第28話:新たな階層




「グオオオオッ!!」

「あと少しで倒せるな……、ジーニスッ!!」

「ああ!上手く合わせろよ!!」


 第5階層にて、『泰然の遺跡』のボスモンスターとして配置されていたリカントと呼ばれる狼の獣人の魔物と交戦する僕とジーニスは、連携するようにしてダメージを与えていき、苦痛の咆哮をあげた魔物に対し、そのようにジーニスと示し合わせるとミスリルソードを握り締める。


「今だっ!『疾風突きチャージスラスト』!!」

「うおおおおっ!!」


 ふらつくリカントの胸元に狙いを定め、剣を構えると、僕は突進する攻撃技である疾風突きチャージスラストを繰り出した。同じく僕を伺っていたジーニスも同様の技を発動させ、リカントに肉薄し……、


「グワアアァ……ッ」




 RACE:リカント

 Rank:18


 HP:0/60

 MP:18/32


 状態コンディション:憔悴




 ボスモンスターであったリカントのHPが0になったのを確認し、膝をつきながら前のめりに倒れたそれが魔石になるのを見て、漸く僕は一息つく。


「漸く終わったか、もっと早くに仕留められたというのにお前らときたら……」

「そう言わないでよ、レン……、初めて戦う魔物なんだ、慎重に戦ってもいいじゃないか」


 やれやれとでも言いたげにやって来たレン達に僕は答えた。この5階層のリカントを倒すまで、基本的に僕とジーニスだけで攻略してきた為、レン達は全く消耗していない。これから先の新たに出現したという第6階層に挑むには理想的状況となった筈だ。

 僕とジーニスに至っても、それほど消耗している訳ではない。まぁ、魔法力は消耗しているし、無傷とはいかなかったが、ジーニスの下に来たフォルナによって、体力回復の為の治療を受けはじめており、僕の方にも……、


「お疲れ様です、コウ様」


 労うようにそう話しつつシウスを伴って僕の傍までやって来たシェリルが、すぐに神聖魔法を掛けてくれる。傷などを癒す『癒しの奇跡ヒールウォーター』に加え、疲れといった倦怠感を特に癒すという『疲労快復の奇跡デファティーグ』まで施してくれている間に、シェリルに預けていたぴーちゃんが飛んできて僕の肩に止まった。


「ピィッ!」

「全く、お前もこんな所までついてくるなんて……」


 清涼亭で待っていろと言ってもどこ吹く風に僕らについてきたこの愛鳥に苦笑していると、ユイリから魔法薬エーテルが渡された。


「飲んでおきなさい、ここから先は未知数で何が起きるかわからないから」

「ん……了解」


 僕はそう答えて魔法薬エーテルの蓋をあけてそれを飲み干し、MPが回復する実感を感じながら、先程のリカントとの戦闘を振り返る。


(今のは上手くいったな、確か『エックス攻撃』……だったかな?)


 昔プレイしたゲームにそんな連携技があったように記憶しているが、早い話は左右から接近して交差するという単純明快な技である。ただもう一人と呼吸を合わせて繰り出さないと、2回続ける突撃となる為、ある程度の意思疎通は必要となるが、5階までずっと一緒にダンジョンを攻略してきたジーニスとはタイミングを合わせやすかった。

 多少寄り道はしたが、ここまでは順調に降りて来られたとは思っており、こうして大した怪我や消耗もせずにボスモンスターまで倒せたのは、やはり彼の助言のおかげであるだろう。


『コイツがああいう体勢になったら強烈な横なぎがくるぞっ』

『ああなったら攻撃はこなかった!今がチャンスだ!!』


 それ以外にもここまで来る道中に様々な助言があり、特にあの『魔物襲来モンスターインベイジョン』は教えてくれなければ余計に消耗してしまったに違いない。


「何はともあれ……、この5階層までは攻略したから、ここから先はお願いするよ、レン」

「ああ、お前らのお陰でこちらも体力を温存できた。こっからは隊列を変えるぜ……っ!」


 そう言ってレンは的確に僕たちの隊列を変更してゆく。先頭をレン、そのすぐ後ろをウォートルが固め、2列目にジーニス、フォルナ、レイアと続き、3列目をシェリルとシウス、そして僕……、最後尾はユイリといった隊列となった。


「本当なら役割から考えても、ユイリと俺の位置は変更しておきてえが……、何が起こるかわからねえし、俺がまず対処する。場合によってはユイリにも『影映し』で対処してもらうかもしれねえが、基本的には最後尾から警戒に当たってくれ。コウ、お前はその補助だ。最悪の場合は殿も努める事になるが、そこまでの状況になったら、レイアさんたちと一緒に撤退しろ。いいな?」

「……了解」


 その位置的に、僕は前よりも後ろからの魔物に注意するといった感じか……。何があっても臨機応変に対処できるというのがコンセプトのようだ。


「じゃ、行くぜ……、気を抜くんじゃねえぞ!」


 レンの掛け声とともに、僕たちは5階層の崩れた壁より現れた階段へと足を踏み入れたその時、


(っ!?な、なんだ!?今の、気配は……っ!)


