して下さいっ!!」

「そういう訳にはいかないなぁ……! まして帰すも何も、ここがこれからキミの家になる訳だしね。サーシャと言ったっけ? ま、早いとこ諦めた方がいいぞ」


 抵抗空しくオレに誘拐された彼女がそう言うのを無視して用意していた『赤いロープ』で後ろ手に縛りあげる。『神々の調整取引ゴッドトランザクション』で購入しておいた、縛った相手を性的に興奮させるという、最近愛用している道具アイテムだ。彼女の自由を封じたところでベッドへ連れて行くべくサッと抱き上げた。両手を拘束されながらも下ろしてと暴れるサーシャをキスで塞ぎながら自慢のキングサイズのウォーターベッドへと運んでゆき……、


「うむうっ!! んんんんんっ!!」

「ぷはっ、こりゃあ中々のじゃじゃ馬だ。唇を噛んでくるなんて今までの女にはいなかったな。……これは先に下の口から大人しくさせた方がよさそうだ」


 そのままベッドへと押し倒し口付けを深くしようとしたところで、まさかの唇を噛んでくるという行為に些か驚きながらもそれならばとばかりにサーシャのカラダへと目を向けた。


「いやあ、やめてえ……っ!!」

「だからさっきも言ったけど諦めなって。サーシャにはこれからオレ専属の性奴隷……じゃない秘書になって貰うから。だから明日からはギルドに出社する必要はないぜ? まぁ、どの道明日は足腰が立たなくなってるだろうが……」

「そ、それって……!」

「ああ、キミが今まで大事に取っていた処女はオレが有難く貰ってやるからさ。光栄に思ってくれよ? 何せ勇者サマに処女を捧げられるんだからさ?」

「そんなのいやぁ!! 帰して! お願い! 私を家に帰らせてえっ!!」


 半狂乱になりながら泣き叫ぶ彼女を無視して、ここが君の家だからと告げながら上のドレスをはだけさせる。オレの手により暴かれたその魅惑的な肢体に思わず生唾を呑み込み……本能のままにむしゃぶりついた。着痩せしていたかの如くねぶりだされた大きな双丘を待ちわびた様に乱暴に揉み上げ、ひとしきりおっぱいの揉み心地を堪能した後は、そのまま下着をずらし顔を埋める。その至福な感触にずっとそうしていたい衝動にかられつつ、片手は彼女のシミひとつない陶器のような柔肌に這わせ、一通りまさぐると腰元からさらに下へと移していく。貴族の子女が身に付けているガーターベルトごしにムッチリとした太ももに手をやるといやらしくさわさわとなで回しながら徐々にドレスのスカートごと捲し上げていった……。


「っ! そこはっ!? ……ハァハァ、お願い……、もう、許してぇ!!」

「思った通り、いい体してるじゃないか? 本当に堪らねえ……! ギルドで見かけた時から絶対に犯してやろうと思ってたぜ。……これからオレが時間をかけて、たっぷりと男というものをそのカラダに教え込んでやるよ。そして孕ませて……娘を産ませてその後で親子丼……ってのもいいかもしれねえな?」

「そ、そんなの絶対嫌よっ!! ううっ、誰かぁ、助けてぇ……っ!!」


 そう言って嫌がりながらも、『赤いロープ』の効果か色っぽく喘ぎつつあるサーシャに嗜虐的な感情を覚えつつ笑いながら蹂躙していく……。やがて彼女の禁断のセクシーゾーンへと到達すると、パンティーに手をかけゆっくりずり下ろし……、ガーターベルトとあわせて脱がしてしまうと、


「んむ!? むぐぐ……っ!!」

「これでよしっと……。さて、下の可愛いお口が曝け出された訳だけど……どうだい? 誰にも見られたくない、キミの一番恥ずかしいところをオレに見られている気分は?」

「んんんんっ!! んむーーっ!!」


 脱がしたパンティーを丸めて彼女の口に押し込んで耳元でそう囁くと、涙目でブンブンと顔を左右に振るサーシャ。そんな彼女に対し、オレはむき出しになったアソコを撫でるようにそっと手を這わせると、


「キミはこれからオレによってオンナになる訳だが……、表向きには何者かに誘拐されて行方不明って事になって貰う。その責任はさっきまで一緒に居た男のせいにしておくからね?」

