第4話 人魚族と魔女の取引き

そろそろ鞭が痛い。そして酸素が薄くなってきている。

袋を頭に被せられて鞭に耐える。

胸に囲まれるのは悪くないけどな。

でも相当きついぞ、今まだの中で。

「頼む放してくれないか、話がしたいんだが。」

俺が何度そう言っても聞く耳を持たず、二日が立とうとしていた。

この層は年中雨が降り、海水が減ることはなかった。

「なんの用で来た、人間」

「だから、俺は謝りに来たんだ、イテっ」

「お前に謝られたところですでにこの層は崩壊しかけていた。なんの変化もない。今すぐ、この層から立ち去れ。それともこの層の男どものようになるか」

女王は言った。

「俺はこの層を知らない。情報が欲しい。俺に聞きたいことがあるなら何でも答える。」

「ふむ、何でもと言ったな。縄と鞭を退けろ」

そう言って、二日ぶりに開放された手足には縄の後が残っている。

「では、聞こう。候と言ったか。」

「はい、候と言います、先日召喚されたのは俺です。」

「なるほど、ルフと契約したことも、妖精を連れて歩いて、エルフ国王の娘を救い、今度は妖精族に、狼族。他種族を合わせて何を企んで居る。」

「俺は、嘘が付けない。これから話すことはすべて事実だ。」

「よかろう、もうせ」

「俺は魔女の正体を暴きたい。そして、この世界を平和にするために一度層を壊す必要があると考え動いている。」

「なんと、魔女に逆らうというのか。それに壊す?ちっぽけな人間が何ができる。」

「そんなのやってみなくちゃわからない。それにどうして男性を檻に入れているんだ女王様」

女王様は笑った。

「男どもを入れたのは、私たちを魔女のところに送ろうとしたからよ。それに第七層は壊れかけている。この、下の層が壊れれば、魔女の配下に落ちてしまうと考えた。だから私は、私らより体重の重い男どもを海の水面下で雨に打たれながらここの水を地上に挙げる働きをしてもらってる。海の中も体積や水に気にすることなく住めるじゃろ?」

「なるほど。俺は謝りに来ただけなんですが、ここでは魔女に奴隷として売ったりとかしてないんですか。」

「数年前は女が2、3人連れ去られ、帰ってきたのは骨だけだった。」

「今は、要望しないという契約に魔女が鱗を毎月30枚寄こせというので渡している。」

鱗…何か効果が…

確か日本の妖怪に人魚はいたけど、肉が不老不死だった気がする。

てか、なぜその効果を魔女が人間でもないのに知っている。

一体、何者なんだよ。

そして何をする気だ…

「鱗に何か効果って…」

「知らん、魔女の考えることは理解できん。そんな事よりもなぜ、お主と狼族で来たのだ。私らを餌にする気だったか。」

「違う、俺は狼族に連れ去られたんだ。ここに。そういえば、あいつはなにしてる。まさか、殺したとかいわないだろうな。」

人魚族女王は笑った。

そして、近くにいた家来に指示を出し、貝を一つ持ってきた。

「これを見よ。」

貝の中に移っていたのは、俺を連れてきた狼だった。

だが、木に繋がれ、ガリガリに痩せ、伏せていた。

「今にも死にそうじゃの。」

「こいつに何か食べ物を!!」

「お前、こいつに連れ去られたと言ったな。では、こいつが死んでもいいのではないか。」

確かにそうだ。こいつが来なければ、レータたちを人質にしなくて済んだ。

でも、こいつは俺がこの人魚の層に行きたいと言ったから連れてきてくれた。

こいつは、もともと悪い奴じゃない。

こいつにも何か訳があるはずだ。

俺は、女王に向き直り怒鳴った。

「こいつは、たぶん魔女の差し金だ。確かにこいつがいなければ、今頃俺は妖精族を平和に導けたかもしれない。仲間を見捨てずに済んだかもしれない。でも、こいつは、俺がここに来たいと言ったから連れてきてくれた。こいつも被害者だ。頼む、こいつを助けてやってくれ。」