 ゾクッと寒気にするような妙な気配に周りを見回すも、特に変化はない……。いや、僕の隣にいたシェリルはやはり何かを感じたようで、僕の服の裾をギュッと摘まむようにしていた。


「……どうしたの、コウ?」

「何か、おかしな気配というか……、視線を感じたんだけど……」


 僕の様子が気になったのだろうか、そう問い掛けてきたユイリに答えると、前を歩くレン達も僕の方を振り返っていた。


「俺は特に感じなかったが……、ユイリ、どうだ?」

「……私も感じなかったけれど、もしかしたら監視していたのかもしれないわね……。千里眼の類の魔法で6階層に入る者を見ていたのかも……」


 監視、か……。するとその相手はこの先にいるボス、という事かな?

 そんな事を考えながら、僕は隣のシェリルを伺うように、


「大丈夫?シェリル……」

「……ええ、わたくしも何かに見られているような気配を感じましたが……、今はもう感じません、大丈夫ですわ」

「それなら行こうか。ここで屯していても始まらないし……、6階層に降りたら『目的地探索魔法ナビゲーション』と『暗幕魔法ブラックアウトカーテン』を使用しておくよ」


 レイアの言葉に、僕たちは気を取り直して階段を降りきる。第6階層につくなり、今までと同じように出口が消えてしまうと、すぐさまレイアが先程の2つの魔法を使用した。


「わたくし達と道を照らして……、ウィル・オ・ウィスプ……」


 さらにシェリルがそう呟くと、僕たちを優しい光が照らした。……彼女のすぐ傍に感じる精霊が、ウィル・オ・ウィスプなのだろう。後で余裕があれば、僕も交流してみたいが、今はダンジョン攻略を優先する。


「……『知覚魔法プレイスラーン』」


 一応僕も先程まで使用していた知覚魔法プレイスラーンを使用して、ステイタス領域に地図を表示させる。……あと、やっぱりここは、『泰然の遺跡』の第6階層のようだ。


「……階段はこっちのようだ。ウィル・オ・ウィスプのお陰で大分視界は良くなっているが、それでもまだまだ暗いから気を付けるんだぞ」


 レイアの示す方向へと歩を進める僕たち。6階層は4階層までの石造りではなく、不思議な物質で作られているような迷宮であった。崩れかけた遺跡という雰囲気ではなく、何処となく荘厳な建物内を歩いているように感じられる。柱1つとってみても、匠の業を凝らしたような造りとなっていて、明らかに今までのフロアとは違ってみえた。


「……何か来るわね」


 そんな時、唐突に呟いたユイリの言葉に、警戒感を一段階引き上げると、前方よりゴソゴソと何かがやって来るような気配を感じる……。次第にガチャガチャといった擬音語を発する足音が聞こえ始め……、やがてその正体が明らかとなった。


「が、骸骨が……、動いてる!?」

「スケルトンナイトよっ!気を付けて!!」


 理科の授業で使う様な人体模型の骸骨が動いている姿に慄く僕を余所に、ユイリの呼びかけと同時に戦闘態勢に入るレン達。


「……ソーサラーまでいるな。気を付けろよ、コウ。アイツらは、全てCクラスに分類されるモンスターだっ!」

「俺が先に斬り込む……。ウォートルは壁に徹し、ジーニスはそこから隙を見つけて攻撃に加われっ!決して一人で戦おうとするな!コウは後方に気を付けながら、問題なければジーニスたちの援護しろっ!!」


 そう指示が飛ぶと同時に、前方のスケルトンたちを切り崩しに掛かるレンに、遅れまいとウォートルたちも動きだす。レイアの忠告によると、あの魔物たちはCクラス、つまりはアサルトドッグたちと同じか、もしくはそれ以上の力を持っているという事だ。僕は、前方のスケルトンたちに向かって評定判断魔法ステートスカウターを使っていくと……、




 RACE:スケルトンナイト

 Rank:55


 HP:252/252

 MP:38/38


 状態コンディション:正常




 RACE:スケルトンソーサラー

 Rank:60


 HP:160/160

 MP:91/91


 状態コンディション:正常




(くっ、強いな……!アサルトドッグより、ランクが高いんじゃないか!?)


