第63話:皇都到着
「漸く目的地に到着、か……」
僕に宛がわれた馬車の中で溜息交じりにそう漏らす。出来る限り寄り道もせずに真っ直ぐ向かった筈なのにと……そんな思いが伝わったのか、隣に座っていたシェリルより、
「……申し訳御座いません。わたくしのせいで……」
「どうしてシェリルが謝るの? 悪いのは……君を狙ったアイツらだよ」
……そう、シュライクテーペで晒し首となっているダグラスを始め……、その前の町でも此方に仕掛けてきた盗賊共が悪いのだ。彼女が責任を感じる必要などある筈がない。
「ですが……、わたくしが参らなければ起こり得なかった事ですわ。危うく、コウ様の御命まで……!」
「あー……ゴメン、君ならそういう風に考えちゃうよね……。僕こそ余計な事を言って悪かったよ……」
「……あら? 貴方も彼女には弱いのね?」
軽口を叩く様に話しかけてきたのは……、ダグラスの元婚約者ロレインだ。そんな彼女に対して僕は、
「君も……最初の印象と比べると随分変わったね? そんな風に話しかけてくる人だとは思わなかったよ」
「……それはあくまで私がクローシス家の次期当主であった彼の命令に従っていたからよ。彼の前でそんな態度を取ろうものなら……すぐに粛清されていたわ」
肩を竦めるようにそう答えるロレイン。……結局、彼女については僕達預かりとなった。まぁ……婚約者にさせられたのは断れない状況に置かれてのもので、その魔女の力をロレインが進んで協力してきたものではない。だから僕達が彼女を監視するという名目となっているのだ。その証明として、彼女の首元には……。
(彼女には隷属の首輪が嵌められている……。その主人は……僕だ。今回は流石にシェリルの様にすぐに解放するという訳にはいかない、か……)
僕としては自分を主にさせるより、狙われて散々な目に遭ったシェリルを主人にした方がいいと思ったのだが……、シェリルを含めたほぼ全員の意思により決定してしまったこの権利。名目上は彼女に対してどんな事も命じられるというのだから、解放してもいいような気もするが……、一応懲罰とする観点も含まれているのでそんなにすぐに解き放つのもどうかと思う。
「無駄なお喋りは控える事ね。貴女……自分の立場はわかっているの?」
「……ええ、勿論わかっているわよ。私の実家に罪を問わないでくれた事にも……感謝してる。……貴方達の命令にはどんな事でも従うわ。
この馬車に乗っているのは僕を含めて4人……。その最後の一人であるユイリが咎めるように言うと、ロレインが少し神妙な様子で呟くようにそう漏らす。……この二人、出会った時から見ててわかってはいたけれど……相変わらず相性が悪い。特にユイリが彼女に対して思うところがあるっていうか……。まぁ、色々あったけどこうなるべく収まったのだし……少しは歩み寄ってくれてもいいと思うのだけど……。
「……ふぅ、でも色んな事がありすぎて流石に疲れたよ。出来ればあの町でもう少し休めればとも思っていたんだけどね……。皆だって例の『死の錯覚』とやらが癒えた訳ではないんでしょ?」
僕には効かなかったが……、シェリル達は皆その状態異常に罹っている。何割か弱体化させられた上に精神を蝕まれ続ける『死の錯覚』……。『恐怖』状態でも見られる身体の硬直も起こり得るようで、それは実力者であるユイリやレン達も例外ではないという……。完治させるには時間経過とともに回復する自然治癒か、聖女様の神聖魔法で回復を早めて貰うしかない。
(……それ程厄介な状態異常も回避してしまう『自然体』が、やっぱり普通の
もう何度思ったかわからないけど、改めて『自然体』の特殊性について突き付けられた形となる。最初はネタものかと思っていたのに……、僕がこの世界にやって来てパニックとならなかった点や死にそうになった時に冷静でいられたのも、恐らくはこの
「……正直、何をすればいいのかという事もわかっていないのだけどな……」
「コウ様? どうかなさいましたか……?」