「んんんっ!?!?」


 そう告げてやるとサーシャは目を見開き、絶望したかのような表情を見せる。そんな彼女が流した涙を舐め取りながら、


「さあて、それじゃあそろそろ頂くとするかな……。綺麗で使い込まれてないようだから、最初は痛いかもしれないが……、すぐに気持ちよくなるだろう。キミをオンナにするご主人様の顔をしっかりと焼き付けておくように」


 ……いよいよお愉しみの時間だ。じっくりとサーシャの具合あじを味わわせて貰うとしよう……。オレは『ハイパー性器ジャストフィット』の能力スキル込みでそり立つ自身のをアソコへと擦り付けたところで……、




「……おっと、妄想している場合じゃねえな。これからたっぷり本物のカラダを堪能する事になるんだ。この機会チャンスを逃せば今度は何時になるかわかんねえし……。行くとするか」


 先程までの妄想を振り払いながらも、実際の感触は如何ばかりか、早く彼女の味を見てみたいとワクワクしながら距離を詰めていく。しかしあと一歩というところで、


「!? 殺気だと!?」


 オレの『危険察知』の能力スキルが発動し咄嗟に身を翻すと、さっきまでオレが居た場所に小刀のようなものが突き刺さる。


「…………誰?」

(クッ、拙い! この場は身を隠さねえと……っ!)


 物音に気付かれたのか、サーシャが訝しげに振り返ったのを見て、オレはこの場からの退却を決めた。向こうからもサーシャお嬢様などと此方にやって来る気配も感じる。……どうやら今回はここまでのようだ。


(糞っ! 誰だ、こんな真似をしやがったのは……! オレの邪魔をしやがって、覚悟は出来てんだろうな……っ!)


 とはいっても既に相手の気配は感じられない。むしろ気配自体、あの一瞬しか感じられなかった。オレを阻もうと殺気とともに投擲してきたあの一瞬でしか……。だが、あれは……女か? それも何処かで会った事があるような……。


「どちらにしても……タダじゃおかねえ……! この礼は後でたっぷりしてやるから……覚えていろよ!!」






 あの時の屈辱が蘇ってくると、ますます憤りが抑えきれなくなってくる。


「何で誰もかれもが邪魔しやがる! オレを一体誰だと思ってんだ!? オレ様は勇者だぞ!?」

「……どうやら荒れていらっしゃるようですね。折角整えた調度品も台無しじゃないですか。その壺ひとつにどれくらいの価値があるのかご存知でいらっしゃいますか?」


 そんな声と共に部屋に入ってきたのは……、この国の皇太子だというアーキラだ。


「おい、皇太子さんよぉ! オレを会合から締め出したのはどういう了見だ!?」

「あのまま会合の場に居続ければ戦闘は避けられなくなっていたじゃないですか。下手したら世界中を敵にまわす事になりますよ。兎に角……落ち着いて下さい。代わりと言っては何ですが、こんな趣向は如何です?」


 そう言ってオレにあるリストを差し出す。それは……、


「この皇都で結婚する予定の花嫁のリストです。ご興味があれば、その前に身柄を抑えさせましょう。後はトウヤ殿の好きになさって下さい。新郎の前にそのカラダを一夜の至福として愉しむも良し、気に入ったならそのまま性奴隷にでもしてしまえばよろしいでしょう。なーに、誰にも文句は言わせません。何せ、これは勇者殿の心の静養に必要な事でありますからな」

「……そうだな。やっぱりアンタはわかってんな・・・・・・


 アーキラ皇太子の申し出に苦笑しながらもその提案は有難く受け取る事にする。サーシャやジェシカ程とはいかずとも、パッと見た限り上玉もいるようだしな。

 ……コイツは何だかんだでオレの事を理解している。きっちりとオレを勇者として配慮してくる。他の馬鹿どもにも見習わせたいところだ。最初、レイファニー王女を婚約者フィアンセなどと言うアーキラを排除してやろうと思ったが……、話してみると中々わかる奴だった。


(あくまで婚約者フィアンセ……。実際にストレンベルクと交わる為に必要であっただけで、実質はオレに渡す、と……。尤も、一夫多妻でコイツ自身のちの後宮としてハーレムも持っているらしいが……、そう言う事なら呑み込んでやってもいい。事実、最初にリストをあげてきた事からも、コイツは勇者に対する心構えが出来てると考えていいからな……)