 確かシウスのランクは今『48』だったと思ったから、通常のアサルトドッグよりは間違いなく高い。どうも骸骨が動いて気色悪いとか不気味だとか、そんな事を言っている場合ではないようだ。とりあえず、加速魔法アクセラレートをと思っていると、


「……偉大なる大地よ、見えざる結界となりて、選ばれし者たちの盾とならん……『全体堅牢魔法ディフェンジングウォール』!」


 シェリルの魔法だろうか、淡く、でもどこか心強い光に包まれる。その名前からして、恐らくは防御力を増強する魔法なのだろう。後方から魔物はやって来る様子はなく、僕はレンに言われた通り、ジーニスたちを援護すべく、加速魔法アクセラレートを掛けてウォートルたちの下へ急ぐ。


「大丈夫かっ!ジーニス!ウォートル!!」

「気を付けろ、コウ……!コイツら、ヤバイッ!!」


 彼らのところに駆け付けると、スケルトンナイトの攻撃を盾で必死に防いでいるウォートルからそう忠告を受ける。ジーニスも思うように攻勢に移れないようで、ウォートルの影より魔法で反撃しているようであった。すると、また別のスケルトンナイトがウォートルを狙って、手にしている湾曲した形状の刀身の剣……、確か三日月刀シミターと呼ばれる剣を振り下ろそうとしているのを見て、僕は間に入り、


「っ!悪い、助かった!!」

「コイツは僕に任せろっ!」


 ウォートルにそう応えると、魔物の振り下ろしてきた三日月刀シミターをミスリルソードで受け止めながら、


(……思ったり反動が少ないな、シェリルの魔法の効果だと思うけれど、これならいけるっ!)


 何体もいるスケルトンナイト相手に手こずってもいられない。そう思い僕は、スケルトンナイトの三日月刀シミターを弾く様に大きく薙いでディフレクトする。それにより、仰け反る形となったスケルトンナイトの隙を見逃さず、『十字斬りクロススラッシャー』を繰り出して、上下左右に斬り裂いた。


「グガアァ……ッ!!」


 僕の放った十字斬りクロススラッシャーをまともに受けたスケルトンナイトは、断末魔の叫びとともにバラバラと骨ごと崩れ落ちる。……アンデッドモンスターというのを初めて目にしたが、映画やゲームでの定法の通り、十字架といった聖属性に弱いのだろう。間を置かずに消滅していき魔石だけが残るのをみて、改めてそう理解していると、


「『光輪』っ!!」


 そう言ってユイリが後方より光り輝くチャクラム状の物を激しく回転させてスケルトンナイトたちの群れに放り投げていた。その光輪という物に当たり砕けたスケルトンナイトは先程と同じようにグズグズと消滅していく……。さらに、残りのスケルトンナイトを滅するべく、レイアとシェリルが同時に魔法を詠唱しており、


「「……灼熱の嵐よ、我が前に立ちはだかりし者たちを焼き払え……『炎上魔法ファイアストーム』!!」」


 2人の美女が放つ火炎の旋風が吹き荒れる嵐となってスケルトンナイトたちを纏めて消し炭に変えていった……。その光景に、ジーニスたちは感嘆し、


「す、すげぇ……」

「ボーっとしている暇はねえぞ、ジーニス!!暗黒魔法が飛んでくるぞっ!!」


 その声に前方を見据えると、レンが後方に控えていたスケルトンソーサラーのところまで肉薄し、レイヴンソードの一刀の下に斬り捨てるも、別のスケルトンソーサラーたちが魔法を完成させようとしているのが見えた。


「……コノ世ハ闇、闇、闇……、間断ナキ暗黒ノ鋼糸ニテ、余ストコロナク蹂躙セヨ……『闇網呪法ダークウェブ』」

「……魔法を打ち消ししものは魔法のみ……『対抗魔法カウンタースペル』!」


 その内の一体のスケルトンソーサラーの詠唱する暗黒魔法には間に合い、相殺できたものの、他のスケルトンソーサラーの魔法までは阻止する事が出来なかった……。妨害も出来ず、完成した『闇網呪法ダークウェブ』が僕たちに襲い掛かってくる。