思わず呟いていた言葉をシェリルに拾われ、何でもないよと返す僕。……僕はいずれ『勇者』の力を誰かに譲り渡し、この世界を去る身だ。あまりこの世界に感情移入しない方がいいに決まっている。ただ……、もう関係ないで済ますには無理があるんじゃないかとも思ってはいるが……。
「……何でもないって事はないでしょう? 自覚が無いのかもしれないけれど……貴方、分かり易いのよ。気になる事があるのなら言ってみなさい。何時ものように……」
「ユイリ……、それだと僕が普段遠慮なく聞いているみたいじゃないか……。まぁ、ちょっと気になったのは昨日も例の神湯泉だっけ? それに浸からせて貰った際に、初めての時のような劇的な変化はなかったかな……って思っただけさ」
僕の様子を訝しく思い、訊ねてきたユイリに僕はそう答えて誤魔化す。……神湯泉の事で気になったのは嘘ではない。初めて浸かった時は目に見えて変化を感じられたものだったのだが……、昨日使用させて貰った際にはそこまでの変化は見られなかったのだ。
「……神湯泉は時間を空ければ空ける程、効果が高まるの。皇室からその管理を任されていたクローシス家がほぼ独占していたから、一般の人が使用する機会は殆どなかったけど……」
「成程、ね……。まあ普通に気持ち良かったし、効能は副産物のようなものだから構わなかったけどさ」
そのように説明してくれたロレインに礼を言いつつ、温泉に浸かるだけで強くなっていくなんて、そんな都合の良い話はないかと思い直す。今後、あの神湯泉に関してはストレンベルク王国でも管理に一端を担える事が決まったらしく、どうやら段階を踏んで開放していくようにするらしい。それによって、自分の知らなかった力や才能を開花させる者も現れてくるだろう……。
長い目で考えれば、その方がイーブルシュタインにとってもプラスに働いてくる筈だ。独占していたらその者達が利益を貪るだけで、文明の発展は見られないのだから……。
そう一人納得していると馬車のドアがノックされ、外よりレンから声が掛けられた。
「もうすぐ着くぜ。流石にこれ以上の厄介事はねえとは思うが……コウ、お前がいるからな。頼むから面倒掛けさせないでくれよ?」
「……人を疫病神扱いしないでよ、レン……。僕だって、好きでこの国に来た訳じゃないんだからさ……」
それを言ったらこの
「わあ……、高い城壁が連なって……。まるで万里の長城のようだ……」
「それは貴方の世界の建物かしら? まぁ、初めて見る人は圧倒されるわよね。魔物を寄せ付けない城壁を限りなく広く設けているのだから……。多分中に入ったらもっと驚く事になると思うわよ……? イーブルシュタインの、独特の文明が広がっているからね……」
独特の文明……? それは一体……。前方にそびえたつ城壁の都市を見ながらユイリの発言の意図を訊ねようとして、城壁の入口と思わしき城門が目に入ってきた。そして……、そこに数人の見覚えのある人物達の姿が見えてくる……。
「あそこに居るのって……、まさかレイファニー王女……?」
「……どうやら城内で待ってはいられなかったみたいね。一応、心配はいらないとお伝えしていた筈だけど……」
どんどん近づいてゆき……やがて僕達を待っているであろう人物がレイファニー王女その人である事がわかった。どうして王女がと疑問に思う間もなく、僕らの乗った馬車が彼女らの下へと辿り着き……、
「コウ様……っ!!」
「っ……! レ、レイファニー……王女様!?」
馬車から降りた僕を見るや否や銀色に光る髪を靡かせながら勢いよく抱き着いてきた王女。彼女を抱きとめると……その華奢な身体が震えている事に気が付く。
「レ、レイファニー様……?」
「本当に、良かった……っ!! 貴方の気配が……感じられなくなって……っ! ユイリ達からは報告は受けてましたが……、無事なお姿を見るまでは
な、泣いているのか……!? どうやら……本当に心配させてしまったらしい……。戸惑いつつも彼女の背中に手を回し、慰めるようにそっと抱きしめる。
「……ごめん、そこまで心配させているとは思わなかったよ。もっと、気を付けるべきだった……」
「いえ……、
