第6話

 最優先ですべきことは情報の共有。

 ウィリーの部屋で彼女を交えて行おうとしていたそれが叶わなかったので二人で話すしかない。フォルティの部屋に移動するとリュゼは自分が見てきたことのすべてをフォルティに話した。

 ルマンが吸血鬼を見たこと、それを撃ったこと、銃声の起こったほうへ駆けつけた時にはルマンは死んでいたこと、憤った大人たちが向かっていったこと、その場に広がる血の匂いと耳を割く悲鳴に恐怖して逃げ出したこと。

 リュゼの話をただじっと聞いていた。フォルティが何を思ったのかは分からない。


「それと、これは一番重要なことなんだけどな」


 ある程度を話し終え、一層真剣な面持ちをしたリュゼが言う。


吸血鬼あいつらには銀は効かない」

「……は?」


 昔から言い伝えられてきた、「吸血鬼は銀製品が苦手」だという伝承。それを信じ、この集落でも貴重な銀を加工して武器を作っていた。もしもの時に備え、吸血鬼に対抗し得る手段を用意していた。


「外で出会った吸血鬼が言ってたから間違いねぇ。吸血鬼は銀が苦手だなんてまだ信じてるのかって」

「それが本当なら、俺たちは――」


打つ手がないじゃないか、と。

 言いかけて飲み込んだのは口にすると本当にその通り、吸血鬼に対抗し得る希望もなく、ただただ搾取される恐怖に怯えるだけになってしまいそうだからだった。

 吸血鬼が銀が苦手だという伝承は真実ではなかった。では流水は? 唐辛子は? にんにくは? 日光は?

 滝によって囲まれたこの集落ももしかするとここも危ないかもしれない。けれど今までずっと襲撃されずにいたし――それは単に運が良かっただけかもしれないのか?

 ぐるぐると様々な考えが脳内を巡る。いくら考えようと答えは得られない。何を思ったところで実際に試してみないことには確証が持てない。


「…おい、大丈夫か? フォルティ」


 リュゼの声ではっとする。彼がその目で見た、その耳で聞いたという「吸血鬼に銀の武器は効かない」という情報だけは信じられるだろう。悪夢のような話だが、それが効くと思って返り討ちに遭うよりはずっと良い。


「……結局、武器は何で作っても変わらないなら、質より量だな。貴重な銀を無駄にしないで済む」

「手数が増えたと思おうぜ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってな」


仲間たちの最期を目の当たりにし、リュゼも辛いだろうに、こんな時でもその悪態は収まることを知らない。故意にいつも通りに接してくれているのか、真面目な話が似合わない性分なのかは分からないが、フォルティの心はそれで軽くなる。


「よし。俺たちは馬鹿だから考えても分からない。今後の動向は我らがリーダーが部屋から出て来るのを待つとして、出来ることをしよう」


 散っていった仲間たちに恥じぬよう、彼らが遺してくれた情報を最大限に活かせる道を選ぶ。それが遺された者たちの務めだと言わんばかりに、フォルティはその頬を叩いて気合を入れた。

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最果ての輪廻 -零- 雨宮羽依 @Yuna0807

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