「っ!!お前らっ!?」


 咄嗟にジーニスを暗黒魔法の範囲外へと強引に押し出すも、初めから壁となって受け止めるつもりだったウォートルは兎も角、ジーニスを押し出す際にバランスを崩した僕もかわしきれず、魔力で出来た黒い網状のものが身体を次々と侵食していく……。


「な、何だ、これっ!?」

「体力が、無くなっていく、だと……!?」


 一緒に魔法を受けたウォートルがガクッと片膝をつき、その顔色は悪くなっていく。真っ黒に塗り固められたような何かが心を浸蝕してくるようで、精神的にも何かしらの作用があるのだろう。闇の網に蝕まれながらも、僕は剣を持つ手を握り締め、


「クッ……!こんな、ものっ!!」


 心を奮い起こして、僕は手にしたミスリルソードを襲い来る魔力の網に向けて横薙ぎに一閃させる。淡い光を放つミスリルソードは正確に闇の鋼糸を斬り裂くと、その魔力を雲散させていった。


「コウッ!?ウォートルも……!大丈夫なのっ!?」


 先程の金色に光り輝く魔力で出来たフープをスケルトンソーサラーたちに投げつけながら、急ぎこちらに駆け付けてくるユイリ。


「僕は、なんとか……。でもウォートルが……」


 僕の言葉を受けて、すぐさまユイリが彼の状態を診る。


「俺も、ぐぅむ……」

「動かないで……。闇網呪法ダークウェブをまともに受けたんでしょう?」


 ウォートルは大丈夫とばかりに立ち上がろうとするも……、足元が痙攣して立ち上がれない状態に陥っていた。


「コウ様っ!!」

「ウォートルッ!!大丈夫ですか!?」


 続いて来てくれたシェリルとフォルナに、ウォートルを診ていたユイリが、


「……彼、恐慌状態になっているわ。フォルナ、貴女『恐怖除去の奇跡アベイトフィアー』は使えるかしら?」

「は、はい、この間覚えたばかりですが……」


 そう答えると彼女は、神聖魔法を詠唱してゆく。僕をも庇っていたせいで、僕よりもまともに受けたのだろう。フォルナも魔法が完成し、幾分ウォートルの容貌が和らいでいくように感じる。

 フォルナと一緒に来てくれたシェリルがひと通り僕の容態を確認して、とりあえず問題が無い事にホッとしつつも『癒しの奇跡ヒールウォーター』を掛けてくれていた。


「コウ様、大丈夫ですか……?」

「……ああ、君のお陰だよ、シェリル。君がミスリルソードに『魔力付与魔法マジックコーティング』を施してくれたから……」


 淡い青色の光を放ち続けるミスリルソードを彼女に見せながら僕は答える。『黒の卵ブラック・エッグ』から、このミスリルソードを手に入れて以降、シェリルが定期的に僕の剣に魔力付与エンチャントしてくれていたのだ。


 どうもこの世界には、レンの持つ『レイヴンソード』のように、魔法を永続的に付与された武具が存在するという。遥か昔、このファーレルで古代魔法文明が栄えていた頃に、今は失われているという『永続魔力付与魔法エターナルエンチャント』を使える高名な魔力付与士エンチャンターが施した数々の武具は、名前付きの魔法武具として普通の物とは一線を画す価値があるらしい。

 今でも魔力付与士エンチャンターはいる事にはいるが、珍しい職業なのは間違いないらしく、彼らに魔力付与エンチャントを頼むのは中々にお金が掛かるという事だった。しかし、ストレンベルクにいる数少ない魔力付与士エンチャンターが舌を巻くほどの、それも下手をすれば永続魔力付与魔法エターナルエンチャントにも匹敵するのではないかという程の強力な魔力付与エンチャントが施されていると言われ、改めてシェリルの非凡な才能に驚かされたものだ。


 元々、ミスリルという素材は魔法と相性がいいという事だけど、それでも魔法を斬り裂くほどのものだなんてね……。


「まだ、気は抜くなっ!!数は減ったが、魔物どもはまだ残ってんだ、油断するなよ!!」


 レンがそう叫びつつ、上下に袈裟斬りを放つ剣士の技『二段斬りダブルスラッシュ』を繰り出して、前方にいるスケルトンソーサラーを蹴散らすのを見て、僕は我に返りながら状況を確認する。どんどんと残っているスケルトンソーサラーを屠っていくレンに、一体ずつ暗黒魔法を使われる前に阻止しながら対峙しているジーニス、そして、シェリルに命じられたのか、彼女の下を離れて、スケルトンソーサラーに馬乗りになっているシウスを確認するも、まだそちらまで手が回らずに邪魔が入る事もなく魔法を使おうとするスケルトンソーサラーの姿も目に入ってきた。


(マズイッ!もう、対抗魔法カウンタースペルも間に合わない……!)


