第57話:『死神』と評されし存在
※流血、人が死んでいくといった描写があります。苦手な方はご注意下さい。
「…………コ、コウ、様……?」
姫が呆然と呟いた言葉が響き渡る……。他の冒険者に巻き込まれる形で忽然と消えてしまったコウ。……いえ、むしろコウを中心として周りの者達が消えてしまったという方が正しいのかしら……?
呆然となっているのは私も同じだ。何を差し置いても守り抜かなければいけない人を、守り抜かなければならなかった人がいなくなってしまった……。恐らく姫も試しているのだろうが……、いくらコウに
「きゃっ!?」
「! しまった……! 姫っ!!」
コウが居なくなった事に動揺し、注意が厳かになってしまった。私と同様に困惑していた姫がいつの間にか距離を詰めていた私兵に捕まり……、拘束されてしまう。魔法を唱えようとしてすぐに口を押さえられて、もう一人が彼女の両足を抱えて後方へ運んでいこうとする。
「くっ……!」
「無駄な抵抗はするなっ! お前たちも大人しく捕まれっ!」
助けようとしたところを別の私兵達に阻まれ、姫が運ばれるのを見ている事しか出来ない。
「テメエら……!」
「抵抗するなと言っているだろうが! クローシス家に逆らうつもりかっ!」
レンが私兵達に斬り込もうとするのを見て、ここは様子を見るようにすぐに
「よし……、ここまで連れてこれれば……。後は両手を拘束して、詠唱を阻害する轡を噛ませるか……」
私達からある程度の距離をとった所で、姫の両足を下ろしさらに拘束しようとしたところで、
「うん? 何をしてあばばばばばっ……!?」
「な、何だ!? 一体どうした!?」
未だ姫の口を押さえていた男が突然奇声をあげたかと思うと、そのまま力なく倒れる。すぐさま姫は彼らから逃れるも、再び捕まえようとしていた。
「何をした!? 大人しくしろ……!」
私兵が姫の腕を掴もうとしたところで、私は自分の
「なっ!? クソッ! 逃げられたっ!!」
「貴様っ! 女を渡せっ!! さもなくば……」
「さもなくば? どうしようってんだ? 力づくで彼女を奪い返そう、とでも言うつもりか?」
凄む名家の私兵達の前に敢然と立ち塞がるレン。すぐそこにアルフィーも続き、その手に彼の持つ特殊剣、ジャマダハルを構えていた。
「……すぐにお助けできず申し訳ありません、姫……」
「……いえ、わたくしが警戒を怠ったのが悪いのです……。ごめんなさい、ユイリ……」
そう言いながらも彼女の声は震えていた。……無理もない、目の前でコウが消えてしまったのだ。私とて、一瞬何が起こったのかわからなかった。姫は先程の危機を脱した武器、コウから渡されていた『スタンガン』なる物をギュッと抱きかかえながら、必死に意思を保とうとしているように見える。
「き、貴様ら……!? 我々に歯向かう気かっ! クローシス家に逆らう事の意味を……」
「知るか。シェリルさんも取り戻した今、テメエらに対して遠慮する事も無くなった。……覚悟は出来てんだろうな?」
「師匠たちを……どうした!? 知ってるんだろっ!!」
まさか抵抗されるとは思っていなかったのか、殺気立つレンに私兵達が何処か浮足立った。……さて、私も……。
「姫……、影を残していきます。ここに居て下さいね」
「……わかりました。わたくしは……コウ様の居場所を探りますわ……」
彼女の言葉に頷くと、『影映し』を発動してそれを姫に付けたのち、レン達へと合流する。
「き、貴様……!? い、今すぐあのエルフを返せっ!! ダグラス様が御所望されたのだ!! それを奪うなどと……、そこまでクローシス家を怒らせたいのかっ!?」