 オレ以外がハーレムを持つというのは気にくわないが……、一応次期王になる人物だ。オレへの心付けも忘れてないようだし、仕方がないから許してやるか。その気になればどんな女でも手配して見せるとばかりにマリアベーラも話していた例の歌姫が捕まっていた時の淫らな姿が撮影され収められたピンクブック……、早い話が裏社会の販促スフィアを渡してきたりと随分好意的だし、な……。


「まぁ、見ていて下さい。直にトウヤ殿こそが真の勇者であると、それが皆に周知される時がきますよ。事実、貴方はこれほどまでの実力を有している訳ですからな。レイファニー王女たちもそれが分かる事でしょう」

「ふん……それならムカつくが、今はアンタに免じて引き下がっておいてやる。その代わり、ここにあるリストの女は全員大至急手配してくれ……」

「フフフ、仰せのままに……勇者殿」


 ……とりあえずはアーキラに渡されたリストの女で満足しておくか。そっと溜息を漏らすエリスが視界に入ったが今は特に気にする事なく、この女たちでどう愉しむかという事を妄想するのだった……。











 ――同時刻、コウに与えられていた部屋にて――


「ユイリ!? こ、これは一体、どういうつもりだ!?」

「貴方は黙ってて。……わかっているわね?」

「……ええ」


 戸惑うコウを余所に、私は伝えていた通りするようロレインを促し……、彼女はそれに従って羽織っていたローブを脱いでゆく。何時ぞやのように黒いレオタード姿を晒すと、コウは動揺した様子で、


「な、何を考えているんだ、ユイリッ! どうして彼女にこんな真似をさせる!?」

「こんな真似って……見ればわかるでしょう? 彼女に『責務・・』を果たして貰う為よ。当然の責務を、ね……」


 私は感情を感じさせないようにコウに答える。こんな夜更けに男だけの部屋に女が訪問する意味……、分からない筈がないでしょうに。


「因みに彼女は納得しているわ。何でも、あのダグラスの性欲の処理は彼女も担当していたらしいから、そんな葛藤する必要はないわよ?」

「……ユイリ様の言う通りです。私の事は好きにして構いません……」


 ロレインはそう言うと頭を下げて……上目遣いでコウ達を見つめる。誰かがゴクリと生唾を呑み込む音が聞こえた、


(貴方だけだと気兼ねするかもしれないから、レンやジーニス達も呼んだのだから……。さあ、遠慮することはないわ。早く彼女を……!)


 私はちらりとレンの方へ視線を遣ると、彼はやれやれといった風に前に出て来てロレインの背後に回り込むと……、


「……っ」

「レン!? お前まで何を……っ!」

「何をもなにも……ユイリが言ってたろ? これが彼女の責務だと……。なら、やる事はひとつだろ?」

「だ、だからと言って……っ!」


 コウの問い掛けにレンはそう答え、そのままロレインの胸を揉み続ける……。声を抑えているロレインの反応を見ながら、むしろ声を出させようと緩急をつけて弄ぶようにするレンを見やりつつ、


「ほら、コウ……。貴方も見ていないで加わりなさい? 何時ぞやレンと娼館に行こうとしていたでしょうに……。彼女の事は心配しなくていいわよ? ちゃんと問題がない事は確認してあるから。だから、もし我慢できなくなったら……最後までしても構わないわ。魔女としての力は失われるでしょうけど……、そうなったところでストレンベルクとしては何も問題はないし、万が一彼女が叛逆をを企んだ時の力が無くなる事はむしろ都合がいいんじゃないかしら」

「ユイリの言う通りだぜ。彼女も受け入れてる以上、遠慮はいらねえよ。お前、ずっと溜め込んでるみたいじゃねえか? そんなんじゃお前……、何時不覚を取るかわかんねえぞ? 勇者として誰でもいいって訳にはいかねえなら……、尚更彼女の事は抱くべきだと思うぞ? これから何があるかもわかんねえ胡散臭い大会に出なきゃなんねえんだろ? だったら……万全の状態にしておく必要があんじゃねえか?」

「……はぁっ!? ッ……くぅ! はぅ……っ!」


 私の言葉を引き継ぐようにレンがコウへ語り掛ける。そして彼に見せつけるように、ロレインに反応させた。……彼女の容貌は私から見ても美女の類に入る。それも……極上の、だ。あの処刑された名家ダグラスがロレインを選んだのは、単に魔女の力を持っているというだけでなく、彼女の容姿が群を抜いていたという事もあるのだろう……。