「……わたくしのせいです。コウ様がお命を狙われたのは……わたくしを手中に納めるのに邪魔だと思われたからですわ……」
レイファニー王女の言葉を引き継ぐように、シェリルが自虐するように辛そうに呟く。
「姫……、それは違いま……」
「違いませんわ、ユイリ。そもそも、わたくしが我儘を言って付いてきた事が今回の事態を引き起こしてしまったのです。全てはわたくしが……」
「そこまでだよ、シェリル……。君の同行を許したのは僕だ。本当に拙いと思ったら……君がなんと言っても同行を認めたりはしなかった……。だから、君がそんな風に感じる必要はないよ」
責任を感じている様子のシェリルに僕はそう告げる。……彼女の安全を考えたらストレンベルクで留守番していて貰うのが一番だったかもしれないが……、置いていかれるのを恐れるように必死に訴えてきたシェリルに押し切られてしまったのは事実だ。それに……グランやレンといった実力者がこうしてイーブルシュタインに出張っている中で、一人シェリルを残していくというのも抵抗があった。
そういった点から多少のリスクはありつつも付いて来て貰う事にしたのである。イーブルシュタインに着いて早々に……盗賊や愚かな権力者に狙われるというのは流石としか言いようがないが……。
「何はともあれ……安心しましたわ。シェリル姫もご無事で何よりです。ですが、先の事もあるのでこのまま皇都に入るのもアレですわね……」
「それについては問題ありません。彼の発現した
……初めて神湯泉を使わせて貰った際、シェリルの拉致未遂事件が起こった。最初から仕組まれていた事だったそれは、ユイリが気付けなければアイツらの思惑通りに納まっていた事だろう。彼女から事情を聴いた僕はすぐに奴らの追手が放たれるのを見越して、
魔物であるシウスやインテリジェンススライムのボヨよんの事も隠し通せていたから大丈夫だとは思っていたが、人に対してもきちんと機能するのを見て少なくともイーブルシュタインの監視システムは誤魔化せるという事はわかっている。
「……はい、わたくしもその方が良いと思います。先方の国には存在しない者と扱われる方がよろしいかと……」
「……
「既に当たってはおります。ですが……ストレンベルクから呼び寄せるにしても時間がかかるでしょう。上手く此方で良い人物が見つかればいいのですけど……」
……前にユイリが話していた専属の侍女やメイドの話、かな? 今まではユイリが侍女兼護衛役を担っていたけれど、それにも限度がある。尤も……それは後で考えればいいか。取り敢えず今はシェリルを避難させようと
「……レン、貴方にもお願いしたい事があります。この分ですとまたどんな不都合が起こるかもわかりません。ですので……シェリル姫の護衛という観点からも貴方にも彼の
「はっ!? ちょ、ちょっと待って下さいよ……!」
レイファニー王女の言葉にレンがシェリルを見ながら焦ったように待ったをかける。
「か、彼女を俺と一緒にさせるのは拙いだろう!? おい、コウ……! お前も何とか言え……!」
「何とかと言われても……。一緒と言っても『
「……わたくしは構いませんわ。レン様、ご迷惑をおかけしますが……宜しくお願い致します」
そう言って頭を下げるシェリルにますます慌てた様子のレン。そんな彼を見ていたユイリが溜息をつき、
「何を焦っているのやら……。
「わかりました、ユイリ様」
彼女に命じられ一度ストレンベルクへと戻り、ユイリの実家の部隊を率いて駆けつけてくれたイレーナが了承するとレンが何処かほっとしたような顔をする。……変なところで真面目なんだからな。まぁ、そんなレンだからシェリルも信頼しているのだろう。
「……よし、それじゃあ3人共、『
「……これは驚いたな」
「ふふ……、初めてご覧になった方は皆さんそのようにおっしゃいますわね。実際、
僕の腕に抱き着く様にしていたレイファニー王女がくすりと笑いながらそう話す。そびえたつ城壁を抜けて最初に飛び込んできた光景……。近代都市のように整備された建物に道路……。さらには電車のようなものがレールもなく走っているのが見える。そして、何よりも驚きなのが……、