「返せって言うのも可笑しな話よね? 彼女は貴方達のモノではないわ。それを……奪う? 一体何を言っているの? 奪おうとしたのは其方でしょう? それより……貴方達の主人と同時に冒険者たちが消えた事ってどういう事かしら……? 何か知ってるわよね?」
私もまた殺気を放ちながら二刀の小太刀を取り出して、戦闘態勢を整える。それを見て私兵達が慌てて、
「ま、待て……! 貴様、本気で俺達に逆らおうってのか!? 俺達に危害を加えたら、クローシス家が……!」
「……もう、そういうのはいいでしょ? 先に戦争を仕掛けてきたのは貴方達よ……? 私はずっと言っていたわ……。貴方達が攫おうとした彼女と、何処かに消された彼に何かしようものなら国同士の戦争も辞さないって……! 今この場で宣言するわ……! 他の者も良く聞きなさい……、私達ストレンベルク王国はクローシス家を擁するイーブルシュタイン連合国を『盟約違反』の通告を持って『世界同盟』からの除籍を通達する……! それと同時に危害を加えたクローシス家に対し、ストレンベルク王国は現時刻を持って『敵対勢力』と定めるわ……!」
そのようにして私は周りの冒険者たちにも伝えてゆく。……各々の判断にもよるが、この場で私達と敵対する冒険者はいないだろう。それよりも、今まで好き勝手やってきたクローシス家に対し、ストレンベルク王国が明確に攻撃を宣言した事に、同調する事もわかっていた。
すぐに私達に付き、共に名家の私兵を討ち果たそうと加わってきたところで、
「……有難う。まだ魔物たちも残っているから、貴方達には罠に気を付けながら討伐していて貰えると助かるわ。……こんな名家に付き従う連中なんて、私達だけで充分だから」
「……わかった。俺達はアンタらに従う。その後でゴブリンに攫われた仲間も救出も、手伝って貰えないだろうか……? 俺達に出来る事は何でもする……!」
「全てが済んだらな。俺達も消えた仲間を助けに行かなきゃならねえ……。なんとしても助け出さなきゃ『世界』の終わりだからな。……この屑共の事もあるし、救出はそれからとなるが……、その時は俺も行ってやる。俺はコイツらと違って嘘は言わねえ。……それでもいいか?」
「助かる……。ならば我々は魔物の残りを片付ける……。手が足りなくなったら言って欲しい。すぐに助太刀にゆく……」
……全ての冒険者たちが味方に付いた事で、漸く私兵達も自分が危うい事に気付いたらしいわね。先程の威勢も何処へ行ったのやら、及び腰でまた愚かな事を言い始めた。
「く、来るな……! 本当にいいのか!? 俺たちに手を出してみろ……、ダグラス様が黙って……くぺっ」
その私兵の言葉は最後までは続かなかった。途中でレンが剣を振るい、口から上を両断してしまったからだ。ブシュウ、と噴出する血を見て、他の私兵達の顔に恐怖の色が浮かぶ。
「お、お前ら……!? ほ、本当にオレらを……がはっ!?」
「生憎、『敵』に掛ける情けは持ち合わせていないわ。……もし、貴方達の主人が何処に行ったのか、消えた冒険者達の行方について、知っているなら全て吐きなさい……? 知らないとは言わさない……。言わなければ、生きている事を後悔する事になるから、早めに吐く事をお薦めするわ……」
そう言って私達は次々に私兵達を殺し、或いは半殺しにしてゆく……。私達を抑えようとした私兵達を反対に制圧するまでに、5分も掛からなかった……。
RACE:カオスマンティス
Rank:999
HP:999999/999999
MP:9999/9999
(……駄目だ! とても人間が勝てる相手じゃない……! こんな出鱈目なステイタス、初めて見た……。この殺気といい、ステイタスといい……、前に遭遇した魔神という存在すらも凌駕している……!)