「…………ユイリ達の話はわかったよ。じゃあ、レン……代わって貰ってもいい?」

「……ああ、折角ここからってところだったが……、お前がやらねえと意味がねえからな。ほら……っ」


 そう言ってレンが後は任せるとばかりにコウへ彼女を預ける……。そのまま引き継いでロレインとするのかと思いきや……、コウは床に落ちていた彼女のローブを拾い上げると、ロレインに羽織らせた。


「……えっ?」

「コウ……? 貴方、一体どういうつもり……」

「今の彼女ロレインの処遇も含めて、これが先日の名家との騒動から来ているものだというのなら……、はっきりさせておかなければならない事がある」


 ……はっきりさせたい事? コウはそう言いながら私に向き直ると、


「いくらロレインがダグラスに逆らえなかったとしても……、奴に従ってきた彼女の罪が消えないというのはわかってる。あのカオスマンティスの部屋にまで転移させられた時は正直死んだかと思ったよ。……彼女が隷属する事になったのは、それらの罪があるからという事だよね?」

「ええ、そうよ。姫を誘拐しようとした事もだけど……、彼女の一番の罪は貴方を殺めようとした事よ。この世界において、勇者を害そうとする事は最大のタブーなの。実際、一歩間違えれば……貴方は死んでいたわ。それは貴方が一番よくわかっているでしょう?」


 ……あのカオスマンティスは……本来倒せる敵ではない。例の部屋へ送られた時点で、その者の死は決定づけられたものとなる。クローシス家はダグラスの独断であり、故意に『地獄に繋がる墓所』へと転移させるすべがあるなど知らなかったなどとしらばっくれているようだけど……、少なくとも彼らによって犠牲になったとされる者達はかなりの人数に及ぶようだとの報告は上がってきている。まあ、それはこれから明らかになってくるとして……、


「本来であれば彼女も一緒に連座となったとしてもおかしくなかったのよ。それが免れたのは、クローシス家の権力に逆らう事が出来なかった背景と、あそこから生還するのに貢献したという事実、そして何より……貴方の嘆願があったからなの。実際、あの化け物カオスマンティスを倒す事が出来たのはコウの力によるものだったしね……。だから彼女は貴方に隷属するという形で償う事となったのよ」

「確かにトドメをさしたのは僕だけど……、隷属させる事自体を罰とするなら、僕以上の功労者にすべきなんじゃない?」

「功労者……? 何を言って……」


 私の疑問を余所に、コウはロレインをジーニスの隣で惚けていたウォートルの下へと連れてゆき……、


「カオスマンティスとの戦いにおいて、彼の秘技術能力シークレットスキルがなければ……間違いなく僕は死んでいた。僕だけじゃない、彼女ロレインだってウォートルが庇わなければ命を落としていただろう。そうなれば……カオスマンティスを倒す事が出来ず、あのまま全滅していたかもしれない。……誰かひとり欠けていたら脱出する事は叶わなかった。それはユイリならわかっているだろう?」

「それは……」


 確かに彼の『ソウル.トランス.フィールド』には目を見張る効力があった。まだまだ新米の冒険者ながら、最早ストレンベルク王国に組み入れてしまいたい能力スキルである事も間違いない。私が思案している間にコウはウォートルに、


「今は僕が彼女の主となっているみたいだけど……。ウォートル、僕は君にロレインの奴隷所有権を移行したいと思ってる。流石に国からの指示だから現時点で奴隷からの解放は許されないだろうけど、彼女をどうするかは君に任せたい。レンやユイリが話す通り、先程の様な事を責務として従わせるも、恋人や妻の様に扱うも……全て君が決めるんだ。それが命を懸けて僕やロレインを庇ってくれた、ウォートルの当然の権利だと思うから……。ユイリも、それでいいよね?」

「また勝手に決めて……。まぁ、貴方の言う通りではあるわね。この度の彼の活躍がなければ、危機を乗り越えられなかったと思うし、ストレンベルクとしても彼に褒賞と同時に様々な打診がなされる事になるでしょうね。彼女ロレインの件は……コウがそれでいいと言うのなら何も問題はないと思うわ。……ウォートル、貴方もそれでいいかしら?」

「う、うむ……、いや、はい……っ!」


 真っ赤になった彼が緊張しながらもそう答える。……その様子から私はコウの意図を察した。全く、彼は……。コウは彼女をウォートルの部屋へ連れて行くよう促し、これで万事解決……みたいな顔をしているが、そういう訳にはいかない。