「……空飛ぶ、車? ドローンにしては大きすぎるし、何より……プロペラもない……」
「あれは魔力で飛んでいるのよ。先日の飛行魔力艇とほぼ同じ原理ね。……イーブルシュタインの門外不出の技術の一つで……『魔空車』というわ」
……魔空車、か。まさか自分が生きている内にそんな漫画のようなものが見られるとは……。ユイリの説明によると、その魔空車は何処でも飛べるという訳でなく、あくまで道路のように舗装されている場所でしか通行は出来ないようだ。魔力で制御されているという話だが、どのような仕組みになっているかはわからず、事実上『魔空車』だけがあっても他の場所では運用できないという……。
例の飛行魔力艇といい……、彼の国だけが持つ専売特許という訳だ。
(あの電車のようなものも、リニアの原理で動いている訳ではないみたいだし。あれも魔力によるものなのか……? 何でもありだな……)
この都市だけを見ると自分の居た世界の方が発展していたとは言い切れないなと思い直していると、
「…………漸くご到着という訳ですな。いやはや、待ちくたびれましたよ」
そんな時、惚けていた僕達に対してそう声を掛けられる。
「まさか勇者候補として複数人召喚されるなんて夢にも思わなかったよ。最初に言っておいてくれれば一緒にお連れさせて頂いたんですがね……。おまけに、
「……貴方は?」
……いや、話しかけてきたこの人物を知らない訳では無い。尤も、自己紹介して貰った訳では無いし、彼にしてみれば僕の事など眼中にも無かっただろう。金髪をかきあげながら深い藍色の瞳で何処か値踏みするかのように僕を見ている人物に素っ気なく問い返す。
「これは失礼……。私はアーキラ・リンド・イーブルシュタイン。この国の皇太子を務めております。初めまして、勇者殿……。宜しければお名前を伺っても……?」
「……皇太子殿下とは気付かず大変失礼致しました。わたくしはコウと申します。お見知りおき頂ければ幸いと存じます……」
僕は敢えて初対面である事を強調し挨拶をした。……その方が面倒にならないと判断したからだ。それに……相手には僕を歓迎するような雰囲気はなく、どちらかというと招かれざる客といった方がピンとくる。
……僕にピタリと寄り添うようにしているレイファニー王女の様子に、舌打ちでも聞こえてきそうな態度すらも感じられた。
「君もとんだ災難だったね。まさか我が国の者があんな事をしでかすとは……。私からも謝罪させて貰うよ」
「……それはどうも」
「それにしても、レイファニー王女もお人が悪い……。今回の『
その言葉を聞いて、僕の隣にいた王女がピクリと反応し、
「……そもそもですが、貴国の飛行魔力艇でのご招待につきましても、
「それは確かにそうかもしれませんが……、我が国にしても有力な名家のひとつを事実上取り潰す事になったのです。愚息を放置していた家長の怠慢で片付けるには、些か影響が大きいのですよ。……先程の我が国への入国にしましても、貴女が付き添って係の者に無茶を言ったそうではありませんか。ここはイーブルシュタインであって、ストレンベルク王国ではないのです。我が国を立てろとは言いませんが……もう少し考えて頂かないと……」
……この皇都に入った時の事を言っているのだろう。先に入国していたグラン達は兎も角、来たばかりの僕達には入念なチェックが行われる……筈だったのだが、一緒に付き添ったレイファニー王女がそれを許さなかった。この者達の身分については自分と国の威信にかけて保証すると強引に押し切ったのだ。もしも問題が起こったとしたら、自分がストレンベルクの名代として責任を取るとまで伝えると、向こうもそれ以上は何も言えずに、魔力検知すらも掛ける事無く
王女殿下はひとつ溜息をつくと、毅然とした態度で相手の皇太子に接し、
「
「それは……! だから愚かな跡取りの独り善がりの行動で……っ!」