刀を構えながらも、
「ククク……、今までにも、俺様に逆らう馬鹿な連中をここに送り込んだが……、生きて帰ってきた奴はいねえ。……どういう意味かわかるか? 奴は死神そのものなんだよ……! 貴様らも、ソイツらと同じ目に遭う……、ククッ、ヒャアーハハッハーッ!!」
「ふ、ふざけんなっ! 大体、テメエだって同じじゃねえかっ! ここに落ちた時点で、テメエらだって同じことが言えんだぞ!?」
煽る様に高笑いする名家のダグラスにジーニスが負けずと言い返す。しかし……、
「おいおい、愚民には理解できないか? 俺様がここに来たのが初めてだと、貴様はそう思うのかよ? ここまでの俺様の話を聞いて、そんな結論に達するのか!? クハハッ! これだから愚民はっ!」
「テ、テメエッ!!」
「ジーニスッ! 落ち着けっ!」
激昂するジーニスを僕は必死に窘める。ここで熱くなっても何一ついい事はない……。今は、少しでも多くの情報が欲しいんだ……。案の定、ダグラスは嘲笑うかのように僕たちに語り出す。
「無知で愚かな貴様らに冥途の土産に教えてやるよ……。『地獄に繋がる墓所』に転移してきた奴は、ある一定期間、ここに滞在し続けなければならない……。貴様らにも表示されてんだろ? それがそうさ」
その言葉に自分のステイタス画面を確認してみると……、先程まではなかった制限時間のようなものが表示されていた。
「それはあの
「グッ……! だ、だが、それならテメエらだって……!」
ジーニスがそう続けようとして……、ダグラスが懐から
「こいつは我がクローシス家に伝わる秘宝ともいうべき
また襲い掛かろうとするジーニスを抑えて僕は考える。『
こうしている間にもまた冒険者が犠牲になった。ここに落ちたダンジョンオーク毎、その鋭利な鎌で切り刻まれ……、その死体が消滅してゆく……。既にカオスマンティスの前に戦線のようなものは存在せず、ただただ逃げ惑う状態となっていた。幾人かは攻撃もしているが……、殆どダメージも与えられていないというのが実情だ。
「……偉大なる我らが神よ、祝福されし生命の……むうぅっ!!」
「おいおい、何勝手に魔法使おうとしてんだぁ!? ちょっとそのカラダを味見してやろうと手を離してやったら……全く油断も隙もねえ! まぁ、お前は僧侶のようだし攻撃魔法は使えねえようだが……、おい、暴れんなっ! 大人しくしてろっ!!」
「テメエ!! フォルナから離れやがれっ!!」
「ジーニスッ!!」
ついに抑える僕を振り払い、ジーニスはダグラスに突っ込んでいく……。しかし、傍に居た魔女の『
「ふむぅっ!? むぅーっ!!」
「おらぁっ! わかったか!? 暴れんのはベッドの中だけにしろやっ! 多少抵抗してくれた方が燃えるからよぉ……! ククッ、僧侶なんて久しぶりだぜ……、後でたっぷり可愛がってやるとして……、口押さえたままじゃ、じっくり愉しめねえな。おい、ロレイン! 何か口を塞ぐものをよこせっ! ボールギャグでもテープでも構わねえから……ってうおっ!?」
「!? くっ……!」
何やら敵が
「あぶねえあぶねえ……、俺様も安全って訳じゃねえからな……。ロレインッ! テメエ……ちゃんと『
「……はい、ちゃんと彼らにダグラス様の囮となって貰っております。ですが、今の『
「それを何とかするのがテメエの仕事だろうがっ! ……まあいい、どうせもう間もなく滞在時間が経過する。……おい、そこの賓客(笑)君っ! 貴様の女なのかは知らねえが……、あのエロいエルフは俺様が責任をもって面倒見てやるから安心して死んでいいぜっ! あの世で俺様に相手させられる様子を指をくわえて見ていたまえっ! キヒヒ……」
「フン……、お前なんかにシェリルを渡せるものか。それに、彼女にはユイリ達が付いている。彼女たちがいて、シェリルを奪える筈もない」