「うむ、確かにそうかも知れん」

「じゃあ!!」

「しかしだ、こいつに餌をやったところで、何になる。わたしら人魚族にメリットは?」

確かに、こいつに飯をやり、働き手となる男どもを食われては意味がない。

俺は、エルフ国王に霧の力をもらった。

そして、たぶん、7層の靄の力は魔女が持っている。

そうだ!!あの手しかない。

「女王様。この雨がなくなれば、体積や重さに困る必要がないのですよね。」

「そうだが」

「それに今、魔女に30枚の鱗を渡しているとか。その鱗は男たちのですか?」

「そうだ、男たちの鱗は硬くて頑丈。それを魔女に要求された。」

「では、男たちの鱗は減る一方なのですよね。」

「ええい、何が言いたい。端的に申せ」

「俺が召喚されたのは、天気を各国王の他に扱えるからだとエルフ国王は言いました。助けたエルフの娘もウェザードエンペラーになるために召喚されたのがと。」

女王は思い立ったような顔をした。

「これがお主にも扱えるだと。追放した国王しか扱えぬ、私に扱えないこれがお主に。」

俺は、コクリと頷いた。

「確かに召喚式には地上なため、我ら一族は欠席した。しかし、1000年に1度の伝承はこの世界に生まれれば誰でも知っていること。」

「俺がもし、あなたから今、その雨天の魂(たま)を受け取り、雨を止めたとしたら。」

女王は迷っているのだろう。持っていた槍をトンっと海底に突き玉座に座りなおした。

そして、もう一度立ち上がり、俺に魂を渡した。

「失敗すれば、お前は男どもと同じに一生働いてもらうか、魔女に受け渡す。」

でも、俺は思っていた。


計画通り、渡されたのは良いけど、なんて言って止めればいいんだよ…と。





一方、妖精族たちは。

「候のためにもやるわよ。」

「助けてもらったから!!」

「恩返しするの~」

そう言って、妖精族国王の前に立っていた。

(レータ、王子国王の左右に強い奴2人)

(ナーレ、入り口に2人)

(ミール、門のとこに2人)

三人は目配せで、各場所から見える人数を伝達した。

そして・・・。

「こ、国王様。この文章を拝見していただきたく思います。」

ミールが話を持ち出した。

そう言って、国王の左の家来が動いた。

「今だ!!!!」

ミールが叫ぶ。

そして、窓をとっさにレータが開けるように上昇し、ナーレが入り口に事前に用意しておいた糸をミールとともに書類を受け取りに来た左の家来に巻き付けた。

「うおっ!!」

入り口の粘着性のある糸は事前に候が用意してたもの。

あの木の樹液を薄くしてくっついて取れない程度になっている。

ミールたちの糸も同様だ。

「お前たち、なにするんだよ!!」

「1号捕まえろ!!」

「かしこまりました。」

1号はルフを操る。

動きが読めるのだ。

(ルフ、俺に力を)

(もちろんよ)

1号があっという間にミールを捕らえた。

そして窓を開けて戻ったレータはナーレを守ろうと最後の糸を取る。

「これでもくらえ!!」

「レータ!きちゃだめ!」

「えっ!」

ナーレの言う通り、レータが気が付いた時には持っていたはずの糸で巻き付けられていた。

「最後におまえか、魔女の裏切り者」

そう言って、歩み寄る1号。

怖くなって、ナーレが目を瞑る。

「抵抗しないのか、では」

手にかけようかというとき、

「リベレーション・ブラックルフィン!!!」

「お前は!!!」

「来てくれた!!!」

「助かったの~」

1号から黒いルフが強制的に抜かれた。

(おい!!)

(ごめん、あの魔法には逆らえない)

「何が起こったのだぁ!!」

国王は混乱している。

「助かったよ、サーニャ」

「間に合ってよかったよ!!」

「羽と足は大丈夫なの!?」

「心配したの~」

「候のおかげだよ」

そう、サーニャは魔女に捕らわれ、解放された3号。

「3号!!どうして裏切った!!」

「魔女様にこの力を与えていただきながら」

1号と2号は叫ぶ。

「黒いルフは純正なルフじゃない。あってはならないもの」

「しかし!!」

「それにこの世界にはもう必要ないよ、黒いルフは。」

そう言って、窓の外を眺めた。

「そうでしょ、候」

「候、頑張って」

「候、やったの~」

「候、生きて合流しなさいよ」

こうして、妖精族の署名、ミールと国王の契約により妖精族は平和になった。

「ミール君!!」

「ミール国王!!

「ミール様!!!」

ミールの手には曇天の魂が握られ、既に契約書も作成されたのだった。

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