「……勇者様の抹殺まで企んだとあっては、一個人の行動の結果というだけでは収まりませんわ。ですから国の……、同盟国全体の話となり、イーブルシュタイン連合国に最大の規定違反疑惑が生じ、追放処分も話される結果となったのです。……アーキラ皇太子殿下もご存じのはずですわよね? 何せ、その場にも出席されていらっしゃったのですから……」
「っ……!!」
ぐっと詰まる様に呻くアーキラ皇太子。結局、この男も自国が全てと考えているのかもしれない。レイファニー王女の意思に関係なく自分の都合優先で物事を進めようとするところはイーブルシュタインのお国柄という事なのであろうか……。
(王女様の言う通り、あんな国同士を巻き込むような事をしでかしておいて個人がやった事だからで済むはずがないだろうに……。大体、僕達が情報を隠していたからだとか、会議の主催が遅れているのは僕達のせい、みたいな話をしているけど、大元を辿れば全て其方の国の不手際だろ……)
そう思いながらレイファニー王女にやり込められ、言い返せないでいる相手方に呆れてしまう。アーキラ皇太子は暫くの間悔しそうに此方を見据えていたが、やがて溜息をひとつつくと、
「やれやれ……。どうやら我が婚約者殿はご機嫌斜めのようですね。この場は引いておきましょう……。今更クローシス家の事を云々言っていても始まりませんし、彼らが愚かな事をしでかしたのは事実……。先程の入国時の事も目を瞑ります。ですが他の皆さんは既に到着されておりますので……、出来るだけ早くお越し下さい。では……」
「お、お待ち下さい! そんな到着が遅れたのが此方のせいのような仰いかたは……! それに、
レイファニー王女が慌てた様にそう言うも、向こうの皇太子殿下は聞く耳持たずといった感じで取り巻き達と共に行ってしまう……。まあ、ここで皇都の景観に惚けている場合ではなさそうだ。シェリル達も開放してあげたいし、自分たちの宛がわれているところに向かうとしよう……。
僕はそのようにレイファニー王女に伝えると、すぐにその場へと案内されるのだった……。
「お待ちしておりました、勇者候補様……。私はシャロン・フィレンシュと申します。この度、貴方様のお世話を任されました。何卒よろしくお願い致します」
皇都イシュタリアの宮殿に案内された僕が自分に用意されたという客室に入るなり、カテーシ―にて挨拶を受ける。一瞬面食らうも、彼女の挨拶に慌てて此方も頭を下げた。
「これはご丁寧な挨拶痛み入ります。私はコウと申します。シャロンさん、こちらこそよろしくお願いします……」
「私に対しそのような挨拶は不要です。シャロンで構いません。どんな事でもお気軽にお申し付け下さいませ」
そう言って優雅に頭を下げる彼女に対し逆に恐縮してしまう。彼女は従者の服装をしているが、一目で身分卑しからぬ立場の方だとわかるくらい、高貴さに溢れていた。ストレンベルクでもオリビアさんの様に事情があって使用人に扮している人がいると聞いていたが……、この国でもそうなのだろうか。
「フィレンシュ家のご令嬢……? もしや、皇室に嫁がれるとされる才女と噂のシャロン嬢でいらっしゃいますか!? 失礼ですが、どうして侍女に扮していらっしゃるのですか……!?」
「勇者様を歓待させて頂く為ですわ。尤も、私自身侍女としての嗜みもありましたから、扮している訳ではないのですけど、ね。もう
彼女を見て考え込んでいたユイリが訊ねると、そんな答えが返ってきた。勿論、不満などあろう筈もない。ユイリが慌てて、
「そんな役不足などと……! シャロン嬢の優秀さは我がストレンベルクにまで伝わっておりますわ! 貴女の……」
「貴女はストレンベルク王国のシラユキ公爵家のご令嬢、ユイリ様ですね? 既に公爵家の名代として活躍なさっている貴女様こそ、広く我が国にまで聞こえておりますよ。本当にストレンベルク王国は良き人材に恵まれていらっしゃっるようで……、本当に羨ましい限りですわ」
逆にユイリの方がシャロンさんから称賛られてしまう。……イーブルシュタインに来て、初めて見る眼のある、他国の人物であってもリスペクトする事が出来る、尊敬できそうな人物に出会えたかもしれない……!