勝手な事を抜かすダグラスに僕はそう吐き捨てる。……ここにレン達が居ない以上、
しかし、僕の呟きを拾ったダグラスは、気を良くしたように言葉を投げかけてくる。
「シェリルか……、可愛い名前じゃないか! あの
……何とでも言え。ユイリ達が付いていて、みすみすそんな真似をさせるものか……。とはいえ、このままコイツを生きて帰らせる訳にはいかないと僕の中で警鐘を鳴らしている。
「思う存分にカラダの隅々まで味わい尽くして……、じゅるりっ。ヘヘっ、想像するだけでも涎が止まらねえぜ! まぁ、時間を掛けてたっぷりと男を教え込ませてやろう……。貴様も馬鹿だよな……。大人しく女を差し出していれば、こうなる事は無かったというのによっ!」
「……どうしてこんな真似が出来る? 町に入った時から、お前がシェリルを狙っている事はわかっていた。シェリルを誘拐しようとした事も知っている……。そして、今はこうしてフォルナを人質に取り……、彼女らをモノのように扱うばかりか、無関係の人間まで巻き込んで大量虐殺を図っている……! 一体どうしたら、このような非道な真似が出来るんだっ!?」
今も尚、敵の斬撃が降り注ぐ中で必死にそれを捌きながら、ダグラスに訴えかける。……シェリルを本当に望むのなら、誠意を尽くしてアプローチすれば良かったんだ。もしも彼女が心を動かされたら……、シェリルが幸せになれるのならば、僕は身を引く覚悟は出来ている。僕に付いてきたところで、幸せになれない事は重々承知しているんだ……。それなのに、彼女をモノのように扱い、欲望のままにシェリルを強引に手に入れようとする輩に、不幸になるとわかっているのにどうしてこんな屑に大事なシェリルを託す事が出来ようか……!
だけど……、僕の心からの訴えに対し、
「は? 貴様……馬鹿か? そんなの、俺様がしたいからに決まってんじゃねえか? 気に入った女がいれば、自分のモノにする。気に入らねえ奴がいたら殺す。どうでもいい下民どもが死のうとそれが何だってんだ? 高貴な身分として生まれた俺様が、下賤な奴らをどう扱おうが勝手だろ? 恨むんなら自分の境遇を恨めよ。高貴な身分も、特別な血筋も、次代に残すべき優秀な力も持たない貴様ら屑共が悪いんだろ? むしろ、この女の様に……平民だろうが少しでも見るところがあればこうして救ってやってんだ。そんな俺様に感謝して欲しいぐらいだぜ」
「……そこのフォルナやシェリルにも……、今までお前の手に掛かってきた彼女達にも、そして、今もあの化け物に攻撃されてる冒険者達にも、皆……心があるんだぞ……っ! それを、お前の都合で滅茶苦茶にされていい訳がないだろうがっ!!」
「……わからねえ奴だな。だからそんな事、俺様の知った事じゃねえんだよ。心だと? どうでもいい下民どもの心が何だと言うんだ? 重要なのは世界を動かす俺様のような人間の心であって、貴様らの心なんてどうでもいい。名家のような家に生まれなかった事を神に文句でも言ってろよ。ま、下賤な身分で生まれた貴様らの愚痴に神が付き合うとも思えんがなっ!」
ハハハハッ、と高笑いするダグラスに、僕は決心する。……コイツはこのまま生かしておいては駄目な奴だと。こんな奴をシェリル達の下に帰せば、この先どのような悲劇に見舞われるかわからない。僕達の事を塵芥のように考えている屑を……、今この場で仕留める……!
僕は斬撃を斬り払いながら、この状況で
(……殺した云々の葛藤は後で考える。既に……人型のゴブリンはこの手で殺めたんだ。ゴブリンと人を一緒にするのは無茶苦茶だけど……、この際言っていられない! コイツを生かしておけば、この先も不幸になる人が増える……。何よりシェリルが……っ! 何にせよ、現在進行形でコイツによって命の危機に晒され続けているんだ……。だからこれは……正当防衛だ……!)