「それなら貴方の性欲解消には私が付き合う必要があるという訳ね? レン、悪いけれどジーニスを連れて少し部屋を出ていて貰える?」

「……ああ。俺も中途半端な形になったから、ジーニスコイツと一緒に城下までおりてっていいか? もう俺のこの国での隠蔽処理も済ませてくれたんだろ?」


 レンの処理は……既に済んでいる。この国の入国記録も大会に出場させる為の工作も先程完了したという事だった。私はレンの問い掛けに頷きつつも釘を指す事は忘れない。


「ええ、問題ないわ。でも、あまり羽目を外しすぎないようにね。目に余るようなら、サーシャに報告しなきゃならなくなるから」

「な、なんでそこでサーシャが出てくんだよ……。ま、わかってるよ……、ジーニス、行こうぜ」

「レンさん、申し訳ないっすけど俺……、なんか無性にフォルナに会いたくなってきたっす……」

「…………そうかよ。なら仕方ねえ……、ヒョウ達アイツらに連絡を取ってみるか……。じゃ、俺らは行くぜ」


 レンの事は親友であるサーシャに頼まれている。尤もそれは無理をしてないかどうか見ててほしいといったものなので、この場合の事に関して口を挟むのは変な話だが……、それくらいは許してほしい。二人が想いあっているのはわかっているし、人知れず魔の手が向かっていたサーシャの危機を救ったりもしているのだ。あの時だってレンがもう少し踏み込んでいればっ……、とここでグチグチ言っても仕方がない。

 二人の関係が今更一足跳びになるという事もないだろうし、今はコウのことだ。空気を読んだかのように出て行こうとするレン達に慌てた様に引き留めようと手を伸ばしながら呼び掛けるコウ。


「ちょっ、僕を無視して何を勝手に……っ!」

「ねえ、コウ……」


 無情にも2人が出て行ったところで、私は士官服に手を掛けながらコウへと迫りつつ、無いとは思うものの少し疑問に思っていた事を確認してみる。


「コウ、念の為に確認しておくけど……女性に興味がないって事はないわよね? まさか……男色なんしょくの趣味があるとか……」

「そんな訳あるか!? こっちの世界に来てご無沙汰になっているだけで、僕は……っ!」

「それなら良かったわ。まぁ、姫に対する様子を見ていたらそんな事はないだろうとは思ったけれど……、あの方はある意味例外のような気もするからね。なら、何も問題はないわよね? 私に不満があると言われると困るけど……、そこは割り切って貰いたいところね。……コウが姫から逃げなければこういう事になってなかった訳だし……」


 勇者への奉仕は私の任務の中に含まれている。別にロレインを宛がおうと思ったのは彼女にその役目を押し付けようと思ったからではない。彼女自身の贖罪の意識をはじめ、勇者に宛がっても危険はないかという観点も精査しなければならず、その点においては見た目麗しいロレインはうってつけではあった。但し、自分が嫌だから……という訳では断じてないのだ。


 実際、ユイリは幼少の頃より将来勇者に仕えるべく、公爵令嬢や王家の影を担うシラユキ家独特の儀礼、作法に加え、さらに特殊な教育を受けてきた。その中には性に関する部門、相手への奉仕や敵に捕らわれた際の拷問への対処も含まれている。……純潔こそ保ってはいるが、コウが望めば何時でも捧げられる準備はあるのだ。


(尤も……、最後まではいかないでしょうけど、ね……。吐き出させるにしても、胸と口で……といったところかしら?)


 はたして私の予想通りの展開で3回……、今まで自分で処理していたらしいソレを吐き出させる事に成功する。終始恥ずかしがっていた彼に苦笑しつつも、取り敢えずストレスの解消はさせてあげられたのかしら……? まぁ、多少予定外にはなったものの、何れにしても大会前に懸念材料を除く事が出来た事は良しとしよう。あとは今後も同じようにするか、はたまたコウにシェリル様の想いを理解させるのか……。まだまだ問題は山積みではあるが、今後一つずつ解決していくしかないのだ。

 私は衣類を直しつつ、顔向けできないとばかりに顔を真っ赤にさせながら背けている彼を少し可愛く思いながら、そっとコウの部屋を後にするのだった……。






 ☆ ★ ☆ ★ ☆



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る