どうもユイリの説明によると、シャロンさんは技術を隠匿するイーブルシュタインにおいて、他国との交流を考える数少ない人物の一人であり、ある魔法技術を確立させて世に広めたという才媛であるという……。それはフィレンシュ家に伝わる秘伝の
彼女自身は普通の事と思っているようで、変に謙遜した様子も見られず、金色に輝く長い髪を耳にかけながら僕達に向かってニコリと微笑みかけると、
「此方にいらっしゃる間、誠心誠意務めさせて頂きますわ。ご滞在されるのはユイリ様に……お隣にいらっしゃるご令嬢になりますか? この部屋でしたらそれなりの人数はご滞在頂けると思いますが……、コウ様のご一行の方々にも対応できるよう幾つかのお部屋も用意されております」
「そうだね……、出来れば彼女達には別の部屋を用意して貰えると有難いな。僕はレンやジーニス達と同部屋でいいよ」
宮殿に案内されたところで、僕は
「……コウ様、わたくしは……」
「流石にここでも一緒の部屋というのは無理だよ、シェリル。シャロンさん、部屋が余っている様なら彼女には一部屋とって貰いたい。実は彼女はストレンベルク王国の中でも大切な貴賓でね……。色々便宜も図って貰えると有難いのだけど……」
シャロンさんにはある程度の事情は話しても大丈夫だろうと判断した僕はそのように切り出す。出来る事ならシェリルの専属の侍女の件もここで解決させておきたいところだが……。
「それなら問題ないかと……。もう
「……わかりました。シャロンさんを困らせるのは本意ではありません。ユイリ、会議の参加は……、僕が出ればいいんだよね? 他のメンバーは……、特にシェリルは例の魔法を施しているとはいえ、参加しない方がいいと思うんだけど……」
「……そうね。会議の場には王女殿下の他にグランやディアス隊長……、それにライオネル騎士団長もいらっしゃる筈よ。ですから……シェリル嬢は此方で待機して下さいませ。護衛にはイレーナと……レンも置いていきます。ジーニス達も付いていてくれたら嬉しいわ。……魔女のあなたは付いてきなさい。名目上、貴女は彼についていなければならないから……。わかっているわよね?」
「…………ええ。わかっているわ」
そう言って、それぞれに対し申し伝えていくユイリ。ロレインに対しては少しぎこちなかったが……、それについてはまだわだかまりもあるのだろう。時間が解決するのを待つしかないかと独りごちると、
「それなら早速向かうとしよう。ええと、シャロンさんが案内してくれるのかな?」
「勿論です。それではどうぞこちらへ……」
シャロンさんはホッとした様子で僕達を先導しようとする。僕はシェリルの事をレン達に頼むとユイリとロレインを伴い世界同盟会議の場へと向かうのであった……。
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