正当防衛という大義名分を自分に言い聞かせて、僕は刀を霞の構えとも呼ばれる体勢にとり、その切っ先を
「天神理念流……『
人質にされているフォルナを越えて、狙い定めたダグラスの首筋へと直接斬撃を流し込む……。確かな手応えを感じ、技の発動に成功したと確信をするも、しかし……、
「うっ……、かはっ!」
膝を折り、その首元から血を流していたのはダグラスではなく……、傍に控えていた魔女の方だったのだ……。
「なっ……!? 僕は確かに奴を狙い撃った筈……っ!」
「…………まさか俺様を直接狙ってくるような真似が出来るとはな。腐っても賓客と呼ばれるだけの力はあるという事か……。『身代わりの護符』を
身代わりの護符、だと……!? まさか、自分の婚約者を盾にしたって事か……!? ダグラスの行動に戦慄を感じていると、吐血し倒れた彼女を一瞥しながら、
「……『魔女』はその特殊性から死ににくいと聞いていたんだがな。単純にHPが失われたら死ぬという訳では無く……、魔力やMPにも干渉して致命傷を避ける……。ま、この様子を見る限りは眉唾物の話だった訳だ。全く、こんな奴の攻撃でくたばるとは実に使えねえ……。期待外れだな」
「お前……、最低だな……!」
「ふん……、折角三流の名家から俺様の婚約者に据えてやったのに、こんな
「! そ、そんな……!? それでは、やくそく、が……っ! うぐっ!」
それを聞いて反応する彼女に、奴は見下すようにして無慈悲にもこう告げた……。
「まだ生きていたか……。こんな事なら体だけでも奪っておくんだったな……。純潔が失われれば、『魔女』としての力が弱まるだのと言われたから見逃してやってたものを……、まさかのこの体たらくぶり……。お前なんて『魔女』としての力と、そのカラダくらいにしか取り柄がなかったというのに……。そう思ったらますます怒りが湧いてきたな。……確かお前の家には妹がいたな? もしくは何処かの三流名家に嫁いだっつう姉でもいい……、そいつらは取り潰しの際に俺様の性奴隷にしてやる。殺さないだけ有難いと思えよ?」
「……っ! ひ、ひどい……っ、カハッ! わたし、は……いままで、あなたの……ために……! ゴホッ!」
「な、なんて奴だ……! こんなのが俺達と同じ人間なのか……? 人間の皮を被った悪魔じゃないのかよ、コイツ……」
僕と同じく奴の仕打ちに信じられないような顔をして呟くジーニスに、
「酷い謂われようだな。まぁ、愚民どもには俺様のする事は理解出来んだろうよ。何れにしても……、ここでお別れだ。まあいい、俺様にはあの極上のエルフが手に入る……。この役立たずの分まで、貴様の
「…………おい、そこのゴミ屑」
もうすぐ時間が経過するのだろう……。奴と捕まっているフォルナの体が光り始め、転移しようとしている最中、これだけは伝えておこうとダグラスへ呼び掛ける。
「……この礼は、ここを脱出した後で必ずしてやる。フォルナも、そしてシェリルも……、ジーニスらと共にお前から必ず取り返す……! 受けた借りは百倍にしてきっちり返すから、覚えておけよ、屑野郎っ!!」
「ハッ、負け犬の遠吠えなど一々覚えていられるかっ! では、諸君! もう会う事も無かろうが……、精々惨たらしく死んでくれたまえっ! あばよーっ!!」
「っ! ジーニスッ! コウさんっ!!」
「フォルナーッッ!!」
涙ながらに助けを求めていたフォルナが屑と共にこの場から消え去る……。「クソッ!」と目の前で彼女を連れ去られ、憤りを地面に叩きつけるジーニスを尻目に……、僕はすぐさま倒れている魔女に駆け寄り、その身を抱き起すとすぐに『
「……ゴホッ! おねがい、このまま……しなせ、て……っ! わたしのせいで……かぞく、や……パートンけに、とついだあねが……じゅうりん、されるのを……かはっ! ……みたく、ないっ……!」