 また、あの闇網呪法ダークウェブが飛んでくる……!僕は魔法に備えるよう警戒したその時、


「……この世は全て音無き世界、沈黙こそが答えなり……『沈黙魔法サイレンス』!」

「ガッ!?…………ッ!!」


 僕たちの後ろで詠唱していたレイアの魔法が完成したかと思うと、暗黒魔法を唱えようとしていたスケルトンソーサラーたちが一様に動揺が走る。沈黙魔法サイレンス……、相手の声を封じる魔法で、魔物たちの詠唱が途中で途切れたのを見逃さず、


「よし、一気に畳みかけっぞ!!魔法が使えなくなったソーサラーどもなんて、リカント以下の雑魚だっ!!」


 号令をかけるようにレンが叫ぶのに従って、ジーニスたちやユイリ、僕も加わって次々とスケルトンソーサラーを骨屑へと変えていく……。やがて、全ての魔物を倒し終わったのか、新たに魔物が再出現リスポーンしないのを確認して、漸く僕たちは一息つく事が出来た。


「全員、生きてんな……。お前らも、よく頑張ったな」


 レンがレイヴンソードを肩に担ぎつつ、そのように労ってくる。


「あれだけのスケルトンどもを倒したんだ。お前らも大分ランクが上がったと思うが……、それにしても6層でこれかよ……。とても初心者が降りられるってレベルじゃねえぞ……」

「そうね、初心者だけで挑んでいたら大変な事になっていたわ……。どうする、まだ探索を続ける……?」


 確認するようにしてユイリが皆を見渡すようにそう疑問を投げかけると、


「……とりあえず、あのスケルトンどもにはこのパーティメンバーなら対応出来るだろ。ここで戻ったところで、シーザーらもいねえ今、俺たち以上のパーティがいるとは思えねえし、早く攻略しねえと誰か犠牲者がでんぞ……。何せ『初心者ダンジョン』だかんな、ここは……」

「コウやジーニスたちも何とか戦えているしね……。姫様たち級の魔法の援護もなかなか得られないでしょうし、『全体堅牢魔法ディフェンジングウォール』があればスケルトンナイトからの攻撃で致命傷は受けないでしょうから……」

「……必要なら『魔法防御魔法マジックバリア』も使いましょうか?それならば、スケルトンソーサラーの暗黒魔法にも精神力を活性化させれば、耐えられるようになると思いますし……」

「いや、ボクが出来るだけ早く『沈黙魔法サイレンス』を唱えるようにするよ。支援系の魔法は魔力の消費も大きいし、シェリルの使う魔法は効果も高く、結構高度なものだし……。シェリルの魔力は回復魔法の事を考えて、温存しておいた方がいいよ」


 ……どうやら方針は決定したようだ。確かにレンの言う通り、レンやユイリの戦闘力に、シェリル、レイアの魔法が加わってどうにもならないならば、ストレンベルクの第一級の戦力、それこそグラン達騎士団を投入しなければならない事になる。そう思っていると、レン達の視線が僕に集まっている事に気付いた。


「……コウ、お前が判断しろ。お前が無理だと感じれば戻る事にする。勿論、俺たちが駄目だと判断したらすぐに撤退する事は変わらねえが……、コウ、率直に言ってくれ。どうだ?」

「…………続行しよう。レン達の言う通り、この面子なら対応できると思うし、僕やジーニスたちの経験にもなっている……。強くなる為にはこんな修羅場に近い状況も体験しないとならないんでしょ?」


 僕の回答を聞いて、皆、苦笑交じりに頷く。


「そうね……、でも、気を付けて。ここは想像していた以上に一筋縄ではいかないわ。これ以上危険な状態になったら、すぐに撤退しましょう」

「ああ、ボクは何時でもダンジョンから脱出できるように『離脱魔法エスケープ』の準備はしておくから……。ボクから半径5メートルの人たちに効果があるから、位置取りは注意してほしい」


 そんなユイリとレイアの言葉に頷いて、僕たちはダンジョン攻略を再開するのだった……。


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