「それで、死んで逃げる気か……? ふざけるな! アンタにも事情があったんだろうが、あの屑の片棒を担ぎ続けていた事実は変わらない。このまま死んで楽になりたいなんて考えているんなら……許さない」
「……わかってる。いままで、わたしがしてきた……グッ、ごほごほっ……ゆるされない、つみだと……! でも……、かぞくを、まもるために、やってきたのに……、あのひと、はっ……!」
「わかっているならいい。罪の意識があるなら……、生きて償う事を考えろ。それに、このまま死んでいいのか? 家族たちを、アイツの好きなようにさせて……。守りたかったんだろ? なら……、アイツから守る為にも生きるんだ!」
『
だけど、このままだと確実に死んでしまう。そう思った僕は『
「……でも、わたしがうけたのは……ちめいしょう、よ……。いくら、かいふくまほう、でも……」
「……僕にはこれがある。こんな時の為に、『
「! コウッ! また、あの化け物の攻撃が……っ!」
切羽詰まったようなジーニスからの呼び掛けに、僕は顔をあげると再び先程の『
「! 無茶だ、ウォートルッ! アレを受ければ、君は……っ!」
「……うぬぅっっ!!」
……結末を想像し悲観に暮れるも、ウォートルは雄叫びを上げながら斬撃を防ぎ続ける……。仁王立ちのように両手を広げて構えると共に、結界のようなものが僕達を包み込んできた。
「ウ、ウォートル……、それは……」
「……『
「す、凄えなっ! まさかそんな
ジーニスは称賛と共にウォートルの事を案じ始める。……無理もない、今もまた多くの冒険者達を死に追いやろうとしている死神、カオスマンティスの攻撃だ……。そんなジーニスに対し、ウォートルは、
「……心配するな、ジーニス。それにコウも……。お前らの事は……守り切ってみせる……! そこの、魔女も一緒に、な……!」
「……ウォートル!」
流石に辛いのか、苦痛に顔を歪めながらも攻撃を耐えるウォートル。……彼の思いに応える為にも、僕は『
「……そ、そんな……きちょうなもの……、わたし、には……!」
「いいから飲むんだ! 飲まないなら口移ししてでも飲ませるぞ! ……攻撃も激しくなってきてる。いいから早く……!」
そこまで言われて漸く薬に口を付けると、少しずつ液体を飲み干してゆく……。大して時間も掛けずに彼女の身体が淡く光り輝き、致命傷になっていた傷も塞がっていった。……よし、一先ずこれで大丈夫だろう。そう判断すると、僕は続いて『
「ピィィッ!」
「グォォォ……ッ!」
「ようやくよんでくれた……って、ここドコ!? すごくイヤなカンジが……、こ、こわいよ~!!」
ぴーちゃんはすぐに僕の肩に止まり、シウスは異様な気配を察してカオスマンティスに対し唸り声をあげる。そしてスライムのボヨよんはというと……、どうしてこんな所に呼んだのと戸惑っているようだ。
「ゴメン、でもボヨよんにお願いしたい事があるんだ。確か君、対象を癒す力があった筈だよね? それを、彼女に使って貰いたいんだ」
「え? で、でもぼくのチカラはきやすめにちかいよ……? やくにたてるかな……?」
「薬は使ったから休ませれば大丈夫だと思う。だから、君には付き添ってあげて欲しい。ウォートルの傍にいれば、安全だと思うから」
「わ、わかった……! えいっ!」
そう言うとボヨよんは自分の体を変化させ、マットの様に平べったくなる。そこにロレインを寝かせ……、ぴーちゃんも一緒に付いておくよう伝えた。
「シウスは悪いんだけど……、僕達と一緒に陽動役を担って欲しい。でも、決して相手に近付きすぎないように……! 攻撃もしなくていいから、回避する事に努めてくれ。いいかい?」
「ウォンッ!!」
心得たとばかりに咆哮をあげるシウス。そして、ジーニスと頷きあうと示し合わせた通りにカオスマンティスの前に躍り出た……!
「来い、カマキリの化け物めっ! お前の相手は僕達だっ!!」
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